遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~   作:特撮仮面

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彼女と彼女の槍と決闘

 撃唱、烈唱。二つの歌がぶつかり合う。

 

 震脚、練り上げられた力が拳を伝い、敵を打ち砕く拳となる。だが、それは鋭い鉤爪によって逸らされ滑らかな装甲の表面を滑りゆく。

 

 衝撃。受け流された拳がインパクトした瞬間に海面が弾け飛ぶ。一撃は常に重い。だが、人間である以上強い一撃を放ったあとは確実に身体が硬直、隙が生まれる。がら空きの腹に突き刺さる肘鉄。堪らず後退、距離が離れたことで更にすらりとした長い脚が跳ね上げられる。痛みに曲がった上体を無理矢理反らして、猛禽類の嘴を思わせる爪先を避ける。

 

 勢いのままバク転。距離を取り直し再度構える――そこへ容赦なく突き出される槍。手甲と穂先が火花を散らす。

 

 

「流石は英雄…。一筋縄ではいかないわね」

「えへへ。でも、マリアさんも凄いです!」

「ふふ、どーも」

 

 

 マリア・カデンツァヴナ・イヴと立花響の決闘は、苛烈を極めていた。

 

 当初こそ、響の身に纏うシンフォギア、シンクロによる強化型ガングニール、ガングニール・ウォリアーとマリアのガングニールでは、マリアの適合率のことも相まって、子供と大人ほどの戦闘能力の差があったものの、マリアがガングニールをエクシーズ化、ホープ・ザ・ガングニールへと進化させることでその差が縮まり、もはやどちらが先に倒れてもおかしくない状況となっていた。

 

 理由としては、マリアのガングニールの出力が安定し、響と並んだのが大きいだろう。

 

 元々時限式と正規装者の間には、それだけ出せる出力に差があるのだ。適合率が低いと言うことはつまり、発揮されるフォニックゲインの総出力も低下していることを意味する。シンフォギアの全機能は、フォニックゲインによって行われていると言っても過言ではない。故に、起動するだけでも反動が凄まじい時限式奏者は適合率ゆえに出力を安定させることすら難しいのだ。

 

 だが、極端な話、適合率を上げることは可能。それが、時限式装者の接種するリンカーと呼ばれる薬品だ。これには装者の適合率を一時的に上げると言う機能があるのだが、その代わり薬品の副作用が強いし、効果が持続するのも、どう頑張って無理して長くしても一時間や二時間ほど。基本的に三十分かそこいらが限界だ。歌い続ける限りシンフォギアを扱える正規装者とはそれほどまでに差が出てしまう。

 

 だが、エクシーズは違う。起動したシンフォギアの動力に、エクシーズエネルギー、即ちカオスと呼ばれるシンフォギアと奏者のフォニックゲインの間に生まれる不協和音――重ねられた際に発生するズレのエネルギーをフォニックゲインを補う動力として使用することにより、時限式でありながらも出力を安定させ、展開時間を倍以上に、それこそ正規装者と同じように展開し続けることも可能である。

 

 しかし、このエクシーズにも欠点が存在する。それがオーバーレイユニット、ORUの存在だ。

 

 エクシーズに使用されるカオス、その一部を一時的に固定化しているのがこのORUであり、エクシーズはORUを使用して初めて出力をあげることが出来るようになるのだ。

 

 つまり、ORUが無いエクシーズは只々出力が安定しているだけのシンフォギアでしかなくなってしまうのだ。これが正規装者との一番の違いである。

 

 個体差こそあれど、正規装者は独自に出力を安定させ、更に出力をあげることすらも自由にできる。しかし、エクシーズを纏った装者はそれが出来ない。

 

 故に、時限式はどこまでも時限式。だが、回数制限というハンデを背負ってなお、マリアは響と対等に渡り合っていた。

 

 これは、彼女の戦闘スタイルが響のスタイルと噛み合っていることに起因する。

 

 

「これならッ!」

「甘いッ!」

「ぐうっ!?」

 

 

 立花響は対人戦闘経験が無い。喧嘩も基本避けるし、人を殴るのは、鍛練で風鳴弦十郎と組手をするくらいなものだ。

 

 それに対し、マリアは幼少期より過酷な環境を生き抜いた経験がある。それに、F.I.Sでも戦闘訓練はあるし、時限式という部分を補うために彼と共に何度も考察し、研磨した彼女のスタイル、カウンター。

 

 

「少しは当たってくださいよ!」

「いやよそんな重たい拳」

 

 

 とはいえ、響には他にはないタフネスがある。いくら捌いて打ち込んでも彼女は止まらない。

 

 どうしても火力で劣る以上、当たるのは時間の問題。だが、現在の彼女のORUは二つ。さあ、どうする地上の方がどうなっているかは分からないが、そちらから聞こえてくる爆音などから察するにこちらが劣勢であることは間違いない。そうなれば援護は見込めない――

 

 

「ならばッ!!」

「くっ、上がってきた!?」

 

 

 金色の輝きが一つ彼女の身体に吸い込まれていく。カオス――エクシーズエネルギーがシンフォギアの出力を一時的に跳ね上げる。各装甲が展開され、彼女の力をより鋭く変化させる。

 

 突然マリアの力が上がったことに驚きつつも、身体は冷静に、腰だめにした拳を放つ響。その威力は先程の倍。マリアの力に合わせて力を強く込めたのだ。

 

 だが、それこそがマリアの狙い。突き出された拳、その内側に潜り込んだ彼女の左腕が拳を後方に受け流す――同時にその勢いで彼女の身体が独楽のように回転。回転に乗せて放たれた肘鉄が再度響の身体に突き刺さる。

 

 

「あぐっ!?」

「まだァッ!!」

 

 

 続けて腕を受け流した左の肘。かち上げるように打ち出されたそれが顎を抉る。跳ね上がる身体、その身体に絡み付く黒い腕。同時に膝が胴体を穿つ。

 

 肘や膝と言う部分は攻撃に向かないように思われがちだが、決してそんなことはない。確かに拳や脚と比べると威力は落ちてしまうが、重要なのは火力ではなく速さ。

 

 拳や脚を使った戦いは確かに破壊力がある。だが、極近距離での戦闘ではその威力が半減してしまうし、何よりも小回りが利かないせいで攻撃もしづらくなる。

 

 しかし、肘や膝での打撃を与えると速度はそのままだし、むしろ適切な打撃を行える分こちらの方が有利となる。

 

 

「くぅ、こんのっ!」

「Myターン、続けていくわよ!」

 

 

 響がマリアを引き剥がそうと噴射機構を展開、全力で後退するが、そこはまだマリアの距離だ。

 

 距離を取られた瞬間には彼女が手を合わせて再度アームドギアを展開。まるで竜の牙を思わせる漆黒の槍が牙を剥く。穂先が展開され、その中にあるのは赤いガラスのような収束器。歌が高まると同時に、そこからカオスと共に収束された膨大なフォニックゲインが撃ち放たれる。赤と黄金の混じった螺旋の一撃は、容易く響きの小さな体を包み込んだ。爆発。フォニックゲインのぶつかり合いによって発生した巨大な爆炎が海を焼く。

 

 エネルギーの放出が終了し、各部装甲から余剰熱量が放出される。プシューッという音と共に熱量によって発生した水蒸気が彼女を包み込む。収束砲撃にフォニックゲインを集中したのだろう、既にORUによるフォニックゲインのブーストは終了しており、変形した装甲も元の形に戻っていた。

 

 カオスとフォニックゲインによる一撃。いかな装者であってもダメージは通る筈。だが、それでも相手は英雄、あの程度で沈むなんて考えられない以上、油断はしていられない。油断なく煙の先を見据えるマリア。

 

 

「私の決闘は、一歩先を行きます!」

「へぇ?」

 

 

 背後から響く歌声。翼のような外套が広がり、拳とぶつかり火花を散らす。反転し槍を構えて迎撃の体勢へと入るマリア。確かに現在の立花響の速度は速いが、自分が気づけないほど素早く背後に回るなんて考えられない。なぜ彼女が背後に居たのか。それは、彼女の姿を確認することで察することが出来た。

 

 先程まで施されていた装甲は全て剥げ落ち、競泳水着のようなシンフォギアのインナーと、スリムになった手甲と脚甲。

 

 

「なるほど、アーマーパージね」

「はい。丁度参考になる人が居ましたから」

 

 

 響が行ったことは、遊吾・アトラスがレッド・デーモンズ・ドラゴン/バスターへと変身した際に使用したサクリファイス・エスケープと呼ばれる、わざと技の使用を誘い込むことでこちらのアドバンテージへと変換させる技術の一つ。

 

 マリアの放った砲撃を受ける際、ウォリアーの装甲を全て解除したのだ。この際にわざとフォニックゲインを大量に残しておくことで過剰爆発を起こし、その煙に紛れ込む。更にまき散らされる残留フォニックゲインによって、一時的にフォニックゲインの減少した響の動きを相手は探知しづらくなるのだ。

 

 

「今度はこっちの番ですッ!」

「来なさいッ!!」

 

 

 軽やかなステップからの稲妻のごとき踏み込み。飛び散る火花とぶつかり合う槍。

 

 ウォリアー、そしてホープ。彼女たちは気づいていないが、現在の彼女たちの戦闘はあまりにも異常であった。

 

 現在、櫻井理論により世界各国で聖遺物の研究、そしてシンフォギアの開発が行われているが、独自にシンフォギア、FG式回天特機装束と呼ばれるそれを開発した国は無い。唯一、アメリカのF.I.Sが開発したと言えばそうだが、それもフィーネの協力があったから。

 

 つまり、シンフォギアは全てフィーネが企画した物であり、それ以上のものはないのだ。その為、シンフォギアは装者によって性質を変化させるものの、その実使用されている技術などは全て統一された規格。

 

 だが、響とマリアのガングニールは現在その範疇に無い。装者によって性質を変えると言う変化が急激すぎて最早シンフォギアでありながらシンフォギアとはまた違う存在へと変質している。

 

 例えば響のアーマーパージ。本来アーマーパージ、つまりシンフォギアの装甲を破棄した場合、装者は全裸になる。

 

 これはシンフォギアを身に纏っている際のインナースーツもフォニックゲインによって編み上げられた装甲だからである。故に、シンフォギアの装甲部分以外のあの水着のようなスーツは、一見とても脆そうに見えて実際はとても強靭である。

 

 シンフォギアを起動した場合、装者が事前に身に纏っていた衣服は全てギア内部にフォニックゲインへ変換されて格納される。シンフォギア装者はギアを纏う際全裸になっているように見えることがあるが、アレは実際に一度産まれたままの姿になっているのである。

 

 だが、響のアーマーパージはインナーに最小限の装甲を残した状態で行われた。これは、シンクロによって新たに追加された装甲を剥がしただけとも考えられるが、恐らくは彼女が意識していない内に、最低限の装甲を残すように調整したのだろう。でなければ彼女は今頃全裸で朝の海の中だ。

 

 マリアはまだ響ほど一般的なシンフォギアからかけ離れた機能を発揮してはいないものの、エクシーズと言う未だ理論化されていない方法でシンフォギアを更なる高みへと進化させた。

 

 この二人のシンフォギアは、本来のシンフォギアに備わっていない機能を使用したモノ。

 

 これが後にどのような影響を及ぼすのか、それは誰にも分からなかった。

 

 

「くっ、速いッ!?」

「ま、だァッ!!」

 

 

 装甲が減ったということは、防御力が無くなった、つまり先程でもお互いにダメージを受ければどちらかが沈むような戦いだったのに、此処に来て響はそのアドバンテージを丸ごと失ってしまったということ。攻撃力も防御力も現在ではマリアの方が上。そうなれば普通、攻めることを躊躇う筈だ。だが、彼女は違った。

 

 装甲を失って尚、真正面から一直線に拳を打ち込んでくる。何故だ? 彼女は攻撃が当たることが怖くないのか? 装甲が無いことを気にしていないのか?

 

 いや、違う。彼女は確かに恐れている。こちらの攻撃が霞める度に、ほんの少しだけ瞳が揺れている。

 

 そういえば、とマリアは遊吾が言っていた言葉を思いだす。それは、一回だけ、日本の装者について質問したときの話だ。

 

 同じガングニール使いということもあり、彼女は立花響のことを特に気にしていた。装者の話をしている中、彼が特に信頼を寄せていることが分かったから。

 

 

「ああ、ビッキー、立花響のことか。うーん、そうだなぁ。正直、戦闘に関してはマリアの方が圧倒的に上だ。融合症例ってことで特殊な存在って点じゃそうなんだが、あいつはどこまでも普通の女の子なんだよ。誰かを傷つけるのが嫌で、傷ついた、傷つく誰かを助けたいって全力で頑張るだけの、そんな正義感が強い普通の女の子、それが立花響だ」

 

 

 でも、と彼は付け加えた。

 

 彼女が一番凄い点は、意志を、想いを貫くことだ、と。本気でコレと覚悟を決めた時の響は凄まじい。例えどんな障害が立ちはだかってもそれに真正面から立ち向かって、打ち砕く、と。でも、その分メンタル弱いから、一度拗らせると面倒くさいし、性格が悪い人なんかに良く目をつけられちゃうのが玉に瑕だけどなと笑っていた。

 

 なるほど、これは確かに凄まじい。

 

 恐怖を感じながらも、それでもなお一歩前へ足を踏み出す意志。それは並の人間では行えないこと。己の意志を貫き通す覚悟、そして勇気。英雄と呼ばれるに相応しい精神の持ち主だ。とは言え、先のライブ会場での一戦の時の状況から察するに、この子は英雄なんて向いてないかもしれないが。

 

 

「考え事している暇、ありますかッ!!」

「さて、ねッ!!」

 

 

 槍と拳がぶつかり合う。一瞬の均衡、マリアのアームドギアが響の拳を打ち上げる。

 

 打撃力が上がっている。先程まではマリアの方が勝っていたのに、少しずつマリアが力で押され始めていた。ギアの出力は歌によるフォニックゲインの放出により強化されていくが、少々その時間が早い。それは彼女の持つ才能か、はたまた融合症例と言う特殊な存在だからか。

 

 どちらにしても、そこまで時間は無い。ナスターシャ教授からの報告で、戦闘続行は難しく、ヘリで一気に全員を回収するという作戦が伝えられた。どうやら風鳴翼、雪音クリス両名も先の戦いから更なる力を得たようで、苦戦を強いられているらしかった。

 

 マリアが外套を翻す。翼のような外套は、まるで蛇のように虚空を蠢き、響へ迫る。

 

 速い。外套が鞭のようにしなり彼女の身体を打ち据える――その瞬間、彼女が動いた。

 

 踏み込みと同時に左から迫る外套を打ち落とす。膝を曲げ、腰を落とし、打ち落としによって生まれたエネルギーを横へ、腰の回転と同時に踏み込む。潜水艦へ振動。耐圧殻が少し凹む。震脚により生み出されたエネルギーは風鳴弦一郎という最高の師から受け継いだ技術を完璧に再現してみせる。

 

 裏拳。彼女が拳を横に振りぬくと同時に突風が巻き起こる。直撃を受けた外套がまるで風船のように炸裂、引きちぎられる。

 

 マリアが動く。腰を低く、低く。耐圧殻スレスレに咢を構える。ORUが飛翔。彼女の胸に吸い込まれ、シンフォギアが変形。彼女の意志を最大限に再現する。

 

 外套は太く、太く、まるで竜の尾のように厚く。左右非対称の鎧は全てがその棘々しさを増し、まるで己のみそのものが槍であると宣言するかのような形状へ。アームドギアが高速回転。周囲の風を巻き込み雷を起こす。

 

 彼女の瞳が真っ直ぐ響を貫く。

 

 そこにあるのは意志。穏やかな、優しい光の中に熱く燃え上がるブレイズ。

 

 響が動く。彼女の胸、心臓の上の傷跡が光る。まるで音楽記号のフォルテを思わせる形状のその傷から暖かな光が漏れはじめ、彼女はそれを両手でギュッと包み込むようにして――握り締めた。

 

 同時に前腕部の装甲が展開。装甲がスライドされ、内部機構がむき出しになる。

 

 閃光、稲妻のような光。フォニックゲインがチャージされる。同時にモーターが回転。ギア同士が噛み合い、シリンダーが稼働。まるで羽虫の羽音のような甲高い音が響きはじめ、前腕部が紫電を散らす。フォニックゲインが増幅され、余剰エネルギーが装甲の排熱板から熱量として放出され、空気を焼く。

 

 両足を耐圧殻に叩き付ける、と同時に響は気づいた。そういえば今ヒール無いじゃん。

 

 風鳴弦十郎を師とし、新たに戦う術を覚えた初めての実戦で、響はギアのブーツのような脚甲の踵部分を地面に叩き付けて破壊した。これは、彼女の扱う拳法のスタイルが重心の移動や震脚を重視する関係で、踵が高くなっていると凄く邪魔だから行った行動であるが、それ以来彼女は戦闘時に必ず一度は踵を地面に叩き付けてヒールを壊しているのだ。彼女なりの儀式、と言ったところなのだろう。

 

 ゆっくりと響が左腕を引き絞る。彼女が身体を引き絞ると同時に脚部バンカーが作動、主の想いを最短で、一直線に届ける為に、破損する覚悟でその身を限界まで引き延ばす。

 

 沈黙。静かに歌い、己のフォニックゲインを高める。これが恐らく最後の一撃。この攻撃でこの戦いが終わる。指示したわけではないが、互いに同じガングニールの担い手として、一人の人間として、尊重し、尊敬し、そして全力で貫く為に。

 

 

――最短で、一直線に――

――私たちの夢――

 

『わあああああああああああああああああああああああああ!!!』

 

 

 雄叫び。勝鬨。歌ではない。歌ではない歌。魂より湧き上がる、絶叫、絶唱。

 

 尾がしなり、空を打つ。腰部噴射機構が点火。爆音を奏でながら飛翔。漆黒の烈風となりて牙を剥く。

 

 轟ぐバンカー。腰部噴射機構と共に轟音を奏で、稲妻を掴み、稲妻が走る。

 

 激突と同時に轟音。両者の踏み込みについに耐え切れなくなった本部の耐圧殻が凹み、海面がまるで時化のように震え、荒れる。拳に走る激痛。アームドギアがまるで採掘機のように響の左拳を抉り飛ばさんとその回転を強める。歯を食いしばり、ギアを高速回転させる。ギアが故障しても構わない。主の意志を反映し、内部機構が限界を超えて可動。紫電をまき散らすモーターが、ジェットエンジンのような甲高い悲鳴を上げる。アームドギアから伝わる衝撃。弾け飛びそうになる衝撃を耐える。

 

 アームドギアと拳。永遠に続くかと思われた均衡は、唐突に破られた。

 

 ガラスが割れるような音と共に、アームドギアが砕け散る。内部を伝導していたフォニックゲインが行き場を無くし四方八方にその力を放出する。

 

 爆発。だが、煙を切り裂いて稲妻が奔る。

 

 響だ。左腕の装甲は全損。左の耳当ても壊れている。

 

 バンカーが轟音を立てて耐圧殻を穿つ。彼女の右。最大にして最強の、彼女の槍。

 

 アームドギアは一つ。このアームドギアを失えば、マリアに反撃の手段はない。そう踏んだ響が放つ、全力全開、彼女に出来る最大で最高の一撃。

 

 あの衝撃ならば、マリアは動けない。煙で視界が効かないが、シンフォギアがそこにある存在を教えてくれる。

 

 左腕を犠牲にした響の作戦。だが、何の偶然か、運命か、

 

 

『ッ!?』

 

 

 煙の中、マリアの姿が見える。右腕の装甲は全壊、胸の装甲も剥げ落ちているし、耳当ても破損している。

 

 だが、その瞳は死んではいない。握りしめられた左の拳。装甲が展開され、そこに充填された白銀の光――エクシーズエネルギーとフォニックゲインの収束体。

 

 彼女もまた同じことを考えていたのだ。互いに目があう。どちらとなく苦笑。なるほど、どうやらガングニールに選ばれる人間と言うものは何かと似ているらしい。

 

 

『とどけぇええええええええええええええええええッッッ!!』

 

 

 叫び。喉が壊れても構わないと言わんばかりのシャウト。

 

 同時に拳が振りぬかれる。

 

 インパクトと同時に装甲がスライド。内部で限界まで圧縮されたフォニックゲインが同時に叩き込まれた。

 

 

「く、クロス、カウンター……」

 

 

 誰かが茫然と呟く。

 

 太陽の光が逆光となり、二人の姿を影に落とす。その影は互いに寸分違わぬ姿でお互いの腕が交差し、顔に拳が伸びていた。

 

 クロスカウンター。ボクシングにおける高等技術の一つで、相手の右、もしくは左のストレートに合わせて、それと逆のフックを外側から叩き込むという技。相手の打撃力を加えた一撃は、更なる威力を発揮し、相手に防御反応を行わせない。

 

 

 二人が潜水艦の上に倒れこむ。ドウッ、という衝撃音。

 

 あまりにも強すぎる頭部への衝撃で、意識が飛んでいるのだろう、二人とも数秒ほどピクリとも動かなかったのだが、ハッとした様子で目を覚ますと、大の字に寝ころんだまま、どちらとも言わずに笑いだした。

 

 静寂の海に、笑い声が響く。年相応の楽しそうな笑い声。

 

 

「あはははは!! …はぁ。ねえ、マリアさん」

「どうしたの? 立花響」

「響、で良いですよ」

「そう…じゃあ響、なに?」

 

 

 大きく息を吸って、響が尋ねる。

 

 

「遊吾さん、迷惑かけてませんか?」

「んー、むしろこっちが迷惑をかけてるというか、そんな感じよ?」

「え!? …嘘だぁ。だって遊吾さんですよ?」

「ユーゴだからよ」

「んー、それもそうですね…」

 

 

 遊吾・アトラス。彼が今何をやっているかは分からないが、どうやらこのマリア・カデンツァヴナ・イヴという女性が、彼が支えたいと思った人だということを察した。

 

 確かに――と、響が首を曲げて、大の字となったマリアを見る。

 

 女王マリアと呼ばれるだけあって、そのプロポーションは正しく女王。日本人とは違う、スラリと長い美脚。そしてボンッ、キュッ、ボンッという擬音を想像させる、荒く息をするごとに揺れる胸と、女性らしい丸みを帯びた臀部。

 

 容姿も良いし、彼女から感じたフィール、そして今話している彼女の雰囲気から、彼女が彼の弱点であるお姉さん、母を思わせる年上かつ母性的な優しい女性であると確信する。

 

 

「ど、どうしたの? 凄い顔してるわよ?」

「いえ、気にしないでください」

「気にするわよ…」

 

 

 まるで親の仇を見るような目で見られて困惑するマリア。だが、その視線の意味を察したらしく、彼女も響を見る。

 

 鍛えられた肉体は、女性的な柔らかさの中に確かな鋼を持っている。日本人らしい童顔は、どこか陽だまりを思わせる。スタイルも決して悪いわけではない。大きさこそ自分が勝っているようだが、まだ彼女は十代、それに出るところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいる姿は、黄金を思わせる調和。彼の言うように穏やかな春の陽気を思わせる少女。

 

 謎の視殺戦を繰り広げる二人の間に、突然風が巻き起こる。

 

 虚空から溶け出すように彼女たち武装集団フィーネの移動拠点である輸送ヘリが現れた。

 

 

「まったく、クロスカウンターなんて漫画みたいなことをして…」

 

 

 地上から潜水艦に走ってきたユーが、マリアをお姫様だっこの要領で抱える。

 

 どうやら、ウェル博士、そしてソロモンの杖の回収は成功したらしい。また、ネフィリムも既に回収済みらしく、後はマリアを回収するだけ。

 

 

「立花響」

「は、はい!」

 

 

 マリアを抱えたユーに声をかけられ、思わず返事をしてしまう響。

 

 何を言われるのかと内心身構えていると、彼の雰囲気が厳しいものからまるで微笑みかけるようなモノへと変化した。

 

 

「決して折れぬように。違わぬように。それが貴女の強さ、それが貴女なのだから」

「え?」

 

 

 では、と一礼したユーが跳びあがり、そのままヘリへ飛び乗った。

 

 二人を回収したヘリが去っていくのを茫然と見送る響。ライブ会場で話した時とは全く違う彼の反応に困惑しながらも、どこか暖かい気持ちになる響。

 

 遠くから、罵倒するような声。そして、近くから師匠の声。皆に随分と心配をかけてしまったなぁ。陽だまりのような暖かさに心地いいものを感じながら、彼女はそっと意識を沈めるのであった。

 

 

 

 

「…マァリィアァ」

「え、えぇっと、ゆ、ユーゴ?」

「あのさ、俺言ったよね。クロスカウンターはしっかり相手の動きを見て当てるものであって、相打ち覚悟で打ち込むモノじゃないって」

「そ、その。熱くなっちゃって。それに、あの子の想いに応えたかったの」

「そうだな。決闘者として応えたいよな――しゃぁああああああああラップッ!!」

「ひゃっ!?」

「ま、まあまあユー。落ち着くデスよ!」

「そうだよ。ユー君。彼女たちのおかげで――」

「だぁってろ糞めがねぇええええッ!!」

「ゴファ!?」

「ああ、遊吾の腹パンでウェルの顔面が悲惨なことになってるデス!?」

「マリアの健闘を祝って、今日の晩御飯はお赤飯を作る」

「調!? お赤飯を炊くのはそう言う意味じゃないデスよ!?」

「マリア、今日はお前を寝かさねえから」

「ユーゴ…」

「治療と説教フルコース。愛の熱血指導マニュアル付きだ☆」

「ちょっ!? まっ、それだけは勘弁してユーゴ!?」

「ああああ!? ツッコミが追いつかないデェエエエス!!」

「…はぁ。仕方ないですね、私が代わりに晩御飯を」

『あんたは大人しくしといてマム!!』

「…はい」

 

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

 

「これが――学園祭ッ!! よし! 全力で楽しむぜぇぇええ!!」

「あ、その、これは違うんです!? 初めての学校ってことでテンションが上がっちゃって!? ごめんなさい!! あの、俺、じゃなくて僕はこの学校に通っている学生と友達でして――え? コート着た海胆頭なんて信用ならない? てめなめてんじゃ――あ、はい。あの、立花響さん、小日向未来さん、風鳴翼さん、天羽奏さん、雪音クリスさん、誰か呼んでいただけませんか? お願いします!!」

 

 

 その日、私立リディアン音楽院高等科の校門で、海胆が警備員に捕獲された。




ビッキーとマリアの戦い、Gでやりたかったことの一つが出来て満足満足。

嘘次回予告

「奴をデュエルで拘束せよ!!」
「どうしてこうなった!?」


ふと思いついたGX

「私に地味は似合わない――」
「はっ、よく言うぜ――」
「ギガスギガスグスタフマックスオラァ」
「…………」

「私の武装は剣を――」
「これが剣と見えるかッ!! モンケッソクケッソクカゲキカゲムシャシエンシハンキザンキザンキザンヨンフセターンエンド」
「………」

「貴様にもあるだろう、父より授かりし命題が」
「お父さんから――ガタガタガタ」
「お、おい、どうした?」
バッケン
「コアキデビルガリスバードマンガリスバードマンガリスバードマンガリスバードマンガリスバードマン……」
「うわぁあああ!?」

そして最終決戦

「貴様が遊吾・アトラス。ふん、オレは奇跡を殺す!!」
「初手エクゾ良いっすか?」
「ゑ?」
「ショテエクゾイイッスカ?」
「うわぁあああん!!」
「ああ、キャロル、落ち着いて!」
「うわああん、エルフナインん!!」
「よしよし。こら、遊吾さん。イジメちゃメっですよ!」
「はーい」
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