遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~ 作:特撮仮面
「なぁビッキー」
「んー、何ですかゆうごさん」
「シンフォギアのそうしゃって、奏者なのか? それとも、装者なのか?」
日曜日の昼下がり。寮の部屋で脚を投げ出してくつろいでいた遊吾・アトラスが、唐突にシンフォギアを身に纏う少女――立花響に問い掛けた。
彼の太股の上に頭を乗せて微睡んでいた響は彼の唐突な問い掛けに、んー、と首をかしげる。
「ねえ未来、どう思う?」
「んー、やっぱり装備してるんだから、装者? でも、私たちの歌は誰かを助けるためのものだから、やっぱり奏者?」
「そこで悩むよなぁ。…ところで二人とも」
「どうしました、遊吾さん」
「どうしました?」
二人――立花響と小日向未来が上目遣いに彼を見上げる。本人たちは自覚無いようだが、響も未来もどちらも平均以上の容姿な上、憎からず思っている。そんな二人が自分の太腿の上に頭を置き、またこちらを見上げるというこの状況に少しだけざわつく心。こちらに戻ってきてから奏者誰かとコミュニケーションを取るたびに起こってしまうその現象に、自分の心ながらどうして動揺のような揺れが起こるんだと内心で首を傾げる。
「っと、そうじゃない。あのよ、そろそろ離れてくんね? かれこれ一時間はこうして脚貸してんだけど」
『約束…』
「ごふっ」
約束と言われたら何も言い返せない。遊ぶ約束を破ってF.I.Sとして活動してたし、その前も遊ぼうと言って結局ノイズ化。無事に帰ってきてと約束すれば一か月後。最近の出来事で言えば、無茶はしないと約束したのにオートスコアラーとの三連戦したり、海から出てきた妹さんと熱い大怪獣決戦したり、自分の魂が消滅することを覚悟で超融合したり、絶唱状態のイガリマに突き刺さったり、本気の風鳴司令とぶつかり合ったり、緒川さんの超変化の術を何とかしたり、というか元の世界に戻るなら一言言えと約束してたのに結局何も言うこと無く去ったし、それからまた数ヶ月でこっちに戻ってみたり、そしたらまた新しい事件が起こってそれに巻き込まれて時限爆弾の爆発に巻き込まれたり。オートスコアラーに記憶抜き取られそうになったり、エルフナインと遊園地行ったり、キャロルと散歩したり、何故か拉致されてそのまま融合の技術を提供したり、ガリィを腹パンしたり、ファラを皆で弄ったり、ミカと鍛造したり、レイアとドヤ顔対決したり、妹さんと鉄人ごっこしたり、鉱山で強制労働させられたり、逃げ出したらダイナマイトで発破されて坑道で生き埋めになったり。崖に落ちたり。全部無傷で切り抜けたらビッキーに殴られたり、未来にビーム撃たれたり、奏に刺されたり翼に斬られたりクリスに蜂の巣にされたり切歌に魂持ってかれそうになったり調にガイガンごっこさせられそうになったりマリアに膝詰めの説教――あれ? これ、キャロリン姉妹と何よりマリアが一番優しくね?
てか俺、こいつらと約束するたびに破って――いや、約束する度に想定外の敵が出てきたりして約束が果たせないだけだから。俺のせいじゃねえから…。
とにもかくにも、そんなことがあったりなかったりするせいで彼は奏者たちから放たれる約束と言う言葉に弱い。奏者以外のものが口にしようものならば『なあ、お前決闘したいんだよな?したいから来たんだなぁ、なあ決闘しろよ、てかお前ら決闘しろよ』とか言いながら反逆し始めたりするものだが。
「うーん、私たちは歌うことで色々できるから、奏者の方が良いかな。それに、奏者ってほうが優しい響きだから」
「なるほどな。…よし! じゃあこれから――」
『出ていくの駄目ですから』
「あ、はい」
その後、二人と一緒に大エンタメ決闘大会を開いたり、最近増え始めた決闘者たちに戦いを挑んだり、二人と川の字に寝て昔のことを話したりと穏やかな日を過ごすのであった。
風鳴翼と天羽奏の場合
「なあ翼。シンフォギアのそうしゃって奏者と装者どっちなんだ?」
「唐突だな……ふむ、シンフォギアという鎧を纏い人々を守る。防人としては後者――と言いたいが、やはり歌を纏い、防人としてだけではなく、歌女としても誰かを守護する。そう考えると奏者だな」
「奏者じゃない? ほら、アタシたちの歌には血が通ってるわけだし」
「なるほどねー」
風鳴翼。現在世界に羽ばたき、世界レベルの歌姫となり世間で騒がれているトップアーティスト。そんな彼女の久方ぶりの日本ライブ、その楽屋に迷いなく潜入した彼が、休憩中の二人に疑問を投げ掛けた。
やはり、シンフォギアを歌と見るか兵器と見るかで大分変わっているらしい。
「てか、何で奏がここに? お前寮どうしたんだよ」
「外壁塗り替えでねー。暇だったから翼の手伝い」
「それで良いのか管理人…」
「いやー、オートスコアラーって言うの? あの子達が代わりに見とくって言うからさ」
「あいつら……後悔するぞ」
「大丈夫大丈夫! エルフナインやキャロルも居るんだしさ!」
「…奏、知ってるか? あいつら、キャロルいても自重しないんだぜ?」
「マジ?」
「マジ」
魔法少女事件の際、錬金術師マジカルキャロリンこと、キャロル・マールス・ディーンハイムに連れ去られた遊吾。と後に彼と同じように連れ去られてきた謎のDホイーラーA。
連れ去られた原因は彼らの使う融合という召喚法。その召喚法のせいで目をつけられてしまった二人であったが、遊吾は元々のスタンスから。Aは、ネオスペーシアン、そして数多の決闘者に鍛えられ、立花響の父親らしい、へいき、へっちゃら精神による鉄の意思と鋼の強さを発揮。
敵の思想を決闘という手段を用いり変革。と言うか、半ば決闘者精神を叩き込むことによる洗脳と言う名の絆パワーで皆を絆す。
そんなことをしてしまったせいで、現在キャロル・マールス・ディーンハイムとその一味は二課、現S.O.N.Gと協力関係となり、穏やかな日常を送っている――のだが、オートスコアラーたちは別。
「特にレイアなんか、シルバー気に入っちまってるからなぁ」
「それ、あんたのせいだろ遊吾!?」
「まさかあそこまでハマるとは……」
日頃から何かとシルバーを巻こうとするレイア。何かとカオスに陥れようとするファラ。何かとモウヤンのカレーをねだるミカ。虎視眈々と彼の隙を狙うも毎回腹パンされるガリィ。そして、そんな四人のなかで唯一常識人な妹さん。この五人が一度に勢揃いしているのだ。何かが起こらないなんてありえなかった。
「ごめん翼。アタシ寮に戻るわ!!」
「走れ奏、世界を救えるのは君だけだッ!」
「五月蝿いぞそこ!」
慌ただしく楽屋を出ていく奏。
その背中を見送る二人。と、そこで彼が翼の服装に気がついた。
「お、今回のステージ衣装か。…何か随分と可愛らしいな」
「うっ、い、いや、これはその、なんと言うかな」
歌女としての風鳴翼。それは勿論防人としての風鳴翼と同じく、キリリとした格好いい女性。
そのイメージのせいか、基本彼女のステージでの姿は、可愛いではなく、どちらかと言えば格好いい、綺麗といった雰囲気のものが多い。
だが、今回は少し違っていた。衣装の至るところに見えるふんわりとしたフリル。そしていつもの濃い藍色などの冷たく大人びた色ではなく、もっと薄い、淡い暖かな色合い。
「その、前にチャリティーライブあっただろう?」
「ああ、マリアと翼のデュエット。…そろそろ、新ツヴァイウィングとして売り出さねぇ?」
「魅力的だが、それは私と奏の名だ。て、そうじゃない。そのチャリティーライブの衣装から、今回は大胆なイメージチェンジを狙ったらしい」
「なるほど」
むしろ、可愛い翼はプライベートで結構見ているため彼は全く違和感を持たないのだが、仕事の場面を見ているだけでは確かに彼女を可愛いらしくするという企みは、十分ギャップを狙えるだろう。
「似合ってるな。いつもと雰囲気が違うってのも中々乙なもんだ」
「そうか、ありがとう」
頬を染めながら微笑む翼に、少し照れ臭くなって頬をかく遊吾。と、その時遠くから廊下を走る音。マネージャーである緒川の足音ではない。となると侵入に気付いた警備員か、はたまたスタッフか。
どちらにしても関係者じゃない以上ここに居るとマズイ。
「人が来るみたいだから、そろそろ行くわ。ありがとな、翼」
「どういたしまして――ところで、ライブは見ていかないのか?」
「……抽選番号外したんだよッッ」
「ああ…」
今回のライブは皆に歌を聞いてほしいという翼のライブにしては珍しく、抽選によるもの。今回のライブに関してはゴタゴタがあったりしたらしく、何やら色々と大変らしい。
「またカラオケでも行こうぜ? あ、それと緒川さんにもよろしく伝えといてくれ」
「ああ――って、どうせまた会いに来るだろうに」
「当たり前だろ? 決闘者なら」
そんなことを言いながら楽屋を出ていく遊吾。
相変わらず慌ただしい奴だ、と苦笑して彼を見送る翼。と、そんな彼女の視界の端に見覚えのない物体がひとつ。
紙袋。中にはビニールに包まれたケーキがいくつか。見た目が明らかに市販ではないチーズケーキ。その上には小さな手紙。
『疲れてる時には甘いものが一番らしいから、マリアに手伝ってもらって焼いてみた。緒川さんと一緒に、今度直接感想聞かせてくれ』
「…まったく」
仕事で忙しいのに直接とは、中々難しいことを言ってくれるなと微笑む翼。だが、同時に気持ちも軽くなる。
彼も言っていることだが、絆とは良いものだ。そんなことを思いつつ、スタッフの出番準備をお願いします! という声に答え、ステージに向かって歩き出すのであった。
雪音クリスの場合
「奏者と装者?」
「ああ。クリスに聞きたくてな」
「んー、そーだなぁ」
クリス宅。高級マンションの一室で、二人で大きなソファに並んで座って話をしていた。
んー、と首を捻る彼女の服装は、完全な部屋着。純白の下着のような、ドレスのような、そんなヒラヒラした服一枚だけ。思わずその凶悪な身体の至るところに吸い込まれそうになりながらも意識を保つ。
「んー、どうした――ああ」
「おいクリス、なにを納得ゥ――!? ちょっ、おまっ!?」
「なんだよ、いいじゃねえか抱きつくぐらい」
それはもう満更ではないが、そうじゃない。頬を赤く染めながら引き離そうとする遊吾と、顔を真っ赤にしながらも彼から離れようとしないクリス。
はぁ、とため息をはくと彼は離そうとするのを止めた。
「マジで何があった。お前、基本人に身体触れさせたりするのダメだったろ?」
「そりゃまあ…今でもそうだけどよ。お前は違うんだよ」
「違う? ってなにが」
「うー……その、遊吾は、えっと、馬鹿、だからさ」
「それは誉められてんのか?」
「銀髪巨乳猫娘と甘々学園生活」
「すみませんでした。何でもするんで許してください」
オペレーター藤尭とのやりとりは誰にもバレていない筈なのに、何故こいつらは時々俺が仕入れるスケベゲーやスケベ本を知ってるんだッ!! 先程までとはうってかわって借りてきた猫のように大人しくなる遊吾。
「確かに、あんな物を見てるって分かったときはどうしようかと思ったけどよ…」
「……この間、妙に俺を避けてたのはソレか……」
少し前、クリスが自分を避けるようにしていたのは気のせいではなかったらしい。確かに、自分のことをそういう目で見ていると考えられるようなものを知ってしまえば対応に困るはずだ。
特に装者たちは異性との接触が少ない環境で育っている人がほとんど。しかもクリスは幼い頃に両親を亡くし、さらにフィーネに拾われるまでは紛争地域で大変な生活を送ってきているのは想像するに容易い。
あれ? 俺って大変なことしてるくね? 今更彼は思った。
クリスと出会ったのは戦場。あの頃はまだ今よりももっと未熟だったせいで、相手の隙を誘い、冷静さを欠けさせる意味で、oppaaaiだのなんだのとセクハラも真っ青なとんでもないことを叫んでいた気がする。
二課に入ってからも、少し下ネタ使ってからかったりしていた。自分の行動を思い出して百面相する遊吾を見て、クリスが面白そうに笑いながら、彼の額を小突いた。
「いて!?」
「ばーか。なに百面相してんだ」
「い、いや、思うと大変なことを…」
「今更すぎだろ。てか、お前がそういう馬鹿だってことはノイズの頃から知ってるからな」
「そ、それは誉められてんのか?」
「ああ。つまり、テメェは凄い分かりやすいってことだ」
「誉められてる気がしねぇ…」
というか貶してるだろ、と苦笑する遊吾。クリスが楽しそうに笑う。
「ばーか。良いことに決まってんだろ。フィーネの時もキャロルの時も分かりやすくて助かったぜ」
「…うわぁ、ボコボコにされた挙句、俺よりも下手な演技で二課を裏切った奴の台詞とは思えねぇなぁ」
「だ、誰が下手な演技だ!!」
「はっ、裏切るタイミングが急すぎだし、脳漿ぶちまけやしないってのに頭部撃ちとか、分かりやすすぎて思わず笑いそうになってたんだぜ?」
「お、お、お前が言うなぁああ!!」
翼を撃ち、二課を裏切ったのは彼女にとって触れられたくない過去らしい。うがぁああと歯を向いて彼に跳びかかるクリス。はっはっはとまるでじゃれつく猫を相手にするようにあしらっていたが、クリスに身体でぶつかられて流石に体勢が崩れてしまい、そのままソファーに押し倒される。
「お前だって急だったろうが!!」
「ばっか。俺の場合は行方不明になるとか、しっかり仕込み済ませてっから良いんだよ。お前みたく行き当たりばったりってわけじゃねえんだし」
「あ、あたしだってしっかり考えたッつーの!!」
肩を掴まれぶんぶんと前後にフラれるが、彼は気にせず笑う。
「はっはっは。…ところでクリス」
「なんだよ」
「このソファーって幾らだった? すっげえ柔らかいんだけど」
「んー、なんぼだろうな。ここに最初から置いてあったし」
と、そこでクリスは気付いた。今の自分の体勢が端から見たらどんな風に見えるのか。
誰もいない部屋。大きなソファーの上に男女が二人。片方はコートを着ているが、もう片方は薄着一枚で、しかも相手をソファーの上に押し倒し、上から抑えつけるようにしている。
どう考えても事前です。しかも女が男を襲っている類いの。
「どうしたんだ、クリス。顔真っ赤だぞ」
「だっ、誰のせいだと思ってんだ!!」
「いや、どう考えても自分のせいだろう」
「う、五月蝿い! そういうテメェはどうなんだよ!? ピクリとも表情動かさねえとか!!」
彼女の言葉にピクリと眉毛を動かした遊吾。彼ははぁ、と息を吐くと彼女の腕をがっちりと掴む。
「うひゃあ!?」
「俺が鉄の意思と鋼の強さを発揮してるだけであって、分かるか? 先の銀髪巨乳猫娘の例の通り、今の俺は多少なりと異性に興味があるわけだ。この姿勢だとよ、見えるわけだ。来たときから思ってたけど露出激しすぎなんだよお前まあ全裸のフィーネに比べたらまだマシだけどさあお前自分の容姿分かってるか? 今でもどれだけ胸見ないようにしてると思ってんだそれにお前が風呂上がりなせいで凄い甘い香りしてるしさぁ可愛い子にこんなに近付かれてなにも思わないはず無いだろ!?」
荒い息を吐きながら一息に言い切る遊吾。流石は決闘者。カードの効果とながったらしいチェーン処理を相手にわかるように言い切るだけあって、物凄い早口でも内容がしっかり伝わってきた。
こいつ、ニュースキャスターとかしてもいいかもな、とふと思いついたクリス。クスクスと笑うと彼女は身体の力を抜く。
「ぬあ!? ク、クリスッティーヌお前様はなにをやらかしていらっしゃるのですかこのやろう!?」
「誰がティーヌだ。と言うか落ち着けよ」
「これが落ち着けるか!?」
彼女が身体の力を抜いてしまえば、倒れこむのは当然彼の身体の上。身長差のせいで彼の胸に顔を落とした彼女は、上目遣いで彼の様子を観察する。
我慢していたというのは本当らしい。今の彼は耳まで真っ赤にしながらあわあわと大慌てしていた。倒れこむ際に彼女を掴んでいた腕は今では彼の頭の上。数多の敵を打ち倒し、勝利を呼び込んできた歴戦の決闘者の腕も、少女を前にすると形無しのようだ。
普段と比べると明らかに違う彼の姿。そういえば、未来やマリア、先輩たちが言っていたが、遊吾は無意識的に自分達の前では、キングの息子、一人の決闘者として居ようとしているらしい。
なるほど、これが彼の素なのだとしたら、普段の怖いもの知らずの決闘馬鹿は確かに格好つけようとしているのかもしれない。
「ったく、格好つけしいめ」
「…仕方ねえだろ。いつも周りは年上ばっかだし。それに、こっちじゃ実戦闘できる男は俺だけなんだし」
彼女から視線をそらした彼が、不貞腐れたようにボソリと呟く。なるほど、確かに彼の過去を見ても、彼の周囲は同世代よりも年上の方が多かった。
少しでも周囲に追い付くため、少しでも年上に思われるために色々頑張ったのだろう。そう考えると微笑ましく思えてくる。
彼の胸に顔を擦り付ける。おい馬鹿! 彼の動揺が手に取るようにわかる。先程から耳元で心臓がドクンドクンと五月蝿い。
どれだけドキドキしてんだよと笑う。
「てか、そろそろ離れてマジで。もう本当にあぶねえから」
「やなこった」
ぐっ、と顔を押し付ける。
「テメェは、遊吾は、あたしが本当に嫌がることはしない。傷付けない。違うか?」
「そりゃ、男の俺が傷つけるとかあっちゃいけない話だし。…クリスの親父とお袋にも約束したからさ」
彼の身体がもぞりと動く。彼の視線の先は分かる。いかにも高級マンションの一室である洗礼されたデザインの家具が並ぶこの部屋で唯一クリスが持ち込んだ私物。初めて手にいれた給料で買った、自分の見た限りで一番格好いい、仏壇。遺骨も写真も何もないが、そこに刻まれた名前は、そこに彼女の父と母が眠ることを確かに示していた。
彼が仏壇に手を合わせて二人に挨拶をしてくれたのを覚えている。その時に二人に約束した言葉も。
「なあ、さっきの質問なんだけどよ」
「あー、奏者と装者か?」
「うん。…あたしは、奏者が良いかな。歌で誰かを笑顔にできる。歌で平和を作る。歌女であるあたしたちにしか出来ないことだと思うから」
「…ガトリングやミサイルぶっぱなす奴の台詞とは思えねぇほどロマンチストだな」
「ロマンチストは嫌いか?」
「………」
いたずらっぽく微笑めば、彼は無言で彼女の頭を掴んで髪をかき乱す。だが、その時に聞こえた嫌いじゃないという呟き。
まったく、素直じゃねえなぁと内心苦笑しながら彼女はソファーから立ち上がると椅子にかけられたエプロンを手に取りながら振り返る。
「飯、食ってくだろ?」
「なに? ビッキーと同じくクリスも料理ができないのではないのか!?」
「テメェ何気に酷いこと言ってんな」
てか、そこまで酷いのかよ。んー、まあ調味ミスったり火加減間違えたりする程度はまだいいんだが、包丁の扱いが相変わらず危なっかしいし、てかなまじ料理の上手い未来が居るせいでどうしてもなー。
苦笑する彼を見て、クリスは決めた。あたしの料理で度肝を抜いてやる、と。
ちなみに、料理をしているクリスを見た彼の何気ない発言で料理が一部焦げたりすることになるのだが、それは完全な余談である。
また、この後集まってきた装者たちに対して彼がふるまった、専用の小型冷蔵庫から出してきたプリンが美味しすぎて一悶着あったりするが、それもまた余談である。
マリア・カデンツァヴナ・イヴとセレナ・カデンツァヴナ・イヴの場合
「っと、こっちじゃ靴のままで良かったんだっけな」
「あらユーゴ。おかえりなさい」
「あ、ユーゴさん!」
「ああ、ただいま――って、ここは俺の家かい」
「少なくとも、私はそう思ってるわよ?」
「俺、居候してただけなんだけどなぁ」
「ふふ、帰る家があるって言うのは良いことよ」
「まあな。…これで何件めになるのやら」
森の中の一軒家。それが、マリアとセレナの家だ。
慣れた手つきで玄関を開けて家に入る遊吾。台所仕事をしていたのだろう。淡い色のエプロンをし、手を拭いながら部屋から出てきたマリアは、まるで仕事帰りの夫にするように彼からコートを受け取り部屋へと付き添う。
部屋で何やら書き物をしていたらしいセレナ。マリアとは違い薄手の動きやすそうなシャツ姿の彼女が、彼の姿を確認するとまるで犬が飼い主に近付いていくように、笑顔で彼へ近付く。なにが求められているかは分かりきっている。彼女の頭を撫でてやれば、えへへと笑うセレナ。
武装集団フィーネの決起。その際にマリアたちは世界に牙を剥いた。剥いたのだが、その結果マリアは特に監視もなく生活することとなった。
これには、遊吾・アトラスとレックス・ゴルドウィン、そして日本政府のお話し合いによるもの。
そんなわけで現在マリアは、妹と二人穏やかに、時折歌の仕事をしながら暮らしていた。
そんな二人のもとに訪れた遊吾。慣れた様子でソファに座って身体をのばしていると、マリアがお茶を入れて持ってきて、彼の隣に座った。
「どうしたの? 態々アメリカまで。みたところDホイールで来たみたいだけど」
「ああ。それはなぁ」
彼は他の面子にもそうしたように、シンフォギアのそうしゃってどっちなんだと彼女に問いかける――と、それを聞いた貴方ねぇと額に手を置く。
「それを聞くためだけに此処に来たの?」
「ああ!」
「そこで自慢げに胸を張るな…」
Dホイールでこちらに来た、ということは恐らくアクセルシンクロか何かを使ってこちらに来たということだ。
移動のためだけに態々特別な力を使用する馬鹿がどこにいるんだ…。会いに来てくれるのは嬉しいが、相変わらず行動が破天荒な彼に思わずため息をはいてしまう。
「まあ、良いわ。…そうね、セレナはどう思う?」
「わたし? うーん、やっぱり奏者かな。響が優しいし、なにより歌で色々できちゃうもん」
「…ビッキーと同じこと言ってらぁ」
似た者同士だなぁと笑う。マリアもそう思ったのだろう、クスリと微笑む。
そんな姿を見て、結構無茶やってよかったと思う。当初はそれはもう関係各所が大激怒。怒られに怒られたし、拘束されたし。だが、それだけのことをする価値があったものだ。二人の穏やかな様子に満足そうに頷く。
「私もセレナと同じかしら」
「へぇ、意外だな」
シンフォギアの力をより強く理解しているマリアなら装者と言うと思っていた遊吾が言う。
「そう? まあ、シンフォギアは武器として使用したことがあるから。…でも、だからこそ、とも言えるのよ?」
「そうなのか?」
「ええ。あの事があったからこそ、私は思うわ。歌で世界を変えられる。歌に想いを乗せられるのが装者なんだって」
「とんだロマンチストだな」
「あら、ロマンチストはお嫌いかしら?」
いや、嫌いじゃないさと二人で笑っていると、彼の服の裾を引っ張る感覚。
そちらを見れば、頬を膨らませたセレナがこちらをじっと見つめていた。
「ユーゴさん、カレー作ってください」
「カレー? あー、まあ構わねえけどスパイスとかこっちに置いてないし」
「道具なら一通りあるわよ?」
「マジで!?」
「…研究所を文字通り跡形もなく消し飛ばす前、この家に沢山もって帰ってきてたじゃない」
「…あ」
忘れてたのね。額に手を当てるマリアに苦笑するしかない。
遊吾がこの家で暮らしている際、いくつかの自作調味料をこの家に保管していたのだ。それに、いつかここで再度料理をすることも考えて研究所から調理道具を一通りもらって帰ったこともある。
そういやあったな、とようやく思い出した遊吾。
「なあマリア」
「良いわよ。まだ今晩なに食べるかも決めてなかったし。私も久しぶりにユーゴの料理を食べたいしね」
そこまで期待されては応えるしかない。
料理決闘検定初段。かの有名な料理決闘者モコミチから手解きを受けて、新たな段階に進化した俺の料理を見せてやるッ!!
この後、セレナの我が儘によって仲良し家族のごとく一緒にお風呂、川の字で睡眠とまるで家族サービスのごとき怒濤の展開が彼を待ち受けているとは、意気揚々と調理をする彼が知るよしもないのであった。
また、この日遊吾印のカレーverオリーブオイルという料理が完成し、新たな味の地平が切り開かれるようになったのはまた別の話。
「ふふふ、今回は逃がしませんよユーゴさん」
「どうしたのセレナ?」
「ううん、何でもないよ。夜が楽しみだね、マリア姉さん」
「ええ。久しぶりにぐっすり眠れそうよ」
「そうだねー。今日は一番良い抱き枕があるもんねー」
「こらセレナ!?」
「あはははは!」
「…なんか楽しそうだなぁ」
暁切歌と月読調の場合
「遊吾、そんなことより私と決闘デース!」
「いや、そんなことってなぁ…構わねえけど」
やったー! 久しぶりに遊べるデースとくるくる回る切歌。そこまで嬉しがられれば悪い気はしない。はしゃぐ切歌を見て口元を緩めつつ彼は注意を促す。
「はしゃぐのは良いが、気を付けろよー。小指ぶつけても知らねえからな?」
「大丈夫で――!?」
「言わんこっちゃない」
大丈夫といった瞬間に足の小指を机の足にぶつける切歌。だから言わんこっちゃないと額に手を当ててやれやれと首を振る。
「大丈夫。切ちゃんは一日に一度はこうなる」
「…大丈夫なのかよそれ」
「慣れた」
嫌な慣れだなぁ。笑う遊吾は、出されたコップに手をつけるとそれを迷いなく口に含み――固まった。
「調、こいつぁ」
「コーヒー。これなら遊吾でも飲めるよね?」
「あ、ああ。てか、美味いな…」
この世界に来てから、珈琲と言えば基本的に自動販売機やインスタントなど、もはや飲み物とは呼べない苦味を持つものと言うイメージが彼の中には植え付けられていた。
事実、彼が飲んだことのある珈琲と言うのは、彼が元居た世界で父親であるジャック・アトラスが愛飲していた、ブルーアイズ・マウンテンと呼ばれる特別なコーヒー豆を使用した珈琲であり、それは店で頼めば一杯三千円はくだらないというとんでもない代物であった。
キングと言う義父がいることで、何だかんだで一部嗜好品が高級品ばかりだった彼は、各時代を旅している間に色々な飲み物が苦手となっていったわけなのだが、今調が入れてくれた珈琲は今まで飲んできたものとは全く違う。
一口口に含んだ瞬間から香る珈琲の独特の香り。下に程よい温度で喉を通る液体は、珈琲特有の苦みの中に、確かな旨味をギュっと濃縮しており、それは舌を通る度に宇宙のビックバンの如く彼の味覚を刺激する。
これは一体何なんだ…。困惑しながらも素直に美味しいといえる珈琲に手が止まらない遊吾。その様子を見て満足したらしく、調が嬉しそうにお盆を抱えながら彼に言った。
「それは、最近発見されたスカーレッド・コクーンと言う特殊な、真っ赤な色の珈琲豆を一定温度でじっくり焙煎することで出来る、至高の一杯。名前を、レッド・デーモンズ・マウンテン。お店で頼めば一杯三千円は下らない」
「ッ!? ――!! ――!!」
一杯三千円オーバー。思わず珈琲を気管に入れてしまい思い切りむせそうになるが、三千円越えの超高級珈琲、しかも調が丁寧に入れてくれた品を噴き出すのは勿体無い、というか失礼だ。むせそうになるのを懸命に堪え、何とか口の中の珈琲を飲み干す遊吾。吹き出さなくてよかった。大きく息を吐く。
「驚いた?」
「驚くわ!? てか、何でそんな高級なモノを家に置いてんだよ!? さっきから気になってたけど本格的なあれ、珈琲入れるやつあるしさ!?」
お前らあまり珈琲飲まないだろ? 先程見えた、明らかに職人の手で作られた珈琲を作る機械と言い、この豆と言い、飲まないにしては過剰じゃないかと彼が問いかけると、二人して照れ臭そうに頬を染めながら言った。
「そ、その、デスね」
「遊吾が珈琲とか苦手っていうから、克服させたいなって。それに、遊吾が遊びに来てくれないと私も切ちゃんも寂しいから」
「し、調!?」
「違うの?」
「い、いや、違わないデスけど…」
まったくこいつらは。妹のような、そんな存在が態々自分のために色々してくれたと言われて嬉しく無いわけがなく、彼は思わず二人を抱きしめて礼を言う。
「ありがとな。切歌、調!!」
「あう。…はいデス」
「うん」
「…あ、でもこんなの飲んでたら俺他の珈琲飲めなくなる気がするぞ…」
これほどの上物を飲んでしまえば、今まで飲んできた珈琲が全部泥水か何かのような気さえしてくる。
こんなものを飲んで、果たして自分は市販のインスタントコーヒーや缶コーヒーを飲むことが出来るのだろうか。思わず頭を抱えてしまう遊吾に、調が珍しくにっこりと笑って言った。
「飲みに来れば良い」
「え? いや、流石にお前ら学校もあるし、てか茶店代わりに使うのはちょっと――」
「飲みに、来ればいい」
「あ、はい」
謎の威圧感に思わず押し負けてしまう遊吾。気づけば彼の手にはこの部屋の合鍵が。どうやらいなければ勝手に上がってもいいということらしい。
押し付けられた鍵を手の中でもてあそびながら、彼は立ち上がる。時間的にそろそろ出た方が良いだろうという判断だったのだが、そんな彼に切歌が抱き付く。
「今日は帰るの駄目デス!」
「…いや、そうは言うがお前らにも予定があるだろ?」
「遊吾。今日のご飯は冷蔵庫の余りを全部使ったシチュー。だから食べていって」
「分かった。なら食べたら帰る――」
「駄目デス! 明日は特売日なのデス!!」
「明日は近所のスーパーがおひとりさま限りで安い。遊吾にも手伝ってほしい」
「…あー、分かった分かった」
まあ、時にはこういうのも悪くないだろう。彼が了承すれば、二人でハイタッチをする調と切歌。そうやって喜んでもらえるなら多少は構わないかと苦笑しつつ、彼は椅子に座るのであった。
後日、三人でスーパーの特売セールに向かった際、彼はとんでもない光景を目にするのであった。
「…なあ、調――ってフィーネ、お前何で表に出てきてんの?」
「…調の代わりに私が表に出ると、身体が成長するじゃない?」
「ああ、フォニックゲインの作用でそうしてるんだっけ」
スーパーの買い物袋を手に持った、黒髪の女性。やわらかな表情と暖かな光を放つ瞳は、調を大人にして各部位を大きくしたような、そんな女性。
彼女の名前はフィーネ。現在調の中で魂だけで生活している、魂だけの存在、処遇中の人だ。
そんな彼女が人格として表に出てくる際、発生するフォニックゲインによって彼女の身体は一時的に成長する。副作用は無いらしいが、調の身体で両手を地面に着いて崩れ落ちられると少々困る。
「そしたらね。姉か親と間違われるから、セールの商品が一品追加で買えるって…。何で私がスーパーの特売の為だけに頑張らなきゃいけないのよぉおおおおお!!」
「フィーネ……」
「デース……」
スーパーの特売品を購入するためだけに召喚される、人類最高峰の天才にして超古代の巫女。元々ラスボスはるほどの人物であった、そんな彼女のある意味憐れとも言える姿に、思わず涙を隠しきれない二人であった。
結論
ロマンチストは奏者。リアリストは装者である。とは言え、正規の呼び方は装者なので気をつけるように。