遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~   作:特撮仮面

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なんとでもいえ、私とて番外編を更新せねばならん~君こそが主人公だろう?ハロウィン編完結~

 あのあと、マリアの手で双子の蟲惑魔から助け出された遊吾は、会場のメインフロアに戻ってきていた。

 

 

「まったく、世話が焼けるわね」

「ごめん」

 

 銀腕・アガートラーム。セレナから受け継いだマリアの新たなシンフォギア。右腕に展開していた蛇腹剣を左腕の籠手に格納し、マリア・カデンツァヴナ・イヴが遊吾の頭を撫でる。

 

 

「ふう、わりぃ取り乱した」

「別にこれくらいなら構わないわよ」

 

 

 それに、珍しいものも見れたしと笑うマリア。自分でもあんな名前を呼びながら抱きつくなんて真似はできたものではない。顔を赤く染めながら慌てて彼女から離れる遊吾。

 

 確かに、基本的に遊吾・アトラスは他者を振り回すこところそあれど、自分が振り回されたり、狼狽えたりすることはない 。

 

 

「俺だって好きでこんなことになってる訳じゃねえよ…」

「あら、そのわりには満更でもなさそうだったけれど?」

「ま、まあ悪い気は――ってなに言わせてんだよ!?」

 

 

 遊吾も男だ。見目麗しい美女に迫られて悪い気はしない。だが、それを自分で口にするのは恥ずかしく、ああもう、と頭を掻く遊吾。

 

 彼に珍しいそ?な取り乱した姿に思わずクスリと笑いながら、彼女はアガートラームを解除した。

 

 

「マリア……その格好」

「あ! …似合ってないでしょ?」

 

 

 アガートラームを解除した彼女の姿は、耳長の妖精。エルフと言えば良いのだろうか?

 

 春の芽吹きを思わせる薄い緑の衣を身に纏い、髪を背中に流している。いつ見ても惚れ惚れするその男の欲望を刺激しながらもただそれだけでは終わらない威厳を感じさせる肢体。

 

 最早コスプレではない。世界に通じる美しさは、エルフと言う神秘を纏うことで、伝説に違わぬ存在になりきっていた。

 

 

「……」

「ユーゴ?」

「あ、いや、えーっとだな」

 

 

 思わず言葉につまる。先ほどまでならば似合っているだのなんだのと平然といってのけられただろうが、今の彼は度重なる精神攻撃によって完全に殻が破れた状態。つまり、今の彼は言うならばただの遊吾・アトラス。人とのコミュニケーションがあまり得意ではなく、女性に対する免疫もほとんどない年相応の少年。

 

 

「ユーゴ? どうしたの?」

「いや、何でもねえよ」

「何でもないなら目を合わせられるでしょう。本当にどうしたの?」

 

 

 顔を近付けるマリア。顔を赤くしながら目を逸らす遊吾だったが、内心は大慌てである。

 

 じっと彼を見つめるマリア。そこで彼女も彼が照れていると言うことに気がついたらしく、ふふ、と笑みを溢すとズイッと身体ごと彼に近づく。

 

 

「ねえ、ユーゴ? どうして目を逸らすの?」

「いや、その、近いって」

「んー、何がかしら?」

「だから、その、顔がだな。というか身体が、その、当たってるというか」

「あら、ごめんなさい」

「って、そこで近づくか!? ちょっとマジで待てよ!?」

 

 

 そっと触れるか触れないかの距離まで身を寄せるマリア。いっそくっついてくれればいいのに、敢えてほんの少し、本当に絶妙な距離を開けることで逆に彼に身体を意識させる。ほのかに感じる体温。ここで慌てて離れれば彼女を傷つけてしまうのではないかと考えると、離れることもできない。だからと言ってこのままずっとこの状態だと自分が先に参ってしまいそうだ。

 

 う、うぅ、と耳まで赤くして黙り込む遊吾を見て、マリアは我慢できずに吹き出してしまった。

 

 

「く、くふふふ。あははは!!」

「んな!? ちょ、え?」

「ふふふ、まさか、ユーゴがこんな、ふふふふふ」

「か、からかってたのかテメェ!?」

 

 

 うがぁ! と吠える遊吾。彼女からすればいつもからかわれたりしているのだから多少の意趣返しのつもりだったのだが、これは面白い。

 

 

「大丈夫。からかってなんかないわよ? で、似合ってるかしら?」

「あーはいにあってますにあってます」

「ちゃんとこっち見る!」

「あだっ!?」

 

 

 ぺシ、と頭を叩かれて嫌々彼女の方を向く。

 

 改めて見ても綺麗だと思う。ステージの上の女王とは違う。母のような、姉のような――実際妹がいるが――年上らしい暖かく包み込むような雰囲気。先程飛び込んだので良く分かる、暖かく柔らかくどこまでも深い胸。最近は自主トレやS.O.N.Gへの協力以外に仕事をあまり入れていないためか少し肉付きが良くなり始めたが、むしろそれが鍛えられた彼女の肢体をより女性らしくしていた。

 

 

「…胸と太股でがっちり視線が固定されているわよ」

「…い、いや、そんなことないぞ?」

 

 

 チラチラと太股をスカートから覗かせればそこに視線がいくし、胸元も少し開いているので、ちょっとでも揺らしてみればそこに視線がいく。

 

 その癖自分は見ていないと意地をはるのだから見ていて、からかっていてこれほど面白い存在もいない。

 

 

「で、感想は?」

「……絶対に言わねえといけねえ?」

「当たり前じゃない」

「………あー、うー、あー」

 

 

 顔を真っ赤にして狼狽える遊吾。普段とは全く違う様子に背筋にゾクゾクとしたものを感じながら彼に迫る。

 

 ねぇ、どうなの? 身を寄せられればついに呻くことも出来なくなってしまう。このまま無言でいれば諦めるだろうか? いや、それよりも自分が倒れるのが先だ。

 

 

「……れいだ」

「んー、良く聞こえなかったわよユーゴ」

「……その、綺麗だ……本当に妖精かなんかじゃないかって思うくらいは……」

「そ、そう…」

 

 

 目をそらし、たどたどしくも紡がれる言葉は、普段はない照れをより強く感じさせるからこそ彼の気持ちが良く分かる。彼の言葉に思わず照れで顔を逸らすマリア。

 

 両者の間に沈黙が訪れる――

 

 

「まったく、そこで押せないのが優しいと言うかヘタレと言うか」

『うわぁ!?』

 

 

 二人の間から放たれた言葉に思わず飛び上がる二人。

 

 そこにいたのは、マリアと同じエルフの服装をした女性。だが、その色合いは雲ひとつない空を思わせる蒼色。

 

 

「セレナ!? なんで…」

「なんでもなにも、姉さんがさっさと行くから探しに来たんだよ? まったく、遊吾さんに見せたいのは分かるけどさぁ」

「こ、こら、セレナ!?」

「え? 違うの?」

「い、いや、その……うぅ」

 

 

 マリアとセレナ。同じ血筋の姉妹であっても、その性格は真逆だ。

 

 母性的で優しいマリアと違い、セレナは攻撃こそ防御と言わんばかりの攻めの性格をしている。無論、マリアと同じく優しい心は持っているし、猪突猛進と言うよりは、立花響と同じく強かな女性。

 

 マリアの若干のヘタレ具合などをしっかりと理解しているため、時と場合によってはセレナの方が姉に見えてくるのが不思議である。

 

 

「ねえ、遊吾さん」

「な、なんだセレナ?」

「私はどう?」

 

 

 にっこりと笑うセレナ。って、

 

 

「近い近い!?」

「えー、そうかなぁ?」

「ちけぇよ!?」

 

 

 自然に彼のパーソナルスペースに入り込んできたので全く分からなかったのだが、気づけば彼女の距離は零どころかマイナスだった。

 

 セレナ・カデンツァヴナ・イヴ。一言で言うならアメリカ版ビッキーと言ったところか。

 

 マリアとセレナの関係を見ていれば、響と未来の関係とよく似ていることが分かる。正義感が強く、何かとやらかすセレナと、それを諌め、見守るマリア。セレナの笑顔は、小日向式立花響検定一級を持つ遊吾をしてもっても響と被らせてしまうほどよく似ている。それは、容姿とか、そういう表面的なものではない。もっと根本的な所が彼女とよく似ているのだ。

 

 現在の彼女はシンフォギアを纏うことが出来ない――適合する聖遺物が存在していないこともあるが、何よりまだ彼女はリハビリ途中の患者だったりする。こうして元気な姿を見ていれば信じられないが――ため、響ほど無茶はしていないものの、先の事件ではオートスコアラー相手に大立ち回りを演じると言ったとんでもないことをやらかしているのだ。

 

 ある意味、変に度胸があるという点では響よりも質が悪いかもしれない。響がブレーキの壊れた暴走トラックならば、セレナはブレーキのいかれた特急新幹線である。

 

 そんな彼女は、人と距離を詰めるのが上手い。遊吾だって別に油断していたつもりは無いのだが、それでも距離を詰めてくるその技術、才能は天性のものか。実際、あの忍者でおなじみ、翼のマネージャーである緒川の背後を何度もとっているセレナ。

 

 

「で、どうですか? 似合ってます?」

「似合ってる! 似合ってるからとりあえず離れろ!?」

「えー、姉さんに比べて褒め方雑じゃないですか?」

「くっつかれてそれどころじゃないんだよ、察してくれ!!」

 

 

 あ、それはごめんなさーい、とクスクス笑いながら身体を離すセレナ。だが、それでもパーソナルスペースギリギリを割って入っているのは無意識かはたまた計算づくか。

 

 ただでさえ彼が苦手とするタイプである二人。正直な話、マリアとセレナに先のディーンハイム姉妹と同じことをされたら一秒もたたずに陥落する確信がある。

 

 その場面を想像してしまい、背筋を奔った寒気に思わず身を震わせる遊吾。

 

 

「で、どうだった? マリア姉さん」

「どう、って何が?」

「またまたぁ、誤魔化さなくてもいいのに」

「だから何がよ!?」

「今日までマリア姉さん、ハロウィンなんてやる歳じゃないーとか言ってコスプレするの拒否してたのに、随分とご機嫌だから」

「そ、それは…」

「それはぁ?」

「もう、セレナ!!」

「あはは、ごめんごめん」

 

 

 だが、和やか――というには些か騒がしいが、それでも笑い合っている二人を見れば別に捕らわれても構わないかなと思えてくる。どうせ直ぐに離してくれるだろうし、仮に離してくれなくても自分でどうとでも出来るし。

 

 などと考えていると、彼の背中に衝撃。思わずつんのめりながらも、その威力と腹に回された腕でそれが誰か確信する。

 

 

「切歌か」

「トリックオアトリートデース!」

「お菓子をくれないと悪戯――するわよ、調が」

「…ああ、何というか、その、家の娘がすまん」

「ふふふ、良いわよ別に。こうして居られるのって今まで生きてきてありえないことだからこっちも楽しんでるわ」

 

 

 楽しんでいる、という割には煤けたような様子の女性。

 

 腰に抱き付いてきたのは、暁切歌。彼女の格好は死神か。元々イガリマのデザインが死神をイメージしたモノであることもあってか、彼女に良く似合っているというか、今まで見てきたコスプレの中で一番しっくりきた。というか一番常識的かもしれない。

 

 対してフィーネ――

 

 

「何でネフシュタンの鎧なんだよ。やめろよ、貫かれた胸が痛くなるだろうが」

「貫いたのは本当にごめんなさい。それと、これに関しては知らないわよ。調が『私には魅力のステータスが足りない。周りが色物で攻めるのならば、それを越えなくては勝利は無いッ』とか何とかで」

「いや、確かに色物揃いだがそれはどうなんだ?」

 

 

 シンフォギアの形状は装者の心象風景などを参考に形成される。というか、色違いのネフシュタンと言われても何の違和感もないレベルの完成度のそのシンフォギアを纏うフィーネ。彼女の身体は月読調の身体を使用しているが、彼女が現界する際は、膨大なフォニックゲインによって調の身体を一時的に成長させる。

 

 成長させると不都合が出るものかと思われるが、これはあくまでもフィーネと言う存在が現れるのに必要な外装であり、身体には何ら影響はないらしい。

 

 

「そのー、遊吾?」

「どうした切歌、そんな言いにくそうに」

「いやーそのですねー」

 

 

 もじもじと指を擦りあわせる切歌。そんな彼女の様子に首をかしげるばかりの遊吾に、調ことフィーネが言う。

 

 

「貴方に似合ってるかどうか聞きたいのよ」

「そ、それもそうなのデスけど…」

 

 

 けど、どうした? 首をかしげる遊吾に、意を決したように大きく息を吸った切歌が叫ぶように言う。

 

 

「今日誰が一番似合ってたデスか!?」

「今日一番――ってーとあれか? ビッキーとかマリアとかそこらへんの」

「はい、そうデス」

 

 

 しん、と静まり返った会場の中、唯一それに意思気が向かず気づけていない遊吾は、ふむ、と顎に手を当てる。

 

 一番似合っているのが誰か、難しい質問だった。

 

 極端な話、皆似合っていたのだ。花がそれぞれで意味も在り方も違うように、彼女たちもまたそれぞれで個性があり、誰が一番かと言われれば頭を悩ませずには居られなかった。

 

 だからといってここで皆、とか答えたら大変なことになるだろう。何となくだが、そう感じた彼はやはり決めることができずにうぅと唸る。

 

 だが、目の前で不安そうに瞳を揺らしている切歌を見ているとそうも言っていられない。と、そこで彼は思った。

 

 似合っているとは、どういう意味か、と。

 

 普段より綺麗、普段よりエロい。表現はいくらでもある。だが、これはそういう話ではないはずだ。純粋に違和感がなく馴染んでいる者。

 

 

「切歌」

「え? えーっと、え?」

「だから、切歌。一番似合ってる、というか一番しっくり来た。流石は自称常識人だ!」

「うひゃぁ!?」

 

 

 勝者切歌! と彼が切歌を抱き上げる。

 

 

「どうして抱き上げるんデスか!?」

「HAHAHA、ノリだ、気にすんな!!」

「ちょっ!? 回転は拙いデスよ!? 聞いてるんデスか遊吾!? わああああ!?」

 

 

 古代の機械の巨人に振り回される機械の鳥の如く、あっはっは、と奇妙なテンションになって切歌を振り回す遊吾。

 

 これが三回転捻りだ!! などと言いながらグワングワンと身体ごと回転する遊吾。最初は困惑していた切歌だったが、途中から吹っ切れたらしく、

 

 

「もっと早く回転するデース!! そして最高に高めたわたしのフィールで、最強の遊吾をドローしてやるデス!!」

「最強の俺って何だよ切歌ァ!!」

「今の遊吾でーす!!」

「よっしゃあ!! 喰らえよ俺のフィールをぉおお!!」

「いぃやっほぉおおおおお!!」

 

 

 緑と黒の竜巻。グルグルとハイテンションに回り続ける二人を見つつ、フィーネは辺りを見渡した。

 

 会場の大人たちは皆、仲の良い兄妹のような二人の暴走を微笑ましものを見る目で見ていたが、装者たちは皆打ちひしがれていた。耳をすませば、まさか切歌ちゃんという伏兵が居ただなんて…、あの二人はあんなに回転していて大丈夫なのか? とか、うーん、結構常識的なコスプレだと思うんだけどなぁ、未来、ちょっと未亡人ぽいから――あ、ごめんなさいわざとじゃないんですちょっとした出来心だったんですいたたたた!? などという声が聞こえてくる。

 

 かく言うフィーネの内部でも――

 

 

『みんなに遊吾が追い詰められることを見越しての衣装――きりちゃん、恐ろしい子ッ!!』

「…調、随分変わったわよね」

『そう? 私は変わらないと思う』

「……よく考えてみたら、おさんどんとか歌ってる時点であまり変わらないわ」

 

 

 今回の宿主――というより、遊吾・アトラスという人物と関わった者はどうやらその在り方や性格に多大な影響を受けてしまうらしい。

 

 いつか、彼ら決闘者について正確な研究を行って、決闘者が与える非決闘者への影響という論文でも書いてやろうかなどと考えるフィーネ。

 

 

「…う、ぉおお。これがあくせるしんくろのきょうちか……」

「せ、せかいが……おわるでぇす」

 

 

 奇妙なことを呟きながら消耗しきった様子で身体を重ね合わせて地面に崩れ落ちる二人。

 

 いくら三半規管が鍛えられていると言っても、あれだけの意味不明な高速回転と複雑な機動を数分とは言え継続させたのだ。フラフラするのも当然だろう。やれやれ世話が焼ける、とフィーネが二人に近づこうとしたとき、会場の照明が全ておちた。

 

 

「レディースエーンドジェントルメーン!!」

「何やってるの弦十郎くん…」

 

 

 会場ステージに現れたのは、頭にトマトの被り物を乗せた風鳴弦十郎。

 

 相変わらずこういうイベント事に、全力投球で挑むその姿勢に思わずため息を吐くフィーネ。どうせなら彼と共にこの会場で盛り上がりたいという気持ちがあるが、残念ながら今の自分は彼と触れ合うことが出来ない存在。それに、あの時しっかりと別れを告げたのにここでのこのこと戻るのはどうにも締まらないし、未練がましいではないか。

 

 

『…フィーネ』

「どうしたのよ、調」

『覚悟しておいたほうがいいよ?』

「何が!? え? 私は何をされるのよ!?」

 

 

 不穏な呟きを残す調に困惑するフィーネ。

 

 

「さて、今日はS.O.N.G主催のハロウィンパーティーに良く参加してくれた。皆、ありがとう!」

 

 

 頭を下げる弦十郎に、皆が拍手を送る。特に娯楽の経験が全くと言っていいほど無かった元F.I.Sの職員とキャロル組からは謎の発光やサイリウムを振り回すと言った、全力で楽しんでますアピール付きだ。

 

 

「ありがとう。…さて、こういう催し物には出し物と言うものがつきものだ、が――今日の出し物は普段とは一味も二味も違うぞぉ!!」

 

 

 あの、あの風鳴弦十郎が言うほどの催し物。そう言われれば誰もが期待するのも当然であり、それを聞いた会場が否が応にも盛り上がりを見せる。

 

 

「さあまずは特別ゲストの紹介だァ!! 数多くの決闘者たちの戦いをその身で、その声で人々に送り続けてきた、執念の実況者!! MC宮内ィ!!」

「どうも!! 皆さん絶対知らないと思うけどMC宮内ダァ!!」

 

 

 拳を突き上げて舞台袖から現れたのは、真っ赤なスーツに蝶ネクタイ、漫画のような長く太いリーゼントをした男――MC宮内。

 

 え? だれ? 誰もが言葉を失う中、その男のことを良くしる人物の行動は早かった。

 

 

「現れろォ!! 邪神ドレッドルートぉおおおお!!」

「え!? ちょっと遊吾さん何してるんですか!?」

「離せ!! 離せビッキー!! 俺はあいつを抹殺しなくちゃいけねぇ!!」

 

 

 決闘盤を起動し、迷いなく神――正確に言えば神に匹敵するレプリカカードではあるが――のカードを使用しようとする遊吾。その狂行を響が全力で止めに入る。響だけはMC宮内という男がどんな存在であるかを即座に察したからである。

 

 と、続いて未来とクリスも彼の正体に気づいた。

 

 

「MC宮内――って、あの決闘を実況してる奴の名前だよな?」

「う、うん。エキシビジョンマッチこと、アトラス親子ガチンコバトルの実況の人」

「おお! 知っている人が居たか!! 良かったよかった!! ――おお、遊吾じゃないか!! なんだ、美人に抱き付かれて足腰きかないってかァ? この、童貞さんメ」

「よしお前喧嘩売ってんだよなぁ!! ちょっとそこ動くな!! テメェを壁のシミにしてやらぁ!!」

 

 

 こうなればヤリザ狂戦士の魂であいつをハチの巣にしてやる!! 落ち着いてください遊吾さん!! 後で胸揉ませてあげますから!! これで落ち着けるかァ!! それとビッキー、身体は大切にしなさいってお母さん言ったでしょ!? 何でお母さんなんですか!? お母さんはこの衣装を作ってくれたんですよ!! 悩殺するようにって!! 何やってんだよビッキーマザー!?

 

 ぎゃいぎゃいと大騒ぎする二人をよそに、MC宮内は慣れた様子で弦十郎からマイクを受け取る。

 

 

「さあ! ハロウィンパーティーには、私MC宮内以外に、ある男が特別ゲストとして呼ばれています!! 皆さん、それが誰か分かるでしょうか!!」

 

 

 会場に問いかけるが、誰も答えることは出来ない。当然だ。MC宮内自体が皆にとって未知の人物なのに、その人物よりも更に分からない人なんて当てようがない。

 

 

「……まさか」

「どうしたんだ雪音? 心当たりがあるのか?」

「い、いや…どう思う? 未来」

「クリスも思った? …私もそう思った」

「MC宮内――それに関係する――なるほど、全て謎は解けたってね」

「ええ!? 奏まで分かったの!? ……私だけ仲間外れか」

「あ、えっと、せ、先輩! ほら、ちょっと耳を貸せ!!」

 

 

 ゴニョゴニョと耳元で、限りなく正解に近いであろうモノを翼に教えるクリス。

 

 彼の魂の一部を持っている奏、彼の決闘の記録を見ているクリスと未来。MC宮内という実況者がこの場にいるというのなら、当然、彼が実況すべき人物が現れるはず。

 

 この、関係者のみのパーティーに全く関係の無い人物をゲストで呼ぶことなどありえるはずがない。ならば、この場に関係者が居る人物で、同時に特別且つ会場を盛り上げてくれる存在。ならば、答えは一つ。

 

 

「おっと、そちらの女性方は誰が来るか分かったようだ――が、何やらあそこの二人は痴話喧嘩をしてるから放っておこう」

 

 

 何でこの格好が駄目なんですか!? ダメとは言ってねぇ!! ただ、色々持たないからやめてと言っているだけだ!! 何で持たせる必要があるんですか!! お前学生だろ!! 学生じゃなかったら良いんですか!? いや、学生でも良い!! そう言う趣味あるんですね遊吾さん!! 少しな!! 最早何の話をしているのか分からなくなっており、お互いの事以外の話を全く聞いていない響と遊吾を見て、女とああやって大騒ぎしている遊吾を初めてみたな、などと感慨深い気持ちで眺めつつ、MC宮内は声を張り上げた。

 

 

「さぁ!! じゃあ早速入場してもらおう!!」

「常勝無敗の絶対王者! ネオシティ、そして世界最強の名は伊達じゃない!! 我らが英雄、我らが王!! 決闘王!! ジャァアアックッ!! アトラァアアアアスッッ!!」

 

 

 彼の雄叫びと共にステージの端に設置してあった噴射器が白い煙を噴き出す。

 

 壮大なBGMと共に煙の中から姿を現すのは――男。

 

 見上げる誰もに威圧感を与える長身。金髪に、鋭い目つき。そして特徴的な、風にたなびく白いコート。

 

 彼の黒とは対照的な白。彼の名前はジャック・アトラス。ネオシティが誇る最強の決闘王にして、遊吾・アトラスの義理の父親。

 

 

「ふん、随分と楽しそうじゃないか。遊吾」

「…お、親父!?」

『親父!?』

 

 

 誰もが驚く。元二課の面子は、彼が異世界出身者であり、また、彼には肉親が居らず義理の父親のみがいるということを知っているが、F.I.S組やキャロルたちは異世界人であることこそ知っているが、彼の家庭やどのような生活をしてきたかなどは知らなかったため、全く似ていない親子に思わず声を上げた。

 

 

「随分と、楽しそうだな」

「そりゃ、楽しいからな。で、どうして親父がこんなとこに居んだよ」

「旅行だ」

「そうか、旅行か。で、どうよ別次元の世界ってのは」

「決闘が無い以外は悪くない」

「だな」

 

 

 響に離れていろと言って、壇上のジャックと向き合った遊吾。

 

 二人ともにこやかに話しているように見えるが、会場の誰もが感じていた。二人の間でぶつかり合うフィールに。

 

 

「まあ、旅行は二の次だ。ここに来た目的は遊吾、お前だ」

「俺? …何でだよ」

「お前がどう成長しているか見に来た――が、それも無駄足だったようだな?」

 

 

 ジャックが装者、そしてキャロルたちに視線を送る。

 

 事前の説明もあったが、直接顔を合わせて改めて感じた、彼女たちと彼の厚い信頼関係。互いを信じあっているその姿は、常に決闘者としての自分を鍛え上げることしか考えず、兎に角決闘しかしなかった遊吾・アトラスという子供を知っている自分からすれば、とても眩しく、そして尊く見えた。

 

 ジャック・アトラスはお世辞にも良い親ではない。それは自分でも自覚していることだ。

 

 彼もまた、遊吾と同じくサテライト出身で、親というものを知らずに生きてきた。後に満足同盟に入り仲間を知り、不動遊星という好敵手を見つけるまでの彼は孤独だった。

 

 満足同盟解散後も、彼は王者を目指して王道を突き進んできた。故に、彼もまた人生の大半を決闘を行って生きてきたため、同じ境遇でありながら、自分よりも過酷な環境で決闘と言う牙で糧を得る、野獣のような生き方をしてきた遊吾を育てるのは、一苦労だった。

 

 ジャック・アトラスはお世辞にも器用と言える男ではない。だから彼は、息子に声をかけるときに必ず、彼を煽る。

 

 

「どういう意味だよ?」

「そのままの意味だ。そんなどこの馬の骨とも知れぬ男に媚を売るような下らん女どもに現を抜かし、良い気になってハーレムを気取るような男が決闘王など片腹痛い」

 

 

 ジャックがそう言った瞬間、会場を暴風が吹き抜けた。

 

 嵐を、地獄の業火を思わせる荒ぶるフィール。その発生源は遊吾・アトラス。

 

 会場中が凍り付く。それほどまでに熱く、恐ろしいフィール。今まで誰も見たことが無いような怒気を身に纏わせて、遊吾は腕に決闘盤を装着した。

 

 

「親父は、本心からそういうことを言う奴じゃねえ…。それは分かってる。分かってる…。けどよぉ」

「けど、なんだ?」

 

 

 荒れ狂うフィールを受けて尚、平然と涼しい表情を崩さないジャック。だが、内心彼は歓喜していた。

 

 今まで感じたことのないフィールもそうだが、その闘気は彼の元々身に纏っていた野獣の如きものではなく、人の、戦士のソレ。そして何より、他者という自分とは違う存在を守るために立ち上がる精神。

 

 今まで大切なモノというものを築いたことのない彼が気づき上げた、初めての大切な宝物。彼が初めて自分で繋げた絆。

 

 以前感じたモノよりもよりはっきりと感じる彼の意志に、その成長に彼は歓喜する。だから彼は言う。

 

 

「こいつらを侮辱するのは許さねえ。絶対にだッ!!」

「ふん、ならばどうする」

「俺と、俺と決闘だッ!!」

 

 

 二人の決闘盤が起動する。同時に会場に設置された仮想立体映像装置が起動し、決闘の準備が整う。

 

 

「さあ、ジャック・アトラスVS遊吾・アトラス。時間無制限一本勝負!! 公式大会のレギュレーションにより、先攻ドロー無し、ライフポイントは4000! 両者同意とみてよろしいかッ!!」

「応ッ!!」

「構わん。決闘開始の宣言をしろ、宮内ッ!!」

「決闘開始ィ!!」

『デュエルッ!!』

 

 

 互いに決闘者。故に決闘でしか素直に語ることが出来ない親子による、一対一のガチンコ勝負。

 

 王者と王子、互いの想いを乗せた決闘が幕を開けた――。

 

 

 

 

 

 その戦いは、時間にして十数分。時に三十分以上かかる決闘の中では比較的短い時間の決着となったが、その戦いの内容は、恐ろしく濃く、濃密だった。

 

 お互いにお互いのことを知りつくしている、故に行われる攻防。巨竜が咆哮を上げれば、それを奈落より現れた鬼が奈落に引き摺り落とし、深紅の剣士が刃を振るえば、それを光の盾が弾き返す。

 

 目まぐるしく変わる攻防。お互いに何の躊躇も無くリソースをつぎ込み続け、一瞬の静寂の後にまた互いに食い合う炎の如き戦いが再開される。

 

 荒ぶる魂が全てを砕き、繋がりし魂がその力を持って全てを封じ、撃滅する。

 

 荒ぶる魂と、繋がりし魂がぶつかり合い、世界を砕かんと言わんばかりの業火が全てを薙ぎ払う。

 

 互いにライフポイントが100以下、普通の決闘ではそうそう有り得ない、互いの首に刃を突きつけるような限界ギリギリまで魂を削り合う決闘。その勝者は――

 

 

「……あ、川の向こうで黒髪のイケメンが俺呼んでるわ…何? 一緒に旅しないか? 行くか」

「遊吾君!? 戻って来い!! それは渡っちゃいけない川だ!!」

「僕に任せてください!!」

「ごヴぁ!?」

「ああ、遊吾君の顔が見せられないようなことになってる!?」

 

 

 遊吾・アトラスだったのだが、彼は全力の決闘によって力尽き、その身体を床に沈めていた。

 

 そんな彼を必死に大人たちが蘇生する中、ぎりぎりのところで敗北したジャックは、装者たちの元に向かい、頭を下げた。

 

 

「先程は不快にさせる発言をしてしまい、本当にすまなかった」

「あ、いいえ、良いんですよ!? ジャックさんがそういうこと言う人じゃないって知ってますから!!」

「…? 遊吾が何か言っていたのか?」

 

 

 響がわたわたと両手を振る。自分のことを知っているという彼女の言葉に首をかしげれば、響たちは顔を合わせて苦笑する。

 

 

「糞親父とか何とか言ってるけどねー未来?」

「何かとジャックさんの決闘の映像を私たちに見せてきたし」

「そうそう、そんで自慢げにここが凄いだのここが上手いだのって言ってくるんだよな?」

「そう言えば、あそこまで人を熱く、笑顔に出来る決闘ができる決闘者になりたい、と前に話していたな」

「それと、今使ってるデッキ、あれも親父を超えて、そんで親父のカードで更なる高みに行くんだ! とかで組んでるらしいし」

 

 

 そんなことを言っていたのか? 同じく装者であるマリアたちに尋ねるが、彼女たちはそこまで把握してはいなかった。が、マリアが思いだしたように手を叩いた。

 

 

「そういえば、前に家族の話になったとき、あんな格好良い人になるのが夢だなって楽しそうに言ってたわね」

「ああ! 親父は格好良いんだぞ、とか結構武勇伝聞かせてもらったデス!!」

 

 

 少し思いだしてみれば、出るわ出るわ。本人を前に言えない、彼なりの義理の父親に対する愛情、憧れ。

 

 赤裸々に語られる遊吾の言葉の数々に、少し照れ臭くなって目を逸らして髪をかく。

 

 その仕草が彼にダブって見え、彼女たちは思わず笑みを溢した。素直じゃないところといい、どこまでも似ている親子だ。

 

 

「あんな不出来な息子ですまないが、これからもあいつのことを、遊吾のことを頼む」

 

 

 そんな彼の言葉に対する反応は皆違う。ある者はハッとするような笑顔ではい! と元気よく答え、またあるものはやれやれと言った風に答える。

 

 だが、彼女たちの想いは一つ。そんな彼女たちの想いを感じ取り、ジャックは思った。

 

 この子たちになら彼を任せられる、と。彼女たちと一緒なら彼はきっともっと高みに行くことが出来るだろう、と。

 

 王子。揶揄でつけられた二つ名を誇らしげに放つ彼の姿。きっと自分たちと関わるだけでは決してなかったであろう成長を思い出して、息子の可能性に顔を綻ばせるジャック。

 

 こうして、第一回ハロウィンパーティーは大盛況で閉幕するのであった。

 

 

 

 

「ところでジャックさん」

「たしか、立花響だったか。どうした?」

「遊吾さんってどんな子供だったんですか?」

「ふむ、そうだな――」

 

「――ということもあった」

「なるほど…ふふふ」

「あ、あの、アトラスさん」

「お前は――マリア・カデンツァヴナ・イヴか。何だ?」

「ユーゴの、その、趣味というか、好きなモノとか…」

「あいつの好きなモノ――か。……ふむ、そうだなぁ。あいつの部屋の本棚、下段右から三番目に、ムッチリプリンという本が――」

「親父ぃいい!? テメェ一体何話してぇ――」

「緒川君、素晴らしい当身だ」

「当然です。普段苦労させられていますから、ここらへんで弱点を知らないと、ね…」

 

 

 

 こうして、彼の恥ずかしい過去から果ては彼の性的趣向まで、家族ゆえに語ることが出来る彼のプライバシーの殆どを語り終えたジャック・アトラス。

 

 後日、それを知った遊吾・アトラスによる邪神、三幻魔などの神のカードを用いた記憶消去のための闇のゲームという、未曽有の大災害が発生し、S.O.N.Gが機能停止しかけるというとんでもない事件が発生したりしなかったりするのだが、それはまた別の話だ。




この作品のジャックは、息子に対して素直になれない決闘親馬鹿となっております。
実際のジャックとはあらゆる部分が崩壊している点があるので、注意してください。

予想以上に続いてしまったハロウィン編。

最近、忙しくて満足できねぇぜ…。(EMemにフルボッコにされながら)
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