遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~   作:特撮仮面

22 / 40
彼と学校と彼女たちと

「テメェ、マジで何やってんだよ…」

「すんません。マジすんませんでした…」

「まあまあ、アトラスはこうして学校に来るのは初めてなんだ。勝手が分からなくても仕方がないだろう?」

「そうそう、遊吾さんの初めてですもん」

「遊吾さんの、初めて…」

「おーいビッキー。ツッコミ待ちか? ツッコミ待ちなのか?」

「え? あ!! …あ、あはははは~」

「…………」

「あ、止めて!? 無言のアイアンクローは止めて!? 痛い痛いいたたたたたた!?!?」

 

 

 私立リディアン音楽院高等科。

 

 この学校は現在秋桜祭りと呼ばれる学園祭が開催されている。この学園祭は、地域の人との交流も目的とされている為、学生以外にもちらほらと地域住民が見える。だが、そんな中で彼女たちは異常なまでに目立っていた。

 

 先頭を歩くのは、銀髪の眩しい豊満な胸をした少女。名を雪音クリス。時季外れの転校生ということもあって、結構学校で有名な人物だ。

 

 そしてその隣で騒ぐ後輩たちに対し、まあまあと楽しそうに笑いながら対応するのは、スラリとした長身の、抜き身の刀のような容姿の少女。名を風鳴翼。日本を代表するトップアーティストであり、彼女に憧れてこの学校に入ったという生徒が数多く存在する、この学校のある種のカリスマやマドンナと呼ばれるような存在。

 

 その後ろを歩くのは、栗色の髪の毛と、太陽のような笑顔が特徴的で、現在男に顔面を鷲掴みにされてジタバタと暴れている少女。名前を立花響。この子も、正義感が強く、一直線。木の上に引っかかっていた風船を子供のために一っ跳びで取ってあげた。車に轢かれそうになった野良猫を救った。迷子になった犬を抱えて町内を走り回った。川で溺れた子供を助ける為に目にも止まらぬ早脱ぎを行い川に飛び込み、見事に子供を救ってみせた。等々、様々な逸話が存在する。ある種の有名人。

 

 そして、そんな二人を見てクスクスと母性的であり、楽しそうに笑っている黒髪の少女。彼女の名前は小日向未来。彼女には前者のような逸話は存在していないものの、トラブルメイカーである響の良きストッパーとして名をはせていた。

 

 そして問題なのが、響をアイアンクローしている男。ツンツンとした海胆頭。なぜか常に尾がたなびいており、襟がまるで鋭利な刃物のようになっている黒色のロングコートを着、右腕にはシルバーの鎖。黒いボトムスに黒いブーツ。色合いは地味だが全く地味ではない男。名前を遊吾・アトラス。

 

 女四人に男一人、尚且つ有名人が何人もいるというその集団は端から見ても目立ちすぎていた。

 

 

「…気のせいか、皆こっち見てねぇ?」

「そうですか? …あ、たい焼き屋ありますよ!」

「マジか!? 至急現場へ急行するぞ!!」

「はい!」

「こらお前ら走るな! 急がなくてもたい焼き屋はどこも行かねえよ!?」

 

 

 元々祭りなどの催し物というものが好きな彼にとって、学園祭は初めての経験ということもあり先程からあっちへいったりこっちへいったり。本当に童心に帰ったようなはしゃぎっぷりである。

 

 響も久しぶりに遊吾と触れ合えるのが嬉しいのか彼に釣られてテンションが上がりっぱなし。そんな二人を姉のように甲斐甲斐しく世話するクリス。

 

 

「楽しそうですね、二人とも」

「ああ。まるで無垢な童子のようだ」

 

 

 大はしゃぎする二人と、それに振り回されるクリスを遠くから見て微笑む未来と翼。

 

 

「って、おっちゃんじゃねえか!?」

「あ、おじさん!」

「お、久しぶりだな遊吾に響ちゃん」

「相変わらずビッキーたちはちゃん呼びなんだな」

「お前みたいな小生意気な餓鬼よか、響ちゃんや未来ちゃんみたいな可愛い子と話す方が有意義だからな」

「…よし、警察に電話を――」

「お前はなにやっとるか!?」

「良い年こいた大人がセクハラみたいなこと言うんじゃねえよ!」

「どこがだ!? …はは~ん?」

「な、なんだよ…」

 

 

 ムキムキマッチョの屋台の大将。風鳴響一郎がニヤニヤと笑いながら彼の肩を掴むとグイッと引き寄せて耳元で囁く。

 

 

「お前のあの計画には協力してやってもいい。正直、ばかげているにも程があるけどな」

「本当か?」

「ああ。でも、だ。これはよくねぇなぁ」

「な、何がだよ…」

 

 

 確かに、敵対しているのにこうやって仲良くしようとしているのは良くないことかもしれない。バツの悪そうに顔を顰める彼に、響一郎は若いなぁとニヤニヤ笑いながら言う。

 

 

「束縛、だよ」

「は?? そくばく? …束縛って、アレだよな。縛りつける意味の」

「ああ。確かに響ちゃん達は皆美人だ。けど、こうして侍らせてまで男を警戒するのもなぁ…」

「は、はぁ!? お前何言ってんだよ!?」

 

 

 途中まで真面目な話かと思ったら、全く関係の無い。しかも良く分からない話をされれば気が動転してしまうのも無理はなく。わけわかんねぇよと大声を出す彼に、響たちが何事かと近づこうとするが、それを手で制しつつ、響一郎は言葉をつづける。

 

 

「まあ聞けよ。…何にせよ、あれくらいで怒るんじゃあこの先やってけねえぞ? あの子たちが他の男に触られんのが嫌なんだろうけどよ。いや、お前の生活環境を考えたら、女の扱いなんて分からないだろうから子供っぽくて上手くできねえのは当然か」

「だっから、訳分かんねえこと言ってんじゃねえッつってんだよ!!」

 

 

 響一郎の結構本気の拘束。力の流れを感じ取り、それを正すように相手の腕に触れ撫でるように動かす。うぉ!? 力を入れているのに力が抜けるという感覚に驚きの声を上げると同時に彼がその場から大きく飛び退く。

 

 側転、バク転、空中回転。地面を削りながら回転を停止させ、彼が左腕を前に構える。

 

 同時に展開される、四角と円のくっついたような独特な形状の決闘盤が展開。モンスターカードゾーンがガシャガシャと音を立てて展開される。決闘者の戦闘形態、つまるところ、決闘を行う前段階だ。

 

 

「おい、決闘しろよ」

「おいおい、ここでかよ」

「あのー、二人とも?」

 

 

 屋台から出てくる響一郎。その左手には――決闘盤。円盤型のタイプだ。恐らくはこの世界で開発されたものだろう。彼が記憶しているどの時代の決闘盤とも一致しない、液晶画面があり、カップ焼きそばの容器を一回り大きくしたような大きさのソレ。

 

 取り出し口には既にデッキが備え付けてあった。ならば、やることは一つ。

 

 

『でゅえ――』

「響一郎さん、遊吾?」

『…は、はい!! 何でしょうか未来さん!!』

 

 

 反応は速かった。流れるように空中で交差。着地と同時に近くまでやって来ていた未来の真正面に綺麗に並んで正座。短時間の激しい動きで汗――いや、これは冷や汗。滝のように溢れる冷や汗だ。未来から感じる凄まじいフィールによって決闘者としての本能が無意識の内に、逃げろ、逃げろと彼に警告をしているのだ。

 

 何だこの威圧感は――今まで相手にしてきたどの決闘者よりも深く、熱く、激しい。何だこのフィールは!? 三邪神、三幻魔。俗に悪と呼ばれるような存在とも何度も戦ったが、これはそんなレベルじゃない!! もっと恐ろしいナニカだ!!

 

 手が震える。心なしか、自分のデッキのカードたち――モンスターたちも震えているような気すらしてくる。

 

 そんな二人に対し、花咲くようなにこやかな笑顔の未来が近づいていく。

 

 

「響一郎さん?」

「は、はい!!」

 

 

 ビクッと身体が跳ねる。大の大人を腕を組んで見下ろす女学生。シュールを超えて最早ギャグである。

 

 

「何で、こんなところで屋台開いてるんですか? 許可はとりました?」

「はい! この学院の理事長と私は旧知の仲でして、それで今回店舗開店を許可されました! 地域との交流のためとのことで、学生の方は無料で食べることができます! でも、しっかりと模擬店舗への配慮はしてあります!!」

 

 

 びしっと敬礼するように姿勢を正す。

 

 というか学生が主役の学園祭で、どれだけ人気が無いたい焼き屋であってもプロが店を開くのはどうなんだ? というツッコミは無しだ。

 

 

「遊吾さん?」

「はい! 何でしょうか未来様!!」

「…未来様は止めてください」

「はっ!!」

 

 

 最早キャラが下っ端になっている遊吾。逆らったら拙い。一体何を言われるのかと内心冷や冷やしていると、彼女はふぅ、とため息を吐きながら口を開いた。

 

 

「話の内容は分からないけど、また警備員を呼ばれる何てことは止めてよ? 遊吾さんだけじゃなくて、私たちだって今日を楽しみにしてたんだから…」

「誠に申し訳ございませんでした!!」

 

 

 未来が表情を曇らせる。今日を楽しみにしていたのは自分だけではない。そう言われて初めて、自分だけがはしゃいでいるような状況を恥、そして何より楽しむべき日なのに彼女にそんな表情をさせてしまったことを彼は全力で後悔して頭を下げる。

 

 少しは自重しねぇと。確かに彼女の言う通り、あのまま決闘なんて始めてしまったら、自分たちは愚か、周囲に居た学生にまで迷惑がかかっていただろう。決闘者が決闘をする際は、周囲を巻き込んでもいいが、あまりにも迷惑な行為はNG。ルールを守って楽しくデュエル。これは彼の決闘王武藤遊戯の言葉でもあり、全ての決闘者の共通言語だ。

 

 彼は、頭を下げつつ己の行いを反省している為気づいていないが、未来は既に表情を明るい笑顔に変え、三人に向かって親指を立てており、それを見た皆は少し苦笑気味だ。流石と言うべきか、彼の弱点をしっかりと抑えている未来らしい注意の方法であった。

 

 

「ほら、遊吾さん。まだまだ行く場所沢山あるんですから!」

「うぇ!? お、おお。分かった!」

 

 

 未来が彼の手を取って立ち上がらせる。そしてそのまま校舎に向かって歩き出した。

 

 だが、そこで響は見た。未来がこちらを見てドヤ顔をしているのを。

 

 

――はっ!? 未来、まさか――

 

 

 そこで響は気が付いた。先程までの位置関係は、響が常に遊吾の隣をおさえていたが、今彼の隣に居るのは未来。

 

 視線が交わる。

 

 

――私だって、遊吾さんの隣に居たいよ

――OK、交代だね

 

 

 アイコンタクト。

 

 確かに自分達もそうだが、未来も遊吾が来るのを楽しみにしていたのだ。それに、戦場を含めて色々と交流する機会がある自分達とは違い、未来は一般人である以上中々会えないことがある。

 

 それを考えると、自分が隣を独占し続けるのもまた違うだろう。

 

 だが――

 

 

「ほら、早く早く!」

「いやちょっ、あだっ!? 未来さんちょっと止まってえええ!?」

「未来!? 先々行き過ぎと言うか、遊吾さん引き摺られてるよ!?」

 

 

 ちょっとストロングし過ぎじゃないかな未来!?

 

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

 

 そんな感じで彼が二課の面子と久々の触れ合いを全力で楽しんでいる頃、F.I.Sのマリアはと言うと――

 

 

「うーん、やっぱりゼンマイン立てたいしクレーンは入れとこうかしら?」

 

 

 拠点である輸送ヘリの一室でカードを広げて頭を捻っていた。

 

 遊吾も切歌も調も居ないこともあって、暇で暇でしょうがない。そのため、遊吾に勝つためのデッキ作りをしているのだが中々上手くいかない。

 

 

「マリア」

「んー、どうしたのマム」

 

 

 そんなマリアに、車イスに乗った妙齢の女性ナスターシャが声をかける。

 

 

「なぜ、あのようなことを提案したのですか?」

「あのようなことって?」

 

 

 カードから目を離さずに聞くマリア。

 

 ナスターシャは言う。

 

 先の戦いの後、ウェル博士の単独行動によって発生した被害は甚大であった。さらに、敵である二課の装者たちの進化。一気に劣性となった自分達。

 

 ネフィリムの餌となる聖遺物の欠片も数は少ない。元々不利な状況に関わらず、更なる不確定要素によって厳しい状況になってしまった自分達フィーネ。

 

 ウェル博士の提案により、二課の装者のシンフォギアを奪い、それをネフィリムの餌にすると言う計画が立案されたのだが、ここでマリアがその作戦の実行者を選別した。

 

 それが、切歌、調、ユーこと遊吾の三人である。

 

 

「なぜあの三人なのですか? しかも、任務ではなく休日だとまで言って」

 

 

 三人には休暇を与えるわ。任務をこなすもよし、休日を謳歌するもよし、好きにしなさい。優しい微笑みと共にマリアが三人に言った言葉だ。

 

 

「んー、そうね。やっぱりデビリアンソング入れてみましょうか」

「マリア!」

 

 

 惚けたようにそんなことを言いつつカードを弄るマリアに、ナスターシャが少し声を荒くする。

 

 それを聞いて手を止めたマリアは、ふぅと息を吐くとナスターシャと向き合った。

 

 

「それはね、マム。あの子達には未来があるからよ。遊吾には遊吾の仲間が居るの」

「…それはどういう意味ですか?」

 

 

 マリアは語る。

 

 切歌と調はF.I.Sの施設内でしか教育を受けたことがない。だから、学校と言うものを知ってほしいし、やはりこの戦いが終わったら彼女たちを自由にしてあげたい。それに、こんな自分のために一生懸命に頑張ってくれているのだから、これくらいは安いものだろう。

 

 遊吾も、本当は嫌なのに彼女たちと敵対してくれている。彼に無理をさせるのはあまり好きじゃない。それに、彼もまた凄い頑張って物資関係で関係各所と交渉したりと、陰で色々働いてくれている。だからこれは御褒美だ。

 

 

「私があの子達に出来るのは、これくらいだもの」

「…マリア」

 

 

 気丈に微笑むマリアの姿を見て思わず胸を痛めるナスターシャ。

 

 本当にこれでいいのか? こんな優しい娘にこんなに無理をさせていて本当に良いのか? 揺らぐ心。ゆっくりと息を吸い、彼女になにかを告げようとして――

 

 

「警報――侵入者!?」

「…アメリカの追っ手が来たようですね」

 

 

 何故バレた? 確かに本国の諜報機関の腕前は世界レベルだ――が、聖遺物による異端技術を使用しているにもかかわらずそれを見切るなどとは到底考えられない。一体どこから情報が漏れたというのだ。

 

 驚くマリアと違い、ナスターシャの動きは早い。即座に各所のカメラを起動。

 

 現在自分たちが隠れ家としている倉庫は五番倉庫。少々入り組んだ場所にあるためにそう簡単には入り込むことは出来ない。が、悠長に構えている時間は無い。現在敵が侵入しているのは一番、二番倉庫。外周を調べるために設置していたカメラには特に敵影は感知できない。恐らくはこのカメラに映っているのが本国のエージェント全てだろう。

 

 そうなれば対策はとりやすい。

 

 

「マリア」

「…何かしら、マム」

 

 

 彼女の声は固い。何故かなんて分かり切っている。自分がこれから下されるであろう命令が分かっているからだ。

 

 ガングニールを用いて敵を撃滅して来い。それはシンフォギアを用いれば簡単に出来る。ガングニールが近接武器であり、本式の戦闘兵器――例えば実用段階に近い強化服などと比べればシンフォギアは些か軽装に見える、が、その装甲は戦車砲すらも無効にできる。人間の使用できるような口径の銃では到底ダメージを与えるには至らない。それに、シンフォギアの機動力ならば如何なエージェントとて捉えることは容易ではない。

 

 

「彼は貴女の手を血で汚さないようにと気を使っているようですが……貴女はそれでいいのですか?」

「…どういう意味?」

「切歌も調も戦っています。彼もまた同じ。…貴女は彼らに甘えていていいのですか?」

 

 

 フィーネと言う偶像のままでも良いのか。貴女はそれで満足なのか?

 

 そう言われて彼女は思わず目を見開いた。まさか、マムが――ナスターシャがそのようなことを言うなんて考えられなかったからだ。

 

 ナスターシャは良くも悪くもリアリストだ。聖遺物の研究をしている為に多少ロマンチストの気はあるが、それでも彼女は誰に対しても一歩下がった冷静な態度で接していた。そんな彼女が、マリアを正面から見据えて満足かどうかなんてありえない。

 

 

「あら、私がこんなことを言うのは可笑しいですか?」

「あ、いや、その…」

「いいのですよ。私もおかしいと思っています。ですが、そうですね――」

 

 

 私も、彼に毒されてしまったようです。苦笑するナスターシャ。

 

 正直な所誰かを傷つけるなんてしたくない。この力は誰かを守るための力であって、誰かを傷つける為の力ではない。自分たちがこうしているのも人類を守るためであり、同時に私たちの家族を守るための行動だ。

 

 だから、この力を使って、この力を武器にして血を流させるようなことは決してしたくない――ッ!?

 

 

「ドクターッ!?」

「何をしているのです、ドクターウェル!!」

 

 

 爆発音。驚いて画面を見た二人。画面に映るのは、炎の中でソロモンの杖を片手にエージェントの前に姿を現すウェル博士と――彼によって召喚されたノイズたち。

 

 止めろ。愉悦に浸るウェルが言う。本拠地がバレた以上殲滅しなければならない、と。止めろ。身体が震える。ウェルが嗤い、ノイズが牙を剥く。やめろ。身体が熱に犯されたようにがくがくと震える。銃声が響く。彼らの選択はまちがっていない。ノイズから人間が逃げることは基本不可能。ならば、戦うしかない。だが、それは同時に間違いだ。止めてくれ。断末魔を上げることすらできずに炭となる兵士。それを見て笑うウェル。炎の中で笑う彼の姿は――悪魔だ。何故笑う? なぜそこまで楽しそうに表情を歪められるのだッ!!

 

 もう嫌だ。見たくない。滲み始めた視界を画面から逸らそうとして――彼女の脳裏に彼が出かける前に言った言葉が浮かび上がった。

 

 

「もし万が一があったら、周囲の住人が被害にあわないように逃げてくれ」

「ここらへんには人は居ないわよ? 遊吾」

「実はこの辺りって、近所の子供が遊び場にしてたりって感じで何かと人通りがあるんだよ。その為に外周カメラ設置したわけだしな。だから――」

 

 

 もし万が一があったら外周カメラしっかり見といてくれ。

 

 彼の言葉。そしてウェル博士の暴走。彼女は急いで外周を映す画面を確認する――居た。白い服に帽子。草野球のチームなのか、野球道具を持った少年三人が倉庫の方を伺っていた。恐らくは音に気づいたに違いない。

 

 

「どうしたんですかマリア!?」

 

 

 突然部屋を飛び出したマリアに焦るナスターシャ。

 

 だが、そんな彼女の言葉はマリアには聞こえていなかった。今のウェル博士の状態は彼女が良く知る大人の状態だ。

 

 優越感に浸り、己が世界の支配者だと言わんばかりに弱者を蹂躙する。そんな彼にもしもあの少年たちが接触したらどうなるか――想像は容易い。

 

 早く。速く!! はやくッ!!! 躊躇もせずにガングニールを身に纏う。

 

 いくら時限式装者と言えど、常時リンカーを摂取しているわけではない。自分たちにはどこまでも物資が足りていないのだ。リンカーとて貴重。故に彼女の身体をガングニールが虐める。適合率が低いことによる反動――激痛。だが、彼女はそんなことは関係ないと言わんばかりに腰の噴射機構を点火、脚部バンカー――立花響との戦闘によって新たに追加されたシンフォギアの脚部パーツが大地を抉る。

 

 飛翔。少年たちが倉庫に近づくよりも先に彼らの目の前に大地を抉りながら着地。気迫を持って彼らに接する。

 

 

「貴様ら、何故こんな場所に居る」

「うわぁ!? な、なんだよあんた!?」

 

 

 驚きその場に尻もちをつく少年たち。そのうちの一人の胸倉をつかんで持ち上げる。少年には申し訳ないが、多少荒っぽく脅させてもらう。急がなければあのドクサレ変態科学者がこちらへ来る。

 

 

「何故此処に居ると言っている。質問が分からないのか? 豚」

「ぼ、僕たちは野球部の帰りで――」

 

 

 そこで少年たちの一人が気づいて声を上げた。テロリストのマリア・カデンツァヴナ・イヴだ!! と。

 

 

「ふん、知っているのならば話は早い。今すぐここからいなくなれ。そうすれば命は取らない」

「え? いや、そんなこと言われても…」

「このまま貴様の首をへし折ってやってもいいのだが?」

 

 

 渾身の想いを込めて胸倉をつかんだ少年を睨み付ける。頼むから早くいなくなってくれ。お願い!!

 

 そんな彼女の想いが通じたのか、少年の一人がおい、いう通りにして大人しく帰ろうぜと二人に言った。

 

 

「わ、分かった。分かりました!! だから雄太君を離して!!」

「ほら。…二度とここには近づくなよ」

 

 

 マリアが掴んでいた雄太という少年を二人に放り投げる。

 

 うわぁ!? 驚きながらも何とか受け止めた二人。彼らは大慌てで来た道を引き返していくのであった。

 

 そんな彼らの背中を見送って、ふぅ、と大きく息を吐く。上手く逃がすことに成功したらしい。

 

 しかし、あの雄太という少年は大丈夫なのだろうか? 睨み付けたあたりから顔が真っ赤でさらに息が凄く荒かった。結構きつくしていたから、そのせいだろう。少しだけ罪悪感を覚えるマリア。

 

 ちなみにどうでも良いことなのだが、雄太君は真性の洋モノ大好き男子である。更に言えば巨乳好きでMっ気が強い。シンフォギアの展開が不完全だったため、マリアが身に纏っていたのは腕部と脚部の装甲を除けば水着のようなスーツのみ。

 

 他の二人は彼女の雰囲気に飲み込まれていたが、雄太君だけはマリアの凶悪なスタイルに釘付けであり、美女である彼女に顔を近づけられ、睨み付けられ、彼女の必死のボキャブラリーから捻りだされた少しの罵倒はとても耳に心地よく、思わず興奮していただけである。

 

 更にこの雄太君は後にマリア様に踏まれたい会日本本部の本部長になったりするが、これもまたどうでも良い話である。

 

 

「逃がしたのですか? マリア」

「…ドクターウェル」

 

 

 背後から声をかけてきたウェル博士。彼女は振り返り一瞥すると、興味ないと言わんばかりにそのまま横を通り過ぎていくのであった。

 

 そんな彼女の反応が、彼にはとても気に食わなかった。だが、と彼は直ぐに気持ちを入れ替える。

 

 彼女たちはきっと絶望するだろう。彼女たちが仲間だと思っている彼と計画しているあの計画――盛大な茶番で彼女たちの表情が絶望に染まる。それを想像して彼は溜飲を下げる。

 

 あの少年たちを仕留められなかったのは残念だが、まあいいさ。僕には次の手があるのだから――。

 

 ウェルが口元を三日月のように曲げる。彼の言う計画――それがもたらす結末がどのようなものになるのか、それは遊吾・アトラスと彼を良く知る人物以外誰も知らないことであった。

 

 全ては掌の上。

 

 

 

 

 そして、そんな件の彼はと言うと――

 

 

「さあ、初の男性挑戦者だ!! チャンピオンを超えることが出来るのか期待が高まります!!」

 

 

 人生最大のピンチに陥っていた。

 

 

「では歌っていただきましょう――!!」

 

 

 だから彼は歌った。彼に出来る全力で。教えて貰った、感情、思い出、その全てを込めて、魂で彼は歌った。

 

 そして、世界が震えた――。

 

 

 彼が歌うことになる前にあった出来事

 

 

「新チャンピオン、か」

「クリスちゃん凄い!!」

「うん! 凄いよクリス!!」

「流石だな、雪音」

「さて、チャンピオンへの挑戦者はまだまだ募集していますよー!!」

「は――」

「はーい!!」

「おっと、そこの元気の良い人!!」

 

 

 スポットライトが起立して手を挙げた立花響を照らし――掲げられた彼女の手の動きに合わせてその隣、響と未来に挟まれる形でパンフレットを開いていた遊吾を照らす。

 

 

「彼が――歌います!! 絶唱します!!」

「なん…だと…どういう意味だ!? まるで意味がわからんぞ!?」

「大丈夫です!! 歌が苦手でもいけますって!!」

「いや、無理無理無理!? 無理だよ俺!?」

「大丈夫ですよ、遊吾さん。結構上手いですし、いけますよ!」

「大丈夫だぞ、アトラス。私たちと一緒にトレーニングしていたじゃないか」

「い、いや、俺苦手だし――」

「おい、そこの男!!」

 

 

 司会者からマイクを奪ったクリスが彼に向かって手を向け――くいくいと動かす。明らかな挑発。

 

 

「来いよ遊吾。苦手とか、恥ずかしいとか、外面なんて捨てて掛かって来い。それとも――怖いのか?」

「…へっ、歌が苦手とかそんなのは関係ねえや…。推薦なんざ必要ねぇ…。誰がてめえなんか、テメェなんかこわくねえ!! 野郎ぶっ殺してやるぁあああ!!」




嘘次回予告。
次回――

「これが――イチイバル」
「そうだな、それイチイバルだな――って、それあたしのシンフォギアじゃねえか!?」
『あれぇええ!?』

 遊吾、シンフォギアを身に纏う!!


「仕方がない…決闘開始の宣言をしろ!! ウェル!!」
「決闘開始ィいい!!」
『決闘!!』
「ところで、何で俺簀巻きなんですかねぇ?」
『景品』
「誰か助けてぇええ!?」


 F.I.SVS二課、ガチンコ三本勝負!!


「き、君は一体――」
「私の名前はDホイーラーA。洸と呼んでくれ!!」


 二課に接触する謎の男!!

 の三本です!! デュエルスタンバイ!!


ふとGXを見ていて思いついた話――


「ほら、有名人なんだからこれかけていきなさい?」
「これエコバックな。あと、小遣い。おつりはお前たちに上げるから好きなモノ買ってきな。あ、でもあまり買いすぎたら晩飯食べられなくなるからそこんとこ考えろよ?」
『あんたら親か!?』
「なるほど…どう思うよ、マイハニー?」
「ふふ、良いんじゃないかしらマイダーリン?」

「…久しぶりにキレちまったよ…。マリアさん、バレー、しましょ?」
「へぇ…私に勝てるとでも?」

 そして始まる超次元絶唱バレー!! 斬撃と刺突、拳と胸と水着が弾ける凄まじいファンタスティックスポーツ!!


「はぁあああ!!」
「甘い!! 砕けチレェ!!」

「あ、ガリィぢゃん。何やってんの?」
「…あ、いやー……」
「ああ、襲撃しに来たのに出れないわけか」
「はい。…というかあの二人人間ですか? 何ですかアレ」
「知らん。…お前らは水着とかもってねえの?」
「あれぇ? 何ですかぁ? そんなに気になるんですかァ?」
「いやまあ…多少はな」
「……ちょっと待っててください」
「え? ちょ、ガリィちゅわぁ~ん? …行っちまった」
~数分後~
「ど、どうですか?」
「……予想以上になんだろう、その、うん」
「ほほぅ?」
「おら! 泳ぐぞ!! そんでもってついでに飯食ってけ!!」
「はい!!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。