遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~ 作:特撮仮面
「……」
「響?」
「……はぁ」
「響! ……ひーびーきー!!」
「わあ!? …ど、どうしたの未来」
驚いて顔をあげれば、そこには呆れ顔の少女。
「どうしたのじゃないよ。折角のデートなのに暗い顔してるから。はっ、もしかして私とデートするの嫌なの? …そうなんだ……」
「違う、違うよ!? 未来とデートしたかったよ!! その、えっと、兎に角違う!!」
「うん、知ってた」
「未来ぅうう!?」
「あはは、ごめんごめん」
まったくもう。未来の行動に苦笑してしまうが、彼女のお陰で少しだけ気持ちが楽になった。
あの戦い――東京番外地での戦闘から早数日。彼女、立花響は今でもあの場所での戦闘が現実のものでは無いような気がしてならなかった。
だが、現実だ。
彼は、遊吾は敵になった。
ノイズの頃の、共に高めあう敵と言うわけではない。打倒すべき本当の敵として彼が立ちふさがった。
それがどれだけ自分に衝撃を与えているか、彼は理解しているだろうか?
立花響の人生において、遊吾・アトラスという男が残したモノはとてつもなく多い。
初めて出会ったとき、彼女は彼のことを不審者だと思った。学校で不審者が出たと話題になっていたこともあるし、しかもそこで出た特徴と彼の背格好が完全に一致していたからだ。
だから彼女は彼を避けようとした。当然だ。誰も好き好んで不審者に近寄りたくはない。
だが、そんな時に彼が呟いたのだ。何を呟いたのかはよく聞こえなかったが、その寂しそうな響きが彼女を彼の元に向かわせた。
こんにちは。自分の声に振り向いた彼。そこには光がなかった。暗い、暗い闇。泣き疲れて最早泣く気力すらないような、見知らぬ土地で一人迷子になった子供のような不安や絶望に染め上げられた瞳。
駄目だ。彼女は思った。このままこの人を放っておいたらいけない。
それから、彼女が彼の元に通う生活が始まった。
初めは全く会話が続かなかった。こちらが話しかけても返ってくるのは、ああ、やそう、などといった無気力な声ばかり。
何故なのだろうか? 話の内容が悪いのだろうか? あれやこれや考えているうちに、ふと思った。もしやお腹が空いているのではないのか、と。今思うとなに考えているんだ、といった感じだがこの時は本気でそう考えたのだ。
それから、彼の元に通う際にお弁当を持っていくようになった。最初の頃は自分のお昼の弁当の残りを彼に持っていっていたのだが、
「…無理してるならいらない」
彼が食べているのを見てお腹が鳴ってしまい、それを聞いた彼に弁当を押し返されてしまったため、母に頼んで弁当を二つ作ってもらうようになった。今でも思い出すと恥ずかしい黒歴史の一つだ。
その内、美味しそうに弁当を食べる彼を見て自分も弁当を作りたい、彼に食べてほしいなと思い始め、気づけば彼への弁当は自分で作るようになっていた。
だがしかし、自分で言うのも何だが自分は料理が下手だ。今でこそ多少はマシになっているものの、最初なんてもう壊滅的であった。
ぐちゃぐちゃの卵焼きに焦げたウィンナー。救いがあるのは母が準備しておいたご飯で作ったおむすび――これも見事に形が不格好だったが。
勿論、そんな酷い出来のものを出すのは気が引けたし、自分で食べるつもりであったのだけれど、
「手料理、絶対なッ」
あれだけ熱の籠った言葉を聞いてしまえばそんなことも出来るはずもなく、何を言われてもいいやとやけくそ気味に彼に渡した初めての手料理。
彼は卵焼きを口に入れ、暫く咀嚼した後に言った。
「不味いなぁ」
そのとおりだ。自分だってそう言う。分かっていたがやはりショックで項垂れてしまった自分。だが、彼はそんな自分を気にすることなく次々と弁当に手をつけていく。
嗚呼、不味い。でもうめぇ。泣きながら、みっともないぐしゃぐしゃな顔で笑う彼。
初めて見た笑顔だった。
そしてその時初めて、自分は彼という人間を見た。それまでは心のどこかで捨て猫をこっそり育てているように思っていたが、その時思った。
もっとこの人の笑顔を見たい。この人の色んな表情を見たい。
弁当を食べ終えた彼が言った。味が濃すぎる。形も不恰好だ。もう少しまともに出来なかったのか。今思うと、それまで相槌しか打たなかった彼の初めて喋った台詞なのだが、それがこれとは如何なものか。
それを聞いて思わず怒った。
そんなことを言うんなら次から作って持ってこない! と。それを聞いた彼はまるで鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして暫く固まっていたが、何でもするから許してほしい。すぐに掌を返すように必死に謝り始めた。
別に本気で怒ったわけではない。だが、そんなことを言い始めるものだからこれは利用しない手は無いと彼女は内心ニヤリと笑って言った。
「今、何でもするって言いましたよね?」
「え? あ、ああ。勿論、俺にできる範囲のこと限定だが…」
じゃあ、自己紹介してください。そう言うと、はっ?? こいつ何言ってんだと言わんばかりの表情をする彼。一体どんな無理難題を押し付けられると思っていたのだろうか? そんなに酷い人だと思ってたんですかと咎めるように言えば、目を逸らして表情を引きつらせる。
空気を変える為だろう、ごほんごほんとわざとらしく咳払いをした彼は、大きく深呼吸をして言った。
「遊吾・アトラス。年齢は――数えて十三? だかそこらへん。趣味、というか好きな事はデュエルで、プロデュエリストとして活躍してたんだ」
「…ぷろでゅえりすと?」
決闘者。そして彼らの行う決闘。それを知ったのがこの時だ。
それから、少しづつ彼が自分と話すようになってきて、嗤ったり、時々怒ったり、困った顔をしたり。色んな表情を見せてくれるようになった。
「どうしたの、響?」
「ううん、何でもない」
この頃だったか。自分が彼の元に結構遅い時間まで入り浸ることが増えたせいでお父さんお母さんが心配して、その話を聞いた未来が、自分たちの元にやって来たのは。
今を考えると、この時の未来は凄い遊吾のことを警戒していた。
親友に近づく不審者。そう考えていたからだろう。実際、彼と話すときの彼女は棘を隠そうともしなかった。…無論これには段ボールハウス生活を行っていた彼にも非があるが。
そんな彼と彼女が仲良くなったのは何が原因だったか。確か――そうだ。轢かれそうになった近所のおばあちゃんを助けて、逃げた犯人を捕まえた時だったか。
デュエルアンカーを車の後部バンパーに引っかけそのまま力勝負。普通乗用車を身体一つで引き留める彼は一体どんな身体能力をしているのだろうか? 怪力とか、そんなちゃちなものではないような気がする。あの時は攻撃力を上げる魔法カードを使用したとか言っていたけど、それにしてもだ。実は彼自身攻撃力が1800以上あるんじゃないだろうか。
あの時の怒り狂った様子が、未来の遊吾・アトラスという少年の形にピッタリと嵌まり込んだらしく、あれから少しずつ棘が少なくなっていった。
こう思い返してみると、彼との思い出は何かとハチャメチャだ。
喧嘩しているところに飛び込んできてそのまま相手を制圧したり、街で絡まれているところに突然現れて、絡んできた大人をボコボコにした後に警察のお兄さんたちにこってり絞られたり、自分たちが不審者と色々しているという悪口を言った同級生の話を聞き、君のファンになったんだとファンサービスという名のマインドクラッシュを行い、未来のお父さんと熱い口論を繰り広げたり、お父さんとお母さんに家に来ないかと言われて大泣きしたり――この時、婿養子に来ないかとおばあちゃんに言われて凄い焦っていたり。
自分のような者に立花さんのような女の子はつり合いがとれていないというか、俺が役不足と言うか、ええっと、兎に角無理です! だったっけ。流石にそこまで言われると私でも傷つく。思わずおばあちゃんたちの援護射撃を行った私は悪くない。
「どうしたの? ニヤニヤしちゃって」
「うぇ!? あ、いや、ちょっと…」
「遊吾さんのこと?」
「うぐっ」
やっぱり未来には敵わない。自分の考えていることを当てられてしまい、苦笑する。
「うん。ここ、遊吾さんと来たなぁって」
彼女たちが居るのは水族館。今日は立花響が久しぶりの休暇ということで、未来と二人きりで街へと遊びに出ていた。
が、これは異例の処置である。
武装組織フィーネが台頭し暗躍している以上、ガングニールの装者であり同時に装者の中でも随一のポテンシャルを持つ響は特異災害対策機動部二課で待機していなければならない身。だが、現在彼女は無期限の長期休暇を言い渡されていた。
彼女の身体に起こっている変化が原因だ。
現在の立花響は、装者として覚醒して以来の度重なる激戦によって、体内に存在するシンフォギア、ガングニールの欠片が増殖、彼女の体内の至る所に融合している。ガングニールの大本である心臓部は愚か、末梢血管、果ては末梢神経にまで融合していると考えられている聖遺物の欠片。
これが、彼女の身体を限りなくシンフォギアを稼働させるのに適した身体に変化させていると同時に、彼女の身体を蝕んでいるのだ。
無論、これに関して対策を怠っていたわけではない。二課にフィーネが居る頃に融合係数を低下させる試みが行われ、侵食率を低下させることに成功していたのだが、S2CA――複数の装者の絶唱及び、自身及び空間からフォニックゲインを収束することによって撃ち放たれる立花響の必殺技。この技術の度重なる使用と、彼女がガングニールを進化させた形態、ガングニール・ウォリアーの運用によって融合係数が跳ね上がり、結果的に彼女の肉体の侵食率はレッドゾーンへと突入してしまったのである。
つまり、彼女がこれ以上ガングニールを纏って戦闘を行えば、最悪死亡。運が良くてもその存在を聖遺物の塊へと変化させるか、聖遺物と生物の融合体と言う物に変異してしまう可能性が非常に高かった。
だが、融合係数を低下――正確に言うならば融合を妨げることで彼女の身体の侵食を遅らせるだけなのだが――させる方法は存在しているが、それも気休め程度しかない。彼女は未だ若く、未来が待っている。故に二課司令官、風鳴弦十郎が言い渡したのが、無期限の長期休暇。
戦闘さえ行わなければ侵食は起こらない。何故なら、侵食が発生するのはあくまでも立花響がガングニールを身に纏うことで、ガングニールが彼女の身体をより適した肉体に変化させているからだ。
体組織と完全に融合していることで、外科的手術によって摘出することも叶わない以上、戦闘から遠ざけるしか侵食を防ぐ方法が無かった。しかし、これは同時に現在の彼女の存在意義の否定にも繋がってしまっていた。
「ああ、中学校のゴールデンウィークの時だったっけ? 響のお母さんたちと一緒に此処に来たの」
「うん。遊吾さんがさ『あ、遊星さんが居る! あっちには遊戯さんとアテムさんも!!』とか言って蟹とかヒトデの水槽から離れなかったよね」
「ああ、髪形が蟹やヒトデに似てるんだっけ?」
「そうそう。…決闘者って髪型が奇抜な人がなる職業なのかな?」
「…どうなんだろ」
立花響は人一倍正義感の強い少女であり、一度決めたら一直線。決して折れない心を持つ強い女の子である。が、それに比例するように彼女はとても打たれ弱い少女でもあった。
そこには恐らく中学校時代の、あのライブ事件後の生活が起因となっている。
ライブ事件の後、立花響はリハビリを終え社会生活、日常生活へ復帰した。
年若い少女にとって、歩くことすらままならない状態がどれだけ辛かったことだろう。だが、必死の思いでリハビリを終えた彼女を待っていたのは、暖かい歓迎などではなかった。
特異災害法により、ライブ事件の生存者に払われる補償金。ライブ会場での死傷者の大半は将棋倒しなどの人的被害によるもの。そういった要因をワイドショーなどで大きく取り上げ、謂れのない言論の暴力が彼女たちライブ事件の生存者を襲った。
当時響の通っていた学校でも犠牲者が出ていた。これを受けて心無い学生たちが、何故あの人が死んでなんの取り柄もないあんたが生きているんだ。この税金泥棒。
心が折れそうになりながらも必死にリハビリをして帰ってきた結果がこれだ。多感な思春期の少女にとって世間の悪意はあまりにも醜く、残酷だった。
だが、幸いなことに彼女はその後も真っ直ぐに成長した。歪み、荒れても仕方がない環境で尚太陽を目指す向日葵のように真っ直ぐに。
だが、真っ直ぐに成長する代わりに彼女は大切な親友と大切な男性に依存した。心の支えを家族以外の場所に定めることで精神の安定を図ったのだ。
これは他の面々、未来や遊吾にも言えることだ。未来はライブに行かずに傷つけてしまったトラウマから、遊吾はこの世界に転移して彼女たちと出会ったその日から、二人は響を支え、支えられる関係となっていた。
そして現在、そんな彼女の心は崩れかけていた。
「でも、遊吾さんの髪型はまともだよね」
「…とげとげ頭がまともかと言われれば――どうなんだろう」
『うーん…』
聖遺物に身体を侵食され、死ぬ間際だからと言うわけではない。シンフォギアを纏えないからだ。
中学生時代に己の存在を完全に否定された彼女は、誰かに頼られること、誰かを守ることに固執していた。それは、頼られることで自分を肯定してもらうため、自分がここに存在している意味を見出だす為だ。
そんな彼女にとって、目に見えて意味を見出だすことの出来るシンフォギアは画期的であった。
誰かを助けられる、自分達にしかない特別な力。
それが奪われてしまうと、彼女は自分の存在意義を認識できなくなってしまう。自分は何故生きているのか、それすらも。
そしてもう一つ、遊吾・アトラスの敵対だ。
D-noise の時のようなものではない。完全な打倒すべき敵として彼が立ち塞がったのだ。
しかも、相手は情けも容赦もなく彼女の心を抉り攻撃を行う。慈悲も何もない、今までの関係を否定するような執念にまみれた攻撃は、彼女の精神に甚大な被害を与えていた。
響、未来、遊吾の三人は、三人が揃って完璧なのだ。無論、過去と比べれば互いへの依存はマシになっているし、未来や遊吾に関しては元々自分を持っているため依存度は少しは低い。
だが、支えてもらって何とか立っていた響にとって、支えの一つが失われている状態はあまりにも酷だ。
「…あ、未来! 遊吾さんが居る!」
「本当!? …って、海胆じゃない」
「海胆だよ、海胆!!」
「……ぶふっ、な、なるほど、確かに海胆」
「海胆! あははは!」
だから、立花響は笑うのだ。
折れそうな心を必死に覆い隠すように。
※※※※※※※※※※※
「遊吾ォオオオオ!!」
『人間風情が機皇帝を越えられると思ったか、馬鹿がッ!! グランドスローターキャノンッッ!!』
大地が抉れ、空が悲鳴をあげる。
シンフォギア、草那藝之大刀。聖遺物の欠片であるシンフォギアの中で最も完全な聖遺物に近く、同時に風鳴響一郎の身体に融合している、特異且つ特殊なシンフォギア。
その爆発力は、ガングニールを身に纏う立花響の遥か上を行く。だが、今のグランエルは天羽々斬、魔弓・イチイバルを吸収しており、その出力は草那藝之大刀を遥かに上回る。
大剣型のアームドギアの纏う光が、グランエルの砲撃とぶつかり合う。純粋な破壊力同士の鍔迫り合い。だが、押されているのは響一郎だ。
「ぐっ、ぐぉおおお!?」
『ふん、今更歌った程度で俺を止められるとでも思ったか?』
響一郎の会得している技術のなかには気功と呼ばれるモノがある。
これは、あらゆる物質に存在する力の流れを制御するというものであり、風鳴弦十郎の発勁に通ずる技術の一つだ。
この技術があるがゆえに、近接戦闘では弦十郎を越えるとすら言われる響一郎。だが、その響一郎と彼の纏うシンフォギアをもってしても現在のグランエルの砲撃を受け止めるので精一杯であった。
あまりにも出力が高すぎるのだ。
響一郎は生身で濁流程度ならば生身ですべて受けきれる自信があるし、それだけの技術を持っている。だが、グランド・スローター・キャノンは濁流ではなく大海から襲い来る大津波。いかな気功の技術をもってしても踏ん張るのが限界だった。
アームドギアを握る手が衝撃で外れそうになる。いかな草那藝之大刀であっても、これを食らえばひとたまりもない。
歯を食い縛り、吼えるように、鼓舞するように歌を歌う。気休め程度ではあるが、歌を止めなければまだ勝機はあるのだ。
『ふん、耳障りな…』
グランエルがその機能を、シンクロキラーとしての機能を起動させようとしたところで、突然彼の身体に衝撃。思わず体勢を崩してしまう。
逸れる砲撃。その隙を逃す響一郎ではない。
「タァアアアッッ!!」
『機皇帝を甘く見るなとッ!!』
跳躍、そのまま胴体を凪ぎ払おうとした響一郎の脳裏に稲妻。攻撃を中断。大剣を無理矢理引き戻す。筋肉がブチブチと音をたて、身体中が悲鳴をあげるが気にしていられない。
軽い衝撃。大剣を蹴り大地に降りる響一郎。そんな彼の目の前で、アームドギアがグランエルの胸から放たれた光の帯に拘束され、呑み込まれていくのが見える。
あのまま剣を振るっていれば、呑み込まれていたのは自分だ。遊吾の防御すら捨てた躊躇のない動きに戦慄する。
『…それを与えるのは早すぎたか? 奏』
「二度と戦場に立つ予定は無かったんだけどね、アタシは」
『それはすまないことをした』
「本気で謝ってる?」
『…無論、だ』
合成音声ではない、生の声。
天羽奏。ガングニールと類似した装甲を身に纏う槍の使い手。
彼女が身に纏うのは、トリシューラ。F.I.Sにて解析されていた特殊な聖遺物を、所長であるレックス・ゴルドウィンの協力のもと彼が天羽奏へと速達便で送り付けたシンフォギアだ。
起動のためのフォニックゲインの波形、アウフヴァッヘン波形が特異すぎたのだ。故に起動できる装者が居なかったのだが、そこに天羽奏の存在。肉声をフォニックゲインへと変化させてしまった女性。
彼女の声、彼女の歌は見事トリシューラのアウフヴァッヘン波形と合致。
万が一のことがあった場合、申し訳ないが彼女にも動いてもらう必要があったため、彼は彼女にトリシューラを送ったのだ。
「なんでそれをこの子達の前で出来ないかね」
『…まあ、色々とな』
「とりあえず久しぶりに怒ってるんだからねアタシ。何か言うことは?」
『…なまじ希望があるから絶望するのだ。ならば、絶望をくれてやる』
そして、彼女が飛翔した――
「マリア、またその戦闘映像ですか?」
「…マム」
マリア・カデンツァヴナ・イヴは暗い表情を隠すことなくナスターシャへと顔を向けた。
流れている戦闘映像は、あまりにも過激且つ苛烈。彼女が昔目にした砲弾の飛び交う戦場のような光景。あの戦いのあと、東京番外地の地形が見事に変形してしまったのだから、その凄まじさがうかがえる。
あの戦闘でフィーネ側が受けた損害は少ない。
ウェル博士の不在、ネフィリムの破壊、遊吾・アトラスの負傷。
ウェル博士の不在は、もうすでに保護できているから問題ではないし、ネフィリムの損傷に関しても心臓部は無傷なので問題なし。
問題なのは、彼の傷だった。
「右腕――ですか」
「……ええ」
彼の右腕は、あの戦闘でボロボロになっていた。
グランエルG、装備されたシンクロモンスターを破壊することで自身の破壊を免れるという効果を持つそれを過剰なまでに使用したからである。
大小様々な攻撃に対し、右腕を生け贄に捧げ続けた結果彼の右腕はその機能を一時的とは言え失いかけた。
幸い、神経系や血管系に被害がなかったため本当に危険な状態にはならなかったものの、彼が生身で振るうには少々やりづらくなってしまった。
安静に、しっかりと治療とリハビリを行えば完治する傷。だが、そんな暇はないと彼は右腕の傷を粗末な治療を行っただけで行使していた。
「ネフィリムの誤射、あのトリシューラのこと。色々問いたいことはあります…が」
「………」
「理由は不明ですが、彼が自らの右腕を犠牲にしたこと、それが問題だと考えるのですね」
「うん…」
決闘者にとって腕は命に等しい。
特に利き腕はそうだ。決闘者としてその右腕に想いを乗せ、数多の奇跡を起こしてきた彼。そんな彼にとって右腕という存在はどれだけ大切なものか。
だが、そんな右腕を彼は平然と犠牲にした。あの決闘以降、人が変わったように行動を始めた彼。
明らかに異常だ。
戦意喪失しかけていた立花響を襲ったネフィリムを迷わず射撃した姿は、やはり彼だと安心させるものであったが、それ以降は最早悲惨としか言いようがない。
恩人、大切なものに、己が絶望だと言わんばかりに襲い掛かり、暴力の限りを尽くして殲滅する。その姿はマリアたちから見ても正常ではなかった。
だから彼女は、マムに相談し一つの行動に移った。
それが、本国との交渉。ナスターシャが秘密裏に動いていたそれを察知したマリアが、共に行くと宣言した。
彼がこれ以上何かをする前にこの戦いを終わらせなければならない。そう考えたからだ。
世界の平和など、様々な思惑こそあれど、マリアや切歌、調の願いはあくまでも家族の幸せである。ならば、遊吾が無茶をするのを止めるのもまた、彼女たちの願いだった。
「ナスターシャ教授」
「…さあ、交渉を始めましょうか」
用事とやらで彼が居らず、またウェル博士も居ない今がチャンスだ。
こうして、日本某所に存在する日本が誇る最大の塔の一室で戦いが始まるのだった。
だが――
「わぁ、すっごい高い!」
「うわっ、未来、あそこ学校だよ!」
「…あ、ホントだ! すっごい小さいね」
「凄いなぁ。最近ヘリとかよく乗るようになったけど、こうして景色見る機会無かったしなぁ」
「レックス、首尾はどうなってる?」
「遊吾君――どうしたんだい、その右腕は!?」
「ちょっとドジっただけだ。で、メサイアの制御システムとあの子は?」
「問題ないよ。制御システムにはしっかりと仕掛けを施しておいたし、装置も準備できてる。あの子も安定しているから、目を覚ますのももうすぐかな?」
「こっちの準備は出来ている。急いでくれよ? 本国に茶々入れられたら餓鬼共も大変なんだから」
「分かってるよ……君は本当に――」
「どうした?」
「いや、何でもないよ」
寄しくもこの日、この塔に集まったことが事件を加速させることになるとは、この時誰も予想していないのであった。
ネフィリム「遊吾ォ! だれをうってるぅうう!?」遊吾「いやー、ついつい。ごめんね☆」
みたいな。
次回予告
各地で暗躍するF.I.S!だが、その時突如としてノイズが襲来!行方不明の未来!崩れる響!マリアの決意と遊吾の馬鹿。
そして、一人の少女が立ち上がる!
「ウィル博士、でいいんですよね?」
「な、なんだい?」
「私と適合させてください!」
「マジで?」
ついに生まれる愛の戦士!
「な、あ、あれは!?」
「友の心、彼の心、大切な愛を守る女――」
ミクダーマン!テーテッテーテテテッテテッテテーテケテン
「響と遊吾を傷つけるネフィリム、そしてウェル博士、許せん! シェンショウジーン! チェンジ、レオパルドン!!」
『ええ!?』
「ソードビッカー流星!」
「ギャアアア!?」
「粉砕、玉砕、大喝采! フハハハ!」
次回、爆誕!正義の味方ミクダーマン!
……いったいどんな電波を受信してんだ……