遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~   作:特撮仮面

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彼と彼女と最後の日

 あの日、何故私は彼女を守ることができなかったのだろう。何故私はあの時彼を止めることができなかったのだろう。

 

 どうして私はいつもこうなのだろう。いつも未来に、遊吾に助けて貰ってばかりで何も返すことができない。返すことができないものがドンドンと蓄積されていって、それだけで溺れそうになる。

 

 自分では幾ら頑張ったつもりでも、いつも失敗ばかり。なんで私はこうなんだろう。

 

 

「立花」

「…はぁ」

「立花!」

「あ、はい! …翼さん? どうしたんですか?」

 

 

 顔をあげれば、そこには翼さん。どうしたのだろうか? 今の私は戦うことが出来ないというのに態々声をかけてくるなんて。

 

 

「あ、その…体調はどうだ?」

「へ? ああ、バリバリ元気ですよ!! 今日も朝ご飯を三杯食べましたから!!」

「そうか、なら良いのだが…」

 

 

 はい! 大丈夫です! 笑顔で言う。

 

 実際はご飯なんて食べていない。そんなことが出来るような状態ではない。大好きなものを前にしても食欲なんて湧いてこないし例え口に入れたとしても砂を噛んでいるように味も何も感じない。ただジャリジャリとしたナニカを食べているような気分になってしまい途中で吐き出してしまうくらいだ。

 

 だが、心配をかけるわけにはいかない。シンフォギアが無い、価値の無い自分が憧れの人である風鳴翼に心配をかけてもらっているだけでもいけないことなのに。これ以上心配をかけるわけにはいかない。こんなもの、リハビリの頃と比べればなんてことはない。そうだ。こんなもの、へいき、へっちゃらだ。

 

 

「無理はしないようにな」

「はい!」

 

 

 少しだけ寂しそうに部屋を出ていく翼。その背中を見送り、再度机に顔を伏せる響。

 

 涙は流れない。だって、もしかしたら次の瞬間には二人が部屋に入ってきてドッキリとか言い出すかもしれないじゃないか。

 

 だけど、それまで自分は一人ぼっちだ。あの時と同じように、誰にも必要とされず、皆がバラバラになったように。今も私が頑張ったから皆がバラバラになって私から離れていく。

 

 まず、クラスの友達が離れていった。次に先生が、地域の人が、そして、お父さんが。

 

 私は皆と一緒に、私の大切な人と一緒に居たいだけなのに、なんでこうなってしまうの? なんで私の大切なものはこうも指の間からすり抜けてしまうの? 

 

 なんで、どうして。考えても考えても分からない。あの時こうしていれば、ああしていれば。そんなとりとめもない考えばかりが浮かんでは消え浮かんでは消え。

 

 身体が沈みこむ。まるで鉛でも流し込まれたように重くなる。いや、実際に今の私の身体には鉛に勝る聖遺物が流れているのだから間違いではない。もしかしたら体重が重くなっているかもしれない。

 

 

「あはは…はは……」

 

 

 私にどうしろと言うのだ。

 

 そんな時、形容しがたい音が聞こえた。なにか潰すような、電子音のような音。それはよく聞く音。そう、ノイズの足音。

 

 何故ノイズが。こんな場所にノイズが現れることなんて無い。気のせいだろうと判断するも、扉の前からは気配。その気配は何やらこそこそと動いているもののこの部屋の前から動くことはない。

 

 一体誰が…そこでふと脳裏に浮かぶ名前。

 

 

「ゆ、う……ご?」

 

 

 心の底から漏れだした声は自分でも驚くほどに震え、霞んでいた。

 

 びくりと気配が動く。同時に扉が開き、バツのわるそうに部屋にゆっくりと入ってくる男。

 

 ツンツンの海胆頭。相変わらず剃刀のような襟と風邪がないのにたなびいている尾の黒いコート。右腕にはシルバーの鎖。

 

 自分よりも高い身長。誰よりも会いたくて、誰よりも会いたくなかった大切な彼がそこにいた。

 

 

「ゆうご?」

「…ずいぶんと酷い面してんな?」

 

 

 皮肉げに笑う。貴方がそんな表情が出来るなんて思わなかった。いつも自信満々に笑う彼には似つかない表情。

 

 

「酷いって…こんな美少女に対して」

「実はそれ聖遺物のおかげ」

「ま、まさか、ガングニールには美容効果が!?」

「使用者に聞きました――私、ガングニールでこんなに綺麗になりました!」

「通販!?」

「今なら装者もお付けして、三百九十八円!!」

「さんきゅっぱ!? というか安い!?」

「今から三十分以内にお電話いただいた方に限り、俺もついてくるバリューパックを――」

「買います!」

「即答!?」

 

 

 まさかの答えに驚きを隠せない遊吾。そんな彼にゆっくりと近付きながら、彼女は笑みをこぼす。

 

 

「まったく、駄目じゃないですか遊吾さん。こんなところに来ちゃ」

「いや、近状報告も兼ねて色々言おうと思ってな」

「未来が居なくなって、遊吾さんも敵になってるのに……」

「……響?」

 

 

 まるで夢遊病者のようにふらりふらりと身体を揺らしながら彼に近づいていく響。その瞳からは――涙。ポタ、ポタ、と少しずつ彼女の大きな瞳から漏れだしたそれは、

 

 

「ゆうごぉおお!!」

「うおぉ!? ど、どうした!?」

「ゆうご、ゆ、ご――ッ!!」

「ああ、居るぞ。俺は此処に居る。だからそんなに慌てなくてもいい。大丈夫だ」

 

 

 ダムの決壊を思わせる涙の大洪水。今まで張りつめていた糸が解きほぐされたように、彼女は子供のようにわんわんと泣いた。それは今までの全てを清算するような、そんな涙だった。

 

 

 

 それから時間にして数分ほど。案外早く立ち直った響だったが、そこでふと気づいた。

 

 

「…うわぁ、遊吾さんの服凄いことになってますよ?」

「誰のせいかとッ!!」

「あいたぁ!?」

 

 

 頭を叩かれ涙目になる響。そんな彼女の目の前には、胸元を涙とか鼻水とか涎とか、ありとあらゆる液体でカピカピにした少年の姿。そんな彼の表情は笑顔。彼女が今まで見てきた中でも一番の輝きを放っている。

 

 …そういえば前にテレビで、笑顔は獣が牙を剥く際の動作が元となっていて、元々は攻撃的な意味を含むとか何とか言ってたっけなぁ。

 

 

「ふんッ!」

「あた!? 二度もぶちました!?」

「何だ? 殴って悪いか! とでも続けてほしいか?」

「…え?」

「え?」

 

 

 あれ、そういうんじゃないの? え、遊吾さん一体何を言っているんですか? え? え? …国民的アニメって洸さん言ってたんだけどなぁ。…ああ、お父さんアニメとか好きでしたもんね。

 

 ちなみに、遊吾が言っているのは国民的ロボットアニメの有名な会話の一部分。ちなみに、正確な流れを言うなら、な、殴ったね…。殴ってなぜ悪いか! である。だが、国民的ロボットアニメと言っても放映されていたのは彼らの世代の遥か前。響の父親である洸の子供時代か、それよりも前に放映されていたのだ。いくら有名だからと言って現役の女子高生である響が知っているはずもない。

 

 男性と女性、こうしたところで若干話が噛み合わないのが、洸が遊吾のことを気に入っていた理由の一つなのかもしれない。

 

 

「…まあ、もうこうなっちまったのはしようがない。諦めて洗濯するさ」

「…服、どうするんですか」

「そりゃ、ウニシロとかで買った分があるし何とかするさ」

「え?」

「…え? 何その反応」

 

 

 響が思わず硬直する。

 

 彼は今何と言った? 買った服がある? どこで? あの庶民の味方たるウニシロ製の服? どういう…ことだ…。

 

 

「なに!? 遊吾さんなら服はコートしかないのではないのか!?」

「おいこらそりゃどういう意味だテメェ!?」

「え、だ、だって、あの遊吾さんですよ!? 春夏秋冬、雨の日も風の日も雪の日も針金コート着てた遊吾・アトラスですよ!? まともな服持ってるわけないじゃないですか!?」

「お前の中の俺はどうなってんだよ!? 俺も少しは一般的な服着るぞ!!」

 

 

 心外だ。ふんっ、と鼻を鳴らす遊吾。

 

 果たしてそんな日があったか? 眉間に皺を寄せてううん、と悩む響。過去を思い出しても出てくる彼の服装は黒い服に黒いコート。黒い服に黒いコート。濃紺色の服に黒いコート。白い服に黒いコート。白い服に黒いコート…あれ? とそこで気が付いた。よく考えてみれば、確かに季節毎に時々コートの下の服が変わっていたように思う。それに、ボトムスだけでなく、ジーパンだったり、カーゴパンツだったりしたことも…。

 

 思わずその場に崩れ落ちる響。遊吾検定一級でありながら、そのような微弱な変化を見逃していた自分。というか、そんな服をどこで――

 

 

「ま、まあほら、そんなことは良いんだよ。とりあえず今日は色々言いたいというか――そうだなぁ」

 

 

 未来は生きてるってことと、あと、俺とデートしようぜ?

 

 

「へ? ……えーっと、未来は生きてるんですか?」

「当たり前だろ。俺の目が黒いうちは死なせねえよ」

 

 

 敵だからアレだけどさ。からからと笑う彼。

 

 つまりアレか。私は生きてる人を死んだと勘違いしてあんなに沈んでいたのか。翼さんたちにも酷いことしてるし――

 

 

「うわぁあああ!!」

「ど、どうしたビッキー!?」

 

 

 突然頭を抱え込んだかと思えば、あばばばばと床を高速回転し始める響。

 

 気づけば彼女の身体の一部から熱量が放出され、残像ができるほどに右に左に高速回転。ほわぁあああ、あちょぉおお、と珍妙な奇声を発していた彼女であったが、これまた唐突にピタリと動きを止めると。回転の反動を利用してブレイクダンスのように高速回転しながら伸びあがる反動を利用して跳躍。スタッと見事な着地を決めれば、ほんの少し身を引いている遊吾へずいっと近づいて。

 

 

「遊吾さん! マインドクラッシュ!!」

「唐突に何だ!?」

「私にマインドクラッシュはよ!! ハリーハァルィイイ!!」

「落ち着け、何か顔が顔芸してるぞ!?」

「これが落ち着いていられますかァ!? 未来が無事ならこんなにならなくてすんだじゃないですかヤダー! というかこれ全部遊吾さんのせいですよねどうしてくれるんですか本当に私がシンフォギアに侵食されてるのもそれ加速させたの遊吾さんですよねこれどう責任取ってくれるんですか!!」

「え? いや、それは――」

「ええ、ええ。グランエルとやらで私の身体を隅から隅まで舐め回してくれましたもんねぇ! それはもう、執念深く! 執拗に! ねっとりとッ! ぬる――」

「それ以上言わせねえよ!? というか人聞きの悪いこと言ってんじゃねえよ!? 仕方ねえだろビッキーの身体の進行がこんなに早いなんて予想してなかったんだよ! だから思わず全身検査したわけであってだなぁいや謝って済む問題じゃないですけど本当にごめんなさい!!」

「謝ってくれたんでこの件は一旦許します!! よく考えると遊吾さんに全身まさぐられるとか良い気がしてきたじゃないですか!! てか、デートっていつ行くんですか!!」

「三日後ぐらいを予定してる場所はいつも通り駅前な! そしてそれは俺の責任じゃねえよ!? …あれ? そうなると俺もビッキーの身体を合法的にまさぐるという――」

『お前たちは一体何を話しとるかァーッ!!』

 

 

 人が心配して見守っていれば、彼らの話はまるで二課に居た頃のように気心知れた者同士だからこそ出来るマシンガントーク。相変わらず息があっているのは素晴らしいことであるが、流石に話の流れが全く訳の分からない状態になってきたので慌てて放送で止めに入る二課の面々。

 

 二課に居る大人たちは皆、安堵や相変わらずの二人への苦笑ばかりであるが――

 

 

「フフフ……私に黙って奏にシンフォギアを渡したり、実はお父様と色々話たり立花とイチャイチャしたり私にファンレター送ってきたリと随分と楽しんでいるじゃぁないかアトラスゥ…」

「……Gatrandis babel ziggurat edenal――」

「クリス君、ハイライトが消えてるぞ!? 落ち着けェ!!」

 

 

 若干二名は本気で怒りを覚えていた。

 

 ここにグランエルの状態で大暴れした際に戦った天羽奏や風鳴響一郎が居たらもっと混沌とした場になっていたのは間違いではないだろう。

 

 二人は、グランエルの吸収を使用されたことで現在検査入院中だったりする。響一郎に関しては融合症例として響の助けになればとそれと並行して研究を行っている。

 

 

『で、遊吾君。…帰ってきたのか?』

「…まあ、その、アレですよ。最後の休暇ですから…最後、はせめてこの世界で世話になった皆さんの元で――と」

『…なるほど。ということはフィーネも、そして計画も最終段階ということか』

「そうなる。この休暇が終了すると同時に計画は最終段階に移行される。両陣営にとってこの数日が最後の休暇になりますね」

 

 

 隠しても仕方のないことだ。それに、こちらの動きはウェルによって各所に漏れているし、F.I.S.も既に行動を開始。フィーネこそ動きは少ないが、今頃神獣鏡の起動準備に入っているはずだ。

 

 未来がこちらの陣営に居るのは些か不安だが、二課とは交戦せざるを得ない。そのタイミングで引き渡してしまえばいいだろう。未来は割り当てられた部屋で大人しくしていたし、神獣鏡の起動や制御はナスカから発掘された聖遺物やメサイアの一部システムを利用すれば態々シンフォギアとして稼働させずともフロンティアの起動を行えることは数値上証明されているし、最悪自分がそこに手を加えて無理矢理でも封印を吹き飛ばせばいい話。

 

 とりあえず残る懸念材料は響のメンタルだが、一時的とはいえ持ち直してくれてよかった。未来をそのまま連れてきても良かったのだが、何やらマリアたちと話があるとかでこちらに連れてこれなかった。一体何を考えているのかと思うが、マリアや調、切歌も歳の近い同性とコミュニケーションをとれば少しはメンタルケアにつながると考えることもできるので、まあ結果として良いかもしれない。

 

 これがこの世界最後となる大切なモノたちとの日々になる。

 

 

「と、いうわけでほんの数日ですが、F.I.Sのユー・トイルイ・テッシ改め遊吾・アトラスです。よろしく」

『…はぁ。どうしても、そうなるわけか。よし、遊吾君。君の部屋は変わらずだ。数日だが、好きに使ってもらっても構わないぞ』

「ありがとうございます!!」

 

 

 こうして、遊吾の長い休みが始まった。

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

 その後の生活は大変だった。

 

 弦十郎の話ではベッドなどの整頓はしておいたとの話だったが、明らかに誰かが使った形跡がありまくりなため部屋に置いてあったものが無くなっていないかの確認をしてみたり、怒れるクリスと翼に全力で土下座したり、調査により未来の生存が可能性として出てきたことで更に元気を取り戻し始めた響を筆頭に、身体を動かそうと弦十郎と共に彼の絶唱をバックにハリウッド映画も真っ青な特訓を行ってみたり、ついでに皆でドローの特訓をしたり、その途中でツキノワグマに襲われて遊吾が熊を一頭伏せてターンエンドしたり、遊吾がドローの練習で滝を切ったり、響が太陽をバックにハーモニカを吹く遊吾の真似をして二課の腹筋を崩壊させたり、翼が全トレーニングを平然とこなした挙句、壁蹴りだけで崖を昇ったり、最高速度のバイクから地面へ飛び降り、再度バイクに乗ったりと言ったとんでもない身体能力を披露して皆に驚かれたり、クリスがヘロヘロになって遊吾に抱えられたり、転んだクリスを遊吾が支えた結果その見事なお胸様を揉んでしまったため涙目になったクリスを見て、弦十郎パパンとの唐突な一騎打ちとなり、格闘ゲームも真っ青な無限コンボの後にオゾンより上に吹き飛ばされたり。

 

 騒々しいが楽しい日々はそうやって過ぎていき、今日は最終日。

 

 最終日、つまり今日は響が三か月前に彼と約束していたおでかけの日である。

 

 

「う、うう…いざとなったら……」

 

 

 彼の言ういつもの駅前。それはルナアタック後に何かと出かけていたリディアン音楽院高等科にもアクセスが近い場所。駅を中心に発展したせいか、この近辺は大型量販店や娯楽施設、アーケードなどが立ち並ぶスポットとなっていた。

 

 そんな駅の入り口にある柱に響は寄りかかって額に手を当てて何やらブツブツと呟いていた。

 

 そんな彼女の奇行を見てか彼女の周囲何メートルかで空間が出来上がっているが、そんなことを気にする余裕が今の彼女にはない。

 

 立花響は焦っていた。始めてシンフォギアを纏ったとき以上の焦りだ。

 

 立花響の男性経験は、無いに等しい。幼い頃からやさしさと正義感に溢れる少女であったが、小中と共学の学校ながら基本女子の友人としか話さなかったし、遊ぶのは基本的に親友である未来か、後から来た遊吾のみ。中学校生活はライブ事件もあって後半はもうどうしようもない感じであったし、今通っている私立リディアン音楽院高等科は女子高。一部教師を除いて生徒は皆女性であり、同世代の男性は全く居ない。

 

 遊吾・アトラス。異世界からやってきた自分と同じか、少し年下。いつも剃刀のような襟と風がなくても自然にたなびく尾を持ったコートを羽織り、腕にシルバーの鎖を巻いた全身黒づくめと、ツンツンとたった海胆のような、本人曰く癖っ毛が特徴的な少年。

 

 自分に素直であるが故に、何かとデリカシーがないところがあったり、毒舌、ゲスな部分もあるものの基本的に響と同じように最短で一直線に突き進む。何かと気楽に話せる上に、色々な経験を積んでいるせいか時々凄く頼りになるこの少年のことを、響は少なからず好意的に見ている。

 

 そんな彼とは、中学校時代から何かと出かけたりすることはあったのだが、今回のように明確にデート、としかも相手から言われることなんて今まで一度も無かった。

 

 憎からず想っている相手にそんなことを言われれば焦ってしまうのも仕方ない。響はあまりファッション誌などを読むことは無いほか、物持ちが良いこともあって一品買ったらそれを大切に使い続ける為に、最近の女子高生! みたいな衣服とは全くの無縁。そんな中で唐突に言われたのだ。

 

 師匠である弦十郎、そしてクリスと翼、ついでに遊吾と共にハードな特訓を終えたのが昨日の朝。一服して、次の日が遊吾とのデートの日だと気づいたのがその日の夕方。困った時の未来さんが居ない以上、響は自力で服を選んだりするしかなく、結局夜遅くまで箪笥をひっくり返して――未来とお出かけした際の服装に落ち着いてしまった。

 

 せ、セーターが悪いんだ。私は、私は悪くないッ!!

 

 

「お、響――…何してんの?」

「うひゃい!? え、い、は、はい?」

 

 

 頭を抱えていた響にかかる声。素っ頓狂な声をあげてその声の方へと向いて思わず身体を固まらせた。

 

 そこに居たのは、黒のタートルネックに茶色のコートにジーンズ。最近寒さが強くなってきたこともあり選んだのだろう、そんなどこにでもいるような少年。響、というからには自分の知り合いなのだろうか?

 

 

「まあ、いいや。しっかし早いなおい。三十分前に来たってのに俺よりも早いんだから」

 

 

 待ち合わせ? そう言えば彼の髪は整えられているが相変わらずの海胆頭――って、

 

 

「遊吾さん!?」

「…今まで気づいてなかったのかよ」

 

 

 不機嫌そうに眉を顰める遊吾に、あわあわと慌てて両手を振る。

 

 まさか、遊吾が本当に普通の格好をしてくるとは思わなかったのだ。それに、普段は彼の持っている雰囲気とあの独特な格好から来る威圧感が合わさって身長が普段よりも大きく見えることがよくある。今でも十分大きいのだが、それでもあのインパクトのある遊吾・アトラスのイメージが強く、こういった本当に自分たちと同じくらいの歳の少年である遊吾・アトラスなんてイメージ出来なかったのだ。

 

 

「ほ、ほら! 私は一時間前にきましたし!!」

「はあ!? おまっ、何してんだよ!? その間ずっと此処に居たのか!?」

「い、いやー。一人でおしゃれなカフェに入るわけにもいかず。だからと言って駅を離れて待ち合わせ時間過ぎたらとか考えちゃったら…」

 

 

 あははー、と笑う響に、やれやれと大きくため息を吐く遊吾。

 

 彼女は言っていないが、実はあまり眠れてもいなかったりする。

 

 

「あー、そうか。悪いことしたな。起きてたんだからさっさと来りゃよかった」

「起きて?」

「あー、そのー、なんだ? ちょっと寝付けなくてなぁ…」

「へぇ? そんなに今日が楽しみだったんですか」

「ち、違うぞ!!」

 

 

 ニヤニヤと笑い、からかうように言われて思わず強く否定する遊吾。

 

 なるほど、と内心で頷くと響は瞬時に表情を悲しそうなものへと変化させ、まるで彼が来る前のような声で言う。

 

 

「…そうですか……無理にくるんなら――」

「ああそうですよ!! 服とか分かんねえから色々聞きましたとも!! ついでに響と街に出るのが久しぶりでとてもワクワクして眠れませんでした!!」

 

 

 やけくそ気味に叫ぶ遊吾。

 

 顔を赤くしながら言うそんな彼を見て、あははは!! と耐え切れずに笑いだしてしまう響。お、お前なぁと表情を引きつらせる彼の手をとると、彼女は彼の手を引き歩き出した。

 

 

「ちょっ、おい!?」

「私も楽しみでしょうがなかったんです!!」

「は? それってどういう――ってかお前手冷てぇ!?」

「さあ、レッツゴー!!」

「おいこら、今日どこ行くか――というかちょっと待て響!?」

「ほらほら、行きますよーッ!!」

 

 

 かじかんだ手は氷のようで。でも、彼の体温は氷を解かすには十分すぎるほどでむしろこちらの体温まで上がってしまう。

 

 二度掴めなかった彼の手。彼が何を思い、何を考えて此処に居て、何をしたくてあの場所に居るのかは分からない。だから知りたい。だから感じたい――とか考えるのは止めだ。細かいことなんて後から考えれば良い。今はただ、この人と手を繋いでいたい。繋いだこの手を離したくない。それで良いんだ。

 

 

「遊吾さん、ところでどこ行きます?」

「十分も人を引っ張ってそれか!?」

「いやー、あはは…」

「…ま、良いさ。そうだなぁ…あ、この道の路地抜けた場所に、面白い店があったんだよ。そこ行こうぜ? きっと響も気に入るぞ」

「ホントですか? じゃあ行きましょう!」

「…手、繋いだままなのな」

「嫌、ですか?」

「いや、別に嫌ってわけじゃねえけど…あーもう! そんな悲しそうな顔すんな! 分かった、繋いどくから!!」

「よし、ガンガン行きますよぉ!!」

「今日のお前テンション高すぎねえか!? というか命大事に!! さっきから俺塀とかあたって――痛ッ!?」

 

 

 

「……響君、そして遊吾君がエスコートできるかとか色々心配で気づけば二課全員が出っ張ってしまったわけだが……」

『これ、自分たち要らないんじゃないか?』

「司令、なんだか俺空しくなってきました…」

「まあまあ、響さんも元気になったようですし」

「そうそう、響ちゃん元気になってよかったじゃない」

「…何だろう、この、釈然としない感じ」

「安心しろ雪音、私もその感覚を味わっている…」

「…よし!! 折角だ、今日は俺のおごりでカラオケに行くぞぉおおおお!!」

『いぇーい!!』

 

 

 

「…響、上手くやるんだぞ」

「ちょっとすいません、そこの人」

「…は、俺ですか?」

「あのですね、さっき交番に『電柱の影に隠れてこそこそしてるライダースーツ着てヘルメットとグラサンした変態が居る』という通報を受けてですねぇ…」

「あ、俺これで失礼します!!」

「ちょっと待ちなさい!!」




ここから日常パート。最近話が暗かった分、ネタと明るさに塗れた話になる予定。

今回の嘘次回予告は無しです。

というか12月6日に遊戯王ARC-Vが放送されないとはどういうことだ!!答えろ、答えてみろルドガー!!
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