遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~   作:特撮仮面

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彼と彼女の響

 街を行く少年と少女。

 

 先程まで引っ張られるだけであった少年も、今は少女の隣に並び歩いていた。だが、その表情はどこかぎこちない。おそらく彼の右手が彼女に握られているからだろう。

 

 こうしたスキンシップは少し前までも結構行っていたものだが、それは遊んでいるなかで自然発生するものであり、デートだのと言ってしまった以上年頃の少年と言うこともあり意識せずにはいられないようだ。

 

 少女の方も、少年を振り回しているのは良いが、その表情は寒さとはまた違った朱に染まっていた。へいき、へっちゃらです、と言うような雰囲気を全身から醸し出しているものの、実際のところ振り回していないと色々と限界ギリギリなのだろう。

 

 そんな二人の雰囲気は端から見たら初々しいカップルそのものであり、近くを通る人々はそんな二人を見て微笑ましいものを見るような者、生暖かい視線を送る者と様々であった。

 

 

「っと、響ここだここ」

「え? …ここ、ですか?」

 

 

 遊吾が立ち止まる。響もつられて立ち止まり、彼が指差す方を向く。

 

 そこにあるのは、ホビーショップ遊戯と言う色褪せた看板が掲げられた店。

 

 どれだけ前から存在しているのだろうか。響が子供の頃に流行ったゲームなどのポスターや、最近発売されたおもちゃのポスターなどが乱雑に貼られ、日当たりのせいで薄暗くなってしまっている店の入り口がどうにも入ることを躊躇わせてしまう。

 

 そんないかにもな店に前に彼は何の躊躇もなく進んでいく。彼が進めば手を繋いでいる彼女も自然と行かざるを得なくなるわけで、ちょっと待ってください、という彼女の言葉が届くよりも早く、彼は店の扉を開いた。

 

 

「わあ…!」

「どうだ? 凄いだろ」

 

 

 得意気に笑う彼に、瞳を輝かせた響がぶんぶんと首を縦に振って同意する。

 

 そこはさながら玩具の王国と言ったところか。ビニール袋に入ったもの、少し色褪せた箱に入ったものと種類は様々であったがどれも照明の光を浴びてキラキラと光輝いているように見えた。

 

 響がキョロキョロと視線をあちこちへ送っているのを見て歩む速度を落としつつ、遊吾は真っ直ぐカウンターへと向かう。

 

 

「よっす、じいさん」

「おお、遊吾かの……そちらの娘は――これかの?」

「ばっか。俺にゃ勿体無さ過ぎる」

 

 

 白い髭を蓄えた、優しそうなおじいさん。しかし、響を見た瞬間に遊吾に小指を立てて笑う姿はどこか悪戯小僧のような雰囲気すらある。

 

 そんな不思議なおじいさんの、小指をたてるという行動に思わず顔を真っ赤にしてふいてしまう響。日本において相手との関係を訪ねる際に小指をたてるというのは、その人が恋人かと尋ねているわけである。

 

 恋人かと問われて顔を真っ赤にする響に対して、遊吾は苦笑しながら否定。自分を低く見積もりつつ即答する遊吾にムッと表情を変える響であったが、彼はそんな彼女に気づくことなくおじいさんに、カード見せてくれないかと尋ねた。

 

 すぐに店の奥に引っ込むおじいさん。カード? 彼はこちらでもTCGをしているのだろうか? 首をかしげる響。

 

 

「あー、あの人は武藤双六さん。この店の店主でな。昔はゲームの大会なんかで優勝してた有名人なんだってさ」

「へぇ、凄い人なんだ…。……ところで、カードって?」

「ああ。まあ待ってろ」

 

 

 おじいさん――双六が一冊の大きなファイルを持って帰ってくる。

 

 ファイルを広げて見る二人。あそこに件のカードが入っているのか。響は何の気なしにファイルを覗き混んで、

 

 

「で、デュエルモンスターズ!?」

「驚いたか?」

 

 

 驚きで思わず声をあげる響。

 

 悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべる遊吾が持っているのは、濃い緑色の枠のカード――魔法カードだ。色合いやデザインの一部が違うが、確かにそれは彼女もよく知るデュエルモンスターズのもの。

 

 これどうして!? 尋ねようとした響に、ホッホッホと笑いながら双六が話始めた。

 

 

「これは遊戯王OCG、オフィシャルカードゲームと呼ばれるものでな。わしが若い頃にやっていた、遊戯王というアニメや漫画のカードなんじゃ」

「そ。これはデュエルモンスターズじゃなくてOCG、全くの別物なわけだ」

 

 

 とはいえ、これ決闘盤で機能したりするんだが…。などとぼそりと呟きつつ、彼はファイルを捲る。

 

 OCG? 遊戯王? 分からないことだらけだが、とりあえず一つ分かることは彼は何処までも決闘馬鹿であり、彼が関わる出来事はすべて決闘に関することなるということ。

 

 自分もカードをファイルを覗いてみる。中にあるのは、武者甲冑のような形をした虫だったり、角のある芋虫だったり、斧を持った牛の戦士だったり、異様に露出の激しい巫女だったり、赤色のドロドロした人のようなスライムのような何かだったり。彼女の知っているデュエルモンスターズと比べれば言葉で形容し難い格好のモンスターばかり。名前も、どこか言葉遊びのような、毛頭可笑しい名前。

 

 ステータスもお世辞にも優秀と呼べるものは少ない。効果も訳が分からないし、フレーバーテキストも不思議なものばかり。

 

 

「あの、遊吾さん」

「どうした?」

「戦い凄い強いのに、戦ったところ見たことがないって…」

「そりゃ、強すぎるから戦う前に勝負が決まってんだろ」

「え? いや、それっておかしくないですか?」

「あれだよ。強いから戦いが普通の人には見えねえんだよ。もしくはほら、裏で戦ってるやつ」

「えー…」

 

 

 な、なんで召喚したら破壊するんですか!? これ絶対使えませんよね。馬鹿、この世に使えないカードはないんだよ。例えばほら、補給部隊とか使えるし。な、なるほど…。

 

 フレーバーテキストにツッコミをいれ、時に意味不明なカードの使用方法に二人で頭を悩ませていると――唐突に彼の身体が固まった。

 

 一体何事だ。慌てて彼の身体を揺さぶるが、彼の身体は石にでもなったかのように動かない。その視線の先――そこにあったのは、一枚のカード。

 

 

「……ハーピィの羽根箒?」

 

 

 濃い緑色の枠に、一枚の羽が何か――おそらくカードを掃いている絵。

 

 ハーピィの羽根箒。魔法カード。相手フィールドの魔法・罠ゾーンのカードを全て破壊する。

 

 凄く強い。凄く強いが、彼がここまで驚いている理由がわからない。

 

 

「な、なぁ、じいさん。羽根箒、これ何円だ?」

「お、良い物に目をつけたの…。ふむ、これでどうじゃ?」

 

 

 双六が両手を広げる。つまり、このカードの値段は――

 

 

「十万か…」

「うぇえ!? 遊吾さん、どうしたらそんな値段になるんですか!?」

「十万でも安いほうか…。なあ響。俺のいた世界は決闘が職業になるのは知ってるよな?」

「え? あ、はい」

 

 

 それは何度も聞いているし、遊吾もプロデュエリストという職業に就いていることも知っている。

 

 遊吾は語る。

 

 彼らの世界には、カードの使用制限、つまり、レギュレーションというものが存在している。

 

 そのような、このカードは使っても良い、このカードは使用してはいけないといった、リミットレギュレーションとも呼ばれるカードの使用制限は、年に数回ある、制限改定と呼ばれる企業での話し合いによって変化していく。

 

 ハーピィの羽根箒は、デュエルモンスターズ初期に登場した汎用性の高い完全除去カードだ。たったの一枚で複数枚以上のアドバンテージを稼ぐことのできるデュエルモンスターズでも上位のパワーカード。

 

 しかし、このカードはあまりのカードパワーにデュエルモンスターズが稼働してしばらくすると使用禁止カードとなってしまったのだ。

 

 ハーピィの羽根箒が禁止カードとなってから、何十年という月日が経過した。

 

 その間に、融合、シンクロ、エクシーズという新たな召喚方法が確立し、禁止カードたちはそのパワー故にもう二度と使用できないとさえ言われていた――のだが、

 

 

「俺がプロに入って間もない頃に、このハーピィの羽根箒が制限――デッキのなかに一枚だけ入れれるカードとして戻ってきたんだ」

「へえ…」

 

 

 戻ってきたのなら良いことじゃないか。それが何故何十万というお金の話になるのかと首をかしげる響。

 

 彼は続けた。

 

 制限に復帰したハーピィの羽根箒。このカードとよく似た効果、調整されたカードとして、全ての決闘者の魔法・罠ゾーンを破壊する、大嵐という名前のカードが存在しているが、遊吾・アトラスはこのカードがあまり得意ではなかった。

 

 遊吾の得意とする決闘のスタイルは、コンバットトリックなどと呼ばれる相手の行動に反応し、カウンターのように相手の動きを停止させたり、反撃でダメージを与えるものがほとんどだ。

 

 そういった戦術を得意とする関係上、それを行うためのカードを事前にセットしておく必要があるのだが、大嵐は全ての決闘者――つまり、自分も巻き込んで発動してしまうので、彼のスタイルと相性がすこぶる悪いのだ。

 

 だが、ハーピィの羽根箒は相手フィールドのみに影響を与えるカード。彼と相性がすこぶる良い。良いのだが、その希少価値が問題であった。

 

 ハーピィの羽根箒はデュエルモンスターズ初期に登場したカード。その為現在では製造、販売がされておらず、コレクターアイテムとして売買されていただけであった。

 

 そんなカードが突然使用可能となったのだ。希少価値に対して必要とする決闘者の数が圧倒的に上回ってしまい、改定直後は羽根箒一枚が億、兆単位で取引されていたとさえ言われているレベルの大混乱が起こった。

 

 今でこそ混乱は落ち着き、羽根箒が無くとも問題ないと多くの決闘者が考えているものの、未だにハーピィの羽根箒は一枚数百万円の値打ちがあるのだ。

 

 

「…それ、企業は増産とかしなかったんですか?」

「したらしいんだが、工場の生産が間に合わなかったとか、工場でトラブルが相次いだとかで結局世に出た新しい羽根箒は数百枚程度。逆に値段がつり上がったし、偽造カードまで出回るレベルの大混乱だ」

 

 

 そう言った理由により、羽根箒を買うことを諦めていた遊吾。だが、そんな羽根箒が十万程度で購入することができる。これは腹を括って買うしかないだろう。

 

 

「十円じゃよ」

「は?」

「そんな、万なんてとれりゃせんよ。これはもう終わってしもうたカードたち。じゃけれど、お前さんは終わったこいつに再度息を吹き込んでくれようとしとる。じゃから十円でええぞ?」

 

 

 十円。元の世界ではうん百万のところをたったのワンコイン。彼は震える手で懐を漁り、なんとか財布を出そうとする。

 

 これは、きた。熱にうかされたように震える手を必死におさえて財布をとりだし彼が小銭を取り出す――よりも早く、彼女が動いた。

 

 

「おじいさん。これください」

「ほっほっほ。十円じゃな」

「はい」

「あい、確かに」

 

 

 思わず固まる彼。そんな彼を見て微笑む彼女。彼女の手には――羽根箒。

 

 

「残念じゃったな」

「残念でしたね」

「お、おまっ、おまぁ!?」

 

 

 悪戯小悪魔といったところか。二人でにししと笑う。

 

 折角の羽根箒。ファイルを見たところ一枚しか無いらしい。遊吾の脳裏に、過去に一度だけであった男の台詞が思い出された。

 

 

「これが絶望か……」

 

 

 思わず地面に膝を着く。これは終わった…。目の前が真っ暗になったような感覚。遠くの方で響がありがとうございましたおじいさん! と挨拶して俺の腕を手に取り引っ張っていくのが分かる。だが、俺はそれに反応することができずただただ引っ張られるだけ。

 

 店先に出た二人。

 

 

「さて、と。遊吾さ――遊吾さん!?」

「う、うらぎりものぉ」

 

 

 どれだけショックだったのか。涙目を通り越して半泣きの遊吾。普段の姿からは考えられない子供のような姿に不覚にも心を撃ち抜かれる響。

 

 

「これ、欲しいですか?」

 

 

 彼女がカードを掲げれば、キラキラと瞳を輝かせて頷く遊吾。

 

 そこまで欲しいのか。元々彼にプレゼントするつもりだったのだが、予想以上に効果があったらしい。

 

 

「分かりました。…じゃあ、約束してください」

「…約束?」

「はい。この、私との証であるハーピィの羽根箒、これを絶対デッキにいれること。活躍させること。あと、私との約束を破らないこと。良いですか?」

「…さ、最後は善処します」

 

 

 今の彼はあくまでも彼女たちの敵であり、彼の目的を果たすためには下手な約束をすることはできない。

 

 そんな彼の心情を知ってか知らずか、彼女は笑いながら彼にカードを手渡した。

 

 

「それじゃ、約束ですよ?」

「…お、おう! 安心しろ、絶対大切にすっから!」

 

 

 パァッと太陽のような笑顔。約束ですよ、と二人で指きり。

 

 

「うっそついたら絶唱千回うーたう! ゆびきった!」

「なにそれ怖い!?」

 

 

 こうして、彼のデッキに彼女との絆の証であるハーピィの羽根箒というカードが入るのであった。

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

 

 

「――……ですよねー」

「うわぁ…六十点」

 

 

 これはヒドイ。そんな言葉がどちらとともなく漏れる。

 

 彼らが次に訪れたのは、カラオケボックスだ。これは響きっての希望であり、実は響は遊吾とカラオケに一度しか行ったことがないことに起因している。

 

 しかし、最初こそ盛り上がっていたカラオケであったが、その雰囲気も即座に崩れてしまった。彼らの目の前に置かれた画面に映し出されているのは、六十三点と言う、昨今の、どんなに下手でもとりあえず七十点は出るカラオケにしては珍しすぎる七十点未満の文字。

 

 遊吾・アトラスは致命的に歌が苦手であった。

 

 学園祭ではあれだけの歌を歌えたのだが、奏の分析通り打ち込みの音源であるカラオケは致命的に下手である。普通に聞くことが出来る歌声ながら、器用にリズムと音を外していくという、悪い意味で器用な技を披露し続ける遊吾。音楽学校に通い、シンフォギアを纏い歌を歌う関係か、歌い始めから九十点以上をたたき出し続ける響が居る為尚更際立っていた。

 

 

「うーん、歌は上手なんですけどね遊吾さん」

「そうか? カラオケって歌が上手いとかあるんだろ?」

 

 

 カラオケは歌が上手い人が点数を取るものだと考えている遊吾。だが、響はそんな彼の言葉に首を振る。

 

 

「カラオケって、点数を取るのにコツがあるんですよ。だから、歌が上手い人とカラオケが上手い人って違うんですよ?」

「へぇ…そうなのか」

 

 

 カラオケの点数は、基本的に音程があっているかどうかにビブラートやしゃくれなどと言った小手先の技術点数が加点されるような形で採点される。

 

 極端な話、音程が合っていてビブラートが全部かかったら百点が取れるのである。まあ、実際はそう上手くいくものではないし、音楽的センスなどが多少結果を左右するモノなのだが。

 

 

「…そうだ! 遊吾さん、歌いましょうよ!!」

「あー、次は響の番だし大人しくしてるわ」

「いいから、歌いましょう!」

 

 

 良いこと思いついた! と彼女が彼にマイクを手渡す。

 

 一体何が始まるんだ…。首をかしげる遊吾に、響が笑いながら歌い始める。

 

 鼻唄であるが、それは彼もよく知る曲。逆行のフリューゲルだ。

 

 カラオケの機械を使わないのか!? 驚く遊吾に、イントロが終わりそうになった響が、せーの! と声をあげる。

 

 

「え、あ、きこえますか――」

 

 

 戸惑いながらも歌い始める遊吾。どうやら彼が天羽奏、響が風鳴翼のパートを歌うらしい。

 

 カラオケを使用しない歌。伴奏はなく、二人ともあまり細かいことを気にすることなく歌う。それがどうにも気持ちが良い。

 

 しっかりと最後まで歌った二人。どこかすっきりした感覚を覚えて息を吐く。

 

 

「よし! ドンドン歌っていきますよぉ!!」

「ノリノリだな。…って、何で聖詠歌ってるんですかねぇ?」

「ふっふっふ…。シンフォギアはマイクであると同時にスピーカーでもあるんですよ?」

「なん……だと……」

 

 

 確かにシンフォギアには、起動する際に発する聖詠を感知、増幅させるマイク機能と歌とフォニックゲインを放出させるためのスピーカー機能が搭載されている。搭載されている――が、誰が人類の牙たるシンフォギアをカラオケ機の代わりに使用しようとするだろうか? というか、響の身に纏っているものはあくまでもシンフォギアの欠片より構築されたものでありそれらの機能が搭載されたシンフォギアのペンダントとは違う。

 

 

「てか、こんなところで身に纏って――ぐぉおおお!?」

「大丈夫、へいきへっちゃら――遊吾さん?」

「目がっ、目がぁあああ!?」

 

 

 響がシンフォギアを身に纏った瞬間、閃光が彼の目を焼く。目をおさえて悶え苦しむ遊吾を見て響が、てへっ、と笑って舌を出す。

 

 

「やっちゃいました」

「やっちゃいました! じゃねえよ……いってぇ……」

「だって、シンフォギア纏う時裸になるじゃないですか!」

「だからって目を焼く馬鹿がいるか!?」

 

 

 シンフォギアを身に纏う際、それ以前に着ていた服はシンフォギア内部に格納される。そのせいで瞬間的とはいえ装者は全裸となる。とは言え装者の周りにはフォニックゲインが保護フィールドとして展開されるので危害が加えられるわけではないし、しっかり守る部分は守っている。

 

 その機能を閃光に変更したらしい響。何とか視力を回復させた彼の前には、シンフォギアを装備した響の姿。

 

 

「…いくら身に纏う程度なら侵食しないようにしてるっつっても限度があるぞ」

「いやーほら、やっぱ楽しみたいじゃないですか」

 

 

 戦闘稼働ではなく、あくまでも装備するだけ。確かにそれなら薬で十分対応可能ではある、あるのだが、彼女の身体は現在フィーネと想定していたレベルを遥かに越えている。だからあまり展開はしてほしくないのだが…。

 

 

「それに、侵食するにせよしないにせよ、もうガングニールを纏う回数なんてあと少ししかないんですし」

 

 

 誰かのために振るう、これもシンフォギアの平和利用ですよ。などと言う響。

 

 

「なるほどな」

「さ、がんがん歌っていきますよ! まずはこの曲です!」

 

 

 シンフォギアから流れてくる音楽。それは響の歌。フィーネとの決戦から更に成長した彼女が歌う、拳に乗せた彼女の歌。戦場で数回しか聞いていないが、シンフォギアの歌はよく覚えている。

 

 

――なんといっても、俺はこいつらのファンだからな…。

 

 

「…遊吾さん、私の歌によく付いてこれますよね」

 

 

 この歌、私しか知らないはずなんですけど…。その通り。装者の歌は、彼女たちの心象風景を歌へと変換したものであり他者が歌えるようなものではない。

 

 

「あれだ、決闘者だからな」

「便利ですね、決闘者」

「まあな」

 

 

 それから暫く、二人で装者の歌を歌いつづけた。

 

 どうやら響が覚えている限りの歌をシンフォギアは再現してくれているらしい。クリスの歌を歌い、やっぱクリスちゃんってクリスちゃんですよね。そうだな、クリスだよなぁ、と二人して納得してみたり、翼の歌を歌っては、これ聞かされる相手ってどんな気持ちなんですかね? …そりゃ、結構怖い。というか怖すぎ。こっちもヤル気はあるけどさ? 何だよ念仏は唱え終わったかって。露骨過ぎる上にあの強さだから怖ェ、と翼と何度か戦ったことがあるからこその感想を述べてみたり。

 

 そうやって歌っていると、ふと彼は気づいた。彼らの隣の部屋からどこかで聞いたことのある声が聞こえてくることに。

 

 

「……なあ響。隣の部屋からつい最近聞いた、大丈夫か分からないポリスなストーリーの歌が聞こえてくるんだけど…」

「……あ、恋の桶狭間始まりましたね」

「…………よし! ガンガン歌うぞぉ!!」

「パワーをフォニックゲインに!」

「いいですとも!」

 

 

 隣の部屋から響く歌に負けぬように歌い始めた二人。

 

 その日、カラオケ店でツヴァイウィングの二人が部屋越しに持ち歌対決をしていたという噂がささやかれはじめ、 このカラオケ店が繁盛し出したのはまた別の話。

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

 

「いやー、今日は楽しみましたね!!」

「…そうだな」

 

 

 あの後、カラオケ店の近くのUFOキャッチャーで、キェエエエ! 少女、これが絶望だ。ほぉおおお!! という奇声を放ちながら連コインし続けたりした二人。

 

 そんな二人は今、少し遠くの高台へとやって来ていた。そこは彼女たちが出逢った、あの高台にある不便な公園。町が一望できる場所で二人並んで夕焼けに赤く萌える町並みを見つめていた。

 

 

「どうしたんですか?」

「ん? ああ。今日が終わればもうお前らとの楽しい時間が終わるからさ」

 

 

 もう少し今日が続きゃ良いんだけどな、残念だ。寂しそうに笑う遊吾。

 

 

「…何で帰したくないようなこと言うんですか………」

「どうしたよ響?」

 

 

 首をかしげる。

 

 全くこの人はどこまで自分の心を掻き乱せば良いのか。いっそここで持ち帰ってやろうかなどと考えつつ響は笑う。

 

 

「何でもないですよ…。でも、私も同じです」

「今日が終わったら遊吾さんは敵に戻るんですよね?」

「…まあ、な。それが俺の最後の戦いだからよ」

 

 

 二人して笑う。その笑みは果たしてどのような笑みか。うまく笑えているだろうか? 上手く言葉を紡げているだろうか?

 

 

「今日は一杯貰いましたね」

「こっちも貰ったな」

 

 

 二人して千円以上かけて手に入れたUFOキャッチャーの景品。どこか響に似た茶色い子犬のマスコットと、彼女から目元が良く似ていると言われた黒い子犬のマスコット。

 

 互いに交換したそれが腰のケースに当たり、首につけられた鈴が鳴る。

 

 

「…ねえ、遊吾さん」

「どうしたよ響」

「ずっと考えてたことがあるんです」

 

 

 響の声に振り返る。そこには何かを決意したような、そんな強い光を放つ瞳。夕焼けよりも輝く笑顔。

 

 何となく察していた。自分と同じく、彼女もまた覚悟を決めたのだろう。彼女に残された時間、それを燃やし尽くすことを。

 

 

「私って、シンフォギアを纏って戦闘を行えばどうなるか分からないわけじゃないですか」

「ああ。だから風鳴司令たちがお前にシンフォギアを纏わせまいとこっ酷く言ったわけだしな」

「私、思ってたんです。シンフォギアを纏えない私に価値はあるのかって…」

 

 

 でも、そんな考えはこの数日で吹き飛んじゃいました。響が笑う。

 

 響は思った。誰かを守ることが出来ない自分に果たして価値はあるのか。だが、その考えは根本的に間違えていたのだ。翼に迷惑をかけた。クリスに迷惑をかけた。弦十郎に、奏に、未来に。多くの人に迷惑をかけ、そして皆の表情は何処か焦っているような、悲しそうな表情ばかりであった。しかし、迷惑をかけた人々は、この数日遊吾と大騒ぎしてみたり、司令達と特訓を行っている内にドンドンとその表情を暗いものから明るい物に変化させていった。

 

 何故なんだろうか? 皆の雰囲気が変わった理由を弦十郎に尋ねたところ、彼はこう言った。

 

 響君は太陽なんだ。日が昇って嬉しくない奴は居ないだろう? と。遊吾の言葉を思いだす。お前の笑顔は誰かを笑顔に出来る。そう。自分の価値はきっとソレなのだ。自分が笑顔で居ることで誰かが元気になってくれる。きっと自分は誰かを笑顔にするために、誰かの笑顔を守るために此処に居るのだ。

 

 ならば、自分が笑顔にしたい人は誰か。私が笑顔にしたい人――

 

 

「遊吾さん――ううん、遊吾。私は、貴方に笑顔で居てほしい」

「…響」

「だって、私の笑顔が誰かの元気になるように。私にとって遊吾の笑顔は未来と同じくらい、いや、それよりも元気になれるから」

 

 

 だから私はシンフォギアを纏います。貴方を止めて、マリアさんたちも止めて。絶対に月も外国も全部、全部何とかしてみます。

 

 

「けど、お前はシンフォギアを纏って戦えば今度こそ死ぬぞ?」

「そんなもの、へいき、へっちゃらです――って、言いたいところですけど、まあアレです。策はありますよ」

 

 

 それに、私がガングニールになれば聖遺物になっちゃいますよね? 彼に尋ねる。

 

 確かに、彼女がガングニールに侵食された場合どうなるかは分からない。聖遺物の塊になってしまうかもしれないし、死んでしまうかもしれない。もしかしたら聖遺物と生命体の融合体と言う人類とはまったく別種の存在になってしまう可能性もある。

 

 

「そりゃまあ、なる可能性はあるな」

「なら、絶対に聖遺物、シンフォギアになる! そして遊吾に纏ってもらう!! 駄目なら聖遺物として遊吾に装備してもらう!!」

「はっ!?」

 

 

 突然の発言に思わず目を見開く遊吾。お前は一体何を言っているんだ!? 発言の意味が分からず困惑する。

 

 

「だって、そうしたらもう二度と遊吾と離れることは無いし、遊吾のことずっと見てられるし」

「……お、お前なぁ。自分で何言ってんのか分かってんのか?」

「当然」

 

 

 どうやら本気でそう考えているらしい。拗らせたら面倒くさい。それは彼女たちの性質であるが、それにしてもこれは予想外である。彼女の覚悟は本物らしいし、これは梃でも動かせそうにない。

 

 

「ったく、面倒くさいなぁこの野郎」

「遊吾には言われたくないです。というか、遊吾が言ったんじゃないですか。私たちは一度拗らせると面倒くさいって」

「…それもそうか」

 

 

 ははは、と二人で笑い合う。

 

 ここまで本気なら仕方がない。彼が公園の柵に立つ。

 

 

「調、切歌!」

「な、なんで分かったデスか!?」

「…流石」

 

 

 公園の木の陰から出てくる金髪と黒髪。調と切歌。どうやら休暇で街に出てきていたらしい。まあ敵と一緒に居るのだからある程度警戒しても仕方がないのだが、何故二人とも顔が真っ赤なのだろうか? 二人の表情に眉を顰めるが、まあ良い。

 

 ついでと言わんばかりに、気配を殺している残りの面子に声をかける――特にベンチの後ろに隠れつつ、尻尾丸出しなアンパン娘にはしっかり言っておこう。

 

 

「クリスー。お前尻尾でてんぞー」

「なぁ!?」

「頭隠さず尻隠さず。アンパンに牛乳スタイルは立派だが、おっちょこちょいなクリスにゃ張り込みは出来そうにないな」

「う、うるせえよこのすっとこどっこい!!」

 

 

 顔を真っ赤にして怒るクリス。そして、上空から降ってくる弦十郎、何もない空間から突如として現れる響一郎、どこからともなく集合した複数人が集まり現れる緒川、木から出てくるようにぬるりと現れる翼、地面から音もなく出てくる奏、段ボールから出てくる藤尭、普通に草むらから出てくる友里。

 

 

「……一体いつから二課は忍者戦隊になったんですかねぇ…。藤尭さんと友里さんはまともで居てくれてありがとうマジで」

 

 

 とりあえずお前らツッコミが追いつかねえんだよ。相も変わらず個性の強い突起物たちに思わずため息を吐きつつ、笑う。

 

 案外、自分があれこれ悩まずともこの面子なら自分よりももっと良い未来が描けたかもしれない。だがそれはあくまでも、もしも、の話。ここまで来たら最後まで突っ走るだけだ。俺の、俺だけの道を。

 

 

――俺は、レベル1の木と、レベル2の地面にレベル5の俺自身をチューニング!!

 

 漆黒の闇を裂き、太陽となりて未来を照らせ!! 今顕現せよ我が魂!! 琰魔竜レッド・デーモン!!

 

 爆炎。少年の身体を光の輪が包み込み、赤き悪魔がその姿を現す。巨大な角。まるでこの世の全ての物を抉り取らんとする分厚く鋭い爪。何処か人を思わせる造形、芸術品を思わせるような完成された肉体。レッド・デーモンズ・ドラゴン。竜の悪魔とは違う、悪魔の竜。

 

 

「乗れ、調、切歌」

「はいデス!」

「うん」

 

 

 二人が差し出されたレッド・デーモンズの掌に乗る。彼女たちの手にあるのはスーパーのビニール袋。チラリと見えた中身はパン粉と卵、そして特売シールの貼られた肉。

 

 

「…まさかお前たち――」

「勝ち取ってきたデス!!」

「タイムセール…主婦、強敵だった。でも、頑張ったッ!」

 

 

 どうだ! と言わんばかりに得意げな顔をする二人の頭を無骨な腕で軽く撫でてやる。どうやら今日の晩御飯は縁起物ということでカツ丼らしい。

 

 

「さて、特異災害対策機動部二課の面々よ。楽しかったぞ、貴様らとの友情ごっこ」

 

 

 これで名実共に貴様らは俺の敵だ。

 

 そう静かに語るレッド・デーモンの赤い瞳。その瞳に容赦の文字は無い。もしもここで戦闘を開始しようものなら街丸ごと焼き払ってでも二課の面々を滅ぼしにかかるだろう。そう思わせる程の殺気。その威圧感は正しく万物を睥睨せし絶対王者。

 

 その場にいる全員がその威圧感に戦慄し、無意識に戦闘態勢をとってしまう中、響だけは口元に笑みをたたえて言う。

 

 

「遊吾が敵でも構いません。私はこの想いを貫くまで」

 

 

 最短で、一直線に。

 

 拳を突き出す響。その先にあるのは彼の胸の中心。レッド・デーモンが表情を歪ませ、その鋭い牙をギラリと光らせる。だが、そんな恐怖を覚えるような表情に彼女は彼の笑顔を見た。

 

 互いに語る言葉は無い。笑顔でお別れ、それは出会った日からやっていることだから。立場が変わってもやることは変わらないのだ。

 

 レッド・デーモンがその背の巨大な翼を羽ばたかせる。嵐のような熱風が二課の面々を襲う。思わず目を背け、次に皆がレッド・デーモンの居た場所を見ればそこは既に何も残っておらず、真っ赤な夕焼けの中に溶ける巨竜の姿のみ。

 

 

「さ、皆!! 気合入れて頑張りますよ!!」

 

 

 響が笑顔で皆の方へ振り返る。決戦の時だ。覚悟を決めた彼女の言葉に、皆が応! と答える。

 

 

――覚悟しておいてくださいよ、遊吾?

 

 

 笑う響に応じるように、巨竜の咆哮が響き渡った。

 

 

 

 

「…調、私はウェル博士――ううん、遊吾の側につくデス」

「切ちゃん!? でも、それは――」

「兄を――家族を支えるのは、私の役割デスッ」

 

 

「こふっ!? …か、カレーが、足りない――」

「マムっ!? 身体が――」

「おら、これでも食らえェい!!」

「もがっ!?」

「ちょっ!? ユーゴ!?」

「モウヤンのカレーだ。美味かろう」

「…ウマイ! もう一杯!」

「マムっ!?」

 

 

「――未来」

「…響」

 

 

 見せてあげる。私の歌――私の決闘をッ!!

 

 

「私は、神獣鏡をチューニングし、オーバーレイネットワークを構築ッ!!」

「シンクロをエクシーズにするッ!?」

 

 

 未来を中心とした緑色の輪が、新たな銀河を作りだす。白と黒。二つが混じり合い、新たな光が生み出される。

 

 

――これが私のシンフォギアッ!! 真鏡―神獣鏡ッ!!

 

 

「なっ!? 神獣鏡にそんなシステムは搭載してい無い筈――」

「これが私の愛の力ですッ!!」

『何故そこで愛ッ!?』

「…な、何で未来が神獣鏡を纏ってんだ。俺、神獣鏡を纏わせないように頑張ったはずなのに…。どうしてこうなったッ!?」

 

 

「遊吾さんの為、響の為。さあ響――」

 

 

 私と、決闘しよう?

 

 

「決闘の開始を宣言してくださいッ!! 翼さん!!」

「では――ごほん。デュエル開始ぃぃいいいいいい!!」

「響ぃぃいいいいいいいッ!!」

「未ィ来ゥぅううううッッ!!」

 

 

 命を燃料の如く消費することで太陽の如き光を放つ槍を纏う少女と、その光を浴びて輝く鏡を纏う少女が今――交差した。




焼肉に行ってオニックゲインと、カラオケに行ってフォニックゲインを高めてました。

さあ、次は未来(白黒軸)VS響(ウォリアーワンキル)によるガチガチのキャットファイト。果たして勝つのはどっちだ!?


唐突に湧き出たネタ


「…ふははは!! 仕方がない。こうなればこれで街をカオスに陥れてくれるッ!!」
「なっ、あれは――!?」
空を行く母艦型ノイズから予備のキャロルが一斉に解き放たれる。
「あ、あれはキャロルちゃんッ!? ――キャロルちゃんのお母さんとお父さんハッスルしすぎだよ!?」
「何をどうしたらそんな思考に行きつくのだ貴様ぁああああ!?」
「馬鹿響ッ! そんなデリケートな話題を子供に話すんじゃねえッ!! 子供はキャベツ畑で拾われるか、コウノトリが運んでくるって信じてるかもしれないだろうがッ!!」
「ハッ!? ご、ごめんキャロルちゃんッ!!」
「それぐらい知っとるわぁああ!!」
「キャロルッ! 子供がそんな破廉恥な知識を自慢するべきではないぞッ!!」
「アホか!? アホなのか貴様らはッ!?」
「――子供ってコウノトリに運んでもらうんじゃねえのか」
「まさかのッ!? 雪音クリスッ貴様その年でまだ知らんのかッ!?」
「馬鹿野郎ッ! クリスはあれでもお嬢様なんだぞッ!! ヒャッハーとかスーパー懺悔タイムとか歌ってるけどッ!!」
「そうですよッ! クリスちゃんは純粋ないい子なんですよッ!! ネフシュタン纏って生き恥アングルとかバァンとか野良猫とか色々やってますけどッ!!」
「てめぇら先に始末されてぇようだなぁッッ!!」\バッケンバッケンバッケン/
『アッー!?』
「な、何が起こっているんだ…」
「キャロル、理解できたようだなッ! これが私たちS.O.N.Gの結束の力だッ!!」
「噂通り、とっきぶつ怖い!?」
「…流石に、派手すぎだ」
「レイアッ!? ――え? 今確かに………もう帰ろっかな…」

 キャロルたちよりもS.O.N.Gの面子の方がカオスだったと言う話。
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