遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~ 作:特撮仮面
閃光。収束されたフォニックゲインが光となって海面を焼き払う。膨大な熱量に海面が膨張し、小規模の水蒸気爆発を発生させる。
飛翔。脚部が空を轟かせ、肩部噴射機構が咆哮を上げる。後方より迫る閃光、だがそれは彼女の身体を捉えることなく海へと消える。
米国の空母、戦艦。フロンティア浮上を目指す武装組織フィーネを抹消するために米国政府が送り込んだ刺客。だがそれらはユー・トイルイ・テッシによる電子攻撃によりその機能の大半を停止させており、現在戦闘を行っているのは、ユーと交戦しているクリスと翼。そしてほんの些細なことで分裂しそうになっている調と切歌。
つまり、今の二人を邪魔するものは誰も居ない。
「未来! 私には時間がないんだよ!! 三分だよ三分!! カップ麺作れて光の巨人だよ!!」
「なら今すぐ戦うのやめてよ!! せーのっで!!」
「せーの? それ、せーのののでやめるの? それとものっでやめるの!?」
「私に合わせてくれれば良いよ!!」
いくよっ!!
未来の周囲を周回していたORUが胸に吸い込まれていく。背中の装甲が扇めいて展開され、更に鏡を割るような音とともに脚部装甲が展開、内部に格納される部品が翼めいて展開。無数の羽が中へと舞い上がる。
せぇー――
右前腕部の装甲をスライド。バシュッという音とともに内部機構が作動。羽虫の羽ばたきめいた甲高い音が放たれ、宙に放出されているフォニックゲインを収束、響自身のフォニックゲインと共にその威力を増幅させる。
――のぉッッ!!
流星――未来の背部の扇のような装甲、展開された一枚一枚が砲台であり、それらがエネルギーを一点に集中させることで未来の身体を遥かに上回るエネルギーが、宇宙を駆ける箒星めいて響に迫る。
一撃――最短で一直線に。圧倒的破壊力の奔流を前に、響は恐れることなく肩部噴射機構を点火。脚部バンカーが空を穿ち、彼女の咆哮がガングニールを更に輝かせる。
星に負けぬ太陽の輝き。山吹色の槍が流星に真っ正面から衝突する。一瞬の拮抗、しかし流星の煌めきは太陽の輝きに呑み込まれてその光を四散させていく。
「届けェェえええッッ!!」
振り抜いた右腕。即座に左腕の装甲がチャージを開始。流星を打ち破ったことで、未来の身体は目の前だ。拳を握り締める。響の拳の破壊力は、あらゆる対象を一撃で戦闘不能に追い込む。この一撃を受けてしまえば、いかなシンフォギアであっても耐えきることはできないだろう。
――これで、終わりッ!!
当たれば、だが。
「あぐッ!?」
背中に激痛。シンフォギアが瞬間機能を停止、強制的に装甲が剥ぎ取られる。
突然の出来事に慌てて回避行動を行おうとする響。だが、それよりも早くソレが襲い掛かる。
「貴女の輝きは綺麗だよね――」
「こ、これ――」
「ねえ響、あの時みたいだって、思わない?」
可愛らしく小首をかしげる未来だが、彼女が行っていることは限り無くえげつない。
鏡は本来、呪術や儀式などに用いられる道具であった。また、鏡は異界に続く扉としても活用されてきた。前者は日本史で習う邪馬台国、後者はあわせ鏡などが有名であろうか。
今でこそ鏡は自分の身だしなみを整えるための道具程度であるが、本来の鏡は神の意を知り、魔を祓う役割を持っていた。
ならば、元々儀式の道具として職人により造り上げられ、数多の魔を祓ってきた神獣鏡はどのような力を持っているのか――
「ぐゥッ!?」
響が避ける、だが、避けた先には閃光。シンフォギアがエラーを起こし、その装甲が介助されそうになる。
獅子万華鏡。まるで星空がまるごと降ってきたような閃光。神獣鏡より放たれた光が、万華鏡の名の通り何百何千と形を変え襲い来る。響が四散させた流星は、事前にばら蒔かれていた無数の鏡によってそのエネルギーを減衰させること無く反射。四方八方、人間の知覚範囲を遥かに上回る全方位攻撃。
シンフォギアとしての神獣鏡の性能は、全シンフォギアの中でもトップクラスの低さを誇る。他のシンフォギアと違い、単独飛行が可能と言った特性こそあるが、それ以外の攻撃力、防御力、機動力は全てあらゆるシンフォギアを下回る。
確かに、今の神獣鏡は未来が行った、シンクロによる進化とエクシーズによる出力の安定化によって通常稼働形態と比べればその性能は段違いであるが、現在の響――融合、侵食を無視した百パーセントの完全稼働状態のガングニールと比べればその戦闘能力の差は歴然。横綱と赤子、三輪車とF1カーだ。
無論、装者の技量の差もあってその差は更に広がっている。だが、そんな神獣鏡を纏う未来に何故響が苦戦を強いられているのか。
それは、先程からシンフォギアに発生している機能不全が原因だ。
ヘリの光学迷彩などに活用されていたが、神獣鏡の持つ本来の力は魔を祓う、破魔とも言える力。
魔、と言われれば、悪魔や妖怪など悪い存在を想像するだろうが、この場合の魔はそれらの怪異だけではなく、もっと純粋な神秘――超常的な力に作用する。
機械という科学の産物が一部使用されているが、シンフォギアの大本となる技術は異端技術。現在の科学では再現できない、ある種の魔法のような技術により作り上げられた物だ。
つまり、神獣鏡にとって、シンフォギア及び異端技術とは即ち異常な存在であり、祓うべき魔なのである。
また、その装者たる小日向未来にとって、異端技術とは敵。日常を脅かし、大切なものを傷付ける魔物。ノイズ、そしてガングニール。響を助けたのは異端技術であるが、響を傷付けるのもまた異端技術。故に未来はそれを祓う。
シンフォギアは、歌を、想いを力と変える。ならば、二つの思いが重なってしまえばどうなるか。それは想像するに容易い。
「こ、んのぉおお!!」
響が雄叫びと共に未来に向かって突撃。全方位攻撃は避けることができない。仮に全てを避けきったとしても彼女の身体は制限時間付きだ。未来を止める前に自分の時間がつきてしまう。故に彼女は自分のシンフォギアを信じる。
「けどっ!!」
未来が動く。反射された流星が一ヶ所に集まり再度巨大な星となって響に迫る。いくら反射によってエネルギーが減衰しているといってもその一撃をまともに受ければ無事ではすまない――はずだった。
「いッッけぇええええ!!」
空中旋回。遠心力と歌による支援を受けた左の拳が流星に突き刺さる。
爆発――爆炎の中から光が溢れる。煙を纏って飛び出してくるのは、無傷の響。
「未来っ!!」
「く、のぉおお!!」
がっしりと彼女の身体を拘束しようとする響。腕に捕まれれば神獣鏡の出力では逃れることができない。故に彼女がとった行動は、
「いぎッ!?」
「このままァ!!」
「みっ、くぅううう!!」
ヘッドバットだ。響に掴まれた瞬間、未来が放った、鍛えられた体幹の筋肉と陸上選手特有の身体のバネ利用した全力の頭部降り下ろし、否、降り落とし。
ゴツンッ、という思わず顔を背けてしまいそうになる鈍い音が響き渡る。互いの額が割れ、赤い鮮血が飛ぶ。
突然の頭部への衝撃に仰け反る響。だが、ここで逃したらもう未来を捕まえる場面は無い。意地、響最大の武器である精神力、ガッツが未来の身体を離さない。
「こ、のっ! 何で戦うのッ!! 響も、遊吾さんもッ!! 私は二人を止めたいだけなのにッ!!」
「私が遊吾を止める。大丈夫だよ未来」
ガッツリと掴み合う。空中での力比べは部が悪い。自然と高度を落とし、甲板に着陸する二人。瞬間甲板がクレーターのように凹む。パワーファイターである響に力で均衡する未来。それはシンフォギアの力か、それとも未来の本来持つ底力か。
ゼロに近い距離で安心してと笑う。馬鹿を言え、その笑顔をどれだけ見たと思っているんだ。そうやって自分の運命を悟ったような表情。響も、遊吾もッ!!
「なんで、なんでそんな顔をするのッ!?」
「未来?」
「そうやって何でも悟った顔をしてッ!! 響も、遊吾もッ! 二人とも居なくなるッ!! 嫌いだよッ、響も、遊吾も、そうやってッ!! 嫌なのッ!! 離ればなれになるのがッ!! そうやって私の知らないところで二人が傷付くのがッ!!」
何度も思うことがある。ライブ事件の日に、もし自分が用事を無視してライブに一緒に向かっていれば。ルナアタックの時、もし私にシンフォギアがあったなら、二人が居なくなることはなかったのではないか。
厳密に言えば二人とも死んだわけではないし、しっかりと帰ってきている。だが、それでも二人が帰ってこなかった時の喪失感、絶望感は未来に確かな傷跡を残している。
自分達を守るためだということは分かっている。響の思いはよくわかる。遊吾の計画だって、マリアたちフィーネの人間たちの性格を見れば一発でわかる。
二人とも、守る為に戦っている。手段は違うが、それが二人の根本にある想いだ。だが、二人ともわかっていない。二人が傷つくことで悲しむ人がいることに、二人が居なくなることで何もできなくなる人が居ることに。
「だから今度は私が護るんだッ!! 二人をッ!! この、神獣鏡でェッ!!」
「さっせるかぁぁあああ!!」
砲台が再度展開、零距離での砲撃。察知した響は掴んだ腕を利用してその場で跳躍。ドロップキックの要領で未来の腹に両足を叩き込む。
これをまともに受けてしまう未来。まるでダンプカーに轢かれたかのような衝撃。だが、終わらない。終わらせてたまるものかッ!!
歯を食い縛る。シンフォギアが装者を守るためにその保護機能を最大限に起動させて痛みを噛み殺す。そして閃光が響の身体を呑み込み――
爆炎が空を染めた。
※※※※※※※
「こりゃまた面倒な状況になりやがったな…」
戦艦上部。そこでユーこと遊吾がボソリと呟いた。彼の背後には黄色と黒のストライプの装甲の機械の獣。表面に刻まれた数字は34。
アメリカの艦は、このNo.34電算機獣テラ・バイトの力によりその半分以上の機能を停止。フィーネの行動に一切の干渉を行えない状態となっていた。更に、シンフォギア装者との戦いでは、月読調の裏切りという予想通りの展開こそあったものの、基本的にフィーネ側が押している状態。
だが、問題はフロンティアの起動であった。
小日向未来が身に纏うシンフォギア神獣鏡。聖遺物由来の力を無効化することが出来るその輝きを用いることによって封印を解くことを考えていた。だが、神獣鏡は現在未来が完全に制御している状態であり、更にその攻撃は全て立花響に向かっている。これではフロンティアの封印を解くことが難しいだろう。
――まあ、そこらへんは恐らくウェルの野郎が何とかするだろう。駄目なら最悪俺が何とかするしかない。
さて、どうしたものか。上空の苛烈極まる戦いを眺めながらのんびりと考える遊吾。
「余所見してんじゃねぇえええッ!!」
咆哮と共にミサイルが迫る。何てことは無い。雪音クリスの攻撃だ。
暁切歌は現在、風鳴翼によって身動きができない状態。月読調は戦意喪失。ウェル博士の考えでは弱い者を守ることは出来ない。そう言って戦うことを拒否した。
切歌はそれを覚悟していたようで、そこまでの混乱はなかった。とりあえず足止めをしてもらっているが、流石に翼の相手は分が悪い。とはいえ二人がかりで掛かってくることを考えれば少しは楽だ。切歌はよくやってくれている。
「トラップオープン、くず鉄のかかし」
彼の目の前に鋼鉄のかかしが現れる。くず鉄の名の通りバケツや襤褸布などお世辞にもよいと言えない素材で組み上げられた不格好な案山子にミサイルも弾丸も吸い込まれていく。だが、どれだけ撃たれようと爆発しようと案山子が壊れることは無い。
全ての攻撃が止んだことで、案山子は再度空に溶けていく。罠カード、くず鉄のかかし。一ターンに一度あらゆる攻撃を無効化する罠カードであり、またこのカードは発動後再度場にセットされるため何度でも使用することが出来るというデュエルモンスターズの中でも類を見ない防御カードの一つだ。
「くっ、何度も何度も!!」
思わず歯噛みするクリス。彼女の攻撃は全て案山子によって防がれてしまい、響たちの援護に行こうにも彼が召喚するモンスターたちによってそれも行えない。
「てめぇ、ふざけんなよ!? 決闘を武器にしやがってッ!!」
決闘盤によって呼び出される数多のモンスターたち。そして、それらを支援する魔法と罠。
決闘は人を悲しませるための武器ではない。彼の試合と、彼との交流によって決闘がどのようなものかを知った。そして、決闘を誰かの笑顔のために、誰かを楽しませるためにと使う者たちを知った。遊吾もその一人であったはずだ。
だが、今の彼は決闘を武器として利用し誰かを傷つけようとしている。それは違うだろう! だが、そんな彼女に向ける彼の視線はとても冷たい。
「何を馬鹿なことを…。決闘が武器でなくてなんと言うのだ?」
「なっ!? てめぇは確かに言ってたじゃねえか。決闘は誰かを笑顔にするためのものだって」
「…ふっ、随分と愉快な思考をしているらしいなぁ」
「っんだと!?」
だってそうだろう。彼が歪に笑う。
「決闘は元より戦の道具に過ぎん! 神すらも使役し、邪魔するものを排除する。それが決闘の本質だ。それとも何か? 俺の言葉を完全に信じきっていたのか?」
「ば、馬鹿を言うんじゃねえよ…」
お前がそんな事を言うはずがないだろ。唇を震わせる。怒れ。彼は考える。今の自分の状況は限りなく悪い。現状を知られず、尚且つ作戦を成功させるにはこちらに釘付けにし続ける必要がある。故に彼は黒い布の中で表情を歪める。
「やれやれ…まだわからんと見える。じゃあ雪音クリス。お前に問おう。その武器は何だ?」
「…武器?」
「確か、お前は言っていたな? 歌で平和を――と。ならばその手にあるガトリングはなんだ? 腰のミサイルは?」
「そ、それは――」
「それらは確かに殺意の象徴。戦いの象徴だ。歌を用いて世界を平和にするというのに、何故そんなものが必要なのだ?」
「…勝ち取らなきゃいけねぇからだ」
いっそ大げさに身振り手振りを加えながら彼がオペラのようにうたう。平和と戦争のための武器。平和を得る為には闘わなければならないという矛盾を。
「そう。それが無ければ平和は勝ち取れない。そうだ!! その通りだとも!! 正義など所詮は偽ィ善ッ!! 平和とは虚ォ構ッ!! 戦わなければ勝ち取ることは出来ない!!」
「何が言いたいんだよ――ッ!!」
「鈍いなァ?」
こういうことだよォ!! 俺のターン、ドロー!!
手札に引き当てられたのは、ライトニングボルテックス。手札一枚をコストとして支払うことで相手フィールド上のモンスターを全て破壊する魔法カード。
それを見て思わず顔を顰める。
やはり、だ。このデッキ、闘うことを完全に拒否している。本来のこのデッキはランク3エクシーズモンスターを召喚するようなデッキではなく、大型シンクロモンスターを次々に召喚し、圧倒するデッキである。だが、と彼はちらりと手札を確認する。
手札にあるのは軒並み高レベルモンスター。電算機獣の力により戦艦などの行動を無力化している以上は通常召喚する術はなく、手札で腐り続ける。使えるものは先に引いたレベル3のモンスターとくず鉄のかかしのみ。
簡単に言えば手札事故である。だが、このカードでとりあえずは何とかならないことは無い。彼は決闘盤に今引いたカードを差し込み、宣言する。
「俺は手札からライトニングボルテックスを発動!! 手札一枚をコストに――相手フィールド上のモンスターを全て破壊するッ!!」
天上より、雷が装者たちに襲い掛かった。
※※※※※※※
「翼さん!? クリス!?」
「他の子を見てる暇あるのッ!!」
空を切り裂く雷に思わずそちらを向いてしまう響。その隙を逃す未来ではない。神獣鏡がチャージを開始。時間を置かず流星が響に迫る。
だが、響とて幾度となく戦場を駆け抜けてきた兵。真正面から流星を左腕で殴りつける。装甲が自動で稼働。フォニックゲインを衝撃に変換することで、パイルバンカーの如く流星を打ち砕く。
「――響、その腕!?」
「あらら、バレちゃった?」
悪戯がバレた子供のように響が舌を出して笑う。
彼女の左腕は装甲がより厚く、拳はより鋭くなっており、更に彼女の身体の至る所には突起物――彼女の身に纏うフォニックゲインと同じ山吹色の結晶が生えていた。
それは、彼女のシンフォギアとの融合が進行しているという証拠。融合が進行することによりフォニックゲインの放出量が限界を越えることで、彼女の身体は熱暴走を起こす。身体を侵食する遺物がどれだけ苦しいだろう。だが、彼女は笑っていた。
なんでそんな状態で尚笑っていられるんだ。理解ができない未来は神獣鏡に指令を送る。あの光を放つ原因、彼女の身を侵食する聖遺物を排除せよと。神獣鏡は装者の願いを反映する。
距離をとる未来。
「ねえ、未来?」
先程と同じく空に鏡が展開され、それは神獣鏡の光を浴びて雪のように輝きながら舞う。穏やかでありながら苛烈。優しさの中に確かな厳しさをもった未来らしい光。
ガングニールからの警告。あれを受ければ只ではすまない。耳元から響く藤尭たちオペレーターの声。自分の身体は危険域に突入しているらしい。何となくわかる。先程の砲撃を受け止めた際に装甲を追加するなどの負荷を加えたことで侵食が早まっているらしい。
「私、自分に価値ってないと思ってるんだ」
「っ!? そんなこと――」
「あるんだよ。ねえ未来、私がリハビリから帰ってきて最初に言われたことが何か知ってる?」
言葉に詰まる。直接は知らないが、何を言われたかは風の噂で聞いたから。
「なんで貴女なんかが! だよ? 私だって必死だったのにさ…」
遊吾、そして二課の人々との関わりにより己の価値を見直すことができた。
だが、今でも思い出すことができる。友人だと思っていた人が、悪意をもって接してくるあの感覚。怒りよりも悲しみよりも、虚しさが溢れる。
「でも、シンフォギアに出会ってから全部変わったんだ」
あの日、シンフォギアを身に纏った日、彼女はなんの躊躇もなく二課に協力使用と思ったわけではない。
いくら正義感が強いからといって、それまでただの一般人でしかなかった響。そんな彼女が二課所属の装者となったのにはしっかりとした理由があった。
それは、護ること。彼女はいつも守られてきた。未来に、遊吾に。だからこそ彼女は二人の助けになればと思った。特異災害であるノイズは何時発生するかも分からない。しかも、発生してしまえばノイズたちの活動限界時間まで逃げ続けるくらいしか人間には対処する術がない。遊吾は不思議な力で何とかしていることもあったけれども、それでもノイズに触れられたら炭に変わってしまう。それこそ、未来は不思議な力を欠片も持ち合わせていないのだから尚更だ。
だからこそ彼女は二課に所属することを決めたのだ。何時も無茶してばかりの自分を見守り、助けてくれる未来と遊吾。二人を守るためには最前線且つノイズに対するノウハウのある二課に所属していたほうが何かと都合がいいし、シンフォギアという力を制御するのに立花響という少女一人の知恵では到底制御しきれると思っていなかったから。ふって湧いたシンフォギア装者という立場に、大切なものを守れる自分というモノを見出したからこその選択。
あれから色々とあった。D-noiseとの初めての遭遇。翼とのぶつかり合い。クリスとの戦闘。D-noiseが遊吾・アトラスであるということを知ったからこその彼との初めての決闘。フィーネとの戦いで見つけたシンフォギアの、自分の力の振るい方。
自分の生き方、自分の道。今まで漠然としかしていなかった己の未来。それらは全てシンフォギアと、ガングニールと出会って始まったのだ。
「私はいつも未来に、遊吾に助けられてばかりで。だからガングニールを使えるって知った時は凄く嬉しかったんだ」
「…でも、そのせいで響は苦しんでるんだよ? 遊吾さんだって無理してる」
誰かを護りたい。その思いは響も未来も同じだった。だが、未来は滅茶苦茶になりそうな二人との繋がりを、危険なことをしている二人を止める為にもここで戦わなければならない。響は遊吾を止める為にもここでガングニールを失うわけにはいかないし、未来をこのまま放置しておくわけにもいかない。切歌たちの驚きようから恐らく神獣鏡をシンクロさせたのはあちらの計算違い。となれば、未来に神獣鏡を渡す際に何か細工をしているとも限らない。だから神獣鏡を止める必要がある。
「未来、道だよ」
「道?」
「そう、それが戦いの、栄光の道。それが私の選んだ道だから」
だから見せるよ。私の道、その先を――ッ!!
響が構えを解き、大きく息を吸いこむ。絶唱? もしくは更なる秘策? 何にしてもここで潰しておいて損は無い。だが未来はあえてその選択はすること無く、その目に彼女の光を焼き付ける。
シンフォギアを稼働させるのに重要なのは歌とイメージだ。シンフォギアは装者の心象風景を歌やアームドギアに変換する。
制限時間なんて関係ない。今此処で限界を突き破らないで何がシンフォギアか。ここで想いを貫けないで何がガングニールかッ!!
現在の響のガングニールは二つの状態に分かれている。シンフォギアとして稼働している外部装甲や武装であるガングニールと、彼女の身体を保護、強化している聖遺物であるガングニールの二つ。
これらは全て一つであるように見えるが、実際は心臓に存在する核となる部分を司令塔とした全く別の存在なのである。シンフォギアを纏う際に聖遺物を全て装甲などに変換してしまえば彼女の身体は内部から崩壊してしまうため、当然と言えば当然である。
ならば、この分かれている二つの機能を完全に一つにすればどうなるか。自分の生命維持、強化のための聖遺物と外装たるシンフォギアの二つを同調させれば、今よりもより強力な力へと変化するはずだ。
故に彼女は想う。より強い力を。誰よりも強く、誇り高い王者の姿を。
彼女の胸に刻まれた、音楽記号のフォルテを思わせる傷跡が光り輝く。響はその光をそっと掴み、力強く握りしめた。
全身から光が溢れ、それは金色の輝きとなって彼女を包み込む。静寂にして苛烈。光は巨大な輪となって彼女を包み、金色の輝きは彼女の身体を太陽の輝きすらも凌駕する黄金となって彼女の身体を染め上げる。
解除されたフォニックゲインが星の光となり彼女の身体に次々と吸い込まれ、海上が歌に包み込まれた。
「これが私の生きる道ッ!! これが私の――私たちのッ!! 撃槍・ガングニールだぁあああああ!!」
雄叫び。暴力的なフォニックゲインが荒れ狂う風となって海面を焼き、甲板で戦う者たちを、空を行く武装ヘリを揺らす。
脚甲はより太く、鋭く。マフラーは翼を思わせる荒々しいものへと変化。腕部装甲は丸太めいてごつく、分厚く、巨大剣のように鋭く分厚い拳。身体からはみ出ていた聖遺物は整形され透き通った結晶に、まるで元からその形であったかのように彼女の身体から溢れ出すフォニックゲインを放出させる。
異物、異形でありながら、彼女を思わせ、彼女であるとはっきりと分かる姿。太陽がそのまま人の形をとったような姿。
「綺麗…」
言葉がこぼれる。それは心の底から湧き出た言葉。先程まで嫌悪、破壊しなければならないと考えていたガングニールの輝きだが、今はそんな感情は微塵も湧き起らず、あるのは彼女の眩しい笑顔と、太陽を、気高い王者の鼓動を思わせる光を放つガングニールをただただ美しいとしか感じられない。
『――ちゃん!! 未来ちゃん!!』
「マリアさん?」
未来の耳に届くマリアの声。戦闘に夢中で全く気づいていなかったが、どうやら何度も呼びかけてくれていたらしい。
『援護するわ。…と言っても、ちょっと邪魔しちゃうかもしれないけど』
「…あ、ごめんなさい。無断でこんなことしちゃって」
彼女の言葉に思わず謝ってしまう。
マリア・カデンツァヴナ・イヴ。彼女と話して初めて感じたことは、響のような人、であった。身長やスタイルなどではなく、その在り方。誰かを助けたいという姿と、何だかんだでお節介焼きで誰かのために笑顔になれる、だけど精神的に脆い。
どこか響に似た女性であるマリアと未来が仲良くなるのにそう時間はかからず、ほんの数日だけであったがそれだけでテレビ、そしてライブ会場で見たマリアはあくまでも一つの側面でしかないと理解した未来。未来が神獣鏡を纏うためにリンカーによる調整を受ける際も、こちらの気持ちを汲みながらも他に方法はないのかと問い続けてくれた優しい人。
出撃する前の段階で、神獣鏡の力によってフロンティアの封印を解くと聞いていたがそれをすっかり忘れていた。
申し訳なさそうに謝る未来にマリアは無線越しにクスクスと笑う。
『いいわよ。私はそういうの好きだしね』
「マリアさん…」
冗談めかして言うマリアに、口元を綻ばせて未来が言った。
「分かりました。あの響ちょっと倒すの大変そうだから、力貸してください!」
『ええ、任せて。…これって日本で言う初めての共同作業ってやつなのかしらね』
「それ意味違います――いや、あってるのかな?」
武装ヘリが動く。同時にヘリから射出される円筒形の物体――プロペラによって飛行する鏡。神獣鏡の砲撃を収束し、指定ポイントへ照射するための装置だ。
それを確認した未来が、響へと向き直る。
互いに言葉は無い。だが、構えた拳が、交差する視線が全てを物語る。
先に動いたのは未来だ。空中を浮遊していた最後のORUが彼女の胸に吸い込まれる。同時に展開されていた鏡、自立稼働型の砲台でもあるそれが一斉に未来の前面に展開され、一斉に咆哮を上げる。
雨あられのように降り注ぐ閃光。響が放出したフォニックゲインを吸収したことによってより威力の増した砲撃の雨を前に、響が選択したのは――
「いっけぇえええええッッ!!」
「ッ!? 突撃!?」
黄金の輝きが、雨の中を突き抜ける。その光景はさながら空を駆けのぼる流星。
いかな装甲であっても、聖遺物由来の力を無効化する効果の前には無意味。だが、今の彼女は他のシンフォギアの追随を許さないレベルの強固なシンフォギアと身体の結合。己をシンフォギアとせんとするシンフォギアと聖遺物の多重同調によって、今の彼女が纏うシンフォギアは彼女の身体そのものと言っても過言ではない。
つまり、今の彼女はシンフォギアを纏っているのではなく、シンフォギアが彼女という状態。ならば、その力の由来はシンフォギアではなく彼女自身。故にその影響を極限まで減らしているのだ。
「突っ込んでくるとか流石に脳筋過ぎない!?」
脳筋、ごり押しにも程がある。避けるという選択肢が元々無かったと言わんばかりの想いきりの良さに、砲撃で牽制しながら未来が吠える。
「私だって、翼さんみたいにスタイリッシュに避けたかったよ!? でも、横に避けたら色々当たるじゃん!!」
横に避ける――つまり、胴体をそらすことによって最小限の動きでの回避。
響の言葉に未来は思わず彼女の身体を見る。
今でこそ装甲などでゴテゴテしているモノの、響の身体はインナーマッスルが鍛えられ結構なプロポーションを誇る。本人は自分はあまり、と言っているが、その鍛えられた肉体は健康的な色気を放ち、結構な量食べているはずなのにその身体はダイエット知らずだ。最近ちょっとお腹のお肉を気にし始めた未来に対し、彼女はその倍ほど食べながらも身体はスラリと野獣めいた美しさを保っている。
そして次に見るのは、最近自分よりも大きくなったらしい胸。大きさの秘訣は想いの強さらしいが、想いの深さでは自分だって負けてい無い筈だ。
ん? そこで未来は引っかかる。身体を横に、最小限に避けるということはつまり、身体の前面スレスレを攻撃が通るということ。ならば、自然と出っ張っているモノが無い方が――
「響!? なんて、何てことを!?」
「いや、だって本当じゃん!! クリスちゃんだってこれやりにくそうにしてたし!!」
「凹凸がないことを気にしてる人もいるんだよ!?」
時折放たれる強力な一撃を拳で打ち落としながら彼女が叫ぶ。
甲板の上の面々が話の流れでクリスを見る。横に避ける、凹凸。そこまで考えたところで、遊吾の視線がクリスの胸に。そしてその視線は流れるように翼の胸へと――
「ああ、そういう…」
「た、立花ぁああああ!?」
翼が叫ぶ。自分たちが心配している中、張本人は自分の気にしている身体的特徴を使っての暴言である。私だって、私だってなぁ。ぐぎぎと奥歯を噛み締め悔しそうに拳を握りしめる翼。
そんな彼女のことを不憫に思ったらしく、切歌がフォローするように言う。
「だ、大丈夫デスよ。まだ成長の余地は――」
その言葉を聞いた翼が切歌を見――すわった眼をして彼女の首筋に刃を突きつける。
ヒィ!? その尋常ならざる雰囲気に思わず悲鳴を上げる切歌。すると、そんな彼女に調が声をかけた。
「切ちゃん」
「し、調!? ヘルプミーデス!!」
「…ギルティ」
「調!?」
風鳴翼、私も手伝う。怒りに震える調。何故同調しているのか全く分からない切歌の、デ~ス!? という悲鳴が海上に響き渡り、
「なるほど…削ぎ落されかねない、と」
「…いやらしい目でこっち見てんじゃねェエエエ!!」
「しまった!? くず鉄――ぐわぁあああ!?」
効果宣言を行えず爆散する男の悲鳴が海面を揺らすのであった。
年末で忙しいのと、書きたいことが多くて話が進まないよハルトォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!