遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~   作:特撮仮面

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彼女と彼女たちと新天地と

「ぐ、ぐぐぐ。まさか胸を利用してまで此方に攻撃を仕掛けるとは…なんと姑息なッ」

「…前から思ってたけどよ、お前ら三人時々物凄い馬鹿だよな」

 

 

 なんと、なんと姑息なッ! と忌々しげに言う遊吾へクリスが冷たい視線を送りながら言う。

 

 立花響、小日向未来、遊吾・アトラス。この三人は誰の影響か――いや、どこぞの遊吾某の影響で時々凄く頭が悪くなる。

 

 例として挙げるのならば、D-noise時代の遊吾のopaaaiという雄叫びや、今さっきの響の巨乳突撃発言など。

 

 別にそれが悪いとは言わない。頭が悪いがそれを行うことは利に叶っているし、馬鹿が言えるということはつまりそれだけ思考に余裕があるということである。

 

 

「酷いな。まあ、否定はしないさ」

 

 

 そう言いながら遊吾は決闘盤からカードを外し、デッキを腰のポーチにしまいはじめる。

 

 

「なんでしまってんだ」

「俺の仕事は終わり。もうこれ以上モンスターを維持する必要はないし――」

 

 

 何より、あの戦いの結末を見届けなきゃいけねぇよ。静かに空を見上げる遊吾。視線の先にはぶつかり合う二つの光。

 

 その静かすぎる眼差しに何処か不穏な空気を感じつつ、クリスも銃を下ろす。

 

 

「ああ、そうだクリス」

「なんだよ?」

 

 

 空の戦いから目を逸らさないまま遊吾はクリスに声をかけた。

 

 

『うちに来ないか?』

「…唐突だな」

『少し手伝ってもらいたいことがあってな』

 

 

 念話。突然脳内に響き渡った彼の声に驚くが表面上はなんとか平静を装いながら、彼に尋ねる。

 

 

「手伝ってほしいこと?」

『ああ。内容は――』

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

「まだッ、まだァ!!」

「こんのぉ!」

 

 

 閃光、流星。膨大な量のフォニックゲインを指向性エネルギーへ変換し撃ち放つ。シューティングゲームの弾幕のような連射。雨霰のように小型のビームが降り注ぎ、その上に重ねるように極太の砲撃が襲い掛かる。

 

 しかも、それらの砲撃は対象に当たらなくとも空中を飛び回る無数の反射装置によりそのエネルギーを減衰させることなく反射、再び対象に襲い掛かる。

 

 指定ポイントへの砲撃を準備しながらもしっかりと未来の援護を行うその手腕は見事なものだ。

 

 

『いい加減沈んだらどうなのよ!?』

「響って一度始まると凄いしつこいですからねッ!!」

『何となく察したわッ!!』

「大丈夫ですか?」

『大丈夫よ。』

 

 

 空を染め上げる赤紫。最早隙間すら見当たらない光の檻。だが、その光は更なる光によって塗り潰される。

 

 

「そろそろ三分過ぎてるよ響!!」

「大丈夫! 私の三分は世界の三分とは違うから!!」

「訳がわからないよ!?」

「フィーリングだよ、未来!!」

 

 

 爆音と共に光の檻が突き破られる。

 

 灼熱のフォニックゲインが大気をなめる。少女の歌は燃える血潮となって世界を揺らす。

 

 琰槍・ガングニール。限界を突き破り、最短で一直線に貫く想い。彼女の持つ誰かと繋がるという性質を最大限に活かす為に選ばれた、全てを掴み取る絶対王者の拳。

 

 翼のようなマフラーが風を切り裂き、彼女の右腕にフォニックゲインが充填される。右腕に生まれる小太陽。灼熱を纏いながら打ち放たれるのは始まりにして至高の一撃。

 

 

「アブソリュート・パワーフォースッッ!!」

 

 

 アイアンクローの如く未来の頭に叩き込まれる一撃。そのあまりの破壊力にバイザーが砕け散り、ヘッドギアが弾け飛ぶ。

 

 弾かれたように後方に吹き飛ぶ未来――だが、その身体は不自然に空中で停止する。

 

 

「ぐっ!? なんで帯が――ッ!?」

 

 

 右腕に激痛。慌てて腕を見ると、前腕部に百足のように絡み付く漆黒の帯――神獣鏡の持つ、攻防一体の近接戦闘武器の一つだ。

 

 驚き目を見開く響の目の前に、強い光。

 

 硬直した一瞬の隙をついて未来が響の身体を引っ張り、その反動で己も跳んだのだ。

 

 バイザーの破片のせいで、額や頬から血を流す未来。だがその瞳にあるのは痛みによる恐怖などではなく、燃え上がるような闘志。彼女の歌に力が籠る。

 

 だが、この距離は私の距離でもあるッ!! 臆することなく拳を振り上げる響。そんな彼女の豊満な胸にそっと突き入れられる白い剣。確かにそこは彼女の距離であるが――

 

 

「このッ距離ならッ!!」

「ギィッァアア!?」

 

 

 閃光。零距離から放たれた聖遺物を喰らう輝きが彼女の身体に牙を突き立てる。

 

 確かに今の彼女は彼女自身がシンフォギアに近く、その為多少の攻撃ならばびくともしない。だが、効いていないわけではなかった。そのダメージは確かに蓄積されて彼女の体力を削っており、そこに来て零距離の砲撃。

 

 いくら装甲が厚くても零距離から撃ち込まれればひとたまりもない。

 

 カァォッ! 巨鳥の嘶きのような甲高い砲撃音が断続的に響く。その度響の身体が陸に打ち上げられた鮪のようにビクンビクンと跳ねる。

 

 数にして十発。司令塔でもある心臓部のガングニール目掛けての零距離砲撃により響の身体の装甲は完全に剥げ落ち、赤く染まった素肌を晒す。フォニックゲインの輝きは完全に消滅し、その瞳に光は無い。

 

 勝った…。未来が剣を下ろし、マリアへ通信を送ろうとする。こちらも限界だ。これ以上シンフォギアを維持することは厳しい。

 

 未来が響から視線をはずす。その瞬間、響の瞳に光が宿る。

 

 赤。血よりも赤いその色は暴走の証。彼女の身体を先程とは真逆の常夜を思わせる漆黒が染め上げ、その拳がギュッと握り締められる。

 

 シンフォギアにおける暴走とは、厳密に言えば暴走ではない。

 

 装者の生命が極限状態に陥り、その活動に支障が生じた場合にシンフォギア側が本来持ち得る全能力を開放して装者の生命維持、そして生命を害する外敵の排除を行う行為。装者の意志によって行われる絶唱ではない、ある意味シンフォギア自身の意志、絶唱とも言える最終防衛機能。

 

 だが今のガングニールは只のガングニールではない。そこには確かに彼女の、立花響が居て、立花響の想いがそこには宿っている。

 

 

「――ァ……ァァアアアアアアアアアア!!」

「クッ!? まだ動けェグッ!?」

 

 

 漆黒を突き破る黄金の輝き。侵食すらも利用した多重同調であったが、その制御すらも離れた聖遺物が彼女の身体を突き破る。

 

 みるみる増殖していく結晶に未来が叫ぶ。

 

 

「離してッ!? 離してよぉッ!!」

「嫌だッ!!」

 

 

 力強い言葉。気づけば涙を流し叫んでいた未来は、涙に濡れる瞳で胸元を見た。

 

 力強く抱き付いた身体。同世代よりもガッチリしてきたが、それでもやはりそのむき出しの肌と体格は自分と同じくらいで、とても細い。

 

 だが、その腕に篭った力は、その瞳に宿った熱量は、幾千の時を経て尚立つ大木のように力強く、幾星霜の時を経て尚光り輝く太陽のように熱い。

 

 その笑顔には不思議な魅力があった。ただ格好良いだけではない。凄く格好いいのだ。彼女の口癖である、へいき、へっちゃら。それを体現したような、本当に何でも出来るような気分にさせてくれる、そんな笑顔。

 

 その笑顔を見て、ふと未来は思った。

 

 私が護りたかった笑顔はこの笑顔だから。私が助けたい光はこの光だから。なのにその輝きを消そうなんて考えていたのだ。前提としての意志が矛盾しているのに、勝てるはずが無い。

 

 

「絶対に――」

 

 

 響が再度未来に組みつき、その腋から空を見る。

 

 そこにあるのは反射装置によって円錐状に展開された未来の砲撃。円錐の先端からは膨大なエネルギーが確認できる。

 

 あれがフロンティアの封印を解く鍵なのだろう。ならば、自分が行うことは一つ。

 

 響は考えた。師匠である風鳴弦十郎には、可能性を数字で語れるかよッ!! と啖呵を切った手前確実に極めないと怒られる。

 

 だから彼女は考えた。未来を止め、遊吾を止め、ガングニールを止め、ついでにフィーネの企みを止める術。

 

 あの光、未来のシンフォギアには聖遺物由来の力を消滅させる力があるとオペレーターである藤尭が言っていた。あの光を利用してフロンティアと呼ばれるナニカを起動しようとしていることは明白。そして、それは同時に遊吾が考えているナニカを行う為に必要不可欠なものだ。更に、響自身を悩ませているガングニール、これは聖遺物由来の代物。

 

 で、あるならば。その光の中に自分が飛び込めばどうなるか。

 

 簡単な話だ。聖遺物であるガングニールは機能を停止。未来の神獣鏡もまた聖遺物であるためその機能を停止するだろう。更にあの光を自分達が遮ることでその効力まで失えば万々歳だ。

 

 

――離すもんかッ! 離れるもんかッ!

 

 

 一度離して後悔した。助けたいと思って助けられなかった。

 

 欲しかった言葉、欲しかった光、守りたかった温もり。だからもう二度と離さない。もう二度と――

 

 

「絶対にぃぃいいい!!」

 

 

 封印を解くための膨大な光の中に二人の少女が呑み込まれる。あまりにも強力すぎる光のなかで少女たちはそのシルエットを崩していき、そして――

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「ぁ、ぅ……あ?」

 

 

 目の前に広がる真っ白い世界。

 

 ぼんやりと輪郭が薄れたその世界に、微かに音が響く。まるで水中で沈んでいるかのようにぼやけた視界と、反響する音。

 

 だが、それらは意識がハッキリと、自分の身体を認識していくごとに徐々に清明になっていく。

 

 

「――くっ!? 未来ッ!!」

「あ………ひび、き?」

「………よかったぁ」

 

 

 声の方向を向けば、そこには力が抜けて床に崩れ落ちる響の姿。

 

 それを見て周囲を確認する。

 

 身体の至るところに取り付けられたコード。それが繋がれたよくわからない機械。どうやらここは病室らしい。普通の病院にしては近未来的過ぎる機械たちからして、恐らくは響の所属している特異災害対策機動部二課の施設だろう。

 

 と、そこで慌てて未来が起き上がろうとする。状況はどうなったのか。響の身体はどうなったのか。

 

 

「って、あいぃ!?」

「大丈夫未来!?」

「あ、い、か、からだ、が……」

 

 

 ミシィッという鳴ってはいけない音と共に彼女の身体に激痛がはしりそのままベッドに倒れこむ。

 

 

「当然です。響ちゃんの攻撃をあそこまでまともに受けたんですから」

 

 

 骨が折れたりしていないだけまだマシです。そう言って大きくため息を吐く友里。

 

 確かに、あれだけ過激な戦いをしていたというのに未来の身体は表面的な傷こそ多いが、内蔵や骨と言った内部へのダメージはほとんど見られなかった。

 

 

「ご、ごめんなさい」

「いいのよ。二人とも無事で」

 

 

 二人とも無茶しかしないんだから、と苦笑を浮かべる。

 

 そんな暖かい言葉に少し涙ぐみながら、はい、と頭を下げる。と、病室の扉が開き、風鳴翼と弦十郎の二人が部屋に入ってきた。

 

 

「起きたか、小日向」

「未来君、身体の調子はどうだね?」

「あ、はい。身体中痛いですけど、それ以外は特に」

 

 

 それは良かった、と笑いながら弦十郎が手に持ったリモコンを操作する。

 

 未来の目の前、モニターに新たに表示されるレントゲン写真。その正体を彼女はよく知っている。

 

 二種類の写真。片方は心臓から全身に葉脈のように伸びた黒い影が恐ろしい。それは響の戦闘前のレントゲン写真。聖遺物に犯され、命を失いかけていた状態。

 

 もう一枚も同じようなレントゲン写真なのだが、

 

 

「…これが今の響君の写真だ」

「……聖遺物、取り除けなかったんですね」

 

 

 顔を伏せる未来。響の身体を侵食していた聖遺物は、彼女の身体に未だ残っている。

 

 自分が戦った意味は何だったのか。悔しさで布団を握り締める未来の手を、暖かな手が包み込んだ。

 

 

「大丈夫」

「でも……」

 

 

 聖遺物が体内に残っているということは、響の生命の危機は未だ続いているということだ。

 

 自分の行ったことは無意味だったのだろうか。伏し目となってしまう未来。

 

 

「確かに、聖遺物が体内に残っているということは問題になっただろう――今までは、だが」

「……それ、どういうことですか?」

 

 

 今まで、それはつまり聖遺物の摘出方法などが見つかり対処することができるようになったということか。

 

 何にしても、今まで、という言葉の中には沢山の希望が詰まっていた。それに弦十郎が態々悪いことをこんな明るい風に言うはずがない。

 

 

「ふふふ、友里君!」

「はいはい。…現在の響ちゃんの身体は、聖遺物との融合状態にあります。ですが、それ以上は何も変化がありません。それどころか未来ちゃんとの戦闘後の方が数値が安定しているんです」

 

 

 画面に映し出される折れ線グラフや線グラフ。それらは戦闘前と戦闘後の数値を表しているらしく、戦闘前が山脈のように振れ幅がとても大きいのに対して戦闘後はとても穏やかな曲線を描いていた。また、レントゲンもよく見てみれば只々無闇矢鱈と無造作に延びていた聖遺物の欠片はその形を整え、その身体を保護するように変化していた。

 

 

「響ちゃんの先の変身、体内の侵食すらも利用したシンクロ。それによって一度は完全に響ちゃんの身体は侵食し尽くされ、完全に聖遺物と一体化していました。そんなことをすれば響ちゃんの身体は耐えきれない、その筈でしたが――」

 

 

 新たに表示されるグラフ。これは響がガングニールと多重同調を行った後の観測データであるが、その数値は全て高い位置で綺麗に揃っていた。今の響のデータの出力をまるまる上げた状態と言えばいいだろうか。

 

 

「我々の予想とは違い、聖遺物は限界に近い響君の身体を安定させたのだ」

「安定…」

 

 

 弦十郎の言葉に眉をひそめる。

 

 どういうことなのか。シンフォギアは確かに響の身体を侵食して、彼女を苦しめていたはずなのに。

 

 

「これは仮説なのだけれど、恐らく響ちゃんの身体を侵食していたのは不完全な融合だったからじゃないかと考えられるの」

「不完全?」

 

 

 立花響がガングニールを手に入れることとなった理由は、ライブ会場におけるノイズ襲撃、その際に奏の纏っていたシンフォギアが破損しその破片が彼女の身体を貫いて心臓部に残留してしまったのがそもそもの始まりだ。

 

 この時、本来ならば響の体内に入り込んだ聖遺物はその力を発揮することなくただ彼女の身体を傷つけるだけだった。だが、侵入した聖遺物の欠片は戦闘中で未だ機動状態であったこと、そして天羽奏がその身を呈して守ろうと言う強い意思を持っていたこと。

 

 これらが合わさり、聖遺物の欠片は立花響を生存させるように機能したのだ。

 

 その後、響がシンフォギアとしてガングニールを起動できるようになっても、体内の聖遺物の欠片は依然として立花響を生存させることのみに機能していた。

 

 いくら戦闘でダメージを受けるとしても、それ以上の速度で回復し続ければその回復力は飽和状態となってしまう。コップから水が溢れるように、制御しきれない生命維持機能が働いた結果が、あの響の身体の侵食なのではないか。

 

 

「そして、響ちゃんは侵食すらも利用してシンフォギアとシンクロ。これによりガングニールの完全な制御権を得たことで、死亡しなかったのだと考えられるわ」

「…………」

「……てい!」

「あいたぁ!?」

 

 

 自分の身体のことであるが、専門用語と目が痛くなるようなグラフの連続に船をこいでいた響。そんな彼女の額に、翼も、ほぅ、と感心してしまうような鋭い手刀を叩き込みつつ未来が手を挙げる。

 

 

「あの」

「はい、未来ちゃん」

「はい。…その、響が無事な理由は何となくわかったんですけど、神獣鏡の光を浴びた時に響の身体から結晶が…」

 

 

 未来が思い出すのは、光に飛び込む直前、動く度に彼女の身体を突き破って現れていた数多の結晶体。

 

 友里の説明だけでは、響が無事な理由がわからない。

 

 

「神獣鏡の力だ」

「翼さん?」

「調べてみたのだが、どうやら神獣鏡は魔を祓う力を持つらしい。残念ながら、あの攻撃によってフロンティアが浮上してしまったが小日向の力によって立花の危機は去ったと見て良い」

 

 

 だが、と翼が表情を曇らせて言う。

 

 

「立花はこれで戦う力を失ってしまった」

「戦う、力?」

「それはこちらが説明しよう」

 

 

 翼に替わって弦十郎が響の現状を話し始める。

 

 響の体内に残っている聖遺物は彼女の身体と完全な融合を果たしてしまっている。これは先の戦闘の弊害であるが、この聖遺物は既に己の役割を――立花響の生命の維持――はたしているため、これ以上の侵食は行われない。また、心臓に食い込んでいた聖遺物の欠片、これが体内の聖遺物の司令塔のような役割を果たしていたのだが、この機能の一部が神獣鏡の攻撃によって破損。生命維持などの保守的機能のみを残してそれ以外の部分は完全に沈黙、もしくは消滅してしまっている。

 

 これにより、立花響はこれ以上聖遺物に身体が侵食される心配は無くなった。だが同時に、彼女はガングニールを展開する術を失ってしまったため、現状彼女が戦場に出ることは不可能である。

 

 と、そこで未来は気が付いた。クリスが居ない。

 

 この手の話題になった時に不敵に笑う彼女の姿が一向に見えないことが不思議でならず、彼女は翼にクリスは何処に行ったのか? と尋ねた。

 

 そんな彼女に返ってきた答えは――

 

 

「雪音? …ああ、裏切ったよ」

「裏切っ!? …あの、翼さん?」

「どうした? 小日向」

「その……その手の刃物は――」

「…何やらアトラスと怪しいと思った次の瞬間にヘッドショットだ。アトラスが言うように腹パンで済ませればいいだろうに。まったく、誰に似たのか本当に私の後輩は容赦がない……ふふふ、握った刃、どうしましょう?」

「何処から取り出したんですか研石!? ていうか誰か止めません!?」

 

 

 その場で、ふふふ、と妖しく笑いながら手に持った小刀をシャッシャッと研ぎ始める翼。

 

 その周辺だけまるで照明が落ちているかのように暗くなっている姿を見て、未来が助けを求めるように周囲に視線を向ける。

 

 友里は露骨にカルテを確認しはじめ、弦十郎はクリス君ッ、と態々オーバーアクションで悔しがる。

 

 

「未来」

「響!!」

 

 

 こんな状況でもやはり私の親友は私を助けてくれる――そんな淡い期待を抱いて笑顔で振り向いた未来に、響が親指を立てつつペロッと舌を出して笑う。

 

 

「諦メロン」

「ふんッ!!」

「ぐぁぁ…」

 

 

 彼女の腹に未来の閃光の如き鋭い拳が突き刺さる。瞬間、響の顔が無残にも崩れる。

 

 ど、どうして…苦しそうに腹を抑える響に、未来が笑顔で言った。

 

 

「空気、読もっか?」

「え!? だって今の流れは私もボケないと――ハッ!?」

「…響、覚悟は良い?」

「未来、待って未来!? ほ、ほら、今身体悪いんだしあまり無茶はしないほうがいいんじゃないかなぁ~、なんて」

「ふふ、やっぱり響は優しいね…」

 

 

 そう言って顔を一瞬だけ伏せた未来。あげられた顔に張り付いた表情は笑顔。響も大好きな陽だまりのような笑顔。だが、その瞳だけは漆黒の暗闇めいて鈍く輝いていた。

 

 

「だから、私に負担がかからないようにすぐに終わらせよう、ね?」

「あ、あは、あははははは……助けてくれゆうごぉおおおおお!?」

 

 

 少女の悲痛な叫びが医務室に響き渡った。

 

 その数分後、いくら事情を話すためと言っても帰ってこない弦十郎たちのことが気になった奏と響一郎が医務室に向かうと、そこにはベッドに背を預けてニコニコと笑う未来と、そんな彼女の前で一塊になる様に縮こまって正座する大人と装者の姿があったという。

 

 

 

 

「へぇ、ここがあの女のハウスか」

「…ハウスというか、いや、ハウスなのか?」

 

 

 武装ヘリに帰還した遊吾と、彼の提案に乗り、風鳴翼のヘッドショットというアピールで無事フィーネの仲間入りを果たしたクリス。二人は気の抜けるような雑談をしながらヘリ内部のブリーフィングルームに足を運んでいた。

 

 

「お前ら、帰ったぞー」

「お帰りデス、遊吾!」

「お帰りなさい、ユー――」

 

 

 ブリーフィングルームに居たのは、先に帰還していた切歌とヘリの操縦をしていたマリアの二人。

 

 突然絶望的な表情をしながら皿――メイドインチャイナ、プラスチック製。お値段412円(税込み)――を床に落とす。

 

 ど、どうしたんだ? 突然の事態に付いていけない遊吾に、マリアが近づきながら言った。

 

 

「あなた!! また知らない女を引きこむのね!!」

「は!? いや、え!?」

 

 

 詰め寄られて思わず身を引く遊吾。だが、ここは狭いヘリの中。いくらスペースがあるブリーフィングルームと言っても壁は直ぐであり、気づけば胸倉をつかまれかねない位置まで追い詰められていた。

 

 何やら捲し立てるマリアと、マリアの言葉に、いや、クリスは仲間だし、だの、響はほら、大切な恩人だから、だのと焦りながら言い募る遊吾。二人の姿はマリア迫真の演技も相まって、宛ら浮気性の旦那に散々苦しめられている若妻と、そんな彼女に必死に言い訳と愛の言葉を囁く優柔不断な優夫の図。

 

 

「…あれは、なんだ?」

「んー、何だか共感できる部分があったからちょっと文句言うとか何とかだそうデス」

「共感ん?」

「はい。共感デス」

 

 

 そんな二人の寸劇を見て、いつもこうなのか? と若干引きながら思わず漏らすクリス。そんなクリスの問いに二人を見て笑いながら答える切歌。

 

 共感。共感とは何なのだろうか? 状況に付いていけないクリスに追い打ちをかけるように扉が開き、かすかな駆動音と共に一人の女性が部屋へと入ってきて――

 

 

「だからそこの男の手綱はしっかり握っておけとあれほど」

「お母様!?」

『お母様!?』

 

 

 まさかのナスターシャの登場、そして何だかんだノリノリで楽しんでるらしい様子に思わず叫んでしまう遊吾、そして新たな存在にこちらも叫んでしまうクリス。

 

 

「てか、手綱って何だ手綱とは!?」

「あら、あちこちで女を引っかけてくる種馬でしょう?」

「何か凄いこと言われてるぞ俺!?」

「で、ユーゴ。あの娘とはどんな関係なの!?」

「これ、いつまで続くんだよぉおお!?」

 

 

 二人に責め立てられて流石に辛くなってきた遊吾は、急いで切歌とクリスに視線を送る。

 

 この状況を思いっきり楽しんでいる切歌は駄目だ。絶対に火に油しか注がないだろう。そうなればこの場を何とかしてくれるかもしれないのは、何だかんだで常識人なクリスしかいない!!

 

 彼の必死の視線に、そろそろ真面目な話がしたいしとため息を吐きながらクリスがマリアに近づいていく。

 

 

「なあ、とりあえずそこまでで――」

「黙りなさい! この、泥棒猫ッ!!」

「どろ――ッ!?」

 

 

 キッと睨み付けるようにして放たれた言葉に思わず言葉を失うクリス。

 

 

「へぇ? 男一人繋いでおけねぇ奴がよく言うぜ?」

「なっ!? …面白いことを言うわね」

 

 

 ふふふ、あはは、と紫電をまき散らしながらにらみ合う二人。

 

 何で唐突に修羅場ってんだよ!? 最早何が何だか分からなくなっている遊吾と、そんな彼に、貴方がだらしないからですと辛辣なコメントを送るナスターシャ。

 

 そんな四人の姿を見ながら、切歌は天井を見ながら頭の中でつぶやいた。

 

 私が守りたいのは、こんな日常なんデスよ、調――。

 

 こんな騒がしくも楽しい日常。きっと調の選択は正しい。だが、それでも自分はこの暖かい空間を、マリアと遊吾、そしてナスターシャが居る空間を守りたい。だから自分は――。

 

 でもまあ、とりあえずのところは

 

 

「そんなことよりお腹がすいたデス!」

 




ショックルーラーが逝った。ヒグルミが、ジャグラーが逝った。

だが、制限、準制限が全くのノータッチだと!?どういうことだ、こたえろ、答えてみろベクタぁあああああああああああああ!!

サンタおじさん…シンフォギアのCDが欲しいデス…
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