遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~   作:特撮仮面

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彼の結末

『馬鹿な…』

「何がだ?」

 

 

 そんなことはあり得ないと呟く。だが、目の前に居る存在は現実だ。

 

 だが、そんなことはあり得ないのだ。いや、あってはならないのだ。

 

 身体の、魂と言う未だ存在が証明されていない存在の情報化というだけでも理論こそあれどそれはあくまでも机上の空論。科学的に証明された技術ではない。異端技術を使っているのだから、既存の理論が通用しない? それこそ詭弁だ。

 

 確かに異端技術は現在の科学技術を遥かに上回る。だがその理論は科学的に証明可能。それは奇跡の力などではなく、あくまでも、どれだけ奇跡的なものであってもそれは奇跡などではなく理論的な、理屈的な証明が可能なのだ。

 

 だが、 彼は、彼だけは違う。彼だけはどれだけ考えてもソレを奇跡という以外に言葉がない。

 

 己を情報化しただけではなく、理論上突破不可能な存在を破壊し、あまつさえ情報化した身体を新たに造り出したのだから。もはやそれは生命を造り出したに等しい、神のみに許された行為だ。

 

 

『そんなことがあってたまるものかッ!!』

「とは言うけれど、これが事実だ」

 

 

 何で生きてるのかとか、色々理屈で説明できないところはあるんだけどな。そう言って笑ってみせる遊吾に最早我慢の限界だとウェルがコンソールを操作する。

 

 制御室のセキュリティは弄れないし、メサイアのシステムは完全に沈黙してしまっているため操作したところで何の意味もない。

 

 ならば、自分に残された手段はひとつ。ネフィリムで彼女らを制圧すること。それ以外に自分が英雄となる方法はない。

 

 

『ネフィリムゥウウッ!!』

 

 

 半身たる主の声に応えるようにネフィリムが動き出す。

 

 先程までの戦闘は全てセイヴァー・ドラゴンの力によるもの。現在は切り離されているが、その代わりに今までの戦闘による消耗はネフィリムには存在していない。

 

 

「遊吾! 時間稼げますか!!」

「唐突だなビッキー!」

「とっておきがあるのは、何もあっちだけじゃないんですよ!!」

「大体理解したが…別に倒してしまっても構わないよなぁ!!」

 

 

 ネフィリムが動き出したことで、装者たちも動き出す。

 

 響達は体勢を整える為に一旦後退。彼女のとっておき――彼の想像が正しいのならばXDモードの使用をする、その隙を埋める為に彼に露払いを頼んだのだろう。

 

 二つ返事で彼女の言葉を聞き入れた遊吾は、迷うことなくネフィリムと向き合い叫ぶ。

 

 

「来やがれよ! レッド・デーモンッ!!」

 

 

 彼がモンスターゾーンにカードを叩き付けると同時に召喚される、琰魔竜レッド・デーモン。だが、いくら彼の魂のモンスターと言えども現在の、フロンティアとほぼ一体となっているネフィリムを倒すことは難しい。更に、ネフィリムには聖遺物由来のエネルギーを喰らい、自身の力にするという能力を持つのだが、これは何も聖遺物のみに通用するものではなく、通常のエネルギーに対しても同様の力を発揮する。

 

 その為、ただ純粋に殴り合いをしただけではこちらが押し負けてしまうのが現実。だがウェル博士が幾つか秘策を残していたように、彼にもまた秘策が存在している。

 

 それは彼が己を見つめ直し、新たに決意をすることで手に入れた力。ただ憧れ、使用するのではなく、己をその憧れに近づけ、一歩前へ進む為の力。

 

 

「俺は、レベル8琰魔竜レッド・デーモンに、レベル1の俺自身をチューニング!!」

 

 

 彼が高らかに叫び、それに応じるようにレッド・デーモンが天へと吠える。

 

 彼の身体が光の輪となり、レッド・デーモンの身体を包み込む。八つの星となったレッド・デーモンはその輪の中で更なる姿に進化する。

 

――深淵の焔を浴び、新たな力へ昇華せよ!! 我が魂よッ!!

 

 その角はより太く。胸には悪魔の顔を思わせる角と棘が生え、その四肢は樹齢千年を越える杉の大木のようにより力強く太くなり、その両腕には新たに処刑人の斧を思わせる巨大で無骨な刃が生え揃う。

 

 琰魔竜レッド・デーモン・アビス。レッド・デーモンの新たな進化形態。

 

 

『ふん、進化だか何だか知らないが、姿が変わった程度で何になるッ!!』

 

 

 雄叫びを上げながらネフィリムがアビスに迫る。アビスもまたネフィリムと同じく翼を折りたたむと、陸上選手を思わせるスタートを切りネフィリムに肉薄。思い切り右腕を薙ぎ払うように振りぬいた。

 

 アビスの腕に生えた刃が火花を散らしてネフィリムの胴体を薙ぐ。その衝撃、身体を傷つけられたという怒りに叫び声を上げながらも思わずたたらを踏むネフィリム。

 

 その隙を逃すアビスではない。雄叫びを上げながらネフィリムに近づいたアビスは、大きく踏み込むと右の拳をネフィリムの顔面に叩き付けた。

 

 大質量から繰り出される全力の拳に後退するネフィリム。ふらつき、後退するネフィリムに向かって、アビスが右、左と次々と拳を打ち放つ。その巨躯に似合わぬ素早い連続攻撃に堪らず後退を始めるネフィリムだったが、ついに足元の小さな穴に足を取られてしまいそのまま後方に転倒。このまま押し切ってやる! アビスがネフィリムに馬乗りになろうと跳びかかった時、彼の身体を衝撃が襲う。

 

 地面に叩き付けられてしまうアビス。再度迫る気配に地面を転がる。彼の頭のあった場所に何かが勢いよくぶつかり地面を揺らした。

 

 アビスが膝立ちとなり振り下ろされた物を確認する。それは長方形の腕。ネフィリムの腕がまるで鞭のように伸びて彼を打ち据えようとしたのだ。先程跳びかかった時の衝撃はアレのせいだろう。

 

 今度はこちらの番だ。ネフィリムが咆哮し、片腕を鞭のようにしならせながらゆっくりと近づいてくる。

 

 相対するアビスは拳を構え、どっしりと腰を落とす。

 

 互いにゆっくりと円を描くように動きながら、じりじりと距離を詰める。腕が伸びる分、ネフィリムの方がリーチが長い。これはアビスにとって不利な状況であるが、逆に言えばその腕さえ何とかすることができればアビスにも勝機は十分あるということでもある。

 

 先に動いたのはネフィリムだ。ネフィリムはその腕を鞭のようにしならせてアビスに向かって放つ。アビスはそれを右腕の刃を使って切り裂いてしまおうと考え、ネフィリムの腕を半身で避けて手刀の要領で腕を振り下ろした。だが、彼の思惑とは違いネフィリムの腕は逆に彼の腕に絡みついてしまう。

 

 驚き目を見張るアビス。ネフィリムの腕は弾力性に富んでおり、彼の腕の刃では切り裂けなかったのだ。驚きで身を固めてしまったのが大きな間違いであった。

 

 ネフィリムが腕を引き戻しながら大きく身を捩じらせる。その勢いによってアビスの身体が大きく持ち上がり、半円を描きながら物凄い勢いで地面に叩き付けられた。

 

 衝撃で地面が陥没し、大きな土埃が舞う。だが、これだけでは終わらない。ネフィリムは二度、三度とアビスの巨体を振り回し、地面に叩き付けた。

 

 何度も何度もネフィリムは執拗なまでにアビスを地面に叩き付けていたが、一頻りやり終えて満足したのだろう、これで止めと言うかのように大きく口を開くと、巨大な火球を作りだしてそれを地面に倒れるアビスに向かって発射した。

 

 轟音と共に粉塵がまき上がる。幾度となく天地を行き来させられたアビスが、今度こそ土煙の中に消える。

 

 勝利の咆哮を上げるネフィリム。ウェルもまた、大きく口を開けて上機嫌に高笑いをしていた。

 

 

「何かあそこだけ世界観が違うデスよ!?」

「…えっと、切歌って言ったか?」

「なんデスか?」

「お前もいずれ慣れる」

「どういうことデスか!?」

 

 

 日本の怪獣映画を彷彿とさせる大怪獣決戦に、上空で準備を進めていた切歌が思わずと言った風に呟いた。そんな彼女の肩に手を置いたクリスが、何やら悟りを開いたかのような表情で切歌に言う。彼女のキレイな笑顔に、どういうことなんだと困惑する切歌に対し、他の面々はその言葉の意味を理解したようで、まあ、そうだよね、と顔を合わせて苦笑し合っていた。

 

 

『何故そんなに笑っていられるッ!!』

 

 

 どこまでも癪に障るッ! ウェルがネフィリムに装者たちを狙うように指示し、それに従ったネフィリムが装者たちの方へと向き直る。

 

 その瞬間、ネフィリムの身体が衝撃で吹き飛んだ。

 

 土煙を貫く紅蓮の炎。巨体が宙を舞い、地面に墜落する。

 

 強大な風に土煙が払われ、中から現れるのは土埃こそ多少被っているものの、それ以外は何の傷も負っていないアビスの姿。

 

 再度立ち塞がる敵を認識し、ネフィリムが狙いをアビスへと変更。だが、先程までの戦闘状況からネフィリムはアビスに近づくことなく攻撃を開始する。

 

 ネフィリムの腕、長方形の方針のような形状のソレから放たれる、フロンティアのエネルギーを利用した赤色光線だ。

 

 アビスとの戦闘能力の差は理解した。距離が開いていることで、ネフィリムが攻勢に出る。いくらアビスの攻撃力が高く、火炎の息吹などを放つことが出来るとしても、一番の強みはその鍛え抜かれた肉体より放たれる重い一撃。遠距離攻撃が得意と言うわけではないアビスにとって、赤色光線を矢継ぎ早に放って来るネフィリムは相性が悪い。

 

 それはネフィリムにも言えることであり、ネフィリムの場合はその身体の構造上近接攻撃を苦手とするモノの、逆にフロンティアのエネルギーを利用した赤色光線や火球はその威力を無尽蔵に高め、また赤色光線ならばどれだけ連続発射してもエネルギー切れになる心配はない。だが、その代わり近接戦闘に持ち込まれた場合の対処法が全くと言っていいほど存在していないのだ。

 

 ネフィリムはそのことをウェルを通して理解しているが故に、次々と赤色光線を連射する。炎を操る竜でもあるアビスにとって、赤色光線による熱などどうということは無いのだが、その破壊力は身体を傷つけるに十分な威力がある。故に下手に受け続けるわけにもいかず、その雄々しい翼を翻して宙へと舞い上がる。

 

 次々と繰り出される閃光を、時に避け、時に迎撃しながらアビスは飛び掛かる機会を伺う。狙うのは一瞬。その瞬間に全霊をかけて相手を殴る。

 

 その瞬間は直ぐに訪れた。

 

 八つの閃光が天へと舞い上がる。膨大なフォニックゲインが放出され、それがネフィリムとアビスに力を与える。

 

 天に舞い上がる光。それは膨大なまでのフォニックゲインを含んだ彼女たちの姿。

 

 XDモード。膨大なフォニックゲインを使用することで、シンフォギアに備わる機能を完全稼働させるシステム。だが、起動に必要なフォニックゲインは個人で発するそれを遥かに凌駕する。

 

 ならばどうやって彼女たちはXDモードを起動したのか。その原因は地球にあった。

 

 

『星が…音楽となった…』

 

 

 地球と月を観測していたナスターシャが思わずといった風に呟く。

 

 彼女の目の前に広がるのは、青い地球の周りを覆う黄金の輝き。

 

 彼女たちの戦いを見た、地球上の人々の祈り。七十億という人々の歌。

 

 月、バラルの呪詛を再起動させるというその目的を完遂させて尚有り余る生命の息吹。

 

 それを、響とマリアが力へと変えたのだ。

 

 響のガングニールの持つ、誰かと繋がると言う性質と、マリアのアガートラームの持つ、束ねる性質。世界中から放たれるフォニックゲインを繋ぎ、一つに束ねることで膨大なフォニックゲインを必要とするXDモードを可能としたのだ。

 

 彼女たちの姿に、その膨大な量のフォニックゲインにネフィリムの意識が吸い寄せられる。先程までの激しい砲撃が止んだ。

 

 今こそ勝機。雄叫びをあげながらアビスがネフィリムに飛翔する。左の掌に炎を集め、それをネフィリムの顔面に叩き付けた。

 

 

『その時を待っていたんですよォッ!!』

 

 

 苦悶の声をあげるアビス。

 

 見れば、アビスの炎を纏った掌は、ネフィリムの巨大な口に呑み込まれているではないか。

 

 牙を突き立てられ、傷口から炎を撒き散らすもののその程度でネフィリムが止まるはずがない。その力をもってアビスの全てを吸い付くしてやろうと吸収を始めるのだが――そこでネフィリムの動きが止まってしまう。

 

 

『どうしたネフィリム!! なぜだ!! 早く食い尽くせ!!』

 

 

 ウェルが何度もネフィリムに指示を出すが、ネフィリムは全くその指示を聞くことがない。

 

 何故だ!? 焦り、コンソールを操作するウェルの前でネフィリムが苦悶の声をあげた。

 

 ネフィリムの頭が掴まれる。まるで獲物に食らいついた鰐のように五指を食い込ませ、アビスがネフィリムを持ち上げる。

 

 あまりの痛みに叫び声をあげながら食いついていた左手を離してしまうネフィリム。その瞬間、アビスは左手をグッと握り締め、ネフィリムの胴体に思いきり叩き付ける。

 

 一発、二発、三発。ドゴォッ! という大砲でも撃っているかのような音と共にネフィリムの身体がくの字に曲がり跳ねる。だが、情けも容赦もなしにアビスはネフィリムの頭を掴んだまま、次々と腹に拳を叩き込む。

 

 そして、思う存分殴り付けたアビスはその左腕に炎を纏わせ、ネフィリムの頭を離すと同時に落ちてきた頭に向かって拳を振り上げた。

 

 お手本のように綺麗に極ったアッパーカット。アビスの体重ののった一撃にネフィリムの身体が面白いほどに身体を浮かせ、頭から地面に叩き付けられた。

 

 アビスが翼を広げて後方へと跳躍しながら口腔内に構成した炎をネフィリムに向かって放射する。それ自体に大した威力は無いが、体勢を崩したネフィリムはその衝撃と、猛烈な炎の勢いに視界を遮られてしまい上手く立ち上がることが出来ない。

 

 ゆっくりと確実に起き上がるネフィリム。その身体を包み込むのは怒り。自我と呼ばれるものが存在しないとされるネフィリムだが、ウェルを通して暴食と畏れられた己をコケにする存在に激昂していた。立ち上がった時が最後だ。と、唐突に炎が途絶えネフィリムの視界がクリアになる。

 

 ネフィリムの目の前、距離こそ離れているがそこには彼が喰らうべき敵の姿。それは既にこちらを見ておらず、只々太陽を見るように目を細めて天を仰いでいた。

 

 一体何をしているのだ。貴様の相手はこの俺だ、と言うかのようにネフィリムが吠える――そして、それを見た。

 

 それは光。あまりにも苛烈で、あまりにも美しすぎる、正しく光そのもの。

 

 流星となった八つの光が繋がり合って一つの巨大な力となる。閃光がネフィリムを貫き、その膨大な量のフォニックゲインに呑み込まれ、ネフィリムはその身体を光へと崩壊させた。

 

 それを見たアビスが炎を巻き上げ勝利の雄叫びを上げる。

 

 

「別に倒して――なんでしたっけ?」

『おい止めろ』

 

 

 ニヤニヤと笑いながらXDモードとなったガングニールの翼を動かして響が近づいてくる。そして、右腕を大きく振りかぶり、同じように右腕を掲げていたアビスの掌に思い切り叩き付けた。

 

 ハイタッチ。互いに健闘を称え合い、笑う。

 

 

『あ、ああ……』

 

 

 それを見て、ウェルは膝から崩れ落ちた。

 

 完全敗北。何故、どうして。そんな 考えが浮かんでは消え。だが、錯乱することなくただただ現実を受け入れるしかない。ネフィリムは消滅。彼女たちは健在。

 

 しかし、そんな彼の内側にとある感情が芽生えた。それは彼の英雄になりたいという欲望と重なり、増幅される。

 

 彼らを叩き潰す。英雄となれない世界を壊す。喰らい尽くす。その内側より溢れる声に従い、彼は立ち上がりコンソールを操作しようとした。

 

 だが、その右腕が突如として停止する。まるで虚空に縫い付けられたようだ。一体何が起こっている!?

 

 

「俺たちを忘れてはいないか? ウェル博士」

 

 

 声の方を見る。

 

 拳を鳴らす風鳴弦十郎と、拳銃を構える緒川慎次。

 

 何故ウェルの腕が動かなくなったのか、それはウェルの腕の影にある。彼の腕の影に撃ち込まれた弾丸。風鳴翼の使用する、影縫い。それは遥か昔から風鳴の家に遣える忍の家系である緒川家に伝わる忍術のひとつ。

 

 術による拘束。並みの者では決して、まして戦闘職ではないウェルには防ぐことの出来ない絶対の拘束だ。こうなればウェルに抵抗する術は一切無い。

 

 だが、人とは時として自分でも想像できないような力を発揮することがある。火事場の馬鹿力などと呼ばれるものだ。この時ウェルは正しくその状態であった。

 

 状況は最悪。自身の望みを達成できないばかりか、このままでは自分は只一人の犯罪者として捕らわれてしまう。それだけは嫌だ。それだけは我慢できない。彼の妄執、恐ろしいまでの英雄への執着が、彼の身体を突き動かした。

 

 

「う、ぉあああああああああああ!!」

「なに!?」

 

 

 腕、顔面問わず血を吹き出しながらウェルの腕がコンソールに叩き付けられた。

 

 まさか影縫いを自力で脱するなど夢にも思わない弦十郎たちは動きが遅れてしまう。これにより、機関部にとりつけられたネフィリムが鼓動し、何かを起こそうとする。

 

 こんな世界、自分が英雄になれない世界なんて壊れてしまえ!! ウェルが大声で高笑いをする――瞬間、彼の頭上に影。

 

 

「ぉおらあッ!!」

「ヒィ!?」

 

 

 弦十郎の拳がコンソールを土塊へと変える。目と鼻の先で放たれた、そのあまりにも強力無比な一撃に思わず腰を抜かしてしまうウェル。当然だ。コンソールの硬さを考えれば、それが人間に放たれた場合なんて想像するにたやすい。

 

 コンソールを破壊したのは良いものの、機関部に接続されたネフィリムの鼓動は止まらない。

 

 

「やはり壊すだけではだめか」

『すまない。ネフィリムを止めることは出来そうにない…』

『大丈夫ですって。そこらへん予想通りなんで』

『…君は未来予知でも出来るのか?』

『そりゃ、ご想像にお任せします』

 

 

 軽口をたたき合いつつ、弦十郎はウェルを抱えて脱出を図る。あのネフィリムの鼓動は恐らく大変危険な状態を示しているだろうが、聖遺物を持たない自分では対処のしようがないのが現実。しかし、彼女たちならば仮にどのような存在が出てこようときっと帰ってきてくれるだろう。そう信じて、弦十郎と緒川はウェルを連れて機関部を脱出するのであった。

 

 

 

※※※※※※※

 

 

 

 

 それは、あまりにも巨大であった。

 

 フロンティア機関部を突き破って現れた真っ赤な球体。数秒おきに鼓動するその姿は、まさに心臓そのもの。それこそがウェルの最後の切り札。ウェルという最後の制御装置の手から離れたネフィリムが行うのはたった一つ。

 

 捕食。聖遺物を喰らい、全てを喰らう。最後に与えられた、滅ぼせと言う言葉を忠実に実行しようとする。

 

 

『…なあビッキー。アレを見てどう思う?』

「…凄く……おっきいです」

『ごふっ!?』

「言わせてる場合かァ!!」

『ゴファッ!?』

 

 

 響の言葉に思わず吹き出した遊吾に向かってクリスが蹴りを放つ。

 

 冗談交じりにそんなやり取りを行っているものの、その内心は焦りと恐怖で一杯だ。

 

 フロンティアの力を吸収したネフィリムは、まさに暴食の巨人。マグマのような赤い身体は、背後に地球があるからこそその巨大さが伺える。あんなものが地球に降り立ってしまえばどうなるか、そんなものは分かり切っているが、あれだけの力を内包しているネフィリムを止める術は――遊吾がそこまで思考した時、少し距離をとって様子を伺っていた響一郎が叫んだ。

 

 

「避けろ、遊吾ッ!!」

『ぐっ!?』

 

 

 絡みつく赤。それはネフィリムの身体から伸びてきた触手。

 

 急いで切り離そうとするが、アビスの力を持ってしても触手を切り裂くことは出来ない。能力を開放。吸収能力の無効化を試みるが、それすらもネフィリムは受け付けない。

 

 

「遊吾ッ!!」

 

 

 響が触手を外そうと拳を叩き付けるが、それでどうにかなるほど軟ではない。逆にその強度によってガングニールの籠手に罅が入ってしまうほどだ。

 

 

「切ちゃんッ!!」

「このッ!! 遊吾を離すデスッ!!」

 

 

 切歌と調が前に出る。

 

 調のシンフォギアが展開され、女性のような形状の巨大な人型ロボットへと変形する。切歌もまた、その鎌を野獣の爪のように鋭く巨大化させ、全霊の一撃をネフィリムに放つ。

 

 ネフィリムと二人が交差する――

 

 

「ああッ!?」

「くっあッ!?」

 

 

 だが、ダメージを受けたのは二人。鎌はひび割れ、ロボットの装甲が剥げ落ちる。

 

 二人の身体からフォニックゲインが吸収されている。現在のネフィリム――ネフィリムの最終形態たるネフィリム・ノヴァは近づく聖遺物のエネルギーすらも捕食するのだ。それによって二人の攻撃は全くの効果を見せなかった。

 

 

「なら――ソロモンの杖、最大出力だッ!!」

 

 

 接近することは難しく、このままではネフィリムは地球へと落下してしまう。

 

 それを防ぐ手段は一つ。ネフィリムを別空間へと格納すること。クリスは手に持つソロモンの杖を起動させ、それをXDモードの馬鹿力で無理やり機能拡張を行う。それによって発生するのは、バビロニアの宝物庫からノイズを召喚するのではなく、逆にバビロニアの宝物庫への通り道を作りだすこと。

 

 ソロモンの杖。遥か昔に人類が同じ人類を殺す為に開発した聖遺物。だが、果たしてそれが本当にソロモンの杖の在り方だったのか。純粋な力、それは誰かを殺す為にしか存在出来ないのか。

 

 

「人を殺すだけじゃないって――証明してみせろッソロモンッ!!」

 

 

 力は、ただ誰かを傷つけるだけじゃない。クリスの想いに応えるように、ソロモンが光を放ち、バビロニアの宝物庫への入り口を固定化する。

 

 だが、そこにネフィリムの触手が迫る。バビロニアの宝物庫がどのようなものか分かっていないだろうが、それが己の邪魔になると理解しているネフィリムが、その元凶を排除しにかかる。だが、それよりも早くアビスが動いた。

 

 

『おッぉおおおおおおおおおおお!!』

 

 

 アビスが咆哮を上げて突進する。翼が折れることすら構わず無理矢理炎を推進剤としてネフィリムに向かって加速する。

 

 ネフィリムの位置がズレたことでクリスへの攻撃は回避され、ネフィリムはバビロニアの宝物庫へと吸い込まれていく。

 

 

『――あっ、やべっ』

 

 

 遊吾が思わず呟いた。仮に拘束されたアビスから抜けたしたとしても、ネフィリムに拘束されるだけだと。

 

 とりあえず反射的に行動してしまったのだが、それが今回は仇になったようだ。どうしようかね、思わず頭を悩ませる彼の頭上から、叩き付けるような声が飛んだ。

 

 

「跳びなさいッ、ユーゴッ!!」

 

 

 声に従い、アビスの身体を捨てた遊吾はD-noiseの姿となってネフィリムの拘束から抜け出す。だが、それを目敏く確認したネフィリムが、何十と言う束の触手を彼に向かって放つ。が、その触手は銀色の閃光によって阻まれた。

 

 

「ねぇユーゴ。ちょっと聞きたいのだけれど…」

「な、なんだ?」

「馬鹿なの? ねぇ、馬鹿なの? いいえ、馬鹿だわ貴方」

「断言されたッ!?」

 

 

 前までのマリアならここで心配してくれるだろうに、まさかの罵倒に目を開く遊吾。どうやら、ほんの少し会わない間に彼女の中で何か大きな変化があったらしい。

 

 

「事実でしょう? この後どうするつもりだったのよ」

「…あー、その」

「一人で無茶をして、それで何が変わるの?」

「いや、助けてくれるって信じてたから、その、な?」

 

 

 何も考えていなかった。いや、実際のところ考えてはいたのだ。

 

 ネフィリム・ノヴァを処理する方法はある。だが、それを実行するためには多少なりと無茶をしなければならない。

 

 

「遊吾が無茶をするのは、そのタイミングじゃないよね?」

「響」

 

 

 彼の元に響が舞い降りる。その表情は全てを悟っている顔だった。

 

 彼の作戦。その締めとなるフィナーレ。その為にはどうしてもとあることをしなければならない。それはある意味一人で行うからこそ意味のある行動だった。

 

 

「…人を守る。凄く難しくて、辛くて。私にも、皆にも、一人でそれをするってきっと出来ないことなんです」

 

 

 そっと目を閉じて響が囁く。

 

 

「でも、私たちは一人じゃない」 

 

 

 響が静かに宣言する。

 

 一人ではない。人は一人では生きていけない。そこには必ず誰かとの繋がりがあって、そうやって人は生きている。

 

 響の言葉に大きく息を吐き、遊吾は考える。

 

 このままネフィリムをバビロニアの宝物庫に封じ込めるという策はある。だが、バビロニアの宝物庫とはそれ自体がノイズの精製プラントであり、聖遺物。もしネフィリムがこれを全て喰らった場合、一体どのようなことが起こるかなんて分かったモノではない。ならば、自分たちがするべきことは一つ。

 

 このままバビロニアの宝物庫に突入し、ネフィリムを撃破する。

 

 

――遊吾君ッ!!

 

 

『っ!?』

 

 

 突如として響き渡る男性の声に誰もが周囲を見まわす。

 

 

「良いタイミングだ、洸さん」

「あきら――」

 

 

 遊吾の呟きに、響がまさかと上を見る。

 

 虚空に突如として極彩色の光が現れ、その中から一台のDホイールが飛び出してくる。

 

 黒いヘルメットにサングラス。だが、それが誰か響には分かった。分かってしまった。

 

 

「お、とう、さん?」

「立花の父親? まさか――」

 

 

 一体どういう原理か分からないが、宇宙空間に停車したDホイールは、背後に連結してきたらしい遊吾のDホイールのロックを解除しながら言う。

 

 

「遊吾君。これで良いのかい?」

「ああ、十分だ。あとは頼むわ」

 

 

 突然の事態に追いつけない面々を放置して、遊吾はDホイールに跨るとヘルメットを装着。Dホイールのシステムを立ち上げる。

 

 モーメントが虹色の光を放ち、Dホイールのモニターにバトルロイヤルの文字。彼は手札を引き、淀みない手つきでカードを叩き付ける。

 

 

「バイス・ドラゴンを特殊召喚ッ! そして手札からダーク・リゾネーターを通常召喚ッ!!」

「おい、何馬鹿やってんだ!?」

 

 

 いくらなんでもこのタイミングで決闘をしようなんて非常識すぎる。どのような意図があるにせよ、止めなければ――クリスが一歩前へ出ようとするが、目の前に立ちふさがるDホイール。

 

 

「手前」

「すまないが、待ってくれないか…。これが彼の最後の疾走決闘なんだ」

「…最後?」

 

 

 誰もが首を傾げると同時に、巨竜が咆哮を上げる。

 

 レッド・デーモンズ・ドラゴン。彼の始まりであり、目標である義父の魂のカード。彼はこのカードの導きでこの世界へとやって来た。

 

 

「遊吾君。分かっているのかい?」

 

 

 謎のDホイーラー――立花洸、現在は旧姓である守崎洸と名乗る、響の父が彼に言う。

 

 これは彼の最後の作戦であり、今まで彼が練ってきたG計画の最終段階。ユー・トイルイ・テッシという全てが謎に包まれた極悪人が、その正体を明かすことなくこの世から消えると言うシナリオ。

 

 

「分かってる。…だからこそ、だよ。全部一からやり直しだ。その為にも、俺は行くんだよ…」

 

 

 アクセルを開く。大出力のエンジンが瞬く間にDホイールを加速させ、閉じつつあるバビロニアの宝物庫へと突き進む。

 

 

「おい、ちょっと――なんだ!?」

 

 

 クリスの手の中のソロモンの杖が光となって彼に追従する。それを目で追って――そこで気が付いた。彼の頭上を飛翔する物体に。

 

 

「あれは――メサイア!?」

「知ってるんですか、マリアさん!?」

 

 

 メサイア――真の名は、救世竜セイヴァー・ドラゴン。

 

 異界への扉を開く鍵であるソロモンの杖。そして、救世の奇跡を起こすセイヴァー・ドラゴン。そして、魂の炎を燃やすレッド・デーモンズ・ドラゴン。

 

 それら三つが彼のDホイールと一つとなり――

 

 

――研磨されし孤高の魂ッ!! 今一つとなりて大地を照らすッ!! 光り輝けェッッ!!

 

 

 それはあまりにも雄々しく、あまりにも美しい。

 

 紅い竜が、バビロニアの宝物庫の宝物庫の扉を閉じた。

 









遅くなって本当に申し訳ありませんでしたァッ!!

あまりにも難産過ぎて、ずっと悩みに悩んで出した結論がコレ。正直、読み返してみてとんでもないくらい打ち切りEND臭が半端ないという。どうしてこうなった。

実質的にこれが最終回。これ以降は蛇足的なエピローグになりますので、ここで終わりの挨拶を。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!!途中色々ありましたが、何とか最終回までこぎつけることが出来ました。これもひとえに応援してくれる皆様の御蔭であります。本当にありがとうございます。

シンフォギアG。登場人物が増えたということもあって、物凄い話を書くのが難しかったです。深い心理を掘り下げたりとか、もう、ほとんど出来てないような気すらしています。低評価もいただきましたし、後半に行くにつれて感想が来なくなることも。途中からキャラクターが舞台装置になったり、遊吾が只のテンプレ説教オリ主になったりと、上手くいかないことの連続。至らず、反省する点が凄くあります。

今回の作品に、自分なりにテーマを作ってみました。それは、人を守る難しさ、一人が何かを為そうとすることがどれだけ難しく、また自分がどれだけ人と手を取り合って生きているのか。

遊吾は、今まで人を守るということをしてきませんでした。シンフォギアで初めて心の底から大切な人が出来て、その人を守ろうとしました。結果的に上手くいきはしましたが、それはあくまでも弦十郎たちの手があってこそ。

Gの遊吾は外国で一人、という状況で護りたい人が出来ました。ですが、果たして彼女を守る結果につながったのでしょうか?待遇の改善、研究所の子供たちとの交流。これが後にどう影響を及ぼすのか、ユー・トイルイ・テッシという人物が与えた各国への影響などもはかり知れません。
もし出来たとして、彼に出来たのは、多少なり突破口を開くことや、風穴を広げること程度。

幸い、この影響で原作とはほんの少し違った未来が彼女たちを待っています。ですが、これは同時に彼女たちの未来をより暗い物にするかもしれないと言う博打でもあった。

ネフィリムを倒し、彼は元の遊戯王の世界へと帰還しました。ですが、この世界で自分の力と弱さを思い知った彼は、これからどうするのか。


遊戯絶唱シンフォギアG、これにて終幕となります。沢山の感想、評価ありがとうございました!!

特撮仮面の次回作にご期待ください。
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