遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~   作:特撮仮面

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彼のエピローグ

「……」

 

 

 机の上に置かれたカードの束。一枚一枚は只の絵札でしかなく、恐らく何も知らない人がそれを見ても何も分からないだろう。それに、誰も信じないだろう。

 

 こんな掌に収まるくらいのカード一枚一枚が未来を変える可能性を持ち、世界を破滅させるような力があるなんて。

 

 トレーディングカード。様々な絵柄を集めることを目的としたそれに、遊びとしてのルールと戦略性を追加した遊び、トレーディングカードゲーム、TCG。

 

 現在、世界中でこのカードゲームが流行の兆しを見せていた。

 

 それが、遊戯王デュエルモンスターズ。元は日本のとある会社が開発していたカードゲームだが、数十年前に販売を終了させていた。しかし、アメリカの聖遺物研究機関であるF.I.S.の子供たちが、見たこともないカードを使って遊んでいる姿を見つけたとあるアメリカのゲーム会社の社長がその子供たちの話とエジプトの古代遺跡の石板からデザインを考え、日本の企業と協力して新たに誕生したのが、現在の遊戯王デュエルモンスターズである。

 

 アドバンス、融合、儀式、シンクロ、エクシーズなど様々なシステムが考案され、発売から数ヵ月で世界中の注目の的である。

 

 無論、この流行には一つの原因があった。それがネフィリム内での――

 

 

「響?」

「…あ、未来」

「どうしたの?」

「遊吾、どうしてるかなーって」

 

 

 同室の小日向未来が、デッキを前にして動かない少女――立花響を見かねて声をかける。

 

 顔を上げた響が、キチンとしてるかなぁと笑う。だが、未来にはわかる。その表情がまるで飼い主に棄てられた子犬のような哀しみに濡れていることに。

 

 ベッドから降り、未来は響を抱き締めた。

 

 

「うぇ!? 未来!?」

「寂しいなら寂しいって言ってよ。ね?」

「未来…」

 

 

 困ったように眉をハの字にして笑う響。

 

 確かに、未来の言うように彼が、遊吾が居なくなったことはとても寂しい。彼のことだから何かと理由があるということは何となく理解できる。だが、納得できるかと言われればそれは違う。自分が全ての罪を持っていくなんて都合が良すぎるし、あまりにも独りよがりだ。と言うか、彼は遺された人のことを考えたことがあるのだろうか? いや、無い。断言しよう。ありえない。

 

 

 今回、特に関わりの多かった切歌や調、そして何よりマリアはいつも遊吾のことを気に掛けている。彼が異世界人だということは知っていたが、まさか本当でしかもあんなに唐突にいなくなるとは思っていなかったのだろう。いつも心配そうだ。

 

 クリスは居なくなって清々する、などと言っているが、その癖一人きりになると、約束破りやがって、などと寂しそうに吐き捨てている姿を良く見るようになった。翼は表面上こそ変わりないが、ファンが一人減ってしまったなと苦笑していた。

 

 弦十郎たちも、あまりにも突飛の無い彼の行動に少し思うところがあるのか、鍛え直しだと色々しているようだ。

 

 彼は確かに異世界人で、この世界には存在しない人なのだろう。だが、それでも彼はこの世界に存在していて、自分たちは彼と心を通わせ、交流していた。だが、

 

 

「結局、遊吾にとって私たちってその程度だったのかなぁって考えちゃって」

「響…」

 

 

 悲しそうな響の言葉に、未来は決意する。

 

 あの野郎、帰ってきたら一発殴る、と。

 

 

「あ、あの、未来?」

「ん? どうしたの響?」

「ちょっと背中痛いというか笑顔が怖い!」

「あ、ごめん」

 

 

 どうやら少し熱くなってしまったらしい。慌てて響を離す未来。

 

 

「ふぅ…でも、遊吾にとって私たちが大切な存在だったって言うのは分かるよ? でも、ね…」

「響――よし!!」

 

 

 それでも、と笑う響に、未来は決意した。

 

 彼女の眉にハの字は似合わない。彼女を元気にするには、その原因を取り除くのが一番手っ取り早い。ならば、その原因とは何か? それは、遊吾・アトラスが元の世界に戻ったということ。ならば、遊吾が居なくなって寂しいのであれば、こちらからあちらの世界に行ってしまえばいい!!

 

 

「洸さんのところに行こう?」

「お父さんのところ?」

「うん」

 

 

 事件終結後、簡単に響の父親――立花洸が自分のことを語っていたが、彼には何やらネオスペースなる異空間を通ることで様々な世界を行き来する力を持っているらしい。

 

 ならば、その力を借りて彼の世界に行くことが出来るのではないだろうか? そう考えた未来の提案であったが、彼女の提案を首を振って否定する。

 

 

「それは駄目だよ、未来」

「どうして!?」

 

 

 何故駄目なんだ。詰め寄る未来に、響がとても言いにくそうに言った。

 

 

「今、実家で叔父さんとかおじいちゃんとかと大喧嘩中だから」

「あっ…」

 

 

 そう。立花洸――旧姓守崎洸は、現在妻と復縁するために奮闘中、なのだが、彼の実家である守崎家の人々が、あまりにも不甲斐無い洸が今更戻ってきたことに憤慨し、復縁をするならば、俺たちを倒してからにしろ!! 状態なのだ。

 

 立花家としては、三顧の礼や響との大喧嘩で、しっかりと誠意を見せてもらえている為まあ歩み寄ってもいいかなと考えているものの、守崎家の人々が、喝を入れなければ気が済まんということらしく、現在洸は実家へ戻り、何やら大エンタメデュエル大会やら、格闘ゲームもビックリな実践的な拳と拳の語り合いをしている真っ最中らしい。

 

 

「…響のお父さんの実家って、何なの?」

「えーっと…確か、元は妖怪とか幽霊を相手にする退魔師、とか陰陽師の一族だったんだって。あと、大昔には薩摩の方に本家があって、戦乱に乗じてこっちに来たとかなんとか。凄いよね、おじいちゃんもう九十歳になるのに、まだムキムキマッチョマンなんだよ?」

「なるほど…血筋、だったんだ…」

「それどういう意味!?」

 

 

 立花響のルーツは、どうやらそこにあったらしい。なるほど、と悟る未来に掴みかかる響。

 

 と、彼女の視界の端、机の上に置かれた液晶デジタル時計を見て悲鳴をあげると物凄い速さでベッドの中へと飛び込んだ。

 

 

「ほら、早く未来も寝ないと! 明日早いんだよ!」

「え? ちょっ、響!?」

 

 

 おやすみ! と言うだけ言って布団を頭から被る親友に思わず声をあげるが、すぐに聞こえてきた寝息にやれやれと首を振る。

 

 確かに言う通りだ。未来は、おやすみ、と響に小さく呟いて自分のベッドへと戻る。

 

 

「――りがとう」

 

 

 小さい声。一瞬立ち止まるが、ふふっ、と笑みを浮かべると未来は布団に潜り込む。

 

 布団の暖かさに包まれ、ゆっくりと身体が沈んでいく。

 

 明日は、マリアと翼が日本で仕事をする日であり、久しぶりに装者一同が揃う日なのだ。

 

 

 

 

「マリアさぁあああん!!」

「あら、響。久しぶりね」

「格好よかったですよ!!」

「ふふっ、ありがとう」

 

 

 ライブ終了後、新本部パーティ会場に現れたマリアの胸に響が飛び込んだ。それを受け止め微笑むマリア。それは人種こそ違えど何処か姉妹のように見えた。

 

 マリア・カデンツァヴナ・イヴと立花響。元々はF.I.S.そして武装組織フィーネのリーダーと、特異災害対策機動部二課の装者という敵対する仲であったが、互いに全てをぶつけ合う決闘や、互いにガングニールのシンフォギアを身に纏うという共通点、そして何より、遊吾・アトラスの関係者という部分が彼女たちを強く惹き付けた。

 

 一人っ子である響にとって、年上の女性は先輩や母親といった関係の人物しかおらず、姉のような母のようなマリアの存在は新鮮で、またマリアも妹のセレナが居り、セレナはマリアと違い響に近い性質であるためか、新しく出来た妹のように可愛がっている。

 

 

「あー! 狡いデスよ!」

 

 

 私だってまだあまりしてもらったことないのにー! とマリアに飛び込むのは、金髪の少女――暁切歌だ。

 

 

「切歌ちゃん! 久しぶり!」

「いや、今朝一緒にライブに行ってたデ――いたいいたい!?」

「…今日の立花はどうしたんだ?」

 

 

 切歌の身体を力一杯抱き締める響。現在の彼女の筋力は並み以上。そうなれば切歌が悲鳴をあげるのも仕方のないことで。

 

 そんな騒ぎを見て、グラスを持った風鳴翼が思わずといった風に呟いた。

 

 元々身体を使ったスキンシップなどが多目だったが、今日は一段と激しいように見える。

 

 

「その、遊吾さんのこと思い出しちゃったみたいで…」

「ああ、なるほど…」

 

 

 遊吾・アトラスと立花響。この二人の関係を言い表すとどのようなものになるか。恋人ではないし、家族ではない。だが、大切な存在。

 

 一つ言えることがあれば、二人は互いに支えあっていたということ。そんな支えの片割れが居なくなったのだ。どのような理由があるとしても、多少不安定になってしまうのは仕方がない。

 

 故に人恋しいのだろう。

 

 

「あんな調子で大丈夫かよ、あの馬鹿」

「ほう? 雪音、そんなことを言っても良いのか?」

「な、何がだよ」

 

 

 吐き捨てるように言うのは、口元にソースを付けた雪音クリス。そんな彼女に対し、なぜかニヤリと笑う翼。それを見て身を引くクリス。

 

 

「この間、勉強を教える為にお前の部屋にいったとき、キーホルダーを見つめて――」

「わぁああああああああああああ!? あああああああああ!! あああああああああああああああ!!」

「煩いぞ!」

「う、ばっ、お前、お前なぁ!? お前なあ!!」

 

 

 瞬間湯沸かし器のように顔を真っ赤にし、翼の胸をガッチリつかみながら魚のようにパクパクと口を開けるクリス。

 

 痛いぞ、と平静を装う翼だが、その表情と目には隠しきれない愉悦の感情が浮かび上がっている。

 

 

「分かってるだろテメェ!!」

「うん? 何のことだ? あー、誰かが先輩と呼んでくれたらなー」

「ぐ、ぐぬぬぬ…」

 

 

 この野郎ッ、私は野郎ではないぞ? などとやり取りをしつつ、クリスは考える。

 

 このまま翼を掴んで詰め寄っているのは簡単だ。だが、自分には彼女をどうこうできるような力は無い。もし何かの拍子にアレを言われれば、終わる。それを理解しているからこそ翼はわざと引き延ばししているのだろう。

 

 そういう風に、あーだこーだと言い合いをしている装者たち。そんな彼女たちを見て、お互い大変だねと苦笑しあう、調と未来。

 

 

「レディースエーンドジェントルメーン!!」

「はぁ? なんだ――って、オッサン!?」

「響一郎さんも――あの、隣にいる筋肉ムキムキマッチョメンの変態は」

「レックス所長!? 馬鹿な、今日は仕事で来られないと――」

「トリックだよ」

 

 

 突如として会場の照明が落ちたかと思えば、ステージに降り立つ筋骨粒々のむさ苦しい大人たち。

 

 弦十郎がシルクハットを被っているのは良いとして、何故か日本神話の男性のような格好をしてアームドギアを展開して構える響一郎と、上半身裸で何やら刺青を入れているレックスはどういうことなのか。

 

 まるで意味がわからんぞ、と装者たちが困惑する中、弦十郎がマイクスタンドをクルリと回して言った。

 

 

「今日は集まってくれてありがとう! これから、サヨナラ二課! こんにちはS.O.N.G.! を開始する!!」

『ウォオオオオ!!』

 

 

 男、女、職員の皆が盛大に叫ぶ。中には、きゃー司令素敵ーだの、司令! 俺だ! 発剄してくれェ! といった声まで聞こえてくる。一体この二課で何があったのだろうか?

 

 

「皆、飲食しながらで構わない――まずは、アメリカからのビデオレターだ。これは、現在アメリカで生活復帰を目指しているセレナ・カデンツァヴナ・イヴさんから預かってきたものだ」

 

 

 盛り上がってきたところで、弦十郎がスクリーンに映像を映し出す。

 

 そこに居るのは、淡い髪色の少女。優しそうな、だが強い意思を放つ蒼い瞳。

 

 マリアの実の妹であるセレナの姿だ。

 

 

『マム、これ撮ってるの? ちょっと緊張して肩が凝る――え、もう撮ってる!? 先に言ってよ! もう。えっと、特異災害対策機動部二課の皆様、はじめまして。セレナ・カデンツァヴナ・イヴって言います。マリア姉さんが何時もお世話になっています。迷惑かけてませんか? 姉さん何かとおっちょこちょいだし、怖がりだし、ヘタレるし、物凄い子供っぽいんですけど』

「なに言ってるの、セレナ!?」

「落ち着いてくださいマリアさん!」

「離して響!!」

 

 

 マリアがギャーギャーと騒いだところでビデオが止まるはずもなく、画面の中のセレナはニコニコ笑いながら話を続ける。

 

 

『―て感じで、姉さんはもう…。あ、これ以上言ったら姉さんに怒られちゃうんでもうやめときます。てへっ』

「ちょっとアメリカ行ってくる!」

「落ち着いてくださいマリアさん! 大丈夫ですよ!」

「響?」

「マリアさんがそういう人だって言うことは、皆理解してますからッ!!」

 

 

 目映い笑顔と共に親指をたてる響。そんな響を見て数秒固まっていたマリアは――泣いた。

 

 泣いた、というか哭いた。うわぁーん! と顔を覆って泣くマリアに、なにか間違えたか!? と慌てて慰めようとする響。しかし、泣き出した理由が分かっていないのに慰めようとすれば、傷口に塩を塗るどころか、塩を捻り混む勢いで彼女の心を抉ることになってしまい――

 

 

「うわぁぁー!!」

「あれー!?」

 

 

 マリアは走った。彼の無自覚に暴虐の限りを尽くす響から逃げるために。

 

 

「ど、どうしたんですかね…?」

「…今のは立花が悪い」

「ええ!?」

「うん。今のは響が悪いよ」

「未来まで!?」

 

 

 周囲の反応に、ええ、なんで!? と驚く響。

 

 そんな装者たちを放っておいて、映像は最後の場面に移る。

 

 

『と、言うことなので皆さん頑張ってください! 応援しています! そして装者の皆さん、不出来な姉ですがどうかよろしくお願いします』

「大丈夫だよ、セレナちゃん」

『それと――お姉ちゃん、大好きだよ』

「私もよセレナッ!!」

『帰ってきた!?』

 

 

 皆が感動しているところに、突如として舞い降りてきた妹魂――シスターコンプレックスことマリア。

 

 

「セレナの言葉を聞き逃すはずないじゃない」

「え? じゃあ何処から――」

 

 

 マリアが無言で天井を指差す。

 

 天井? 皆が上を見れば、そこには大人一人が通れるくらいの通気孔。よく見てみれば、その蓋は完全に外されているのが確認できる。

 

 

「どこの忍者だよ!?」

「失礼ね。美人潜入員とでも呼んでほしいわ。私のアガートラームの装備が忍者みたい、ってセレナに言われてね…」

「どんだけシスコンだよ!?」

「妹が好きで何が悪い!」

「お前、馬鹿だろ!」

「スーパーロボット見て武装考える奴に言われたくないっ!」

「なっ、言ったな!!」

 

 

 唐突に始まるクリスとマリアのキャットファイト。こそこそと戦線から離脱してきた響は、悩ましそうに額に手を当てる翼の姿を見て、どうしたのかと駆け寄った。

 

 

「どうしたんですか、翼さん?」

「ああ…そう言えばこの前、緒川さんに会わせてくれない? とかマリアが言ってたのを思い出してな…」

 

 

 まさかこの事だったとは…。やれやれと首を振る翼に、響も思わず乾いた笑みを浮かべるばかりだ。

 

 緒川慎次。彼は自分のことを只のマネージャーですと言っているし、自分達がどれだけ忍者じゃないのかと聞いてもはぐらかすばかりなのに、なぜこんなところで忍者だとバラしていくのか。

 

 もしかして、戦隊ヒーローの名乗り上げみたいにとりあえず忍者と言うことは隠しておかないといけないみたいな約束でもあるのだろうか?

 

 

「…どうする?」

 

 

 周囲を見ながら翼が言う。

 

 マリアとクリスのキャットファイトを起点として、今会場内は混沌としていた。

 

 壇上を見れば、いつの間にか黄色と黒の不気味なお面を被った弦十郎が、何やらサイバーな鎧を着た響一郎とレックスをくねくねと不可解過ぎる動きで翻弄し一方的にボコボコにしているし、その近くではハーモニカを吹きながら手札と場をグルグルしている藤尭と、それを相手にする未来の姿。

 

 その近くでは、緒川と見知らぬ男性が互いに御辞儀をしたかと思えば、身体を全く動かすこと無く謎のスライド移動をしている。更に奥では、友里が調と切歌と共に美味しいねなどとほのぼのと料理を楽しんでいた。また、それらの隣の方でこそこそと動いている奏とライダースーツの男――

 

 

「お父さん!? なんでお父さんが此処に!? 帰ってきたの!? 自力で実家からッ!? お父さんッ!!」

「違う――俺の名前は、アキラノミー!!」

「普通に再会は出来んのか…」

 

 

 少し演技の入った二人の動きに思わずため息を吐く翼。しかし、確かに響の言う通り、響の父親である立花洸は今実家に居るはずだ。なのに何故この場に居るのだろうか?

 

 

「響、遊吾君がどうしてるか分かったんだ!!」

「…え? ……ホント?」

「ああ! これを見てくれ!!」

 

 

 ライダー姿の洸が響に見せるのは、古臭いVHS。

 

 VHS――ビデオテープなどと呼ばれていた、アナログの記録媒体だ。デジタル、それもよりコンパクトにデータとして纏められるようになった現代人の響たちからすれば、馴染みのない代物だ。そんな古臭いものでどうして遊吾のことが分かると言うのだろうか?

 

 首を傾げる二人だが、そこで翼は気が付いた。そのビデオテープに張り付けられた文字。

 

 

「遊戯王、デュエルモンスターズ?」

「そう、デュエルモンスターズ。響たちは聞き覚えあるはずだ」

 

 

 デュエルモンスターズ。それは遊吾・アトラスがプロとして活動し、また彼女たちにも新たな世界の一つとしてなじみの深いモノ。それが古いビデオテープに収録されているというのは一体どういうことなのだろうか。

 

 

「僕たちの世界がアニメや漫画の出来事のように、彼らの世界もまた同じなんだ」

「どういう、こと?」

「これから分かるよ」

 

 

 弦十郎さん、構いませんか? そう問う洸に頷く。

 

 これから始まるのは、一人の決闘者の新たな始まりの記録――

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

 

『さぁッ! やってまいりました、フューチャー・フレンド・カップ決勝戦ッ!! この戦いを制した者が、新たな王者となるッ!! さあ、新たな王者の誕生を目にする覚悟は出来てるかぁあああ!!』

 

 

 うおぉおおおおッ!! ドーム、街中に溢れる人々が一斉に声を上げる。

 

 FFC。この、ネオ・シティ最大にして最高の決闘の祭典。世界中が注目する、決闘者憧れの舞台だ。

 

 

『この、MC宮内が会場の、いや、世界中の人々に熱いデュエルの様子をお届けするぜぇ!!』

『さあ、まず最初に入場するのは――この男ォ!!』

 

 

 画面が切り替わり、会場に一人の男が映し出される。

 

 海胆のようにツンツンした頭。風にたなびくロングコートに、腕に巻かれた銀色の鎖。それは決闘王者の義理の息子にして、並々ならぬ実力を見せつけ予選からここまでノンストップで駆けあがってきた若き決闘者。

 

 エキシビションという大舞台を自ら棄権してまで数多の決闘者を薙ぎ払ってきた男。

 

 

『長い沈黙を破り、この街に帰ってきたッ!! 彼は言う、これが俺の新たな姿だとッ!! 刻め、これが彼の王の息子ッ!! 遊吾ぉぉおおおッアトラァアアアアアアアスッ!!』

 

 

 登場門が爆発し、そこから一台の赤いDホイールが姿を現す。

 

 大型にして重装甲。加速のみに特化させた暴れ馬。それはスタートラインの前に横滑りで着地すると、搭乗員である男が右腕を天に掲げて叫んだ。

 

 

「ああ、文句もある。言いたいことだってある。言われたこともある。だから言おう。これが俺だと、これこそが俺なんだとッ!! 王子は一人ッ、このッ、俺だァッ!!」

 

 

 高らかに宣言するその姿に、会場中が湧き上がる。今までほとんどしてこなかった彼の本気の宣言は、観客たちの期待を否が応にも高めていく。

 

 

『さぁ、皆さんお待ちかねの、王者の登場だッ!! 絶対無敵の王者、ネオ・シティの王者、世界の、我らの王者――ジャァアアック・アトラァアアアアアアアスッッ!!』

 

 

 再度の爆発。その中から一台のDホイールが飛び出す。白色にして特異なフォルム。それは王者にのみ許された究極のマシン。

 

 そのマシンを駆る男は、遊吾の隣に停車する。鳴り響くキングコールを収めるように右腕を天高く掲げ、叫んだ。

 

 

「キングは一人、この俺だッ!!」

 

 

 割れんばかりの叫び声。スタジアムが揺れ、歓声が轟く。

 

 

『実況席すらも揺らすこの歓声、この熱気!! 皆に届いてるだろうか!! さあさあ、ここまで盛り上がってんならもういうことは無いッ!! 皆行くぞ――』

「――っと、ちょっと待ってくれねえか!!」

 

 

 MCの声を遮る様に、遊吾が声を上げる。

 

 一体何が始まるんだ? 興奮覚め止まぬ観客席からは不満の声が上がる。当然だ、これから折角王者の決闘が開始されると言うのに、その始まりをこんな風に遮られてしまえば誰だって不満を持つ。

 

 だが、彼の声にとりあえず会場の声は全て収まった。彼は大きく息を吸って会場中に響き渡るように話し始めた。

 

 

「俺はサテライトから来た。これは皆知っていると思う。昔のサテライトは、それはもう、悲惨だった。楽しい筈の決闘を、おぞましい手段として用いていた。けど、それは親父に――ジャック・アトラスに出会ってから変わった」

「ジャックの決闘はスゲェ。皆も分かるだろ? 凄く格好良くて、凄く熱くて、俺はそれに憧れて決闘者になった。多分皆もこういった憧れとかで決闘者になった人は多いと思う」

 

 

 でも、と彼は続ける。

 

 

「この頂に立つのは、あまりにも厳しい。強者は常に孤独だ。この場所に立てるのはただ一人だけ。最強は一人にしか許されない称号だから。だから一人で居なければならない、そう思っていた。一人で全て出来なければいけないと。実際、一人でも自分は何とか出来るって思っていたし、一人で無茶苦茶してきた」

「けれど、それは違う。孤高と孤独は違うんだ。孤高とは、独り頂に立つことだけれど、その頂に行きつくまでに多くの人々との繋がりがあったんだ。俺はそれを理解していなかった。俺がここまで来れたのは、俺と戦ってくれた多くの決闘者、俺を支えてくれた人たちが居たから。でも、俺はそれを理解していなかったから、孤独だと思い込み、孤独だと信じて戦ってきた」

「決闘をすれば理解し合える。決闘を通して分かることがある。この言葉は本当だと、そう思っている。俺たちは、決闘者だ。だけど、決闘者は決闘者だけで決闘者じゃない。相手が居て、カードが居て、自分が居る。そして周りに人が居る。そうして初めて決闘者は決闘者なんだ」

 

 

 それは誰に伝える為の言葉なのか。もしかしたら、自分に言い聞かせているのかもしれない。誰もが分かり切っていること。だからこそ、彼は言う。自分に決闘を教えてくれた、鍛えてくれた。助け、支え合った。そして、共に分かち合った人々に届くように。

 

 

「だから見ていてほしい。こんな当たり前なことすら分かってなかった俺を導いてくれた、こんな俺と手を繋いでくれた人たちに。俺の始まり。俺の決闘を」

 

 

 ずっと言いたかったんだと笑い、彼はDホイールを前進させる。

 

 スタートラインに二人の決闘者が並び立つ。彼らの間に言葉は無い。

 

 静まり返った会場に、無機質なカウントダウンが鳴り響く。

 

 

『ライディングデュエル・アクセラレーションッ!!』

 

 

 開幕を告げるブザーと共に、二台のDホイールが飛び出した。

 

 




次回、まさかの決闘編。シンフォギア要素が薄れすぎててヤバい…。

何故だ!?答えろ、答えてみろ読者ァッ!!

この間のアンケートに答えてくれた皆さま、本当にありがとうございました! エピローグ編終了次第、アンケートのエピソードを書いていく予定です。
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