遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~   作:特撮仮面

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彼と新たな日常と

 獅子座流星群よりまたしばらくの時間が過ぎた。特殊災害対策機動部二課が仮拠点から、多起動潜水艦へ活動の拠点を写し、活動を開始しはじめた頃――。

 

 遊吾・アトラスが行方不明となった。いつものようにふらりといなくなるのではない。本当に唐突に消えたのだ。

 

 もしや異世界に帰ったのではないか? そう懸念する声も上がったが、それはすぐに否定されることとなる。

 

 Dホイールこそ無くなっていたものの、彼の所持していたデッキの一部が部屋に残されていたのだ。机の上にバラバラにされたカードたちは、モンスター、魔法、罠の三種類のカードに分ける作業の途中であったらしく先程まで此処に居たということが分かる。決闘者の魂であり、命よりも大切なデッキを置いて行くなんて考えられない。しかし、EXデッキと呼ばれる場所に格納するはずのカードが一枚も存在せず、さらに神を束ねるファイルも消失していたことから、カードの力によってどこかに転移させられた可能性が高いという判断が下された。

 

 この異常事態を受けて、風鳴弦十郎は日常の任務以外に遊吾・アトラス少年の捜索を開始。だが、二課の面々は実はそこまで心配していなかった。

 

 きっと彼は帰ってくる。誰もがそう信じていたなか、彼は――

 

 

「マリア、これ」

「ありがとうユーゴ。…また獲ってきたの?」

「当然!」

 

 

 とある年上美女の家の居候として、アメリカの片田舎で生活していた。

 

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

 

 マリア・カデンツァヴナ・イヴは混乱していた。

 

 当然だ。自分だけの秘密の家の敷地内に突然空から大型バイクと共に人間が降ってきたのだから。

 

 見たことのない形状のバイク――と言っていいのだろうか? 装甲に覆われた厚いタイヤ。エンジン部分は虹色の光が溢れ、マフラーに該当する部分は見当たらない。横転しているが、そんな状態でも確かに感じられる雄々しく、力強い二輪車。

 

 まるでSFの世界から抜け出したかのようなものと共に落ちてきた、黒いコートにフルフェイス――と呼ぶには少々変わった形状をしているヘルメットを被ったコート姿の男。

 

 

「……ん、これ――カード?」

 

 

 目の前にヒラヒラと落ちてきたカードを拾う。枠の白いカード。そこには変な文字と、血のような深紅の悪魔の姿が描かれていた。

 

 よく見てみれば、そのカードと同じようなデザインのカードがいくつも散らばっていた。

 

 恐らく、目の前の男性のものだろう。そう判断したマリアは、自然な様子で地面に落ちたカードを拾い始めた。

 

 

「結構、あるのね…」

 

 

 数にして八十枚ほどだろうか? 白色以外にも、黒色、赤色、紫色、緑色、茶色の枠のカードがあったが、どれも共通したデザインだったので判別は容易であった。

 

 さて、これからどうしようか? マリアは考える。ここで警察を呼ぶのが一番手っ取り早いだろう、と。だが、この場所は彼女と彼女の信頼する者しか知らない特別な場所。その場所を誰かに知られたくはないし、何よりも、この男――少し気になるのだ。何が気になるのか、と言われれば具体的にどうこうとは言えないのだが、なんと言うか気になるのだ。

 

 

「息はしてるし、外傷も一切無い…。どんな身体をしているのかしら…。ん! …お、重い……」

 

 

 もしかしたら、自分が生まれる前に流行ったと言われる未来からやってきた人に化けたロボットと戦うという映画みたいに、未来からやってきたのだろうか? などと下らないことを考えながら、とりあえず家に運ぼうと動き出す。バイクは今は置いておくとして、まずはこの男性の看病をしなければ。

 

 そう判断して彼を抱えようとするのだが、気を失っている人間と言うものはとてつもなく重い。マリアの筋力では持ち上げることがギリギリ出来るか出来ないか程度。ごめんなさい。先にそう謝ると、マリアは彼を引き摺るようにして家にまで運ぶのであった。

 

 

 

 

 次の日。小鳥の囀りで彼は目を醒ました。

 

 目の前にあるのは天井。見慣れたサテライトの廃墟の物でなければ、家や二課の白い天井でもない、暖かみを感じる木の天井。

 

 ふかふかした布団。これはベッドだろうか? むっちゃ柔らかいと言うか良い匂いするしここが天国かやべぇこのまま寝たい。そんな欲望に負けそうになりながらも、何とか周囲を見回す。

 

 とても落ち着く甘い香り。周りを見れば、そこは見たことのない部屋。もしかしたら、誰かの家なのだろうか。

 

 そう考えたところで、視界の隅に穏やかに上下する桜のような淡い色を見つけた。

 

 腹筋をいかしてゆっくりと上半身を起こした彼が見たのは、女性。

 

 響やクリスのような幼い感じではなく、どちらかと言えば翼や奏でなどの年上のお姉さんといった雰囲気。その寝顔はとても可愛らしいもので。起き上がった際に額から落ちたタオルといい、枕元に置いてある洗面器と水といい、どうやらこの女性が自分を助けてくれたらしい。

 

 ありがたいな。と言うか俺は一体どこに落ちたと言うんだ…。何の気なしに懐に手を入れた彼は、思わず目を見開く。

 

 デッキがない!? ヤバイ、そう考えて動き出そうとしたら、その振動で目が覚めたのか、女性が目元を擦りながら大きく欠伸をした。

 

 

「――?」

「……すまねぇ、英語はさっぱりなんだ」

 

 

 強い意思を感じさせる瞳。だが、その光は響のように力強いものでも、翼のようにしなやかな剣を思わせるものでもない、未来のような日溜まりを感じさせるようなとても暖かく、優しい光。

 

 顔立ちは氷の結晶を思わせる鋭く、美しいものだが、その瞳の優しさが、美しさと可愛らしさという相反する美を両立させていた。

 

 その美貌に思わず見惚れそうになった彼であったが、彼女の口から放たれた言葉に反射的にそう返していた。

 

 

「――?」

「あー、そっか。そっちもわかんねえのか…」

 

 

 どうやら相手もこちらの言葉、日本語が分からないらしい。

 

 決闘者には、アメリカ人など海外からやってきた人が居なかったわけではない。だが、遊吾は海外に出たことが無いので本場の発音を聞いたことが無く、また海外からやってきた決闘者たちも、何かと日本語を話したりしていたので、言語で困ることが無かったために彼は英語などの外国の言葉がわからない。

 

 しかし、決闘に関する単語などは大体覚えている。変な話だが、決闘に関する単語及び文章のみ読むことと聞くことができるというわけだ。

 

 

「アー……コン、ニチ、ワ?」

「あ、それは言えるのか。こんにちは」

 

 

 片言ではあるが、日本の挨拶を相手が行ってくれたので、ペコリと頭を下げる。

 

 

「mynameisマリア」

「マリア?」

「Yes」

 

 

 幾らなんでも、それはわかる。自分を指差してマリアと言う女性。どうやらマリアと言う名前らしい。なるほどな。頷いた彼は、同じように自分を指差しながら言った。

 

 

「遊吾。まいねーむいず、ゆうご!」

「ゆーご?」

「そう。遊吾!」

「ユーゴ!」

「イエス!!」

 

 

 少々発音が違うが問題はない。拙いながらも言葉が通じあったことで、気づけば手を取り合って喜びあう二人。

 

 これが人類の相互理解、最初の一歩!! とか何とか上がったテンションのまま喜びを分かち合っていた二人だが、さすがに自分達の状態に気付いたらしく慌てて手を離すとどちらもそっぽを向いてしまう。

 

 と、そこで自分が慌てた理由を思い出して遊吾はマリアに尋ねた。

 

 

「あー、えっと。ホワット、カード、あー、デッキ知らね?」

「……カード…デッキ」

 

 

 カードという単語に聞き覚えがあるらしく、何やら顎に手を当てたかと思えば部屋を出ていったマリア。その際にラフな格好であるがゆえに分かった胸の揺れ具合と扉へ向かう際の腰の動きと腰から足にかけての素晴らしい丸みの確認に、決闘者特有の高い視力と気配察知能力、記憶力を使用してしまい、なにやってんの俺、とこの世界に来てから起こるようになった異性への興味、異性への視線の移動速度。自分の欲深さについつい頭を抱えてしまう。

 

 暫くして帰ってきたマリア。その手には見慣れたカードの束。ホントありがとな! と笑顔で礼を言って彼女からカードの束を受け取り、枚数が足りているか確認しようと捲り始めて――そして驚いた。

 

 全てのカードが種類別に分けられていたのだ。モンスター、魔法、罠だけではなく、枠の色とアイコンで判断したのだろう。カウンター罠や永続罠、速攻魔法。全て種類で分けてある。

 

 普通、所持品を弄られたら怒るところなのだろうが、ここまで綺麗にされたらなにも言うことはできない。まあ何にせよ助けてもらった身であることも考えて、怒るつもりなんて欠片もないわけなのだが。

 

 

「――?」

「ああ、これはデュエルモンスターズって言うんだ。知ってるか?」

「でゅえるもんすたーず?」

「ああ!」

 

 

 マジック、トラップ、モンスター。時々英単語が使われていることもあって、カードの種類を話すのは容易であった。

 

 これらを駆使して戦うのが、デュエルモンスターズなんだ。楽しげに説明する遊吾。その言葉は単語だらけで文法も何もないような無茶苦茶なものであったが、マリアが聡明であったこと、そして日本語を多少なりと学んでいたことで彼の言葉の内容は何となくだが理解していた。

 

 こうして、彼と彼女の奇妙な同居生活がスタートしたのであった。

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

 

 

「あれからもう一週間、かぁ…」

 

 

 眩しい日差しに思わず手で蔭を作りながら、洗濯もの片手にマリアがそう呟いた。

 

 二週目も既に半分。彼と出会って一週間とちょっとしか経っていない筈なのに、まるでそれ以上の時間が経っているのではないかと思わせる程に濃厚な時間が過ぎていた。一週間もたてば互いに互いの言葉がある程度分かってくるもので、遊吾もマリアも相手の母国語を、堪能とは言えないものの確実に物にしていた。

 

 小さい、と言っても一人暮らしのことを考えれば結構大きな木造の家。そのバルコニーから彼女は視線を落とす。

 

 家の前で、赤色のバイク――彼曰くDホイールと呼ばれる自動二輪車と言う名の決闘盤――のエンジン部分を弄っている彼の姿を見つける。目が覚めた次の日に、Dホイールを取りに行こうとした彼に対し、自分の家のガレージに持ってきたと言ったら土下座されたのを覚えている。どうやら、彼にとってあのDホイールなる物はそれほどまで重要なものであったらしい。

 

 しかし、と彼女は楽しそうにDホイールの装甲板を引っぺがす彼の姿を見て首を傾げる。あんな機械的なバイクなら専用の機材で調整した方が良いのではないだろうか? しかし、彼はこの家にある工具で十分だというし…。

 

 遠目から彼の整備している姿を見ているマリア。しかし、とマリアは思う。ああやって整備している姿を見たら、自分よりも四、五歳は年下だとは思えない。彼が何処から来たのかなどはまだ聞いていないが、一体どんな経験をしたらあれほどの雰囲気を身に纏うことが出来るのだろうか? 彼の動きを見ていたマリアは――彼の手にある物体を見て思わず吹き出した。

 

 彼がDホイールの中から取り出したのは、空き缶。何やらホースと接続されているところを見ると、エネルギーの循環部分か何かだろうか? しかし、何故そんな場所に空き缶が!?

 

 吹き出した音で彼女に気づいたらしい彼が、上を向いて大きく手を振ってくる。とりあえずそれに答えると、マリアは声を張り上げた。

 

 

「何で空き缶なんて入れてるのよ!!」

「おまっ、空き缶だからって馬鹿にスンナよ凄いんだぞ!!」

 

 

 大声であるが、何やらエネルギーゲインがどうとか言っている。どうやら、空き缶を利用することで、エネルギー効率を上げているようだ。まあ、言葉の節々から聞こえてくる、専用のパーツはあるんだけどね! という悲しい彼の声は聞こえないことにしておこう。

 

 さっさと洗濯物を家に取り込むと、階段を下りて彼の元へと向かうマリア。

 

 危険だからと遊吾に言われて、Dホイールをあまり触らせてもらえないが、昨今の女性のことを考えると、案外彼女は機械関係に強い。彼女が日本で言う成人を迎えており、尚且つ車などの免許を既に持っていることが関係しているのだろう。実はこの家のガレージには乗用車もそうだが、バイクや各種工具などが綺麗に保存されていたりする。

 

 彼女が洗濯物を片付け、彼の元へとつく頃には、彼は既に片づけを開始しているところであった。また見逃した。まるで背中に目でもついているのではないかと思うようなタイミングでの作業終了に、彼女が思わずと言った風に地面をける。それを見て、彼が残念でした、と悪戯が成功した子供のような顔で言った。

 

 

「残念でしたーってな。Dホイールの整備見るのはまた今度な?」

「…別に見ても良いじゃない」

 

 

 ぷくっと拗ねた子供のように頬を膨らませていじけるマリア。おいおい、随分と子供っぽいなおい、と相変わらず自分よりも年上の癖に何かと年下の子供のような子供っぽい仕草を見せるマリアを見て思わず苦笑してしまう彼。

 

 

「そんな顔すんな……また近所走ってやるから」

「約束よ!!」

「お、おう…」

 

 

 瞳をキラキラと輝かせながら小躍りするマリアに、少しだけ距離を取りながら彼は苦笑する。こちらの世界に来てから暫く経つが、何故皆してDホイールの後部座席、荷物置きに乗りたがるのだろうか? 確かに自分のDホイールは無理をすれば最大三人は乗せれないことは無いが、態々乗るようなものでもないだろうに…。

 

 今までDホイールを駆ってきても、誰も後ろに乗せてくれなんて言ってこなかったので使用されていなかった無駄機能が今になって急に働くようになり、何故皆乗りたがるのだろうかと本気で思案する遊吾。

 

 

「じゃあ、早速乗りましょう!」

「本当に早速だなおい!? ちょっと待て。どこに行くんだよ」

「近所のスーパーよ?」

「……警察にバレたらヤバいんですけど」

「気にしない!」

「気にするわ!?」

 

 

 お前は一体何を言っているんだ!? とツッコミを入れる遊吾。そんな彼を見て、フフ、と小さく笑うと近くに置いてあった彼のものと同じデザインの黒のフルフェイスヘルメットを被る。彼の世界の品物らしく、自動的にある程度サイズを合わせてくれるらしいそのヘルメットを被ると、さっさとDホイールの後部座席部分に座る。

 

 

「おーい、スカートのせいで綺麗なおみ足が御開帳しているのですがよろしいのですか?」

「大丈夫。見る人なんていないわよ」

「…いや、ここに居るんですけどねぇ…」

 

 

 ユーゴ、早く! と急かすマリアに、やれやれとため息を吐くと、Dホイールに跨る彼。万が一を考えてベルトを巻きつつ、彼女に自分の腰に腕をまわすように指示する。

 

 しっかりと巻きつく腕。同時に押し付けられる彼が出会ってきた中でも上位に入る圧倒的な攻撃力と防御力を持つ神のカードを背中に感じて思わずビクリと身体を跳ねさせてしまう。

 

 どうしたの? ヘルメットに取り付けられた無線越しに問いかけられ、努めて冷静さを保ちながら彼はアクセルを吹かす。

 

 キィンと言う甲高い虫の羽音のような音が響く。モニターチェック。モーメント正常可動。各サスペンション確認。問題なし。エネルギーゲインが少々低下しているか…。どこかで空き缶交換しないとなぁ。そんなことをブツブツと考えながら起動チェック完了。

 

 

「しっかり捕まってろよ!」

「はいはい」

 

 

 何だか癪だったので、初っ端からフルスロットル。ウィリーを決めながら急発進させる。

 

 彼の荒い運転に思わず小さな悲鳴を上げたマリア。それを聞いて、適当な返事をするからだよ、とクツクツと笑いながら彼が言う。無線は切っていたはずなのだが、彼の肩が震えていることで彼が笑っていることに気づいたらしいマリアがヘルメット越しに彼の頭をたたく。

 

 

「――!?」

「…大丈夫か?」

 

 

 流石は最新型のヘルメット。殴られた側より殴った側の方が痛かったらしい。声になら無い悲鳴を上げる彼女に、本格的に笑いを堪えながら彼が尋ねる。

 

 

「……――」

「おい、今なんて言った!? おい!?」

 

 

 小さく英語で呟かれた言葉。微かであったことと、見事な発音だったため彼は思いきり聞き逃してしまった。

 

 この世界の女性は一度拗らせたら面倒くさい。響や未来、ツヴァイウィングの二人にクリスも含めて、この世界の女性は何かと拗らせると大変面倒くさい。メンタルが弱いというか、妙に過去のトラウマが重いとか。彼女、マリア・カデンツァヴナ・イヴも同じように過去が重く、面倒くさいのだ。

 

 そのせいか、あまりからかいすぎると後が面倒くさい。というか色々大変なのだ。

 

 

「それは、晩御飯のお楽しみよ?」

「…マジですいませんでした」

 

 

 晩御飯、という響きに思わず頭を下げる。

 

 一週間前。マリアと出会って三日目だったか。ようやく彼女との生活に慣れ始めた頃に、一度彼女がシャワーを浴びているところに間違って入ってしまったことがある。

 

 言い訳をしていいのであれば、あの日はデッキを弄っていたところ突然邪神から呼び出しをくらって、唐突な闇のゲームを行っていたのだ。女にかまかけて私たちのことを忘れていないか、実力が落ちていないか確かめてあげよう。そんな言葉と共に始まった邪神との決闘。

 

 何とか勝利したモノの、消耗が激しく、彼女がシャワーを浴びていることにまったく気づけなかったのだ。

 

 その時の光景はよく覚えている。

 

 白い湯気の立ちこむシャワールーム。流れる艶やかな淡い色の髪は水分を吸って彼女の身体にピッタリと張り付き、その肢体を浮かび上がらせていた。

 

 日本人ともアメリカ人とも少し違う白い肌と、外国人特有と言っていい綺麗なくびれと安産型の柔らかそうな臀部、そしてそこから足にかけての見事な線。目を瞑り、リラックスしきった表情。どうやら彼女も彼に気づいていなかったらしく、扉を開けっ放しにしていたことによる、シャワールームと部屋の気温差に気づいて扉の方を向いた彼女。

 

 彼女の動きに合わせて揺れる豊満な胸。ただスタイルが良いだけではなく、腹筋を含めて全身の筋肉がうっすらとだが盛り上がっていることが、その肢体が健康的で且つ素晴らしいものかを強調する。

 

 前々から思っていたが、ここで彼は確信した。マリアってやっぱ聖母の生まれ変わりか何かだろう、と。

 

 そこから先は多くは語るまい。ただ、敢えて言うことがあるとすれば、彼の土下座は日本人の精神を表す高潔さと、富士山よりも高く、東京湾よりも深い想いが込められていた、と。

 

 

 

 

 時は過ぎて夜。彼が戦慄していた晩御飯の恐怖は、マリアの機嫌をとることで何とか成功したが、ついにDホイールの整備の際は彼女もいっしょに行うという約束を取り付けられてしまった遊吾。

 

 そんな彼は、今割り当てられた部屋で眠っていた。

 

 深夜零時。そんな時間に、マリアは誰かと電話を行っていた。

 

 

「分かってるわ…。休暇はもうすぐ終わり。終わり次第そっちに戻るから」

 

 

 どこかイライラした様子。いつものマリアとはかけ離れた姿。電話の相手も困惑しているらしい。迎えを寄越そうか? と提案する相手に、マリアがついに声を荒げる。

 

 

「いい! いらない!! …ごめん。ちょっと今日は虫の居所が悪いみたい」

 

 

 一言か二言話すと、彼女は電話を切った。

 

 はぁ、と大きく息を吐くと、彼女はベッドの上に体育座りで蹲る。

 

 自分の役目は分かっている。使命も、これから行わないといけないことも。だが、彼女は知ってしまった。彼と出逢ってしまった。

 

 彼との日常がとても心地よかった。このまま一緒に居たい。だが、そうもいっていられない。これから自分はまた歌姫マリアとしてあの場所に立たなければならないのだ。

 

 歌うことは好きだ。だが、あの場所で歌うのは……。今は嫌いだ。だが、嫌いだからと言って嫌いだと言っていられない。言っていられないのに。言ってはいけないのに。

 

 葛藤。マリアと言う優しい少女が背負うにはあまりにも大きすぎる運命が、彼女を押し潰そうとする。

 

 

「だれか……たすけて――」

 

 

 そうマリアが呟いた瞬間、彼女の部屋の扉がノックされた。

 

 ビクッと肩を震わせると、彼女は目元を拭い、慌てた様子で扉へ向かう。

 

 

「開いてるわ」

「入るぞ、マリア――どうした?」

 

 

 彼女の様子がおかしいことに気づいた彼は、彼女に声をかける。が、マリアは只何でもないと首を振るばかり。しかし、目元には明らかに擦った後と思われる跡が残っており、気付かれないように視線を部屋に巡らせれば、ベッドに置かれた怪しげな通信端末。おそらくアレが原因であろうとあたりをつけるが、今の状態で彼女に事情を聞くわけにもいかない。

 

 だから彼は彼女を安心させるように笑う。

 

 

「なあ、決闘しようぜ!」

「決闘? って、デュエルモンスターズで戦うって、あれ?」

「ああ!」

 

 

 その為の道具を持ってきたんだー、と彼女の返答も待たずに部屋に入る彼。

 

 そんな彼に、しょうがないなと溜息を吐きながらも、自分の苦しいタイミングで事情を聞くことなくただ笑顔で居てくれる彼に思わず頬を緩ませる。

 

 

「どこでやるかね…」

「ベッドでやりましょう。広いし」

「ああ、そうだ――ってデカ!? 俺の知ってるベッドとちげぇ!?」

 

 

 イィィイヤッホォオオオオウとベッドに飛び込む遊吾。子供じゃないんだから、と彼を嗜めながらも、彼女も同じようにベッドに飛び込んだ。

 

 

「ちょ、はずむ――あだっ!?」

「ぷっ、あ、あはははは!!」

 

 

 ベッドのスプリングは、二人分の体重をしっかりと受け止め、それを彼に跳ね返したらしい。着地した位置が悪かった彼は、ベッドの隅からそのまま落下。後頭部を強かに床に打ち付けた。

 

 そんな彼の姿を見て思わず大笑いするマリア。

 

 ベッドサイドから何とか起き上がると、ふふふ、と瞳のハイライトを消した遊吾が、その手にデッキを持って彼女に迫る。

 

 

「さあ、決闘しようぜ…久しぶりにキレちまったよ…」

「え? えっと、ユーゴ? その、ごめんなさい。だから、ね?」

「さあ、決闘だァ!!」

「ユーゴが壊れた!?」

 

 

 ルールが分からないんだけど!? 知らん、そんなものは俺の管轄外だ!! などとやり取りをしながら決闘を開始する二人。

 

 こうして、笑顔に溢れた二人の日常は過ぎていくのであった。




未来、響のデートイベントをスキップしました。

ルートG開始されます。

選択肢が追加されました。

響、未来。

さあ、G編スタートだ!G編でも書きたいことは色々あるから、まずはそこを目指して頑張ってみよう。もしかしたらネタが減ってしまうかもしれない…。

さあ、満足していこうじゃないか!!
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