遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~   作:特撮仮面

7 / 40
彼とマリアとF.I.S.と

「そうか、家族を失ってか…」

「…ええ」

 

 

 さすがに夜遅いと言うことで、次の日の朝食後の時間に始まったマリアへの事情聴取。それによって、彼は大体の事情を把握した。

 

 F.I.S.米国連邦聖遺物研究機関(Federal Institutes of Sacrist)即ち、櫻井理論による聖遺物研究の特務機関のようなものである。

 

 米国、と名が着いているが、機関自体は完全に独立しており最早米国政府とは全く別の、独自の指揮系統で活動している研究機関である。

 

 聖遺物を稼働させる。即ちシンフォギアを稼働させることを研究の目的としているF.I.S.であるが、日本の二課と比べるとその技術体系は全くの別物であった。

 

 日本のシンフォギア、聖遺物の研究において重要なのは適合者の選抜、そして適合者のメンタルケアだ。これは、聖遺物の起動のためにはフォニックゲイン、つまり歌が必要でありより良い歌を歌うための処置であるのだが、F.I.S.は違う。

 

 F.I.S.が起動にしようするのは機械。つまり、歌ではなく現代の科学力を用いて聖遺物を運用しようという考え方だ。実際、適合者選抜などの手間を考えればコストの面でも使用者数などでも明らかに歌よりも効率が良い。のだが、機械による制御は困難を極めておりやはり適合者の歌を用いて聖遺物を稼働させる方が稼働率も高く、確実性はある。とは言え、全てが全て稼働の失敗に終わっているわけではないため、アメリカと日本、この二つの国の聖遺物運用は大きく異なっているのだ。

 

 そして、マリアそして先日出会った調と切歌の二人の少女もF.I.S.に所属しており、彼女たちは適合者であると同時にレセプターチルドレンと呼ばれる存在であるらしい。

 

 

「レセプターチルドレン、か…」

 

 

 レセプターチルドレン。彼女たちの存在に思わず歯を食いしばる。

 

 レセプターチルドレンとは、リインカーネイションと呼ばれるフィーネの転生体の器と思われる少年、少女たちの総称である。

 

 フィーネがアメリカ政府と接触を図った際、自身の因子つまりは彼女の転生体の器を探し出すために集められた、因子を持つ子供達。

 

 しかも、フィーネの器としての覚醒をさせるために皆聖遺物の運用に使用されているというではないか。それを聞いて冷静でいられるほど彼は冷静な性格をしていなかった。過去に何度も見た、デュエルエナジー発生装置、実験体となった子供たち。彼はその類い稀なる力を持って捕まることは無かったし、そんな実験を受けることは無かったが、あの頃、ジャックと出会って間もなく、人間らしい感情なんて欠片も分かっていなかった頃の自分でさえ感じた嫌悪感と怒り。

 

 過去のあの子たちとついつい重ね合わせてしまい、怒りを隠せない。握りしめられた拳を、暖かなものが包み込んだ。ハッと顔を上げると、そこには心配そうに目尻を下げたマリアの姿。

 

 

「大丈夫?」

「ああ、わりぃ…ちょっと昔を思い出してな。でも、そこまで非道な実験は行ってないんだろ?」

「ええ。リンカーみたいな制御用の薬物投与はされているけど、ご飯はちゃんと出るしね。研究所から出られないだけで、自由な時間はあるから」

 

 

 リンカーによる聖遺物の制御。聞くところによると、彼女たちF.I.S.のレセプターチルドレンの中で聖遺物に適応し、シンフォギアとしてその身に纏うことが出来るのは三人。

 

 調、切歌、そしてマリアだ。本来ならばここにもう一人少女が要る筈なのだが、その少女はもうこの世に居ない。

 

 その少女の名はセレナ。セレナ・カデンツァヴナ・イヴ。マリア・カデンツァヴナ・イヴの実妹にして、当時のF.I.S.における唯一の完全な聖遺物適合者。だが、彼女は何年も前に起こったとある聖遺物の実験の際に暴走した聖遺物を止める為に絶唱を放ち、死亡。類い稀なる適合率によって、絶唱の反動を殺すことには成功していたのだが、実験施設の崩壊に巻き込まれて死亡したそうだ。

 

 そこから先のマリアの生活は、なんとなく察しがつく。彼の脳裏に描かれるのは、生甲斐でもあった唯一の肉親を失いながらも気丈に実験に耐え、懸命に生きる少女の姿。自分は肉親を失ったことが無いから彼女の苦しみが完全には理解することは出来ない。だが、義父に託されたもの、決闘者たちによって繋がれた想い、そして何より、大切なモノを失う恐怖と、大切なモノを守り抜けた時のあの素晴らしい感情を知っている。

 

 だから、彼女の感情がなんとなくであるが分かる気がした。生きるということがどれだけ苦しいことか。肉親も居らず、頼れる存在が一人もいない。どれだけ寒くても、どれだけ苦しくても開けるとも知れぬ夜を彷徨い歩き、このまま夜が明けないのではと怯えながら過ごす日々。敵は多く、味方は誰も居ない。そんな中で折れること無く、諦めること無くここまでよく生きてくれた。そんな経験を積みながらも、よくぞここまで人に対して暖かく、優しい女性に育ってくれた。

 

 だから彼は、まだ心配そうに、本当に大丈夫? と問いかけてくるこの優しい少女の手を包み込み、目を瞑って頭を下げる。

 

 

「ありがとう」

「え? ゆ、ユーゴ?」

「ありがとな、マリア」

 

 

 彼が何故こんな場面でありがとうとお礼を言うのか分からない。まあ当然だ。彼の心が読めるわけではないのだから、彼が珍しく長ったらしいことを考えて勝手な結論を出していることなんて分かるはずもない。

 

 頭に疑問符を浮かべて首をかしげるマリアを見て、まあこっちの話だよと笑う遊吾。自分でも感謝の言葉を放った意味が今一分かっていないのだから。

 

 

「まあ、それはそれとしてだ。マリアは本来F.I.S.の関連施設に居なきゃいけないはずなのに、どうしてこんな所に?」

 

 

 レセプターチルドレンの中でも特に器の可能性が高いマリア、切歌、調の三人。本来ならばこの三人は施設で厳重に警護されていなければならない存在のはズなのだが、何故マリアだけはこうして外で暮らせているのか。

 

 彼がここに来て二週間ほどではあるが、その間に監視などの気配は一切感じなかったし、どうなっているのだろうか?

 

 

「ああ、それはね。私の、いや、私たちの夢、だったからかな?」

「夢?」

「ええ。セレナと話してたの。いつかお婆ちゃんの家みたいに、森の中に小さな家を買って二人で暮らしたいって。セレナが死んだ後、私に与えられたのがこの家だったの。場所こそF.I.S.の人にバレているけど、監視の人とかは配置されてないわね」

「…夜逃げとか考えなかったのか?」

「うーん、研究所の人に聞いたのだけれど、皆して、私たちのアイドルの為なら法律だって――いや、女性のプライバシーを侵すのはダメだからね! とか何とか」

「……それで良いのかF.I.S.」

 

 

 どうやら、只のキチガイ外道ドクサレ集団と言うわけではないらしい。むしろ、話の節々からは何やらどこぞの変態研究者のような気の良い変態が多い場所であるようだ。

 

 これからの身の振り方を考える必要がある。本来ならば適当に暮らして日本に帰る手段を探そうとか色々考えていたのだが、どうやら俺を転移させたのは、やはり何かしらの意味があってのことらしい。

 

 ならば、自分がとるべき選択肢はなにか。彼は考える。

 

 

「ねえ、ユーゴ」

「ん、どうした?」

 

 

 表情を曇らせ、少し躊躇うマリア。何となく、言いたいことは分かった。だがここは黙って彼女の言葉を聞くとしよう。

 

 

「その……ユーゴは、帰りたい?」

「帰りたい――って、日本のことか?」

「ええ。…その、私たちのことを知ってしまったから、下手をすればユーゴはこの国に捕らえられるかも知れないし、私はそんな貴方を見たくないの。だから、その……」

「必要なら俺がこの国を出られるように手配する、と?」

 

 

 彼が先を言ってやれば、無言で頷くマリア。

 

 なるほど、それくらいマリアは高い地位にあって、彼女は自分にチャンスをくれているのか。ここで彼女の言葉に頷けば、自分は日本に帰ることができる。日本に帰れば恐らく風鳴のおっさんや響たちが帰国に気づいて迎えに来てくれるかもしれないし、自ら響達のもとへと戻ることもできる。

 

 さあ、どうする? 俺が引くべきカードは何だ?

 

 

「…なあ、ここの電話って外国に繋がる?」

「え? ええ、まあ一応は。どうしたの?」

「いや、ちょっとな」

 

 

 彼は立ち上がると電話へと向かう。

 

 受話器をとり、番号を押す。今の時間に押す番号は――自分に支給された通信端末の番号だ。

 

 一瞬の無言。馴染み深いコール音が耳を打つ――瞬間声が響いた。

 

 

『遊吾さん!? ユーゴさんですよね! かけてきたんですか!? 自力で番号を? ユーゴさん!!』

「俺はユーゴじゃねえ。とりあえず落ち着け、ビッキー」

『落ち着け? ……何言ってるんですか、遊吾さん? 二週間も音沙汰無しだった人が』

 

 

 電話越しにでもわかる怒りに震える声。そんな声の奥からは「遊吾!? てめぇなに連絡ひとつも寄越さないでマジで心配したんだぞ!?」「まったく、アトラスめ。どうせ何処かで油を売っているだけだとは思っていたが…」「あれれ~おっかしーぞー? 誰だったかなぁ? アトラス、一体何処へ行ったんだ…って暫く身が入らなかったのは何処の子かなぁ?」「奏!?」などと言った声が、というかお前ら慌てすぎだろ。怒りに震える響の声から意識をそらしてそんなことを考える彼。

 

 

『…本当に……本当に、心配、したんですから』

「ちょっ、おい!? 待て、泣くな!? ごめん、俺が悪かったから、な?」

『みぐぅー!! ゆうござんいたよぉおお』

『そうだね。ほら、泣き止んで響』

「………あ、あのー、未来さん?」

 

 

 よしよし、と優しい声が聞こえてくる。そう言えば色々二人と約束もしてたし、というか泣かせちまったし! 泣かせたという事実が嫌な汗を噴出させる。

 

 

『遊吾さん?』

「はい!」

 

 

 声は優しいいつもの未来のものだが、思わず背筋をピンッと伸ばす彼。

 

 

『もうこの際何で居なくなったかとか聞きません。それと、連絡をしてきたってことは暫くこっちに戻れないってことですよね?』

「…え? あ、ああ。その、何で分かったんだ?」

『二年以上一緒に居て、分からない方がおかしいです。…とりあえず、元気にしてるってことで良いんですね?』

「ああ。それと、その…」

 

 

 色々と謝らないといけないことがある。彼が言いづらそうにしていると、彼女は苦笑していった。

 

 

『良いんですよ。また今度埋め合わせしてくれれば。あ、弦十郎さんに変われば良いですか?』

 

 

 良い。許しを得てホッと息を吐く彼。風鳴司令に変わった方がいいかと問われて、そのまま変わってほしいと伝えようとして、彼はふと口を止める。

 

 本当にそれで良いのか? 未来に許しを貰っただけで会話を終えてしまって良いのか? 響が泣くような衝撃をきっと未来だって受けているはずだ。それなのに何も言わずに許されて終わり?

 

 

「未来! 響も聞いてくれ! 帰ったら決闘しよう!!」

 

 

 反射的に放った一言。それに対する反応は、大きな大きなため息であった。

 

 

『だろうとは思ってましたけどね。…遊吾さん』

「な、なんだ?」

『一回、砕け散れ』

「何故だ!?」

 

 

 語尾に音符がつきそうな二人の言葉に思わずそう返す彼。それは自分で考えてください、二人は端末を司令に渡したらしい。いつもの力強い男の声が聞こえてきた。

 

 

『遊吾君。体調が悪かったりしてないか?』

「親父かあんたは。…いや、してないから大丈夫だ」

 

 

 開口一言目から所帯染みた言葉を投げ掛けてくる弦十郎に思わず苦笑する遊吾。どうやら特異災害対策機動部二課の面々は相変わらずのようだ。

 

 

『ところで、どうしたんだ? 急に連絡なんて』

「ああ。暫くそっちに戻れないからな。その連絡をさ」

 

 

 気軽に言う遊吾。あり得ないと思うが、万が一危険なことに彼が巻き込まれているのではないかと考えた弦十郎が、その理由を聞いてもいいかと問いかける。

 

 弦十郎の問いかけに、彼は大きく深呼吸をすると電話越しながらも真っ直ぐに弦十郎を見据えていった。

 

 

「俺は今まで、色んな人に支えられてきた。だから、今度は俺が支えようって思ったんだ」

『……そう、か』

 

 

 誰か、恐らく彼がこの二週間ほどで見つけた支えたいと思った人。彼は言った。ずっと支えられてきたのだと。

 

 ここで弦十郎が帰ってこいと言うのは簡単だ。だが、男が決めた道をそう簡単に否定するべきなのか? ならば自分が言う言葉はひとつ。

 

 

『男なら、バシッと決めてこい! その代わり、無事に帰ってくるんだぞ?』

「ああ、分かった。ありがとうな、風鳴のおっさん」

『ああ』

 

 

 さて、後は――

 

 

「なあ、そこに皆居るか?」

『ああ、居るが伝言か?』

「まあな」

 

「クリス! 帰ったら遊園地いこうぜ!」

「翼! こっちにCD売ってたら何とかして買うから頑張れよ!」

「奏は――勉強頑張れよ!」

 

『お、おい、遊吾君!?』

「それじゃまた!」

 

 

 電話を切る遊吾。

 

 覚悟は決めた。後に残す憂いもない。

 

 

「ユーゴ?」

 

 

 長い電話。日本語による会話であった為に全てが全て理解できた訳ではないが、それでも何となく彼がかけていた先は察することができた。

 

 これは覚悟を決めないといけないかな? 唇を噛むマリアに彼は笑いかけた。

 

 

「マリア、今日は何処へいくんだ?」

「へ? え、ええ。今日はちょっと近くの湖に出ようかなって」

「じゃあ早めに出た方がいいな」

 

 

 免許ないから運転任した。そういってお互いに飲み干したコーヒーカップを取って洗い場に。本当に何事も無いかのように動く彼に、さすがに怒りを覚えたマリアが声をあげる。

 

 

「ユーゴ!」

「ん? どうしたんだよ突然」

「その、決めたの? 帰るかどうか」

 

 

 早く決めてもらえないと、自分の決意が揺らいでしまう。だから早く決めてくれ。そんな思いで彼を見つめるマリア。

 

 それを見て、彼が苦笑しながら言った。

 

 

「Dホイールってさ、あれどう思うよ?」

「Dホイール?」

 

 

 何故この話の流れで彼の相棒であるDホイールが出てくるのか。首を傾げる彼女に遊吾がコーヒーカップを洗いながら言った。

 

 

「あれ、どう考えても法律に違反してる物だからさ、輸送しようにも出来ないんだよなぁ。独自に国を越えるか、それともどっかに置いておいて貰えないと」

「え? それって…」

「それにほら、俺ってパスポート無いからどっかで調達したりしないといけないんだろうけど、俺戸籍とか無いからなぁ」

 

 

 さーて、出ようにも出れないんだよなぁ。白々しいにも程があることを言いながら食器を片付ける遊吾。

 

 そんなに言われれば彼が言わんとすることが理解できてしまう。彼は、ここに残ってくれるのだ。帰るという選択肢はあったはずだし、実際電話をしている時の楽しそうな様子を見ていれば、帰りたいという気持ちだってあったに違いない。だが、それでも彼はここに残るという選択をした。それがどういう意味を持つのか、それは分からない。

 

 彼は分かるだろうか? 残ってくれるということが彼女にとってどれだけ嬉しく、喜ばしいことか。彼は分かるだろうか? 彼女がどれだけ彼に助けられているか。

 

 

「ユーゴ」

「ん?」

「…早く準備して行きましょ?」

「ああ!」

 

 

 彼女の笑顔を見て、満足したように笑う彼。

 

 穏やかな時間が流れる、とそんな雰囲気を玄関のチャイムが切り裂いた。

 

 

「ん? こんな早くから誰だ?」

「調と切歌かしら?」

 

 

 もう一度来るデース、などと言って帰っていった二人を思いだしてそう話す二人。遊吾は今洗い物をしているので、出ていくのは自然とマリアとなる。

 

 はーい、と何気なしに玄関を開けるマリア。そこに居たのは、マリアにとってとても馴染み深く、同時に今の彼女が会いたくなかった人物。

 

 

「マリア」

「ま、マム…」

 

 

 マム、そう呼ばれた初老の女性。どこか教会のシスターを思わせる黒い服を身に纏ったその人物は目ざとく彼女の後ろ、水音の響く部屋を見る。

 

 蛇に睨まれた蛙のように身を硬くするマリア。どうする? マムに彼のことがバレてしまえばどうなるか分からない。必死にどうするか考えていると、マムが先に口を開いた。

 

 

「遊吾・アトラスという少年がここに居るそうですね?」

「な、ど、どうして――調と切歌か!?」

「ええ。色々と調べさせていただきましたよ……マリア、件の少年と縁を切りなさい」

「な、どうしてよマム!? ユーゴは悪い人じゃないわ!?」

 

 

 彼のことも知らないで勝手なことを言わないで。睨み付ける彼女を嗜めるようにマム、ナスターシャ教授は言った。

 

 

「彼が、この世界に存在しない人であっても、ですか?」

「え?」

 

 

 凍り付く。存在しない? 誰が? 遊吾・アトラスがこの世に存在しない? 一体何を言っているんだこの人は。だってユーゴは今だって――そこでマリアは気づいた。水音がしていない。慌てて室内に駆け戻るマリア。

 

 そこにあったのは、綺麗に整理された食器。そして開け放たれた窓。

 

 一体彼は何処へ? 慌てるマリアの耳に、聞きなれたモーメントの駆動音。つまり、彼は今家の前でDホイールを起動したということだ。マリアは駆ける。玄関にナスターシャ教授の姿は無い。まさか彼と接触しているのではないか。焦りでドアノブをうまく掴めない。ただ、扉越しにナスターシャ教授と彼が話しているのが分かる。

 

 彼女が扉を開けた――その瞬間、彼女の顔に熱風が叩き付けられた。

 

 

「一体なに――!? ゆう、ご?」

 

 

 彼女の視線の先にはナスターシャ教授と、彼女に向き合うようにしてDホイールの側に立つ極彩色の人型。ノイズ。突然光の輪が彼を包み込み、そのノイズは姿を変える。

 

 

 荒ぶる魂、今此処に顕現す。天地を薙ぐ焔を見るが良い!! 現れろ、俺の魂! 琰魔竜レッド・デーモン!!

 

 

 深紅の炎は悪魔となる。レッド・デーモンズ・ドラゴンが悪魔の竜であるのならば、このレッド・デーモンは竜の悪魔。

 

 巨大な三本の角、鋭い爪。圧倒的力を感じされる鋼の肉体。

 

 

「どーも、ナスターシャ教授さん。遊吾・アトラス。いや、この姿だったらD-noiseと名乗ったほうがいいか」

「D-noise!?」

「D-noiseって、ユーゴが?」

 

 

 あれだけ暖かく、自分と共に居てくれた遊吾がノイズ? 全く状況に着いていけないマリアは膝からその場に崩れ落ちた。どうなっている? 自分はどうすればいい? レッド・デーモンの圧倒的な力の波動に、力無く彼を見上げる彼女。

 

 ナスターシャ教授とにらみ合っていた彼は、そんな彼女を見てとても困ったように頬を掻いた。もしも人間の顔をしていたら苦笑すらも浮かべていそうだ。

 

 

「あー、その、マリア?」

「……」

「マリア!!」

「ひゃ、はい!?」

「今日の昼どうすんの?」

「え? えーっと、どうせなら外でサンドイッチとか…」

「卵サンドと照り焼きサンド頼むわ。あ、マスタード抜きな」

「ええ、それは構わないけど――って、そんな姿で言わないで。色々考えてた私が馬鹿みたいじゃない」

 

 

 まさかあんな姿でお昼ご飯の話をしてくるとは思っていなかった。とは言え、彼女の言う通りあんな姿になっていたとしても彼は彼なのだ。例え悪魔のような見た目をしていても彼女の知っている遊吾・アトラスが死んだわけではない。

 

 彼の我儘に全く、と苦笑しながら彼女は家の中へと戻っていく。彼のためにも美味しいサンドイッチを作ってやろう、と。でも、意趣返しとして一つだけマスタードをたっぷり塗り込んだ奴を食べさせてやる、と。

 

 そんなことを考える彼女の表情は、先程の絶望に染まったモノではなく、明日に希望を持ったとても綺麗で明るい笑顔であった。

 

 

 

「…お昼、ですか」

「あ、ナスターシャ教授さんもどうですか? これからマリアと近くの湖まで行くんですけど」

「サンドイッチですか。お肉は無いのですか?」

「まりあぁあああああああああああ!! 嫌味なほどたっぷり野菜突っ込んだサンドイッチを作れ!! この婆さんに食わせるぞ!!」

「な、誰が婆ですか!? というか、お肉を食べて何が悪い――」

「シャアアアラップ!! うるせえ偏食家婆!! 肉ばっかり喰うから体調崩すんだろうが!! マリア無茶苦茶心配してんだぞ!? セレナだって心配してんのに、アレか? この国は死人に心配させんのがデフォルト仕様なのか?」

「な、何でここでセレナの名前が」

「いずれ分かるさ、いずれな…」

「何のこと!? まるで意味が分からない!?」

「ユーゴ、うるさいわよ!! 昼ご飯をマスタード挟んだサンドイッチだけにしてあげましょうか!!」

「ごめんなさい!!」

「…心配するだけ損だったかもしれませんね。ハァ…」




ち、違うんだ!クリボルトが勝手に!?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。