紅魔館での受難な日々   作:Parfait

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紅い月がのぼる夜

頬が冷たい。僕は、泥水のなかに顔を突っ込んでいた。顔を濡らしているのが涙なのか、それとも泥水なのかはもうわからない。

 

「大丈夫、ですか?」

 

優しげな声が上から降りかかって来たことに驚く。大通りから遠く離れた裏路地に人がいるなんて。痛みを堪えながら顔を上げ、声を絞り出す。

 

「助け…て……」

 

顔を上げたときに、水面に映った僕の醜く汚れた顔は、その後に見た美しい少女をさらに際立たせた。

天使が、迎えに来たのかな。そんなことを思いながら、遠のいていく意識に身を委ねた。

 

 

目を開けると、暖かさに全身が包まれていた。久しぶりに感じたその暖かさは、不思議と僕に安らぎを与えていた。

 

「ここは、天国?」

 

見知らぬ天井に手を伸ばすと、全身が痛んだ。

 

「いや、天国じゃないか……」

 

さすがに死んだ後も痛みに身体を蝕まれることは無いだろう。

状況を確認するため億劫な身体に鞭打ち、起き上がる。

意識が覚醒していくのを感じ、周りを見渡してみると、さらに困惑した。僕はまるでヨーロッパの洋館の部屋のような場所にいたのだ。

主に赤い色調で気品溢れるようだが、窓が無い。そのせいで、広いながらも閉塞的な印象を与えている。

 

「起きられましたか?」

 

ふいに聞こえてるくる声に驚き、その方に目を向けると、メイドさんが扉の側に立っていた。

アルビノだろうか、白髪に、透き通る秋の空のような蒼眼。背丈を見る限りは齢17・8程度だろうが、美しい相貌は大人びた印象を感じさせる。そして何より、メイド服を着ていた。現代日本でメイド服を見る機会なんて、秋葉原のメイド喫茶くらいだろうに。も、もしかして本物のメイドかな?

 

「あ、あの。どなたでしょうか?」

 

と少し面食らいながら尋ねると、メイドさんはキョトン、と言うような顔をしてから少し微笑んだ。

 

「これは申し遅れました、紅魔館でメイド長を務めさせて頂いています、十六夜咲夜です。咲夜とお呼びください。」

 

「は、はい!咲夜さん!」

 

やっぱり本物のメイドさんだった。

 

「あの、なんで僕はここにいるんでしょうか?」

 

「紅魔館の敷地内に倒れていたからですね。不審者として連れて来ました。」

 

衝撃、助けられたと思っていたら不審者として連行されていた。

 

「あの、じゃあ……」

 

次の質問をしようとしたところで、咲夜さんに手で制される。

 

「私も、質問して宜しいでしょうか?」

 

「あ、はい。どうぞ。」

 

「では……。」

 

「貴方は、人間ですか?」

 

瞬間、咲夜さんの目が細められ、殺気立つ。これはヤバい。

 

「に、人間です!」

 

「それは良かった。」

 

咲夜さんの雰囲気が落ち着いたものに戻っていく。というか焦ってさっきは何も考えてなかったけど、その質問は人間以外がいるという前提ありきな訳で。

 

「もしかして、咲夜さんは人間じゃなかったり?」

 

「いえ、私は、人間ですよ。」

 

「私は、ですか?」

 

「もしかして、人間以外の種族をお知りになりませんか?」

 

こともなげにそう言われるが、当然知っている筈もない。

 

「貴方は、何処から来られたのですか?」

 

だんだん、咲夜さんまでもが僕の様に戸惑っていく。この場では僕の方が異質らしい。多分。

 

「えっと、日本……ですかね?」

 

「幻想郷ではなく?」

 

「は、はい。」

 

幻想郷って、何?

 

「咲夜さん、申し訳ないですが、一から教えてもらえないでしょうか。」

 

これ以上僕の頭が謎でショートする前に、頭を下げるしかなかった。

 

 

 

「とりあえず、ここは幻想郷で、妖怪と人間が共存している場所で、紅魔館はレミリアという方が所有している館、ということですよね。」

 

咲夜さんの口から繰り出される電波な言葉を、咲夜さん固有の能力らしい『時を操る程度の能力』とやらを見せて貰う事によりなんとか信じ、ギリギリ整理出来てきた。

 

「でも不思議ですね、幻想郷に外界から呼ばれるのは妖怪の類の筈なんですけど。貴方本当に人間何ですか?」

 

「人間ですよ!多分……。」

 

なんか本当に不安になってきた。僕って、人間だよね?

 

「まあ悪意はなさそうですが、これからどうするんですか?」

 

「どうしましょう?」

 

「いや、私に聞かれても……。」

 

お互いに固まってしまう。

 

「まあ取り敢えず、お嬢様に会ってみますか?」

 

「確か、レミリアさん、でしたっけ?吸血鬼の。」

 

正直怖い。どんな人だろう。というか吸血鬼って。

 

「では、ご案内しますね。」

 

なんか結局会うことになっていた。

 

咲夜さんに案内されるがまま、廊下を歩く。それにしても広い。まるで屋敷というよりは、古城と形容してもいいくらいだ。敷かれている赤絨毯や壁にかかる蝋燭に目を奪われているうちに、一つの扉の前で咲夜さんが止まっていた。

 

「この部屋にお嬢様がいらっしゃいます、が、くれぐれも粗相のないようお願いします。」

 

「は、はい!わかりました!」

 

「そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ。」

 

「は、はい!」

 

「では。お嬢様、お客人を連れて参りました。」

 

咲夜さんがノックをしながら扉越しに語りかける。そしてガチャリと扉を開けた先には、幼女が座っていた。

 

「へ?さ、咲夜さん。この子がレミリアさんですか?」

 

「ええ、そうよ。」

 

返答は、咲夜さんからではなく、幼女から返ってきた。

10歳前後に見える容姿に、薄い青がかった髪。真っ赤な目は、吸血鬼らしい怪しい光を放つ。何より印象深いのは、背中から生える蝙蝠の様な翅。それだけで人外という事を際立たせていた。

 

「貴方は、誰?」

 

「えっと、僕は瀬名風吹。」

 

「フブキ?面白い名前ね。」

 

「そうかな?」

 

「少なくとも私の知っている中ではね。」

 

というか思わす見た目からタメ口で話してしまったが良いのだろうか。

 

「後、わたしは500歳を越えてるわよ。」

 

まるで僕の考えが見透かされているかの様に告げられる。というか500歳以上って、吸血娘とは恐ろしい。

 

「で、貴方これからどうするつもりなの?」

 

「う……。何とか帰れないかな。」

 

「さあ、わたしには分からないけれど。」

 

「帰れるまで、ここに置いてあげてもいいわよ。」

 

この一言が、後に受難な日々を招くとはこの時は知る由もなかった。

 




まあそんな訳で執事な生活が始まっていきます。冗長な文章で申し訳ないですが、お付き合い頂ければ幸いです。次回更新は22日を予定しています。
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