艦これの短編集   作:雷鳥

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被害担当艦ムサシ、推参する!

「ええぇぇい!」

 

 海上に艦娘である暁の叫びと砲撃音が響く。

 

 放たれた砲弾は一直線に標的、戦艦タ級へと向かうが、相手はそれを背面に直に取り付けられたユニットから伸びる砲の頭に白く長い胴という蛇の様な兵装で、受け止める。

 

「当たれ」

 

 それを見届けながら暁の隣を並走していた同じく艦娘の響が肩の兵装である主砲を放つが、これもタ級にダメージを与えるには至らなかった。

 

「ああもうなんだって本土の遠征航路に戦艦、それもflagshipタイプがいるのよ! ってええぇぇー!」

 

 響と暁の前を走る雷が焦った表情で叫びながら少しでもタ級の速度を落そうと砲撃を行い続ける。

 

「さ、最後の魚雷発射なのです!」

 

 雷と並走している電がタ級の方へと振り返り、腰についた魚雷兵装ユニットから最後の魚雷を二発発射する。

 

 魚雷に対してさすがのタ級も警戒したのか大きく弧を描くように走行して向かってきた魚雷を回避する。

 

「はわわ外れちゃったのです!」

 

「それでも距離は少しは稼げ――きゃああ!?」

 

「雷!」

 

 慌てる電を気遣おうとした雷が砲撃を受けて吹き飛ばされる。瞬間、雷の衣服と艤装が半壊し、兵装が全壊する。

 

「っ!? まずい! 大破だ!」

 

「雷お姉ちゃん!」

 

 艦娘はその身を艤装を纏うことでシールドと呼ばれる特殊な防護膜で守られ、肉体に痛みや衝撃は感じても、実際に肉体を深く傷つける事は無い。

 

 しかし変わりにそのダメージは全て艤装へと送られ、攻撃を受け過ぎれば艤装の性能は下がる。そして艤装でも受け切れない一撃を受けた時に、艤装はダメージを兵装と艦娘が着る特殊な制服へと送る事で、艦娘の肉体を一度だけ守りきることが出来る。

 

 その状態を大破と呼び、次に攻撃を受ければ艦娘の肉体に直接攻撃が通ってしまうとても危険な状態だった。

 

「電は雷を! 響は二人の前に! 私が牽制している間に雷を曳船するのよ!」

 

「姉さん!?」

 

 砲撃しながら隊列をは離れた暁に響が戸惑った表情で名前を叫ぶが、暁はそれを無視する。

 

 暁が右肩の主砲と右腕の副砲を放ち続けてタ級を牽制するが、タ級はそれを腕と兵装を前で交差させて全て受け止めながら前進してくる。

 

「この、この!」

 

 暁は泣きそうになるのを必至に我慢しながら、それでも大切な姉妹艦を護る為に単独でタ級へと攻撃し続ける。

 

 しかし暁達駆逐艦の主砲、それも火力の低い初期主砲ではタ級の装甲を抜く事はできず。そしてついに――タ級の背中の蛇砲台から砲撃が行われ……それが暁に命中する。

 

「きゃあっぐうぅう……」

 

「暁姉さん!」

 

「暁お姉ちゃん!」

 

 雷に肩を貸しながら運んでいた電と響が姉の悲鳴に振り返る。

 

 そこには半壊した艤装と全壊した兵装、そして破れた衣服の姿で倒れている暁の姿が映り込む。

 

 そしてそんな暁目掛けてタ級が口元に笑みを浮かべながら、己の兵装である蛇砲台の全てを暁に向ける。

 

「やめろおおおお!」

 

「いやああああ!」

 

 響が急いで駆け出し、電が顔を背ける。

 

 しかし無常にもタ級の砲口が光る。

 

「あ……」

 

 暁が己の最後を予感し、そう小さく呟くと同時に……爆発が起きて爆炎と水飛沫が起きる。

 

「「――――え?」」

 

 それは……当事者である暁と響の呟きだった。

 

 そして爆発の大本であるタ級は、己の背中で起きた爆発に、苦悶と怒り、そしてわずかばかりの困惑の色を浮かべていた。

 

「どこを見ている。私はここだぞ?」

 

 そんなタ級へ向けて、自信に満ちた力強い声が叩き付けられる。

 

 タ級が振り返ると、そこには銀髪に眼鏡、上半身の胸や腹部を白いサラシだけで隠し、僅かに首元の紅の短めのマフラーから背中にかけて短い黒い布が垂れ下がり、手にはこれまた黒のグローブ、そして下半身は黒のミニスカートと言うまるで死に装束のよう黒一色の服装の艦娘が、威風堂々と仁王立ちで自身を睨んでいた。

 

(アレハ、ナンダ?)

 

 それが新手の艦娘を見たタ級の最初に浮かんだ言葉だった。

 

 それもそのはずである。目の前の相手は己の身の丈はありそうな無骨な大剣を片手で担いでいたのだ。

 

「行くぞ! シロちゃん! ニニちゃん!」

 

 艦娘が推進力を一気に上げ、轟音と共に加速してタ級へと肉薄する。

 

 タ級は暁から大剣を持った艦娘へと対象を切り替えて砲撃を開始する。

 

(バカナ!?)

 

 タ級は砲撃を続けながらも、目の前の光景に言いえぬ感覚が全身を駆け巡った。

 

 目の前の艦娘は決して砲撃を避けず。腰の主砲で迎撃し、その手に持った大剣を振るって叩き落す。

 

それでも当たる時は当たる。むしろ被弾率の方が高い。

 

 しかし目の前の艦娘は頭部こそ避けているが、肩、腹、腿、艤装といったあらゆる部位にタ級の高威力の砲弾を受けながらも、怯まなず退かず、速度を緩めず――笑って迫り続ける。

 

「そうだ! 当てて来い!」

 

(ナンナンダ、コイツハ!?)

 

 タ級はバック走行しながら尚をも砲撃を続ける。しかしその度に同じ事が繰り返される。

 

 そしてついに……先に疲労を見せたタ級の目の前まで迫った艦娘が、腕を振りかぶって大剣を横に薙ぎ払う。

 

 その一撃をタ級はギリギリ体を逸らす事で回避した――が。

 

 振り上げられた大剣が今度は軌道を斜めに変えそして――袈裟に振り下ろされる。

 

「ガアアアアア!?」

 

 抉り裂かれた傷口から鮮血を撒き散らしながら、体がよろめくタ級がその目を前に向けると、体を弧を描くように回転させている艦娘の姿が映り込む。

 

「仕舞いだ」

 

 短くもはっきりと告げられた次の瞬間、タ級の視界は空を、そして逆さの暁達、そして最後に慣れ親しんだ海面へと映り、衝撃と共に全ての五感を失った。

 

 首を跳ね飛ばされたタ級と、それを成した戦艦型らしき艦娘を前に、暁が恐る恐る近付く。

 

「あ、あの。た、助けてくれてありがとう」

 

「ああ。間に合って良かった。救難信号をキャッチしたのでな。お姉ちゃんとしてよく耐えたな。えらいぞ」

 

 そう言って艦娘は砲弾で煤け、衝撃で痣や軽い切り傷を作った体や顔を気にした様子も無く、満面の笑みを浮かべて帽子を失った暁の頭を数回撫でた。

 

「あ、あうう。こ、子ども扱いしないでよ!」

 

 暁は急に恥ずかしくなって顔を赤くして心にも無いことを言ってしまうが、相手はそれを『そうか。それはすまなかった』と笑い飛ばす。

 

「姉さん……」

 

「うわあああん暁お姉ちゃん!」

 

「ぎゃふ! ちょ、電、今重症だからイタタタ!」

 

 雷に肩を貸した響が近寄り、響に雷を任せた電が無事な暁に泣きながら飛び掛る。

 

 その様子を艦娘は笑いながら見詰め、踵を返す。

 

「さて、殿は私が受け持とう。近くの鎮守府からすでに救助が来ているはずだ。そこに向かうとしよう」

 

「あ、あの! あなたの名前は」

 

 響が声を掛けると、相手は名乗っていなかったことに初めて気付いたかのような表情をして振り返り、高らかに名乗った。

 

「私の名は大和型戦艦、二番艦のムサシ。仲間からは『沈まぬ被害担当艦』と呼ばれている」

 

 己を被害担当艦だと語るムサシ。しかし彼女の笑顔は誇りと自信に満ち溢れていた。

 

 




~あとがき~(という名の言い訳)

Q:なんで武蔵?

A:カッコイイ武蔵が書きたかった。因みにオリ主憑依系なので純粋な武蔵では無いです。

Q:おう砲雷撃戦しろよ。

A:むしろ人型で頑丈な身体なんだから、力に物を言わせた無骨な突貫戦闘がやりたかった。

Q:誰だよシロちゃんとニニちゃんて?

A:兵装妖精さんだよ。そして妖精さんはもっと小説に登場してもいいと思う。

Q:一発ネタなのに短いよ(文が)

A:アニメ第一話の導入でよくやるような本編から数ヵ月後。みたいなのをイメージして書いたからね。仕方ないね!

Q:ドラゴン殺しだろ持ってるの?

A:あれよりはだいぶ小さいよ。あと刃は潰してあるから文字通り勢いで抉り裂いてるよ。

Q:なんで赤マフラー?

A:無骨なヒーローの必須アイテムだから。赤いマフラーは勇気の証!

と言うわけで本編でツッコミどころが出そうな部分の説明でした~。
書いてて思ったけど、やっぱ艦コレの小説は難しいなぁ。
でも初期艦にして嫁駆逐艦の電と嫁戦艦の武蔵が書けたから満足している。

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