病みつき物語   作:勠b

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ヤンデレ要素が薄いと言われそうでビクビクしながら執筆、更新しています。
……これから、これからだから(目を逸らしながら)


病みつきクリスタ3

家族とは何だろう。

子供の頃、本で読んでいたその関係は私からしたら夢物語でしかない。

それこそ、母親や父親が甘やかしてくれるなんてファンタジーだ。

母の優しい顔を見たことがない。

父の顔なんて、満足に見たことすらない。

優しかった祖父母は今思えば最低限にしか接してくれなかった。

家族って何だろう。

 

あの兄妹を見て、私の世界は大きく変わった。

良くも、悪くも。

ファンタジーだと思っていた世界は現実にあるモノだと知ったときの衝撃は忘れられないだろう。

私の世界を変えた兄妹。

あぁ

私もこんな風に愛してくれる家族がいたら

 

私を-天使と称する妹がいる。

その言葉は私に生きる指針をくれた。

家族じゃなくても、誰かに愛される様な人。

そんな人になりたいと強く思った。

この気持ちは、本当だ。

 

私を優しく撫でてくれた兄がいる。

その優しさがとても嬉しく歓喜に満ち溢れる。

その優しさが私に生きる意味をくれた。

私に人の愛を教えてくれた。

大袈裟かもしれない。

でも、だけど

私に与えられた初めての愛情は、とても甘美な蜜の味。

一度味わったら辞められないような

 

 

願っても叶わない世界。

願ってはいけない世界。

だから、私はいけないんだ。

 

私は---

悪い子だから。

 

 

 

 

あの兄妹との出会いから次の日。

私は、ため息をつきながらこの日を振り返る。

はっきり言って、最悪だ。

仕事は出来た……と思う。

少なくとも誰がに怒られることもなく、むしろ褒められた。

馬達のお世話は昔からやってきてたから、それを褒められるのは嬉しい。

でも、私の悩ましい種は仕事じゃない。

ただ、お兄ちゃん達と今日もお話したいだけ。

それを、お兄ちゃんに伝えるだけ。

それだけの簡単な事だ。

口にすれば数秒で終わるような事が、中々に難しい。

 

先ず、私は同世代の人達と関わりがなかった。

あっても、私を見て悪口を言い石を投げてくるような人。

そんな一方的なコミュニケーションとはかけな離れたような関係しかなかった私には、彼に声をかけるというのが一大事。

次に、私から誘うというのも問題。

同年代の人達とはもちろん、家族ですら満足に何かに誘えたことがない私はどう伝えれば上手くいくかなんて全く見えない。

もしも、拒否をされたらどうしよう。

そんな疑惑が直前になって降り注ぐ。

誘ってくれたら喜んでいくのにな。

なーんて甘い考えが脳裏を過る。

でも、そんな事はない。

なかった。

……誘って欲しかったっていうのは内緒の話。

 

さて、こんな風に悩んでいるのだが実は誘うこと事態は終わっている。

しかも、お兄ちゃんも承諾してくれたのだからこの上なく満足行く結果で。

結果だけを見れば、満足だった。

昨日の悩んでいた私にこの事を伝えたらきっと、狭いベットでぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを表現していただろう。

それなのに何故落ち込んでいるかというと。

お兄ちゃん達と会うことが憂鬱?

それはない、絶対ない、間違いなくない。

お兄ちゃん達とまたお話できる。

これは、私にとって今の最高の楽しみになりつつある。

たった一日でこんなにも価値観を変えてくれた人達と接する機会にため息なんて相応しくない。

 

問題は過程にある。

 

私が誘う事に勇気を持てたのは、水汲みに行く時。

少し寄り道をしてお兄ちゃん達の仕事場に寄った時。

周りの子供達とは離れたところで桑を振り上げる姿を見てだ。

そう、その時だ

 

「お、お兄ひゃん!!」

 

離れたお兄ちゃんに聞こえるように、大声を出す事は意識していた。

緊張と興奮。

期待と不安。

そんな気持ちがぐるぐると頭の中を回り回っていた時に出した声は情けなく噛んでしまった。

恥ずかしい。

とても、恥ずかしかった。

周りの子供らが驚いた顔で私を見つめる中、お兄ちゃんは呆けた顔で桑を振り上げて止まっていた。

羞恥心で顔が赤くなる。

でも、言いたかった。

彼を蔑む皆の前で、私が彼と親しくなったと言う事を。

彼にだって誰かと仲良くなる権利があるということを。

私にだってあるはずだから。

 

沈黙が空気を包む中、私に向いていた視線は徐々に私と同じ方向に変わる。

次に視線に囲まれるた彼は、一人離れて呆けた顔で視線を会わせていた。

周りに人がいないから、皆直ぐにわかったんだろう。

一人、また一人と私に近づいてお兄ちゃんと関わることを咎める様な事を言い散らかす。

そんな事に構っていられない。

私には、言うべきことがある。

周りの言葉に悩まされる時間はなく、そんな余裕も余力もなかったから。

周りから離れていくようにゆっくりと近づいていく。

呆けた顔から溜息をつき、苦笑と共に桑を下ろす。

距離が近づき今にでも触れ合えそうな程に近づくとその顔が笑顔に変わる。

 

「どうかした?」

 

優しく、優しく言われたその声に応える前に彼の手を握っていた。

周りのざわめきが聞こえる。

「お、お兄……ちゃん」

やっぱり、恥ずかしい。

頭の中ではスムーズに言えた言葉。

たった数回口を動かすだけなのになんでこんなにも上手く言えないのだろう。

「あっあのね」

私よりも一回り大きい男の子の手。

暖かいこの手が私の頭を撫でてくれた。

この手がいつも、彼女を撫でているんだ。

いいな。

私もこの手で優しくされたい。

いつも、何時でも

羨ましいな。

よくわからない感情がこみ上げる。

顔に出さないように気をつけるけど、手には力が入る。

どうしてなのかはわからないけど。

 

そんな私を前に困った顔をしながら周囲を見渡すお兄ちゃん。

何度も何度も見回した後、申し訳無さそうな顔を一瞬して

「どうかしたの?」

そう言って、昨夜のようにやさしく頭を撫でてくれた。

あっ、と口から声が漏れると不自然な力は抜けていく。

気にしていた表情も和らぎ、自然な笑みが浮かび上がる。

これ、好きだな。

なんって思いながら私は彼に身を任せていく。

「クリスタさん?」

もっともっとと口に出すのは恥ずかしいから、頭を徐々に近づけていく。

綻ぶ顔も恥ずかしい。見せないように俯かせながら。

「あ、あの?」

もう少し、もう少しだけ。

そんな宛もない免罪符を内心かがけながら。

でも、我儘ばかりは言えない。

「今日ね、一緒にご飯食べてもいい?」

言えなかった言葉。

言おうとしても上手く言えなかった思いが不思議と出てくる。

きっと、お兄ちゃんが言う勇気をくれたから。

「聞いてみるよ」

要件は終わった。

そう言うように私の頭から手が離される。

物寂し気にお兄ちゃんの目を見つめると、顔を真っ赤にしながら頬を掻きながらそっと目をされされた。

私は見てほしいという気持ちを抑えきれずにジッと彼の横顔を見つめる。

「その、さ。仕事中だし恥ずかしいんだけど」

 

 

……お仕事?

慌てて周りを見渡すと、急な出来事に口を開けて各々驚いた顔をする子供達。

わ、忘れてた。皆に見られていた。

急にこみ上げてきた羞恥心に耳まで赤くなるのを感じる。

「ご、ごめんなさい!!」

数歩後ずさりながら誰に対してわからない謝罪を言う。

あぁ、やっちゃった。

仲良くなったと、仲良くなれると皆にみせたかっただけなのに。

「や、約束だからね、忘れないでね!!」

そう言い残して逃げるようにその場から走り出す。

わかったと言う声に安心感を抱きながら。

 

「はぁっ」

何度目になるかわからない溜息をつきながら、自室のベッドに横たわり時計を見つめる。

昨日と同じ時間に行けば、多分会える。

約束の時間すら決めてないなんて自分が情けない。

腕に抱いた枕を強く抱きしめながら顔を埋める。

……お兄ちゃん、怒ってるかな。

でも、頭を撫でてくれたのはお兄ちゃんなわけで。

私から撫でて欲しいとは言ってない。

言ってないから。

でも、私が傍に行かなければあんな風にならなかったわけで。

でも、どうしても一緒に食べたかった。

うんうん。

一緒に居たかった。

あの二人と、少しでも一緒に。

 

息が苦しくなるぐらい埋めていると、不気味な言葉が頭を過る。

次に浮かぶのは、お兄ちゃんの顔。

恥ずかしそうに顔を赤く染めながら頬を掻く彼の顔が。

彼の顔だけが、頭に浮かぶ。

なんでだろう。

きっと、今日は彼女に会ってないからだ。

そう自分を納得させながら。

時計を見る。

決めている時間にはまだ早い。

だけど、落ち着かない。

早く、早く時間にならないかな。

そんな風に思っていると、胸の中が楽しみで満たされていく。

あぁ、早く会いたいな。

 

 

 

 

結局昨日よりも30分早く食堂に着いていた。

自分の事だけど情けない。まるで待ての出来ない犬みたい。

自分で思って笑みが浮かぶのは、それだけお兄ちゃんと会うのが楽しみだからだろう。

気持ちが高揚する。

さっきまで恥ずかしさに悶てたなんて嘘みたいだ。

単純なんだな、私って。

こんな事にも気づかなかった。

でも、思い返すといつもそうだ。

私はいつも、どんなに嫌な思いをしてもお母様が傍にいれば直ぐに笑顔になれた。

……たとえ酷いことを言われても、されてもあの頃の私はそれが全てだった。

それでも私は嬉しかったのだから。

お母様。

目を閉じるとお母様の顔が浮かび上がる。

その顔は決して笑顔なんかじゃない。

それと対局的な、とても----

 

「クリスタさん?」

急な声に驚きつつ顔を上げる。

心配そうに見つめるお兄ちゃんがそこにはいた。

横目で時計を見ると、何だか見づらい。

何故だろう、少し歪んで見えた。

「……ごめん、待たせたね」

そう言いながらポケットから白いハンカチをとるとそっと、私の目尻に触れる。

あぁ、そっか。

泣いてたんだ。

そこで自分の事に気づいた。

「ごめんね、早く来すぎると昨日みたいに誰かにあって……その……」

「ううん、私が時間の約束してなかったから悪いの」

「ごめんね」と2人の言葉が重なる。

……なんだか、謝ってばかりだ。

こんな言葉が重なるなんて。

互いに呆けた顔をして、すぐに小さく笑い出す。

やっぱり私は単純だ。

お兄ちゃんと言いたい事が重なる、思いが重なるだけでこんなにも嬉しくなるなんて。

両目の涙をふいてもらうと時間がよく見えるようになった。

勝手に決めてた約束の時間よりも10分早い。

お兄ちゃんも楽しみにしてくれてたのかな。

そう思うと、口元な緩くなる。

 

「行こうか」

その声で私は彼の横に着く。

食堂に置かれたトレーが3つ。

昨日と同じでスープとパンが乗ったそれを、お兄ちゃんが2つ、私は1つ持って行く。

今から始まる楽しみを思うと浮足立っていく。

小さな声で、ささやかな雑談を楽しみながらただ願う。

ずっとこんな楽しみが続けばいいのに、っと。

 

 

 

 

 

小さな部屋に招かれた私を待ち受けていたのは小さな悪魔の笑みだった。

悪戯な笑みを浮かべた小悪魔は、隣に座る私に今日の出来事をからかってくる。

お兄ちゃんが一部始終を話したらしい。

恨むよ……。

っと思って睨むと片手を立てて謝罪のポーズをとる。

一言二言文句を言いたかったけど、同じく顔を赤くするお兄ちゃんを見て控える。

彼女には私達がどう映るのだろう。

少なくとも、真っ赤な顔には気づいたみたいでますますその口先が走り出す。

その都度思い出し、恥ずかしくなる私を見かねるとお兄ちゃんが頭を軽く叩いて嗜めていた。

不機嫌そうな顔をして私の肩にもたれ掛かるたびに、膝上にあるトレーを落とさないように強く掴む。

 

「でも、クリスタさんみたいな可愛い女の子に甘えられて嬉しいんでしょう?」

「か、可愛くないよ」

「そんなことないよ、私もクリスタさんみたいに可愛くなりたい」

「妹ちゃんも可愛いよ」

[本当に!?]

彼女はとても可愛らしい。

私よりも小さな背丈で、痩せ細った身体。

あまり、健康的とは言えないけど儚げな少女とはこう言うのだろう。

私の言葉に自信も持ったのか、今度はお兄ちゃんの腕により掛かり「可愛いい妹だよ」と笑みを浮かべる。

「はいはい、可愛いい妹は静かに食べような」

そう言いながら手にしていたパンを一口にちぎって彼女の口に運ぶ。

彼女もまた、それを狙っていたかのように大きく口を開けて運ばれたパンを含めた。

その姿に言葉を失う。

いいな

って、口を開けば出てしまいそう。

私もやって

って、言う気持ちを抑えきれないだろうから。

「えへへ、お兄ちゃん大好き」

お兄ちゃんの腕により力を加えて寄りかかる。

そっと両手でその大きい腕を絡めながら。

「恥ずかしいんだけど」

「クリスタお姉ちゃんは家族だから恥ずかしくないもん」

「……恥ずかしいんだけど」

手に余る妹から目をそらしていると、私の視線とぶつかった。

やっぱり頬を赤く染めながら「辞めなさい」と咎めると意外とすんなりと外れてくれた。

「えへへ、クリスタお姉ちゃんばかり優しくした罰だよ」

満足気にそう言うと自分のパンを掴んで小さな口に運んでいく。

兄妹なんだな。

真っ赤になった顔は、とてもお兄ちゃんと似た雰囲気だった。

 

「クリスタさん」

妹ちゃんが食べ始めたのを見て、お兄ちゃんは私を見る。

「その、人前で俺と関わるのは辞めたほうがいいよ」

「……イジメられるから?」

その答えに静かに頷く。

「もう遅いかもしれないけど」

「大丈夫だよ、慣れてるもん」

やっぱり兄妹だ。

驚いて大きく目と口を開けるその顔は、とてもよく似ていた。

 

「お姉ちゃんイジメられてるの?」

おどおどとしながら尋ねられる。それに首を頷く。

少し俯いて考えると、直ぐに顔を上げる。

「なんで、イジメ----むぐっ!?」

「駄目だろ、そんな事聞いたら」

その小さな口を塞いだのはお兄ちゃんの大きな手だった。

申し訳無さそうに顔を伏せるとやっぱり「ごめん」って謝った。

「人に話したくない事なんてあるから、変な詮索は辞めなさい」

「……うぅ〜」

唸るように手から声を出す妹ちゃん。

でも、数秒程唸るとお兄ちゃんの言い分が正しいと思ったのだろう。

唸るのを辞めたら直ぐに口から手が外されて「ごめんなさい」とやっば謝った。

「別にいいよ、大した話じゃないし」

私からしたら、それが日常だった。

だから、理不尽な痛みに怖いとは感じても嫌だとは何処か思えなかった。

ずっと、そんな日々が続くと思ってたから。

だから、余計に今が楽しい。

こんな風に優しくしてくれる人に出会えた事に。

 

「ねぇ、今日は皆の思い出話しよ」

変な空気に敏感に反応した妹ちゃんは手を叩いて小さな音を鳴らしながら話し始める。

「お姉ちゃんの昔話聞きたいな」

「私の?つまらないよ?」

「聞きたいもん」

肩にそっと頭を置かれる。

「クリスタさんもお兄ちゃんの事聞きたいでしょ?」

お兄ちゃんに聞こえないようになのか、小さな声で言われた囁きに全力で首を縦に振る。

「言いたくないことは言わなくてもいいから」

お兄ちゃんも妹ちゃんの意見に賛同したのか、補足をしてくれた。

これは私の事を知りたいなら乗ったのか、それともただの話題作りだからか。

……私のことを知ってほしい。

そう思う。思っていて欲しい。

 

「じゃあ、お兄ちゃんの話から」

「俺とお前は一緒だろ?」

「私は私であるもん」

プイッと可愛らしく顔を背けながらまた彼の腕にもたれ掛かるように倒れる。

「わかった」

溜息交じりに彼女の頭をそっと撫でる。

私も撫でて欲しいな、なんて思いながら彼の話に集中する。

 

「妹は昔から病気で身体が弱かった。

だから、お母さんに言われてずっと傍にいたんだ。

お兄ちゃんだから、面倒を見てあげなさいって言われて」

それは今の二人を見てわかる。

とても、大切な存在だと言う事を。

「友達も特にいなかったしね」

妹ちゃんの鋭い指摘に「わるかったな」とバツの悪そうな顔をする。

「普通の家族、普通だったんだ」

ウォールマリアの陥落

それはそこに住む人達を、いや、この世界の人達を狂わせるには十分すぎる出来事だった。

てっきりその話をすると身構えていた私は、次の言葉に驚くことになった。

「ウォール教って知ってる?」

ウォール教

名前だけは知っている。

いや、知ったばかり。

昨日オーナーが話していた事だ。

「俺が4歳の頃お母さんがウォール教に入信したんだ」

「お母さんが?」

「私もだよ」

アピールするように手を伸ばす彼女は、お兄ちゃんが口を開く前に話し出す。

「ウォール教はね、凄いんだよ。司祭様のおかげで私の病気も少し良くなったの」

「薬のおかげだろ?」

「お医者さんを紹介してくれたのは司祭様だもん」

まだ語りたいことが一杯あるのだろう。

お兄ちゃんの目の前にばってんを指で作って黙らせた。

「お父さんもお兄ちゃんも教えを聞いてくれないんだよ?お父さんは遠くにお仕事に行っちゃったし、お兄ちゃんなんて私がウォール教に居たからここにこれたのに」

「……感謝してるよ」

渋々といった様子でお兄ちゃんは言う。

私を見る彼女には見えないだろうけど、お兄ちゃんの目は何か、何だか怖かった。

「でね、ウォール教はね周りを囲う壁を信仰してて----」

「話が逸れてるぞ」

仕返しと言わんばかりに彼女の口元にばってんを作って静かにさせた。

むぅっと口籠るが、確かに話しは逸れていた。

わざとらしく咳払いを彼女はする。

小さな容姿と相まって、大人ぶる態度に思わず頬が緩んだ。

「それに俺の話だ。おまえの話はまた今度な」

「次!!次私が話す!!」

勢いよく手を伸ばす彼女の頭を優しく叩きながら「はいはい」と宥める。

気がつけば怖い瞳は鳴りを潜め、いつ物優しさを宿していた。

 

そこからの話は家族---というか、妹ちゃんとの事ばかり。

3歳の時におねしょをして怒られたくないと泣きつかれたから変わったこと。

お母さんの大切にしていたコップを割ってしまったから、代わりに怒られた事。

彼女が元気な時に買い物等の外に行くお手伝いをしていたこと。

そして

「たまたまだったんだ」

楽しい話は徐々に暗くなっていく。

結末は、わかっていた。

「たまたま、妹と買い物に行っていた時に巨人が来たって言われて……」

今度こそ本当にウォールマリア陥落の話。

「近くにいた駐屯兵団の人達に助けられて、俺達はここに来れた。母さんも父さんも……会えなかった」

「そっか」

それしか言えなかった。

なんて言葉を掛ければいいのかわからない。

二人は悲痛な表情をしながら互いに体を寄せ合っていく。

「だから、今の俺達は二人家族。二人で頑張るって決めたんだ」

その言葉は誰に言っているのだろうか。

呟くように言うそれは、まるで言い聞かせてるように聞こえた。

頑張ると言い聞かせてるように。

「……違うよお兄ちゃん」

そっと彼の頬に手を当てながら彼女は伝える。

「今は、お姉ちゃんもいるもん」

「……そうだね、そうだった」

視線を私に移す。

だけど、眼と眼が合うとすぐに避けられた。

なんで?

別に私のことを見てくれてもいいのに。

そんな気もちが一杯になると、お兄ちゃんは立ち上がる。

「もう遅いし、食器を片付けてクリスタさんを送ってくよ」

「えーっ、まだ早いよ」

「明日また会えるから」

明日

また明日

「私、明日も来ていいの?」

急な誘いに思わず聞き返す。

二人を顔を見合わせてすぐに私の顔を観て

「もちろん」

と満面の笑みで答えてくれた。

嬉しい。

こんな風に、暖かく受け入れてくれることが

こんなにも嬉しいなんて。

「ありがとう」

そう自分の気持ちを精一杯に伝えた。

自分が出来る、最高の笑顔で。

 

 

 

 

お兄ちゃんの隣でトレーを自分の分の運ぶ。

行きとは違って、帰りは何も話さない。

私から声をかけようとしたけど、横顔からでもわかる程難しい顔をしていた。

私なにかしたのかな?

やっぱり来るなって言われたらどうしよう。

怖くて何も言えない。

食堂に来てすぐの事。

トレーを返却口に置いてお兄ちゃんはようやく其の口を開いた。

「もう少しだけ、話したいんだ」

「うん、分かった」

昨日今日とお兄ちゃんの顔を色々と見てきた。

人付き合いが全くない私からしたら、もしかしたら今まで一番接してきたのがお兄ちゃんと言っても過言ではないだろう。

そんな彼が見せる表情は、見たことない程苦しそうな、助けて欲しそうな顔。

卑怯だな。

そんな顔されたら、何を言われても断れないよ。

そう思いながら、即答した私に笑みを浮かべる。

でも、やっぱりどこか苦しそう。

 

どうすれば彼を少しでも楽にさせてあげられるのだろう。

今まで、こんな風に思ったことも、考えたこともなかった。

いや、そんな風に思える程人と関われなかった。

だから、お兄ちゃんは特別。

私と人との関わりを教えてくれた、特別な人。

そう、思った。

「大丈夫」

優しく、優しく言うように心掛ける。

「大丈夫だよ」

隣で苦しむ彼をそっと抱き寄せながら。

「私がそばにいるからね」

徐々に力を入れながら。

「私だけは、あなたの傍にずっといるからね」

……なんで、こんな事を言うんだろう。

自分の言葉を疑問に思いながら何度も伝える。

あぁ、そうだ。

私が、こう言ってほしいんだ。

言ってほしかったんだ。

お母さん

私が苦しい時、そう言ってほしかったんだ。

悲しい時に苦しい時に優しく、ただただ優しく言って欲しかった。抱きしめて欲しかったんだ。

それを望んでも叶わないのを知っていた。

だから、傍に居てくれるだけで満足してたんだ。

 

……おかしいな、ほんの少し前の自分の気持ちも事もわからなかったなんて。

やっぱり、お兄ちゃんは特別だ。

そう思う。

私に何かを教えてくれる。

たいせつな、何かを。

肩を震わせる彼の頭を抱き寄せて、私の肩に押し当てる。

頭一つ分高い彼は、少し屈みながら私の気持ちを受け入れてくれた。

嬉しい。

私を受け入れてくれることが、こんなにも嬉しいなんて。

彼は呟く。

小さく、か細い声で。

聞き慣れてきたその言葉を

 

ありがとう

 

お礼を言いたいのは私の方。

私を受け入れてくれてありがとう

私の話を聞いてくれてありがとう

私と話をしてくれてありがとう

私と出逢ってくれてありがとう

私を-----

 

様々な意味をなさない込めて、そっと彼の頭を撫でながら伝える。

 

 

ありがとうっと。

 

 

一話完結の話がいいか、数話かかるストーリーがいいか、どちらがお好みでしょうか?

  • 一話完結
  • ストーリー物

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