病みつき物語   作:勠b

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令和になりましたね。
気持ちを改めて、最低月一で更新できるように頑張ろうって思います。
アンケート機能というのを見つけました。試しにやってみたいと思っています。(よくわかってないのですが)
上手くできてたら、協力して頂けるとありがたいです


病みつきクリスタ4

クリスタ・レンズ

出会って間もない彼女。

急に変な事をする時があって、見ていても面白い。

ここに来て出来た初めての友人。

俺の事を兄と呼び親しんでくれる少女。

 

何故だろう

彼女の傍にいると、安心してしまう。

雰囲気……なんだろうか。

可愛らしい彼女の微笑みは妙や安らぎを感じる。

ここに来て、こんな風に人と触れ合えるなんて思ってなかった。

皆俺を、俺達を除け者にするのだろうと思っていた。

でも、そうじゃない。

彼女は、違った。

優しく、俺達を人として接してくれた。

 

ありがとう

 

何度目になるかわからないから礼の言葉を内心呟く。

震える俺を抱きしめて優しく微笑み少女にむけて。

……天使っか。

あながち間違っていないのかもしれない。

もしも、天使がいるとするならば彼女の事を指すのだろう。

 

少なくとも俺は、そう思う。

思っていた。

今になって思う。

この時に、いや、もっと前から感じていた違和感に目を向けていればこうはならなかった。

彼女が俺達にいや、俺に何を求めてるのか。

その回答を見つけれていれば、ああはならなかったと思う。

 

クリスタ・レンズ

可憐な少女

天使のような優しさを持つ彼女

人との繋がりに飢える少女

家族の愛を知らない子供

 

俺は甘えていたんだ。

彼女に?

いや、違う。

都合のいい現実に。

でも、すぐに知ることになるんだ。

真っ赤な部屋に横たわる彼女を見て。

 

この世界は不条理だ。

弱い人からモノを奪う。

かけがえのない、タイセツなモノを。

容赦なく、力づくに、一方的に。

あぁ、俺は____

俺達は、これ以上に何を奪われなければいけないのだろうか。

教えてよ

教えてくれ

 

クリスタ

 

 

 

 

私はベッドの上に横たわり、止まらないニヤケ顔を鏡で見る。

お兄ちゃんが教えてくれた。

お兄ちゃんと私だけの秘密。

お母さんは巨人が来てから行方不明。

お父さんはお母さんが宗教に嵌っていく姿を見て離婚をした。

小さかった彼女には言えなかった秘密。

そして

 

彼もまた、母親から愛されなかったという事実。

いや、実際は愛されていた。

でも、ウォール教に入ってから変わったという。

何も知らない彼女は素直に入信して褒められていた。

でも、お兄ちゃんは違う。

ウォール教のせいで喧嘩する両親を見て、怖くて入らなかったという。

そんな彼は、事あるごとに母親に虐げられていた。

妹ちゃんにバレないように、バレない所で。

私もそう。

お母さんからの愛を知らない。

私も彼も、愛情に飢えている。

そんな、気がする。

こんな惨めな事だけど、お兄ちゃんとの共通点というのだけで嬉しくなるのはなんでだろう。

……でも、お兄ちゃんは違う。

母親から愛されなくても、妹に愛される。

そんな彼女を溺愛している。

二人は仲が良い。

関わってすぐの私でも嫌と思うほどわかるぐらいに。

彼女はお兄ちゃんの事を何と思っているのだろう。

気がつくと自分の顔が暗くなっていた。

……だめだよ、家族なんだから。

二人は仲の良い兄妹。

仲の良い家族。

それだけなんだ。

……いいなぁ

 

瞼を閉じると二人の顔がちらついていく。

妹に抱きつかれて優しく頭を撫でる姿を。

私もいつか、あぁなりたい。

家族に?

お母さんに?

お兄ちゃんに?

……誰に抱きつけばいいんだろう。

誰なら私の事を受け止めてくれるんだろう。

少ない人間関係の中から、色んな人の顔を思い出す。

一人一人に抱きつくイメージをしていると、最後に思い出したのは彼の顔。

抱きつくのではなく、抱きつかれた彼の顔。

いつも何処か澄ました顔でいるお兄ちゃん。

妹の前では優しく微笑む兄の顔。

でも今日は、さっきは違った。

今にも泣きそうな彼の顔。

私だけが知っている。

また自分の顔がニヤけてきたのがわかる。

また、彼が苦しい時は抱きしめてあげよう。

そして私が苦しい時は___

来る日に思いを馳せながら、私は意識を手離していく。

彼に甘える姿をイメージしながら。

 

でも、私が甘えられる日も甘える日も来る事はなかった。

1ヶ月。

私がここに来てから1ヶ月の間は幸せだった。

昼は馬たちのお世話をして、夜はお兄ちゃん達とお話をして。

たまに頭を撫でてくれて、それが凄く嬉しくて幸せで。

嫌なことなんて何もなかった。

毎日が幸せで一杯の日々。

些細な事はあった。

子供達に無視をされるようになった事。

でも、本当に些細な事。

無視されるだけで、小石を投げられることもない。

だから痛くない。

そもそも、私も余り話しかけることはないから。

ここでの私の世界はお兄ちゃんと妹ちゃんだけ。

そんな風に感じる気がして、寧ろ嬉しささえあった。

三人で支え合って頑張ろうって気持ちになれたから。

でも、それは1ヶ月だけだった。

いつものように夕食時に遊びに行くことを伝えに行くと、何時も笑顔で応えてくれるお兄ちゃんは何故だか複雑そうな顔をした。

そのまま、私に言った。

「ごめん、今日は無理なんだ」

急な言葉に理解が追いつかない。

誘っておいおかしいけど、断られるなんて思っていなかった。

だから、呆然とその場で立ちつくしていた。

お兄ちゃんは心配してくれたのだろう、慌てて

「明日は食べれるようにするから、だから、今日だけは」

「ごめん」っと申し訳無さそうに顔を背けて言うお兄ちゃん。

その顔は罪悪感を一杯にしていた。

お兄ちゃんが断ったわけじゃない。

妹ちゃん?

なんで急に?

思い当たる節なんてない。

昨日も一昨日もその前の日も私は何もしていなかった。

いつも通り、普段通りに接していたのだから。

でも、今日だけ。

1日ぐらいあるよね?

1日だけだよね?

自問自答を繰り返しながら精一杯の笑みで「わかった、何時も来ててごめんね」と伝える。

「ごめん」

その言葉が嫌に胸に残る。

「別にいいよ、今日ぐらい。たまには兄妹で過ごしたいんじゃないかな?」

「だといいんだけど……」

副作用顔をしていたのを覚えている。

でも、その後何を話していたのかまでは覚えていない。

其処まで余裕がなかった。

私の心に、そんな余裕はなかったから。

 

1日だけそう言い聞かせる。

夕食は食堂出一人て食べた。

隅の籍で食べているとオーナーが同席してくれた。

何を離していたか覚えていない。

でも、心配そうな顔をしていた。

1日だけ。

ベッドで横になっても寝付けない。

明日も駄目だったらどうしよう。

そんな不安が一杯で、明日を迎えるのが怖かった。

覚えている。

全く眠れないままお兄ちゃんの所へ朝早く行ったことを。

目の周りの隈を心配してくれていた事を。

そして___

 

「ごめん」

 

そう言われて、誘いを断られた事。

泣きそうになるのを抑えながら、早足でその場を去っていった。

そう。

あの日から、お兄ちゃんもまともに接していない。

妹ちゃんなんて顔すら見れていない。

私が何をしたんだろう。

教えてくれれば直すのに。

気をつけるのに。

そんな不満を駆け巡らせながら、灰色の日々を過ごす。

辛い

とても、辛い。

急に私一人だけのけものにされた事に、私だけ世界から弾かれた事に。

ベッドで涙を流す日々が1週間程続いていた。

 

そんな時にも時間は過ぎて世界は回る。

馬たちのブラッシングをしていると、暖かい感触が伝わってくる。

その暖かさが人をより恋しくさせる。

人というより、お兄ちゃんを。

今日も誘おう。

断れるかな。

今日こそ、大丈夫。

大丈夫だよ。

「……さん?」

言い聞かせる言葉に自信がなくなってく。

おかしいな、馬たちのお世話をしてる時は辛い気持ちがなくなってくのに、この気持ちは無くなるどころか大きくなる。

お兄ちゃん

……寂しいよ。

「クリスタさん?」

「ひやっ!?」

急に肩に手を乗せられて思わず変な声がでる。

久々に呼ばれた私の名前。

期待して振り向くと、そのには心配そうに見つめるオーナーがいた。

お兄ちゃんじゃない。

残念な気持ちを顔に出さないように笑顔をつくる。

 

「オーナー、どうかしましたか?」

見ると黒い服に見を包み、足元には大きめのカバンが置いてあった。

出かけるのだろうか。

そんな推測をしてる私に嘆息すると周りを見渡す。

人気のないことを確認すると、一礼し「先日もお伝えしたのですが」と続ける。

「今日から内地に出かけてきます。その間に何かあればマルコスに申し付けて下さい」

「なにかって何をですか?」

思わず素朴な疑問が口に出る。

笑みを深くしながら私の耳元に顔を寄せると囁いた。

「何でもです。欲しいものを強請っても嫌なものを消してほしいでも、何でも」

その囁きに目を見開いて反応してしまった。

欲しいものと言われ、お兄ちゃんの顔が思い浮かぶ。

でも

「……大丈夫です」

強請った所で手に入らない。

そう理性がブレーキをかける。

少しでも距離を摂りたい。

この囁きから離れたい。

今の私には、余りにも魅力的過ぎるから。

一歩二歩と後ろに下がるとオーナーはポケットに手を忍ばす。

「差し当たっては、こちらをお渡ししておこうと思いまして」

そう言うと私の眼前に鍵がぶら下がる。

何処かの一室の鍵だろうか。

「最近食事を食堂でとるようになられた。兄妹と何かあったと思ったのですが、兄の方とは良好な様子」

ぶら下がる鍵に目が食いつく。

話の流れからして検討がついたからか。

 

「妹ちゃんと何をしているか気になりませんか?」

一息おいたその言葉に息を飲み込む。

何をしているのか、気になる。

もしかしたら、ただ普通に食事をしてるだけかもしれない。

だとしたら、私が嫌われたということ。

……胸が痛む。

でも、何かしているのなら。

それが終われば私とまた話してくれる。

お兄ちゃんと、話ができる。

ぶら下がり鍵が左右に揺れる。

その度に私の視界も揺れ動いた。

「どうぞ」

数回揺れた後に、そっと私の手に置かれた鍵を食い入るように見つめる。

これを使えば、何かがわかる。

でも、使えないよ。

だって、勝手に部屋に入るなんて、盗み見るなんていけない。

理性が私の思いの邪魔をする。

欲望に駆られてはいけない。

そう思うと、鍵を返すべきなんだ。

目の前で不敵な笑みを浮かべる人にこの鍵を返すべき。

いらないっと言って返すだけ。

簡単な事。

でも、それが出来ない。

手も口も動かない。

そっと目を閉じる。

前もあった。

言いたいことが言えなくて、やりたいことがやれない時。

お兄ちゃんがそばにいてくれた。

彼の顔を思い出す。

優しく微笑み、頭を名出てくれる彼を

これをいらないという勇気が欲しい。

でも、だめ。

彼の顔を思うと、気持ちとは反対に鍵を強く握り締めてしまった。

 

「私は来週帰ってきますので、その時に返却して下さい」

私の様子を見て満足した顔をしてオーナーは一礼する。

そして、後ろを向いて歩きだしていった。

返さなきゃ

でも、来週には返さなきゃいけないんだ。

……1週間だけ使っても、いいよね?

自分の罪悪感に言い訳を重ねながら、鍵を握りしめる手を胸に当てる。

徐々に小さくなるオーナーを見つめながら。

私が気づいたのはオーナーの姿が見えなくなった後。

不気味な笑みを浮かべていることに気づいてしまった。

 

 

 

 

 

 

簡単な話、借りた鍵を使わないで1週間を過ごせばいいだけ。

そうすれば、私は悪い子じゃない。

そう思う頭はあった。

でと、思うだけでは駄目。

体は自分の気持ちに従ってしまう。

理性なんかじゃ抑えきれないこの気持ちに。

思いが爆発したのは単純。

今日もお兄ちゃんに断られたから。

その時に思ってしまった。

強く、強く。

いけない子だ。

ばれたらお兄ちゃんに怒られるかな。

なんて思いながら、今では懐かしさを覚える時もの時間よりも少し遅く部屋を出た。

出てからは理性のブレーキは無くなる。

頭の中はお兄ちゃんの事でいっぱい。

なんて私を拒むのか、その理由は何なのか。

それだけが頭の中に残っている。

 

先週まで私の世界とも言えた兄妹の扉の前につく。

深く深呼吸をして、頭の中をリセットする。

もう、やめようなんて考えはない。

おかしいけど、そんな選択肢はなかった。

鍵を使ってそっとあける。

物音を立てないよう気をつけながら、徐々に徐々に。

 

「お兄ちゃんはーやーくー」

最初に聞こえたのは猫なで声で甘える彼女。

口を大きく開けながらお兄ちゃんに何かを強請っていた。

お兄ちゃんは神妙な顔つきで手にしてるパンを見つめる。

「なぁ、辞めないか?こんな事に意味なんてないよ」

「お兄ちゃんは教えを知らないからそんな事言うんだよ。」

口を閉じてぷくぅっと頬を膨らませる彼女。

コミカルな対応とは反対にますます顔つきが険しくなっていった。

何をしてるんだろう。

目の前の光景を一つ一つ整理しながら、それでも二人の動向を見守る。

「お兄ちゃん、これは私達が天国に行くための儀式なんだよ?」

天国

儀式

教え

なんの話をしてるのだろう。

少なくとも、これから起きることが、いや、起きていることが私を遠ざけた理由なんだろう。

それだけははっきりとわかった。

 

待ちわびた彼女は彼の胸に頭を当てる。

羨ましい

素直にそう思う。

私はまともに放すことすら出来てないのに、彼女は何時でもそれが出来る。

同じ妹なのに。

でも、違うか。

自傷気味の笑みを浮かべる。

私は家族じゃないから。

じゃあ、なんなんだろう。

私は妹で、家族じゃなくて___

私はお兄ちゃんの何?

頭の中に溢れる疑問符。

それに対する解答を探す。

二人は何かを囁いている。

お互いに、私には聞こえないように。

もちろん、そんな意図はないだろう。

けど、嫌だ。

私だけ除け者なんて嫌だ。

私はお兄ちゃんの秘密を知ってる。

彼女じゃ知り得ない事まで知ってる。

それだけじゃ、駄目なの?

もっと傍にいれば家族になれるの?

わからない

教えてよ……お兄ちゃん

 

泣き崩れそうになった。

なんでだろう。

私だけ部外者と言われている気がしたからだろうか。

でも、必死に堪えて目の前の光景を見る。

彼女の姿を自分に写しながら。

そんな風に見てた時。

ふと、彼女と目があった気がした。

慌ててしまう。

バレてしまった。

肩が大きく震えたのを感じながら、ドアを締めて逃げようとする。

逃げたいという思いはある。

でも、動かない。

手も足も。

なんでだろう。

バレたらお兄ちゃんに嫌われちゃうかもしれないのに。

……行かなきゃいけないのに。

 

そっと彼女が離れる。

初めにみた光景と同じように大きく口を開けた。

お兄ちゃんは深々とため息をつく。

手にしたパンと彼女の顔をで視線が往復する。

数回繰り返すとまたため息をついて、目を細めて何かを決めたような顔つきになる。

何をするんだろう。

私は目の前の世界に釘づけになる。

そこからは普通だ。

手にしたパンを自分の一口サイズよりも小さく千切って口に入れる。

ただの食事。

私がいた頃と変わらない。

嫌われていたのかな。

そう思うと身体中から力が抜けてきた。

音を立てないように気をつけながら、その場で膝から落ちていく。

堪えていた涙が溢れていく。

お兄ちゃん、私のこと嫌ってたのかな。

そう思いながら、彼を見つめる。

言ってくれれば、いい子になる。

だから、嫌わないで

叫びたい願いを内心叫ぶ。

少しして、違和感に気づく。

口にしたパンを永遠と咀嚼していた。

飲み込むことはせず、複雑そうな顔をしながら咀嚼するだけ。

そんなお兄ちゃんを見守りながら、彼女は口を開けたまま真っ直ぐ見つめていた。

更に数秒程続いた後、彼女は不機嫌そうな顔をする。

「遅い」

端的伝えると、お兄ちゃんの首に手を回してお互いの顔を近づけていく。

口と口は直ぐに合わさった。

 

「___ッ!?」

溢れ出る声を押されるように自分の手を口に強く押し当てる。

目の前の光景は、キス、っと言うのだろう。

始めてみたその行為になのか

行ってる相手になのか

それとも、お兄ちゃんが無理矢理されていることになのか

それとも、全てになのか

私は今迄にない衝撃を受けた。

驚きが勝ったのか、溢れ出ていた涙も枯れて両目は大きく見開くことしか出来ない。

何をしてるんだろう

ただキスをしてるだけではない。

目を無理矢理にでも細めてよく観察する。

観察して、すぐにわかる。

本で読んだことがある行為だ。

ただ、人がするとは知らなかった。

口移しというものを。

親鳥が小鳥に餌をあげる時にやるものだとばかり思っていた。

 

でも、なんでお兄ちゃんがそんな事をするの?

なんで?

妹にだから?

妹にだったら、何でもしてあげるの?

だったら

だったら、私も妹だよ?

お兄ちゃん?

私はいいの?

どうでもいいの?

いや、いやだよ

捨てないで

お兄ちゃんだけなのに

私の事を優しくしてくれるの、お兄ちゃんだけなのに……!!

 

さっきまで動きたがらなかった身体が不思議と動く。

その場を立ち上がって、目の前の光景を拒絶するようドアを締めていく。

その時だ。

今度は、確かに目があった。

嬉しそうに微笑む可愛らしい笑みと。

私はそっとドアを閉めた。

 

どうすればいい?

私は、どうすれば彼女みたいに愛してもらえる?

わからない

あんな勝ち誇ったような笑みを浮かべられて、私は逃げることしか出来ないの?

同じ妹なのに?

なんで、どうして

嫉妬なんだろう。

初めての感情は私の全てを支配していく。

本で読んだことがある。

誰かを愛していれば愛しているほど、嫉妬してしまうと。

私の全てを支配するぐらい、私はお兄ちゃんを愛している。

家族として?

兄として?

男性として?

わからない。

でも、そんな事はどうでもいい。

私は、お兄ちゃんを愛しているんだ。

そう、思えた。

この気持ちが大切と思う。

この気持ちを大切にしたい。

けど

ふと人影が見える。

階建の前までいつの間にか来ていたみたいだ。

踊り場では、マルコスさんが私と目が合い一礼をしていた。

 

「クリスタさん、オーナーからきいてると___」

「欲しいものがあるの」

マルコスさんの話を遮って出た声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。

縋るような思いで声に出す。

気持ちと共に身体が階建に向かって歩き出す。

「それは、何を欲しいんですか?」

「家族が欲しい」

階建前までついて、歩みを止める。

手すりに手をかけて、上にいるマルコスさんを見る。

態とらしく驚いた顔をされた。

「家族っというと、父親の役なら俺が」

「あなたじゃない」

私が欲しいのは、あなたじゃない。

私が欲しいのは、決まった。

私が欲しいのは家族は、決まってた。

「お兄ちゃんが欲しい」

目の前の段差を上っていく。

一つ、一つとゆっくりと。

踊り場に着くと、笑いを堪えていたマルコスさんの前に立つ。

何がそんなにおかしいの?

私の願いを笑わないで。

両手に力が入ってく。

握った拳は爪が食い込んできて痛みを感じ始めた。

 

「私は、あのお兄ちゃんが欲しい」

 

もう一度宣言する。

私の願望を。

マルコスさんは笑みを浮かべたまま頭を下げる。

わかりましたっと言いながら。

 

 

一話完結の話がいいか、数話かかるストーリーがいいか、どちらがお好みでしょうか?

  • 一話完結
  • ストーリー物

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