病みつき物語   作:勠b

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重すぎる、思いを隠し想い合う


病みつきクール~あい編~

ちひろの告白から早数日。

当事者である青年は担当のアイドルであるアーニャと共にステージの舞台裏にいた。

広い舞台を隙間なく埋めたファン達が彼女の登場を期待する歓声をあげている。

嬉しいが、怖い。

目の前の彼女は彼の服の袖を強く掴んで離さない。

緊張してるのだろう。

アーニャはこれだけの人達を相手にするのは初めてのことだからだ。

不安と緊張から見慣れた青年の袖を掴むことでなんとか安心できているが、舞台に立てば1人。

そう思うだけで不安で膝から崩れそうなる。

 

「アーニャ、Люблю тебя」

耳元で優しく伝えられた愛の言葉を聞き、彼女は満面の笑みを浮かべる。

自分が騙して教えた言葉。

違った意味で言われてると知ってはいるものの、愛しの人から言われる愛の言葉は勇気をくれる。

「はい!私、頑張ります!!」

素敵な笑みを浮かべ、袖から手を離しステージへと駆けていくアーニャ。

彼女の背中が遠くなっていく。

……アーニャなら、俺以外の人がいても大丈夫……だよね。

心に来る寂しさを紛らわすように青年は舞台裏から離れていく。

彼女を取り巻く歓声を耳にし、安心感を覚えながら。

最後まで傍に入れなかった自分の未熟さを悔やみながら。

 

 

 

━━━━━━

先程とは違い静かな休憩室で青年は目の前の自販機を眺めていた。

何時も通りお茶で良いかな。

お金を入れていき、ペットボトルのお茶を二本購入する。

青年は自分が担当するアイドルがステージを終えた後に自分が買ってきた飲み物を渡す。

労いの言葉と共に。

初めて担当したアイドルにしていたことが何時の間にか癖になっていただけだ。

二つのお茶を取り出すと、入り口から聞き慣れた……いや、聞き慣れていた声が響く。

「プロデューサーじゃないか、久しぶりだ」

凛々しく真の通った声に彼は驚きを隠せなかった。

慌てて入り口へと視線を移すと、見覚えのあるアイドルがゆっくりと自分へと向けて歩んでいた。

 

「あぁ、早速で悪いんだが頼みごとがあるんだ。

 なに、簡単だよ。

 その懐かしさを覚えていた顔を近くで見せてくれないかい?」

「あ、あい!?なんでここに!?」

予想していない人物の登場に動揺する。

東郷あい。

彼女はこのステージに参加していないはずだ。

そもそも、青年があいを含む思い入れのあるアイドル達と接触を避けるように仕事を選んでくれており、同じステージに立つ時は事前に教えてくれていたからだ。

だからこそ、会うはずがないと思っていたアイドルとの唐突な再会に対応が出来なかった。

逃げるのは愛想が悪い。

だが、とてもじゃないが話せるような気分じゃない。

軽い頭痛と共に来た悩みからどうするか思考をするも、纏まる時間は与えられない。

頬に添えられた手は、時間切れを意味するものだ。

 

「あぁ、写真でしか最近見れていなかったから寂しかったんだよ。

 こうして君の事を触れて話せれる日が来る事を一日千秋の思いで待ちこがれていたよ。

 君が私の傍から離れてもう一年が過ぎたね。

 ……寂しかった」

 

潤みを帯びた瞳は真っ直ぐに青年を捉えていた。

その視線から逃れるように顔を逸らすも、直ぐに両頬に回った手はそれを許すことはなかった。

「ここで会ったのは吉日だ。

 私の楽屋に行こう。

 今は人が居ないとはいえ、誰かに見られたら大変だからね。

 せっかく君と共に築いた地位を万が一にも崩すわけにはいかない」

 

さぁ、行こう。と付け加えると共に青年の手を取り楽屋へと歩き始める。

青年は冷たいお茶を抱えながらあいの後ろ姿を見る。

最後に見た時よりも少し延びた髪を見て、それに気づく自分に何とも言えない気持ちになる。

自分の担当がの変化よりも、前の担当の変化に気づくのか。 

現実逃避のような思考をしつつ身動きが取れない腕を見る。

力強く握られた手は、トレーニングを必死にこなしているからなのか頼もしさを感じてしまった。

何とも言えない気持ちになりながらも、振り払うことも出来ずに共に歩む自分を優しすぎると攻めながら、かつての相棒の背を見て導かれるがままに歩く。

 

 

 

━━━━━━

あいに案内された楽屋は自分達の割り当てられた部屋よりも広かった。

だが、それに驚くことはしない。

青年からしてら、この部屋は見慣れていた。

目の前のアイドルを含め、様々なアイドル達とこの楽屋で過ごしたことがあったからだ。

あいは隅に置かれたソファーに腰掛けると手招きをする。

青年は何も言わずに対面になるように座ると、ため息を吐かれた。

 

「おいおい、そこに座ったらテーブルが邪魔で近くで顔を見れないじゃないか」

「……今はもう無関係なんだ。これぐらいが丁度良い」

「寂しいことを言わないでくれ。無関係なんて言葉、私達に最も相応しくない言葉だ」

無関係と発せられた言葉にあいはムキになってしまう。

自分との関係を分からせるために、自ら青年の隣へと席を移る。

その対応を観察するも、眉一つ動かさずに俯く姿を見て安堵感を感じる。

やっぱり、嫌われてはないんだね。

万が一にも嫌われていたら、私はもう━━━

胸の底から湧き出ていた不安が消えていく。

本当に嫌われていたならば、自分の行動を否定する。

だが、それをしない青年はやはり自分の知ってる青年なんだと。

安堵感から来た思いに押されるまま、あいは行動へと移してく。

 

「ここからだと、俯いた君の顔がよく見えるよ」

 

少し猫背になり覗き込むように瞳を見る。

目線が合うと青年は何ともいえない気持ちになり顔を逸らす。

照れ隠しかな?

ふふふっ、可愛いね。

その行動を肯定的に捉えるも、あいからしたらつまらない。

 

「君との時間を大切にしたいが、私ももう直ぐステージに上がらなければならなくてね……

 だから、この短い時間を有効に活用したい。

 協力してくれないか?」

「……あいはなんでこのステージにいるの?たしか、出演者じゃなかったよね」

 

質問を質問で返されてしまい、少し気分を悪くするも直ぐに収まる。

私のことを知りたいからくる質問かな?

そう解釈をすると、スケジュール帳をバックから取り出し今日の予定を見せる。

そこには、何も書かれていなかった。

 

「……どういうこと?」

「本当は私は今日オフの日でね。

 ただ、事務所のアイドルが急な熱で欠席する事になったから変わりに私が来たんだよ」

「あいだけ?」

「あぁ、他の二人は今日は別の仕事が入ってるからね」

「……そっか」

 

あい1人しかこの場にいない。

それだけが青年からしたら救いでもあった。

もしも、他の2人もいたら━━━

考えるだけで背筋が凍ってしまう。

 

「まぁ、本当なら私じゃなくてもよかったんだが……先日面白い話を耳にしてね」

クスクスっと笑みを浮かべるあいは小悪魔のように目を細め妖艶な指使いで青年の顎を触る。

その手を振り払うことなくあいの瞳を青年は見つめた。

 

「君を奪った社長に先日お会いしてね。

 そこで、君が今日ここにくる話を偶然耳にしたんだよ。

 だから、君に会うためだけにここに来たってわけ」

 

君だけのためだよ?っと念を押す言葉に青年は再び目線をそらした。

その仕草が愛くるしいあいからしたら変わらぬ微笑みを浮かべる。

だが、時間がない。

本題へと話を移す。

 

「早速だ、連絡先を教えてくれないか?」

「……なんで?」

「なんでって、君が変えたからじゃないか。

 電話もメールもあの日以来繋がらない。

 寂しかったよ、あのアナウンスを聞く度に胸が痛くて泣いてしまってたよ」

 

冗談なのか本当なのか分からない言葉をぶつけられ、青年は焦る。

確かに、電話番号もメールアドレスも全て変えた。

彼女達からの連絡を無くすためだ。

それを教えてしまっては意味がない。

断ろう。

そう思うが、言葉が出てこない。

そんなと時、青年の頭にちひろの顔が浮かぶ。

……優しさだけじゃだめ。

ちひろの顔を浮かべられ勇気を貰う。

 

「駄目だよ、教えれない」

「……なんでだい?」

「俺はもう、あい達とは関係ない」

「プロデューサーがアイドルと関係ないなんていって良いのかい?」

「俺はもう、プロデューサーじゃない!!」

「私のプロデューサーは君だけだ」

 

青年は頭痛を少しでも和らげようと片手で頭を押さえる。

それに合わせてあいはテーブルに置かれていたペットボトルを差し出す。

 

「ほら、これでも飲んで落ち着くといい」

「……ありがとう」

 

自分で買ったお茶をゆっくりと飲んでいく。

半分程飲み終えると、テーブルへと戻す。

冷たいものを飲んだおかげか頭の中が少しだけ落ち着いた気がした。

 

「あい達にはもう新しいプロデューサーがいるだろ?」

「あぁ、私達の名前を使うことしか出来ないプロデューサーがね」

「そんな言い方するなよ」

「仕方がないさ。無名時代の私達のために必死に頭を下げていた君を傍から見ていた身としては、相手に頭を下げさせる彼をプロデューサーとしては認めれない。

 心配しなくても、業務を円滑に進めれる程度の仲ではいるさ」

「……それでも、プロデューサーだろ?」

「私とトップアイドルを目指したプロデューサーは君だけだ」

「……もう、なれただろ」

 

突き放すような冷たい言葉は、あいの逆鱗に触れる。

「あぁ、なれたさ!!

 何で君は傍にいなかった!!」

テーブルを強く叩き勢いよく立ち上がるあいの変わり様に目をそらすことしか出来ない自分に虚しさを感じる。

そんな対応があいは気に食わない。

問い詰めるように顔を近づけ逃げられないように頭を固定する。

 

「何で最後に離れていった!?

 私のことを最後まで見てくれるんじゃなかったのか!?

 君はそんないい加減な奴じゃないだろう!?

 私の知ってる君はそんなことしなかった!!

 誰だ、誰に唆された!!

 私から君を奪ったのは誰だ!!」

怒濤の言葉に青年は目をそらし続ける。

直視できない。

初めから隣に立ち、プロデュースしてきた彼女達の目的であったトップアイドルになれる瞬間を立ち会わなかったことに負い目を感じるからだ。

トップアイドルになる直前に逃げ出したからだ。

だかこそ、何も言わずに思いの丈をその身に受ける。

自分を咎めるように。

 

「……約束、覚えてる?」

 

何も言わず傾聴のみを行う青年に優しく問いかける。

「……ああ」

「だから、逃げたのかい?」

「…………ああ」

「そうか、ふふふっ、罪作りな男だ」

あいは変わらず目を反らすことしかしない青年に口付けを交わす。

子供にするような甘い口付けを。

交わして数秒で離す。

互いの顔が赤く染まる、

 

「これで、先ずは一歩約束に近づいたかな?」

悪戯な笑みを浮かべるあいの瞳を見つめる。

深く沈んだ色をした瞳。

そこには、青年と共に過ごしてきた色は無かった。

 

「君は優しい。

 だから、嘘を付く。

 誰かを庇ってるんだろ?

 わかるさ、長年付き添った君のことだ。

 ……知ってるかい?

 君は嘘を付くとき必ず目を反らすんだ」

 

それを聞き、慌てて目を合わせるも自分の思った通りになったあいは楽しそうに笑う。

「悪いけど、嘘だよ。

 君は嘘なんてつかないから、嘘をつく癖なんて知らないさ」

 

だからこそ、その仕草に確信を覚える。

庇っている。

誰かを……。

そいつさえ、消えれば。

そんな事を内心に抑え、外面では甘い笑みを浮かべる。

まるで恋人に向けるような微笑みを。

 

「まぁ、言いたくないならいいさ。

 携帯の番号だけで今日のところは引き下がるとしよう」

「……言っただろう、教えない」

これだけは譲れない。

その思いで強く反発するも、あいからしたら苛立ちすら感じない。

先程のキスのお陰があいの瞳に移る青年の反発的な仕草は愛しく感じてしまっている。

意外と安い女だな、私も。

 

「いいのかい?」

 

不適な笑みを浮かべての問いには青年も動揺を隠し切れない。

何かあるのだろうか。

その先入観から視線で理由を問いただす。

それを理解したのだろう。

あいは青年の耳元で囁く。

愛しく、魔法の呪文を。

 

「私がアイドルを辞めても?」

 

その言葉に頭が真っ白になる。

 

「それとも、君の事務所に移籍しようかな?

 どっちがいい?

 専業主婦か、共に働くか?」

 

楽しそうに人生設計を語るあいの肩を勢いよく掴み、真っ直ぐにその瞳を見る。

 

「冗談でも、辞めるだなんて言うな」

「冗談じゃないさ、私だって冗談で言えることの区別はついてる」

「なら、なおさらだ」

「それだけ君に対して本気なんだよ」

「お前はアイドルで、俺はプロデューサーなんだぞ!?」

「今の君は私のプロデューサーじゃないだろ?」

「他事務所のプロデューサーなんて論外だ!!」

「それじゃ、同じ事務所ならいいのかい?」

「駄目に決まってるだろ!!」

「プロデューサー……」

 

青年を落ち着かせるように彼の頭をゆっくりと撫でていく。

それなりに整えている髪は触り心地も悪くなく、病みつきになりそうだ。

 

「私だって女だ。

 恋ぐらいするさ。

 君のような素敵な男性が傍にいたら尚更ね」

「……だから、だから離れたんだ、俺は」

「ふふふっ、そうか、私のために離れたのか。

 やっと疑問が晴れたよ。

 それじゃ、怒るに怒れないな」

 

肩に込められた力は抜けると、ぶらりと真下へと降りる

あいはゆっくりとそんな青年に抱きつき、背中をゆすっていく。

子供をあやすような仕草に、青年は不思議と落ち着かされた。

 

「もう怒ってないから、やり直そう」

 

耳元で囁かれる言葉に青年は反応してしまう。

「大丈夫、私達なら何度だってやり直せれる。

 なんなら、初めからやり直すかい?

 君の事務所に移籍して、1から……いや、マイナスからだとしてもね。

 君と2人なら、やれる。

 私達なら、上手くいく。

 駄目なら駄目で、君の嫁として嫁げばいいだけだしな」

 

甘く囁かれる言葉に青年は反応する気力すら失う。

もう、駄目なんだよ……。

この思いだけで、青年の胸は苦しめられる。

 

あい、お前は俺を愛しすぎてる。

 

だから、駄目なんだよ。

 

「あい、止めてくれ」

「そうだね、再会して間もない人にする話ではなかったな」

「……ああ、そうだな」

「だが、電話番号を教えてくれないと、本当に私が何をするかわからない。

 自分の事だが、私でもわからないんだ。

 もしかしたら、自暴自棄になるかもな……」

「……わかったよ」

 

俺は手帳に電話番号を記入して、テーブルに叩きつける。

悔しいけど、本当に何をするかわからない。

それに━━━

それに、あいだって俺のプロデュースしてきたアイドルだ。

……もぅ、間違いなんて起こしたくない。

 

ふと、頭の中に1人の女性が浮かぶ。

 

━━━さようなら、プロデューサー

 

その言葉を最後に、俺の元を去ったアイドルを。

 

…………。

青年はだらりと下がった手に力が籠もっているのを感じる。

半ば無意識で込められた拳は、爪が掌に当たり、痛みを感じる。

だが、辞めることはなかった。

 

「さて、今回の目的は達した」

 

テーブルに置かれた紙を手に取り、バックに閉まっていた携帯から電話をかける。

直ぐに2人の聞き覚えのある曲が流れると、あいは嬉しそうに登録をする。

 

「暇な時はかけてくれ。

 でれるときは直ぐに出る。

 私も暇な時に電話をかけるよ」

 

あいはふと時計を見ると自分の出番が回ってくることを自覚する。

そそくさと手荷物をバックに仕舞っていく。

荷物を仕舞い終えると、明るい声とともに扉が開かれた。

 

「東郷さん、そろそろ出番でーす」

 

訪れたスタッフは室内の何ともいえない雰囲気に驚き、その場を退室する。

「さぁ、行こうかプロデューサー」

「……俺はもうプロデューサーじゃない」

「君が何と言おうと、私のプロデューサーは君だけだ」

「……やめてくれ」

 

うなだれながらソファーから立ち上がりテーブルに置かれた2つのペットボトルをとろうとする。

だが、その手は直ぐに止まる。

 

「おや、それは私への差し入れじゃなかったのか?」

 

誰もそんなことを言ってない。

青年は反発の言葉をあげようとするが、何も言えない。

言う気力がなくなった。

目の前のアイドルから立ち去りたい。

この一心で青年は部屋を出て行く。

そんな彼に導かれるようにあいも後ろを着いていった。

2人の行く場所は同じだ。

2人が目指していた物も同じだ。

 

━━━何処で間違えたんだろうか

 

この疑問を胸に、青年は舞台裏へと向かった。

 

 

 

 

 

━━━━━━

舞台裏に着くとアーニャは観客達に深々と頭を下げていた。

横目で青年が戻ってきたことを確認すると、ファン達に手を振りながらゆっくりと舞台裏へと、愛しの青年の元へと帰る。

 

「お疲れ様、アーニャ」

「プロデューサー、今日は私のステージ、見てくれないの?」

「……ごめん、色々やってて」

「……頑張った」

「あぁ、ファンの顔を見ればわかるよ。お疲れ様アーニャ」

 

その言葉を聞き、抱きつくなる思いを抑えて彼の前に頭を差し出す。

青年はゆっくりと頭を撫でるが、アーニャは直ぐに違和感に気づいた。

プロデューサー、何時もは嬉しそうに撫でてくれる……なんか雑だよ?

問いただそうとすると、青年の影に隠れていた彼女が姿を現した。

 

「彼女が今の君のパートナーかい?」

「……あぁ」

 

聞き慣れない重々しい返答にアーニャは警戒する。

目の前のアイドルは自分でも知ってる有名人であり、トップアイドルだ。

挨拶まわりの時にはいなかったけど、なんで?

疑問を覚えるも、聞くことはしない。

プロデューサーを困らせるなら、嫌な人。

 

「よろしくね。私は彼にプロデュースしてもらってたんだよ」

「えっ?プロデューサーが?」

「あぁ」

 

目の前のトップアイドルのプロデューサーが愛しの青年。

そう思うと、不思議と嬉しくなってきた。

私も、彼の隣に立てるぐらいな、トップアイドルにならないと。

そう改めて決意を固めつつ目の前の先輩に頭を下げる。

 

「さぁ、行くとしよう。このステージに最高の幕引きを勤める物としてね」

 

ゆっくりとステージへと向かっていくと、観客達の歓声が大きくなる。

今日の代理として東郷あいが急遽出演と聞いた観客達はトップアイドルを目の当たりにできるとしり声を荒げているのだ。

その歓声にアーニャは驚いてしまう。

さっきまで自分が受けていた歓声が一瞬にして切り替わったのだから。

これが、トップアイドルですか。

思わず生唾を飲んでしまう。

 

だが、アーニャは次の瞬間に聞きたくない現実が現れる。

 

「そうだ、最近ロシア語を勉強しててね。ほら、君もよく知る彼女から頂いた本に興味深い内容のが合ってね」

 

あいはプロデューサーを見ると、アーニャに聞こえるような態とらしい声量で伝える。

 

「Люблю тебя」

 

その言葉を残り、ステージへと向かうあい。

アーニャはただ、その後ろ姿を睨む事しかできない。

愛しのプロデューサーの腕に抱きつつ睨む事だけが、彼女の最後の抵抗だった。

 

 

 

 

━━━━━━

後日談……その直ぐ後の、話です。

 

私はプロデューサーに東郷さんとの話を、聞きました。

軽いことしか教えてくれなかったけど、今は何もないらしいです。

……本当ですか?

 

プロデューサーの助手席に座って、隣の彼をみます。

視線に気づいたのか、優しく頭撫でてくれた。

……あの時とは違って、優しく。

その後、何時も通り雑談しました。

最後に、お疲れ様って言って、別れました。

 

……プロデューサー

あなたは最後まで、私の傍にいてくれますよね?

そんな事をふと、思います。

最近の悩みです。

…………。

寝床につき体をベッドに預けながら目を瞑ります。

思い浮かぶのは、プロデューサーの見たことがないぐらい困った顔。

……私は、プロデューサーを困らせないよ?

プロデューサーに、嫌われないよ?

だから、傍にいても、いい?

 

プロデューサー

プロデューサーから離れても、私は離れないよ

絶対に、離れないよ。

何があっても

 

その日の夢はプロデューサーが傍にいないステージに立つ私の夢。

見て欲しい人に、傍にいて欲しい人がいないステージで踊る夢。

その日の夢は、最悪の悪夢でした。

一話完結の話がいいか、数話かかるストーリーがいいか、どちらがお好みでしょうか?

  • 一話完結
  • ストーリー物

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