風が君の頬を撫でる。   作:だん

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1節(1)

寒村リックスでは、女はこう教えられて育つ。

 

男は渡り鳥のようなもの。

だから女は、羽をやすめる宿り木であればいい。

 

そう。

少なくとも彼女はそう教わって育ち、彼女の周りの女達の枝には、羽を休める渡り鳥が舞い降りてきた。

唯一、彼女の枝を除いて。

 

もちろん、器量の良い彼女の枝にとまろうとした渡り鳥がいなかったわけではない。

だが、彼女の枝は指定席だった。

彼女が望んだ青い鳥しか、彼女の枝にとまることを許されなかった。

いつ、青い鳥が彼女の枝にとまってもいいように、彼女は自身を保っていた。

みずみずしく育ち、美しい花をつけて。

 

しかし、いつまでたっても、青い鳥は彼女の枝にとまることはなかった。

 

何度か頭上を通り過ぎた。

けれども、青い鳥は羽を休めるそぶりも見せなかった。

 

彼女以外にも、青い鳥をその枝にとめようとする女はたくさんいた。

いたが、だれも皆いつの間にか、青い鳥は自分の枝にとまることはないのだと諦めて、別の渡り鳥をその枝に迎えていた。

 

いつしか、青い鳥を待つのは、彼女だけになっていた。

 

 

「……ハァ」

幾度目かわからぬため息がこぼれる。

美しい花を枝に咲かせ、青い鳥を待ちわびる女は、今回も伝えられなかった思いを胸に、憂いを募らせていた。

「いつまで、飛び回るのよ」

窓辺に頬杖をつき、ひとり誰にでもなく語りかける。

黒髪をひと束三つ編みにしてまとめ、本来は活発そうな瞳を寂しげな色に染めている。

「バッツ……」

口から出る名は、一向に枝に止まらぬ青い鳥。

彼は、幼い頃母親を流行病で亡くしてから、ずっと父親とともに旅の空を渡り歩いていた。

その父親も5年前に同じ流行病で亡くなった。

それでも、彼は旅を止めることはなかった。

まるで、吹き抜ける風のように、旅の空を飛び回りつづける。

もちろん、故郷であるこのリックスに帰ってくることはあった。

だが、もはや彼は青い鳥ではなくなっていた。

吹き抜ける風が宿り木を必要としないように、彼もまた、彼女という宿り木をもとめなかった。

 

それでも、彼女は宿り木たらんとした。

宿り木でありつづければ、きっと彼は、風であることをやめて、自分の元へ羽を休めに来ると思っていた。

 

しかし、風はやはり自由に吹き抜けるだけであった。

 

一昨年か、去年の事だったか、いつもは相棒のチョコボとしか旅をともにしない彼が、チョコボ以外の仲間を連れてリックスに立ち寄った。

その時、女は痛感した。

風を捕まえるのは、宿り木ではないのだ、と。

 

「ねえ、バッツ」

 

彼の側には、女の自分が見ても、焦がれずにはいられぬ女がいた。

 

「旅が終わったら、私の話を聞いてくれる?」

 

可憐な乙女だった。一国の姫だと言われても、自分は疑わないだろう。

凛々しくも美しい人だった。英雄譚で読み聞きした戦乙女の再来かと、本気で思った。

 

「私、バッツに話したい事があるの」

 

待つだけの宿り木では、風は止まらない。

彼が求めるのは、宿り木などではなかったのだ。

 

『ああ、わかった』

 

風はいつものように、爽やかに吹き抜けるだけだった。

だが、伝えた。

伝えたはずだったのだ。

 

 

 

「シェリル〜?」

ふと、声をかけられ、風に思いを馳せていた女。シェリル・パーラードは我にかえった。

「はーい」

自身を呼ぶのは、彼女の母親だ。

そういえば、そろそろ洗濯物を取り込まなければいけない時間であった。

急いで母親の手伝いをしに行かねば。

慌てて庭に出る彼女を、母親は小言の一つもくれながら迎えるのだった。

 

「そういえば、お向かいのマリーちゃん。“おめでた”らしいわよ?」

「ええ!?嘘!?」

作業がてら、母が井戸端会議で仕入れた最新情報を教えてくれる。

マリーは、彼女の3つ下だ。今年22歳になるシェリルとしては、またひとりに出し抜かれた形となる。

「あんたも、いい人いないの?こだわってると、あっという間に枝が落ちるわよ?」

…ああ、まただ。

“枝が落ちる”とは、リックスで言うスラングだ。

簡単に言えば『イキオクレる』という事なのだが。

「うるさいわね!いるわよ、渡り鳥の一羽や二羽」

それに返すシェリルだが、彼女の言う渡り鳥は、一度として、彼女の枝に止まった事などなかった。

そんなシェリルの心の内など、とうにお見通しである母は、もういい加減に諦めてと口を開きかけたその時である。

かの青い鳥とは別の幼馴染の声によって、シェリルの待つだけの人生が終わりを告げたのは。

 

「お〜い!シェリル〜!」

 

間延びした声をあげて、洗濯物をとりこむ作業を終えた母子のもとへかけてくる男がみえた。

見習い学士の証である白ぶち帽子をかぶった、彼女のもう一人の幼馴染である。

彼は息を弾ませながらシェリルのもとへかけてくると、まるで正規の大発見でもしたかのように「聞いたか?」言った。

「なによ?」と怪訝そうに返すシェリルにとって、幼馴染の青年が続けた次の言葉は、まさに青天の霹靂であった。

 

「タイクーンのサリサ様とレナ様が、バッツに騎士の称号を与えてくださるんだってさ!」

 

風が、またさらに遠くへ吹き抜けていく音のように、その時のシェリルには感じられた。

 

 




ドーモ。だんです。

早速オリジナルで名前をつけて登場させてしまいました。

リックス村の幼馴染(オンナ)です。
さて、彼女がどう作中でバッツ達に関わっていってくれるんでしょうかね?

僕自身が楽しみだったりします。

ご意見、ご感想いただけると幸いです。
また、近い内に更新します。
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