風が君の頬を撫でる。 作:だん
この小説では、レナを思いっきり聖女様ちっくに描いてやる所存。
徐々に本編メンバーが揃ってくる感じです。
レナ・シャルロット・タイクーンは女神様である。
いささか……否。
かなり突き抜けた表現であるが、これが彼女をあらわす世間一般の認識なのだ。
風の大国と名高い、タイクーンの第二王女。
ほんの少し赤みがかって、桜色にも見える金色の髪。
華奢な身体に、可憐な容貌。
それでいて、タイクーン近衛騎士の誰もが彼女に手も足も出ないほど腕が立ち、魔術にも精通し、何より権威を鼻にかけない気さくな人柄と民草からの評判で、実際本人も積極的に城下におりては、何かと民と触れあうよう心がけているとなれば、いつしか彼女がそう呼ばれるようになっていたとしても不思議ではあるまい。
タイクーンの、いや、世界中の男達の思慕と、世の乙女達の羨望の的。
それが、今のレナであった。
「レナ様」
控え目なノックの後、政務室のドア越しに声がかかる。
侍女長であろう。
ひと区切りがついた気配をドア越しに感じ取る気配りには、毎度毎度呆れるほど感心する。
「何?ジェニカ?」
同席して政務にあたっていた臣下達に休憩の意思を伝えると、レナは自ら扉を開けて侍女長に聞き返した。
そんなレナの様子に、一瞬侍女長は眉根を寄せる。
王女自ら扉を開けて出迎える。
政務室には彼女以外にも臣下がいるにもかかわらず、彼女は率先して動き、自ら雑務をテキパキとこなしてしまうのだ。
今回も、誰が動くよりも先に、レナの方が動いていた。
チラリと室内の臣下達に視線を投げかけるが、それについての小言を侍女長がする事も、王女は先だって封じているのだった。
そう言う王女殿下に、“今回たまたま”が“ほぼほぼ毎回”ではないですかと、侍女長のジェニカは心の中でツッコミを入れながらも、柔らかく笑顔を向けるレナに対しては鬼の侍女長も完全に毒気を抜かれてしまっていた。
「どうかしたの?」
気がつけば、レナが小首を傾げて再度問いかけている。どうやら少々気が散っていたようだ。
これでは室内の臣下達と、大差ない。
そう胸の中で反省し、老齢の侍女長は報告すべき旨を告げるのであった。
「魔物討伐に出ていた騎士達が、今帰還したそうでございます」
報告をうけた王女が、まずは安堵の表情を浮かべる。が、すぐにその顔には憂いに似た色が混じる。
今度は、侍女長の方が察して先に動いていた。
「騎士達の中に負傷者はおらぬとの事でございます」
「そう。よかった」
応じる王女の顔が、再び安堵の色合いを取り戻す。
おそらくは、討伐された魔物に対しても、心を痛めていらっしゃるであろう。
だが、放っておいては民草に被害が及ぶ事も、同時に理解している聡い姫に、侍女長はもう一つ、伝達ごとを付け加えた。
「それと、騎士達と一緒にクラウザー卿がお越しになられております」
それを聞いた途端、レナの表情が華やいだ。
「まぁ!バッツが?」
手を叩感ばかりの笑顔を見せる王女。
侍女長の続く言葉も待たずに「すぐに姉さんにも伝えてあげて」とジェニカに言うやいなや、レナはあっという間にその場を後にするのだった。
後に残されたジェニカは、やれやれと肩をすくめて見せると先ほど廊下ですれ違った彼女の姉、第一王女サリサこと、ファリスと全く同じ反応だと思いながら、クラウザー卿が通されるであろう応接間のお茶の準備に取り掛かるのであった。