風が君の頬を撫でる。   作:だん

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さ、だいぶ時間がかかりましたが、書けるうちに書きまくっちゃいますぞ。

そろそろ1節の山場。
今回の事件の始まりです。

バッツ君たちを待ち受ける冒険は、一体どんなものなのでしょうか?

それは、読んでのお楽しみです。


1節(8)

謁見広間の、さらに上階にある応接の間は、レナやファリスの私室のある階層に新設されていて、謁見広間のちょうど真上に位置している。

真上、といっても風の大国を誇るタイクーンの城である。

謁見広間から王族の私室までは結構な長さの階段を登り下りする必要があり、当然壁も分厚い。

その階にある応接の間まで声が聞こえたという事は、招かざる客は無遠慮(ぶえんりょ)にも謁見広間まで踏み込んできているようだ。

しかもそこから想像するに、衛兵たちがその客を止められなかったという事は、曲がりなりにも『客』として扱わなければならぬ相手、つまりは王族クラスであるという事。

先の『事件』により疲弊した世界である。当然、各国の首脳陣はその影響を受けており、『英雄』を有するタイクーンやバルは別として、こうまで傍若無人(ぼうじゃくぶじん)に振る舞える王族を彼らは一人しか知らなかった。

「……やっぱりか」

謁見広間へと到着し、当の招かざる客と、それをなだめすかす衛兵を(さま)みたバッツが、彼にしては珍しく露骨(ろこつ)に顔をしかめた。

「……ちっ、やっと来やがったか」

到着したバッツたちの姿を見て、招かざる客が吐き捨てる。

およそ立場のある人間とは思えない汚い言葉遣いだが、これでれっきとした王族であるというのだから、バッツは元海賊という異色の経歴を持ちながら、立派にタイクーンの王族としての務めに邁進(まいしん)するファリスは、本当に立派であると改めて思うのだった。

「パイアール・カルナック」

そのファリスが、忌々しげにかの招かざる客の名を口にする。

燃えるような赤髪をなびかせるは、かの炎の大国カルナックは第一にして唯一の王位継承者。

現カルナック女王が嫡男、パイアール・カルナックその人であった。

「随分だな、タイクーン。この(おれ)が自ら出向いてやったのだ。その(おれ)を待たせるなど、不敬にも程があるぞ」

傲岸不遜(ごうがんふそん)傍若無人(ぼうじゃくぶじん)を絵に描いたような男である。

先のバッツとレナの会話に出てきたサーゲイトとカルナックの領土問題。その問題の一番のがんと言えるのが、このカルナックの王子その人である。

そもそも、カルナックは先の『事件』において、クリスタルの加護が無限であるとタカをくくり、その力を際限なく吸い出そうとして、その傲慢さをエクスデスにつけこまれ、クリスタルを砕いてしまったという失点がある。

女王をはじめ、多くのものはその反省を活かし、学者シドたちの指揮のもと復興に力を入れているはずであったが、一部のもの、主にこのパイアールのようにクリスタルの加護が潤沢であった頃の贅沢な暮らしを忘れられない人間たちがわがままの限りを尽くすので、思うように復旧作業がはかどらない。

平和になればなっただけ、こういう輩は常に湧いて出るものなのだ。

「不敬だと?今日は面会はできないと伝わってはいないのか?こちらの都合お構いなしというのは、不敬とは言わないのか?パイアール・カルナック」

不快感を隠そうとしないファリスが、パイアールの不遜な物言いに言い返す。

バッツも自然とファリスに並び立つようにパイアールを睨みつける。一歩下がった位置におりながら、それでも毅然とした姿勢で立つレナと合わせて、世界を救った『英雄』三人を前に、そうと知らないのかパイアールは相変わらず傲慢であった。

「フン」

それどころか、美しき姫たちの傍らに立つ一介の風来坊然(ふうらいぼうぜん)としたバッツの姿を見て取るや、これ見よがしに彼に対して蔑んだような視線をぶつけるのだった。

「なんだ?カルナックの次期王であるこの(おれ)を待たせておくお前たちの都合というのは、そんな(クズ)の相手だとでもいうのか?」

言うや、黙っていれば秀麗(しゅうれい)で通りそうな顔を歪ませる。

「言ってくれるな」

対するバッツは苦笑するばかりである。

正直、彼本人としては、パイアールのように“生まれ”だけの小物程度に、何を言われようともどうということではない。

先の冒険で出会った偉人たち。亡きタイクーン先王や暁の四戦士たち。偉大な賢者ギードや科学者シドをはじめ、得難い出会いを経験した彼にしてみれば、彼ごときの暴言など笑って流せる雑音でしかない。

だが、問題は彼本人ではなく、彼の仲間たちの方である。

「なんだとっ!?」

案の定、血の気の多い元海賊王女が声を荒げかけるが、バッツはその元海賊王女の方を掴んで制止する。

そんな姉の代わりに、口を開いたのは妹姫の方だった。

「お言葉ですが、パイアール王子」

スッと二人を追い抜いて一歩前に出たレナが、厳かに言葉を紡ぐ。

「なんだ?ようやく口を開いてくれたじゃないかレナ王女」

そんなレナの言葉など、聞く気がないのか、それともレナが口を開いたことがそんなに嬉しかったのか、パイアールはそれまで不機嫌そうな表情など忘れてしまったように笑顔を作る。

「今日こそ色よい返事を聞かせてくれるのであろうな?いや、返事など決まっていようものだから聞くまでもないか。だが、いい加減心の広い(おれ)にも我慢の限界というものがあるぞ?」

歌い上げるように(のたま)うカルナック王子。

あまりの自己中心的すぎる物言いに、彼女の姉がクリスタルの加護を受けたその力を、わりかしガチで開放してやろうかと思い、さてどんな奇跡を見せてやろうかとその魔力を練り上げようかと思い、バッツでさえ、そんなファリスを制止することをわりかし本気で諦めかけた矢先である。

「まぁ、面白い冗談ですね」

それより先ににこやかな笑顔で返答したレナの声に、バッツとファリスはギョッとする羽目になった。

この場に彼等並みに、いや、彼等の三分の一でも魔力に敏感な者がいたのならば気がついたかもしれない。

穏やかな清流のようなレナの笑顔とは裏腹に、彼女の周りを渦巻く灼熱の魔力の奔流を。

「なにが冗談な者か」

そんな二人の驚きなどつゆ知らず、パイアールは調子を良くしたように言を重ねる。

「何度も言っているであろう。お前のような姫には、(おれ)のような男がふさわしい。旅の仲間だか先の英雄だか知らんが、いい加減(おれ)の申し出を受け入れてはどうだ?(おれ)こそお前のお……」

「それ以上言葉を続けるなら、私たちタイクーンからの援助は一切無くなりますが、よろしいのですね?」

「お……」

「それと、私のような者になにをお思いかは存じかねますが、私は私の大事な友人を公然と侮辱するような方と、友好な関係を築いていくことはできません。ましてや、それ以上の関係など考えただけでも身の毛がよだちます」

「な……」

「今回の言動は、あなたのお母様、カルナック女王に免じて聞かなかったことにさせていただきます。本日はお引き取りください」

「き……」

「お引き取りを」

 

にっこり。

 

まるで天使のような笑顔。

では、ある。

では、あるのだが、傍らに立つバッツとファリス、及びロイをはじめタイクーンの衛兵全員が戦慄する。

「そ、そういうわけだ!」

裏返った声でファリスが告げる。

これ以上レナを刺激してはならない。

タイクーン側全員の、満場一致の総意であった。

「今日のところは帰っていただこう!」

…と言うか、帰ってくれ。頼むから。むしろお前と、この城の存亡のためにも!

よほどニブイ者でなければ、今の危機的状況が理解できるはずなのだが、残念ながらこの愚図(パイアール)はよほどのにぶちんらしかった。

「なんだと、貴様……ッ」

いよいよファリスがレナを取り押さえ、バッツが力づくでパイアールを追い出そうかとし、抑えきれなくなったレナの魔力が不死鳥の形になって顕現(けんげん)しようとしたその時であった。

「まぁまぁ、若様」

謁見広間に突如聴こえたしわがれた声に、ようやくパイアールがその無神経な言を止め、後方を振り返った。

振り返ったパイアールの視線を追うようにして、その場の皆の視線が集まるその先。

いつの間に居たのであろうか。

傲慢なパイアールのつれにしては、いささか埃臭い身なりをした老婆が謁見広間の入り口にたっていた。




ほい。

またもやオリジナルのキャラクターを出してしまいました。

さて、パイアール。


まぁ、出してしまってなんですが、こんな奴ですがよろしくお願いします。

次回はしわがれた声の老婆、そして、もう一人オリジナルで出しますので、よろしくおつきあいください。

では、次回の更新でお会いしましょう。


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