IS 諦めた少年   作:マーシィー

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一年以上たってからの更新。

それでもなお更新を待っていただけるという作者は幸せ者。

そして今回のお話から最終回に向けて突っ走ります。あと束さんの扱いが酷いのはご了承ください。


IS 諦めた少年 篠ノ之束編

 篠ノ之束

 

 

 

 彼女の名前は世界中の人間が知っているといって過言ではないほどの有名人物である。そんな束から見る世界は二つに分かれていた。

 

 

 

 数個の宝石とそれ以外の石ころ

 

 

 

 束にとって大多数の人間は道端に転がっている大小様々な石でしかなく、数人しかいない束が人として認識できる宝石で束の世界は作られていた。

 

 そんな宝石を万華鏡のようにクルクル回しながら見続ける。無限に変化するその輝きのみ見続けてきた束にとって()という存在は大した価値もない存在だった。せいぜいが他の石と比べたら少し大きい程度であり、そんな存在に気にかけることなどしなかった。

 

 だが、限られた世界(まんげきょう)だけを覗き込み、周りを見ずに歩き続けた束の足元には彼と言う石がありもし束がそれに気がついたならば束の世界は今だ変わることはなかっただろう。

 

 しかし、束はその足元の(意思)に気がつくことができなかった。故に束は躓いてしまう。束にとっては取るに足らない存在によって。そして人と言う存在はただ道を歩き躓いただけでも死んでしまうことがある。大切にしていた物が壊れてしまうことがある。束はそんな些細な事に気が付くことが出来なかった。

 

 

 

 だから万華鏡から宝石が零れてしまい、直す事も元に戻すこともできなかったのである。

 

 

 

 束が彼の存在に気がついたのは織斑一夏がISを動かしてからしばらくたってからのことだった。束にとっては無駄とも言えた世界中で行われた男性のIS適合者検査。その検査で発見された二人目の男性適合者。それが彼であり、束が彼の事を知った時であった。

 

 束は2人目の適合者である彼の事をすぐさま徹底的に調べ上げた。生まれから今に至るまでのありとあらゆる出来事全てを。

 その結果は、彼は束にとって何の価値も見出せない周りにあるただの石と同じだという事であった。

 

「な~んだ。いっくんと同じかと思ったけど、何の意味もない石じゃないか。まったく束さんの時間を無駄に扱わせるなんて石ころの癖に生意気だなぁ」

 

 束にとって彼はその程度の認識しかなくそれ以上彼の事を調べようともせずに放置する事となった。なぜならば束が調べた彼の情報と彼が乗ったISから送られて来る情報を見て、彼が束の思い描く未来に何の影響も与えることは無いと判断したからだ。

 

 確かに束が調べた情報を見れば彼が束が描く未来に影響を与えることはなかっただろう。だがそれはあくまでも束のみで判断した場合であって実際に彼と接している織斑一夏達の事は含まれていなかった。

 

 ここが束にとって大きな分岐点となった。

 

 もしここで束が彼に何かしらの行動を取っていれば未来は大きく変わったかもしれない。だが、それを確かめることはもうできない。なぜならば過去に戻る事などできもしないのだから。

 

 

 

 

 束が次に彼を意識したのはIS学園で行なわれたタッグトーナメントであった。それまではIS学園の監視カメラ越しに一夏たちの生活を覗いていたが彼が映ったとしても全く覚えてなどいなかった。

 束はタッグトーナメントでちょっかいを出そうかどうか迷っていた。前回一夏と何処かの国の石ころが試合している時に無人機をけしかけた時、千冬に釘を刺されていたのである。だから今回は見逃して他の機会にまたちょっかいを出そうと考えていた。だから今回のタッグトーナメントは気にせず次にちょっかいを出すときの準備をしていてタッグトーナメントの事はほぼ無視していた。

 

 その結果が彼の死であり、ISが持つ絶対防御を否定する事実だった。

 

 束にとって彼の死はどうでも良かったが、ISの絶対防御が破られた事に怒り狂った。束は自分が作ったものに対しては異常なほどのプライドを持っていてそれを覆したVTシステムはシステムは一切残らず根絶やしにし、それを作り搭載させた研究所もすぐさま見つけ出し、跡形もなく消滅させた。後に千冬から連絡が来たがその時は人的被害はないと、伝えたが実際は研究施設ごと関係あるなしに其処にいた全ての人間を殺していた(・・・・・)

 

 束にとって人を殺すという事は道端の石を蹴り飛ばすと同じような事であり束の宝石が大丈夫ならたとえ万の人間を殺したとしても心が動く事などなかった。だから彼の死もどうでもいいことであり彼の死という事実が齎す影響など考えもしていなかった。

 

 

 

 彼が死んでからしばらくして千冬から束に連絡が来た。

 

「……束、聞きたい事がある」

 

「なになに、ちーちゃんから束さんに聞きたい事って珍しい事があるもんだね?何が聞きたいのかな」

 

 電話越しに聞こえてくる千冬の声は普段聞くような凜とした声ではなく何所か沈んだ声であった。

 

「彼の事だ」

 

「彼?彼って誰の事かな?束さんには分からないよ」

 

「……先日死んだ私の教え子の事だ。知らんとはいわせんぞ」

 

「あ、ああ!!思い出したよ」

 

「そうだ、あの試合で死んだ彼の事だ」

 

それが(・・・)どうしたの?ちーちゃん」

 

 束にとって彼という存在は記憶するに値するほどのものではなくただ2人目の男性適合者で先日の試合で死んだ、としか記憶していなかった。

 

「それが、だと……人が1人死んだんだぞ」

 

「うん、そうだね。でも問題ないじゃない。これでいっくんが世界で唯一の男性適合者になれたんだから」

 

 束が答えた言葉。それは本心からの言葉であり束にとって彼の存在などその程度でしかなかったのだ。ただそれは束にとってであり束以外の人間にとって彼の死が齎した影響、それは束の想像以上であった。

 

「……それ、は、本気で言っているのか」

 

「うん?どうしたのちーちゃん、なんか恐いよ」

 

「束!!それは本気で言っているのかと聞いている!!」

 

「ッ、本気もなにも束さんはいつも真面目だよ」

 

「……束」

 

「なにちーちゃん」

 

「私は……私はお前が限られた人間しか人と認識できないとは知っていた。だが、それでも私はお前が認識できない人も最低限、人として扱っていると思っていた……だが、それは誤りだったようだ」

 

「ちーちゃん何を……」

 

「束……私は白騎士事件の事実を公開する」

 

「な!?何言ってるのちーちゃん!!そんな事したらちーちゃんの立場が「私は!!」ッ!?」

 

「私は……織斑千冬は周りが想像しているような人間じゃないんだ。たった一人の生徒も救えないただの弱い人間なんだ」

 

「な、なんで!?なんでそんな事言うの、ちーちゃんは束さんが認めるすごい人なんだよ!!他の人間なんかよりもすごい、すっごい人なんだよ」

 

「ちがう!!私はそんなすごい人間なんかじゃない!!ただ、周りからそういわれて勝手に勘違いして調子に乗っていた子供だったんだ」

 

 電話越しに聞こえてくる千冬の声は震えていた。

 

「だが、私はもう子供ではいられない。彼を、人一人の人生を終らすきっかけを作ってしまったんだ。いや、彼1人ではない。女尊男卑となった今の世界を作ってしまった責任を取らなくてはいけないんだ」

 

 束には理解ができなかった。親友である千冬が束にとってどうでもいいはずの人間のために責任を負うなどという事を。

 

「束、お前の責任も全部私が被ろう……だから私とお前の付き合いもここまでだ」

 

「まって、まってよちーちゃん!!まって!?」

 

 千冬が束の分の責任を背負うと言ったのは束の事を思っての事だった。束の性格を知っていれば束がまともに責任を負うとは思えないし、逆に千冬が想像つかない事を仕出かすかも知れなかった。だからこそ千冬は自分が束を唆して白騎士事件を起こしたとして、女尊男卑となるきっかけを作った責任を負う事にしたのだ。

 それは彼を追い詰めてしまった事に対しての罪と罰を自分に与えたかったという考えもあった。彼が死んでしまった以上この行為自体が自己満足であるという事は分かっていたが、それでも今の千冬はそうでもしないと罪悪感で潰れそうになってしまっていた。

 

 だから、千冬は束に対する対応を間違えたのだ。一方的に突き放すのではなく、たとえ束が予想外の事をしても隣でそれを止めて一緒に責任を負わせるべきだったのだ。彼に対する罪悪感と自分を罰せなければという意識に加え、彼が残した日記。それが千冬の判断を鈍らせたのだ。

 

「な、んで……なんで、なんでちーちゃんがそんな事言うの」

 

 通話が途切れた画面を見つめ呆然とする束。束は信じたくなかった。千冬が、一番の親友が一方的に関係を切った上に一緒に起した白騎士事件の責任を1人で負うなどと。

 そんな事をしたら千冬がどういう扱いを受けるか。束は想像すらしたくなかった。千冬が短くはない人生の中で一番の親友が、何の価値もない道端の石ころ程度の価値しかない物に攻め立てられたった一人で責任を負い残りの人生を潰していく。

 

 束には耐えられなかった。そんな千冬の人生も、千冬と話す事も会う事もできない人生など。

 

「あ、はは……ちーちゃん、ちーちゃん。大丈夫そんな事しなくても大丈夫だよ。ちーちゃんが何の価値も無いやつらのために人生を台無しにする事なんてないんだよ。そうそんな必要なんてないんだから……」

 

 束は立ち上がり、フラフラと歩き出す。ぶつぶつと何かを呟きその瞳には暗い影がさしていた。

 

 

 壊れて宝石が零れた万華鏡が映すのは、何も変わらない変わる事のない鏡面。零れ落ちた宝石を拾い集めても壊れた万華鏡は元に戻る事などないのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が死んでから1ヶ月が過ぎたある日、世界で二つの事件が起きる。

 

 片方だけならば、まだ何とかなったかもしれない。まだ取り返しがついたかもしれない。

 

 だが二つの事件という火種は女尊男卑に隠れた歪みを糧に瞬くまでに業火とかした。

 

 彼が死んでから半年と経たずに世界は急変していく事となる。




今回は篠ノ之束編でした。

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