機動戦士ガンダム 転生者の介入記   作:ニクスキー

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 ファンネルの動かし方は自己解釈です。


第一章 自由を求めて
第一話 事故死と転生


「あ~もしもし? 俺様。今からセスナに乗って空から見るアマゾン川の景色を楽しむところ。今何やってんの? 狭い日本で?」

 

『うぜえ、こいつうぜえ! 宝くじが当たったからって調子に乗りやがって。今からユニコーン見に行くんで切るぞ!』

 

「マジで! 前にお前が言ってたやつだろ? 久々にガンダムを見ようと思ったんだよな~。来月には日本に帰るから一緒に行こうぜ!」

 

『いや、終ってるから。諦めてブルーレイを買え。それじゃあ時間だからまたな! 土産期待してる。』

 

「了解、過剰に期待しながら待ってろ。」

 

 携帯をポケットに入れると、青いTシャツとズボンにサンダルを履いた現地人ガイドが手を振りながら小走りにやってきた。

 さっきセスナの準備をさせるって言ってたから準備完了かな?

 

「ジュンビデキマシター、ドゾイキマショー!」

 

 この国に入って一週間も一緒にいると、ガイドの片言の日本語にも違和感を感じなくなってきた。

 浅黒い肌にインチキ臭い笑顔のおっさんだがガイドの腕は確かで、毎日楽しませてもらっている。

 今日はオプションでつけた空の旅。これでブラジルの観光は終わりで、明日には次の国に向う。

 

 いやあ、宝くじに当たったおかげで会社を辞めて半年の観光旅行だなんて俺って運がいいなぁ!

 30年も生きてきていいことなんて無いなぁと思っていたが、このために運を貯めてたんだな。

 親にも分けたし、株も買ったし、もうバラ色の人生だ。…まぁ嫁がいないのがあれだが、これから探せばいいか!

 

 

 俺とガイド、パイロットの三人を乗せたセスナが頼りない音を鳴らしながら空へと飛び立つ。

 小さな町を越えると、景色は次第に森の緑に変わり、その圧倒的な緑はセスナの中にまで緑の匂いを感じさせる。

 

-ガクンッ-

 大きな衝撃の後、小刻みな振動が機内を包む。

 森の緑から目を上げると、セスナのプロペラの後ろ…エンジン? から黒い煙が後方に流れていくのが見える。

 パイロットは俺にはわからない言葉で口元のマイクに何かを叫びながら、ボタンや操縦桿を必死に操作している。

 隣を見ると、ガイドはネックレスの十字架を掲げて何かを祈っている。

 

 …オワタ!

 

「嘘だろ! おいガイドさんどうなってんの!? 死にたくねえ! まだ30だぞ!」

 

 ガイドの肩を掴み揺さぶるが祈りを止めやしねえ!

 うそだうそだうそだうそだうそだうそだ

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない

 ガンダム見たいガンダム見たいガンダ

 

 

 

 

 

 …気が付くと身動きが取れず、天井だけが目に入る。病院にしては薄暗く、音がうるさい。

 しかも身体の感覚がおかしい。目の見え方や音の聞こえ方、舌に感じる味や感覚。全てに違和感を感じる。

 気持ち悪さに身体を動かすと手が見えた。小さな手が。

 

 …赤ちゃん?

 俺の手…なのか?

 右手を開いたり閉じたりすると、見えている右手が開いたり閉じたりした。

 

(えーーーーー)

「あぎゃーーー。」

 

 出そうとした声とは違う声が俺の口から出る。嘘だろ?

 パタパタと音が聞こえ、栗色の髪の女性が俺の下半身を触る。…オムツ? 俺オムツはいてる!

 確認が終ったのか俺から手を離し、どこかへ歩いていく音が聞こえて暫くしてから哺乳瓶を持って来た。そして俺の口に突っ込んだ。

 …あまり味は感じないが、体が欲しているのがわかる。体が満足するまで吸い続けた。

 

「○○○?」

 

 …英語? おそらく英語だと思われる言葉で話しかけられた。ゆっくりじゃないと聞き取れないよ! ゆっくりでもほとんどわからないけど。

 俺が「あー」と答えると、彼女は満足げな表情で歩いて行った。

 

 これは噂に聞いた転生ってやつか?

 ネットで読んだことはあったけど、まさか自分が体験するとは!

 最後の記憶は飛行機事故の記憶だが、やはり死んだのか。…思い残したこともあるが、今更どうしようもない。

 ならば、この第二の人生を謳歌しようじゃないか! どんな世界かわからないけど楽しもう。

 

 そう思っていた時期がありました。

 

 

 今俺は何歳だろう? 生まれてから何年か過ぎたと思う。

 はっきりしないのは一度も建物の外に出たことが無く、カレンダーもテレビも無いから今が何年かがわからないからだ。

 ここは病院ではなく何かの研究所で、俺たちはモルモットっぽい。毎日投薬や検査が続き、体中に電極を付けられて検査を受け、頭にヘルメット状の機械を付けられたりする。

 自由な時間は眠っている時だけだ。

 

 …俺たち、そうここには俺と同じような子供が全員で20人いて、1stから20thまで番号で呼ばれている。俺は6th(シクス)。

 俺たちは皆金髪で、目の色は違うがどこか似た顔立ちに見える。…兄弟? 歳は同じくらいだと思うのでちがうか。

 

 

 暫くたったある日、いきなり授業が始まった。

 腕輪を付けられ、私語をしたときや答えを間違ったときなどは電気ショックを与えられる。

 本当か嘘かはわからないが、腕輪は勝手に外すと爆発すると言われたのでうかつに外せない。はったりだとは思うが試す気にはならない。

 歴史の授業でついにこの世界が何の世界かがわかった。

 教科書を適当に開いたら『U.C.0058.09.14 ジオン・ズム・ダイクン、サイド3独立宣言』と書いてある。ガンダムワールドだ!

 最後の項目は『0069.08.15 ジオン公国宣言』とあったので、今は69年から一年戦争の79年までの間だろう。

 

 どうなっている?

 子供を生まれてから数年間閉じ込めるような研究所は、俺が見たアニメには登場しなかったはずだ。

 可能性が一番高いのはフラナガン機関だが、08小隊に出てきた子供たちは外見がまちまちだった。ここにいるのは全員金髪…グレミー?

 zzに出てきたグレミー・トトは、ギレン・ザビとニュータイプの女性との人工授精で造られたとどこかで見た記憶がある。

 俺たちはテストケースか、この中の成功例がグレミーになるかするのか?

 

 薄れつつある記憶を思い出すがいいイメージが無い。マザコンだし。

 ん? マザコン? 今から育てられるのか、マインドコントロールで母がいると刷り込まれるのかな?

 どちらにしても碌な話じゃない。特にマインドコントロールなんてごめんだ。

 …隙を見て逃げよう。

 

 フラナガン機関以外にもこういう研究所があるとは思っていなかったが、非人道的な組織は表に出ないしアニメにも描かれないだろう。

 出来れば係わり合いになりたくなかった。

 

 

 それから数年。

 俺は何度か逃げようとしては捕まり、何度も体罰を受けておとなしくなった。外見は。

 最後に捕まったときには換気口の中を通って研究所の外に出ることが出来たが、ここはコロニーだった。船がないと逃げられない。

 ずっと暮らしていると違和感を感じなかったが、一度意識すると地球と違う重力が気になる。

 とりあえずは確実に逃げられるまで優等生のフリをして、捨てられないようにしようと思い、最近はおとなしくしている。

 

 今も研究所の中からは出してもらえず教室と寝室、体操室と研究室の4ヵ所だけの移動の日々だ。

 毎日睡眠、食事、トレーニング、検査以外の時間は全て勉強。

 授業は夕食前に終るが、授業についていけないと電気ショック。予習復習は欠かせない。

 監視カメラがあるので仲間たちにも話しかけることが出来ないので、精神的に厳しい。最初からそう言う暮らしならまだしも、好き勝手生きていた記憶がある分自由が無い生活には参った。

 今の俺を支えているのは、いつかガンダム世界で自由に生きてやろうという夢だけだ。

 年々薄れ行く記憶を必死で繋ぎとめながら生きていく。

 

 仲間たちは少しずつ個性が見え始め、運動神経やテストの点数にも差が表れてきた。

 特に5th(フィフス)。俺と違い普通の子供のはずだが成績は俺より少し下で、運動ではトップ。特に球技が得意だ。記憶を持っているというチートで成績がトップの俺とほぼ互角とかどんだけ!

 麒麟児とか天才児ってのは、こんな子供のことなのだろう。

 …それかニュータイプ。彼は勘が良い。いや、良すぎる。

 キャッチボールをしていて、後ろから飛んできたボールを振り向きもせずにキャッチしたときには驚いたがニュータイプならありえる。

 

 そういえば最近は投薬が無くなった。

 強化人間にされる可能性も考えていたが、違うのだろうか?

 

 

 さらに数年後、俺たちは士官学校の教本を渡されて士官教育を受けることになった。

 まだ身長が140cmにも満たないうちから何を習わせるつもりなのか? 狙いがわからない。

 俺たちのように普通じゃない環境で育てられた人間は士官に向いていないだろう。なら考えられるのは…わからん。

 戦場にでも送り込む気か?

 

 いつも監視がいるのでほとんど私語はしないが、少しは話をすることがある。だが、一人以外は習ったことしか知らないので会話が続かない。

 5thは少し違った。研究者たちの考えていることがなんとなくわかると言い、誰が誰を好きだとかあいつは嫉妬に狂っているなどと教えてくれた。

 もしかしたらニュータイプとしての力が高まっているのかも知れない。

 

 徐々に外見に変化が出始め、金髪がくすんだ色に変わったり、顔立ちにも性格が表れ始めた。

 俺は綺麗な金髪に青い瞳。少し目つきが悪いが美少年と言えるだろう。俺に良く似ているのは5thで、俺よりも目つきが鋭くシャープなイメージだ。

 

 

 士官教育が終ると、モビルスーツの訓練が始まった。

 研究所の地下に大きな格納庫があり、そこから宇宙に出られるようになっている。そこにはザクが4機並んでいて4人ずつ交代で乗り込み訓練するが、教官も同乗するために逃げたり暴れたりは出来ない。

 ある程度操縦を覚えると、摸擬弾での戦闘訓練も始まった。

 

 ここで不思議な出来事があった。後ろから銃口を向けられると、なんとなく感じる。

 タイミング次第では先に腕を後ろに向けてマシンガンを撃ったり、かわしたり出来る。俺もニュータイプなのか?

 5thは最初から出来ていて、次が俺。その後暫く経ってから何人かが出来るようになった。

 

 

 出来なかった12人はある日突然いなくなった。

 そしてそのうち6人は数日後帰ってきたが、前とは違う人間になっていた。

 8thは突然大声で叫び始めて研究員に何かを注射されて連れて行かれ、翌日戻ってくると何も覚えていない。

 11thは誰のことも覚えてなく、研究員の一人に「記憶を返して」と言い続けていた。

 17thは年配の研究員を父と呼び、おとなしく従っていた。など。

 

 彼らは戦闘訓練では今まで以上に強くなったが、良くて俺と互角程度で5thには勝てなかった。

 暫くその状態が続いていたが、彼らはまた突然いなくなってそれ以来会うことは無かった。

 …おそらく処分されたのかと思うが、同情している時間は無い。明日は我が身だ。

 

 

 数ヵ月後、今度はモビルアーマーでの訓練を始めると言われ地下へ向うとそこにはエルメスが待っていた。ナマで見るとデカイ!

 残っている8人で交代しながら操縦訓練をした。

 数日は操縦のみだったが、ついにビットの操作をさせられることになった。

 研究者らしい男が口頭で操縦方法を説明するが、そもそもニュータイプではない人間に説明できるものではないので意味不明だ。

 

 最初は5thから乗り込んだが、パイロットスーツのシールド越しに見えた表情は自信に満ち溢れていた。

 暫くして帰ってきた5thは教官の肩を借りて機体から降りてきたが、俺に向ってサムズアップをしてから運ばれていった。上手く行ったのだろうか?

 5thの次は俺の番。少し怖いが拒否すれば電気ショックか処分。やるしかない。

 

 コロニーから少し離れると教官から指示が出る。

 ビットの使い方にマニュアルは無いので、教官からはやれとしか言われない。

 サイコミュは脳波を読み取る装置なので、強くイメージを作る。

 精神を集中させビットの一つに体から伸ばした何かを接続するイメージを作ると、そのビットが体の一部に、手や足のような感覚を感じる。

 手を前に出すようにイメージをするとビットが動き出す。旋回、加速、急停止。人間では耐えられない急な動作もビットなら可能だ。

 ビームは出ないようにされていたが、射撃をイメージするとランプが点灯して発射したとわかる。

 徐々に動かすビットの数を増やしてみると、ビットが指先のように自在に動かせる。

 調子に乗って同時に何機動かせるかを試したら、6機目で頭がパンクした。

 

 

 目を開くと研究所のベッドの上で、全身に電極が付けられていた。

 何があっ……ああ、ビットか。

 感覚を8機目のビットに繋いだら、全身が化け物になったかのように膨れ上がって頭の中がこんがらがったのが最後の記憶だ。

 おかしなことに、ビットを動かし始めたときからモニターを見た記憶が無い。機体が身体になり、目で全周囲を見て指先を動かすようにビットを動かす感覚。

 

 思い出していると動機が激しくなり、冷や汗が吹き出る。気持ち悪い。

 腕に針の刺さる感触が

 

 

 今度は寝室のベッドで目を覚ました。

 周りのベッドを見回すと皆が眠っているが、自分を入れて4人しかいない。どこへ?

 俺に気が付いたのか、隣で眠っていると思った5thが目を開いて俺を見ていた。

 

「5番目に乗った1stがビットで自爆した。そして残っていた二人はどこかに連れて行かれたよ。あの二人は1stよりも力が弱かったから処分されるようだ。」

 

 なんで知っている? 俺は元の記憶から処分だと考えたが、5thはどうしてそう思った? 研究員が処分って言ったのを聞いたのか?

 

 いきなり5thが俺のベッドに乗ってきた。

 

「いきなりど」

 

「だって研究員がそう考えてたから。それより6thの記憶ってのに興味があるよ。あのモビルアーマーに…へえ、エルメスって言うのか。エルメスに乗ってから今まで以上に心が見えるようになったけど、6thの奥だけは全然見えない。教えてよ、僕に6thのことを。」

 

 完全に覚醒したのか!

 考えるな考えるな考えるな考えるな

 

「そんなに警戒しないでよ。僕はただ6thのことを知りたいだけだよ。」

 

「やめろ! 手を離せ! 顔を近づけるな!」

 

「おいおい、嫌わないでくれよ。僕はお前を知りた…チッ! 邪魔物が!」

 

 5thが俺からは離れてベッドに戻ると、数人の研究員と警備員が室内に入ってきた。

 

「静まれ! 元凶は誰だ! ぬっ、6thお前か。お前は研究室へ行け。」

 

 研究員の言葉に俺が手を上げると、期待通り部屋を移動させられた。正直助かった。

 しかし5thと顔を合わせると心を読まれる可能性が高い。対策を考えないと俺の正体が知られてしまう。

 もしも研究員に知られれば、俺はあらゆる手段を使って調べられるだろう。最悪マインドコントロールか自白剤を使われるかもしれない。

 この研究所がどこの組織に属しているのかわからないが、未来の知識を知られていい組織とは思えない。

 

 どうする?

 5thは俺たちの中で最も強いニュータイプ能力を持ち、戦闘能力、頭脳もトップだ。敵に回したくは無い。

 仲間になってもらえばいいのか?

 全て教えるから逃げるのに協力してくれと言えば手を貸してくれるのでは。5thならいいアイデアを思いつくかもしれない。

 エルメスが完成しているのなら、一年戦争はもうすぐ終るはず。平和になれば逃げるチャンスは減るだろうから、早めに動かなければ。

 心の中で話しかければ誰にも気付かれずに相談できるから、次に会ったときに相談しよう。

 

 思考を止めると、すぐに眠りに落ちた。

 

 


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