機動戦士ガンダム 転生者の介入記   作:ニクスキー

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第二話 慢心と絶望

「乗り込め。」

 

 翌朝、格納庫へ連れて来られた13thと19thと俺の三人は、繋げられたパイプを通ってザンジバル級へ乗せられた。教官や研究者も乗り込んできたので実験だろうか?

 パイプに入る瞬間、格納庫の端に5thと女…スーツ姿で金髪を背中まで伸ばした30代の女が隣に立っているのが見えた。今の女は? 見えた瞬間蛇に飲み込まれるような感覚を覚えた。何者なんだ?

 

 出航後にパイロットスーツに着替えさせられた俺たちは、ザンジバルの格納庫へ連れて来られた。

 格納庫にはエルメスとブラウ・ブロが並んで整備を受けていた。

 ブラウ・ブロは見た感じ問題無さそうだが、エルメスはコクピット付近に爆発の後があり、何人もの整備士が修理していた。

 

「13thと19thはブラウ・ブロ、二人はブラウ・ブロに乗り込み操縦を覚えろ。6thはエルメスに乗ってもらうが、エルメスの修理が終るまでシミュレーターだ。」

 

 教官の指示でシミュレーターに向う。シミュレーターではサイコミュが表現出来ていないので、メガ粒子砲が二門付いただけのモビルアーマーだ。スピードは速いが小回りが利かないので結構難しい。

 

 数日たったが、13thと19thは苦戦しているようだ。

 あの機体は一人が操縦、一人が有線メガ粒子砲塔の操作とコンビネーションが問われる。何年も一緒にいたからといって上手くいくとは限らないのだろう。

 二人ともかなり絞られていたらしく、話しかけても返事すら返してくれない。

 

 …そう言えば5thは話しかけると返してくれたな。

 5thはこの船には乗っていないのだろうか? 出航してからは一度も会ってない。せめて逃げたことを謝りたかった。

 

 

 休憩していると、突然艦内の雰囲気が変わり、格納庫へ集められた。

 

「本日、連邦によるア・バオア・クー攻略作戦が実行された。お前たちはこの戦場で実戦を経験する。各自、教官から作戦内容を聞いておけ。」

 

 …嘘だろ。

 予想はしていたけど、信じたくは無かった。人殺しなんてしたくない。

 今もしっかり腕輪が付いている。こいつを外せば逃げられるだろうか?

 俺が考えていると19thが逃げようとして床を蹴って廊下へ向ったが、途中で悲鳴を上げて壁に激突した。電気ショックからは逃げられない。

 こんな育てられ方をしても、戦場への嫌悪感はあるのだろう。

 

 ミノフスキー粒子の効果で、ある程度艦から距離が離れれば、リモコンでの電気ショックは食らわないはずだ。

 問題は教官が同乗した場合だ。運を天に任せるか。

 

 

 同乗されました。運がねえ。

 エルメスのコクピットは奥行きがあるので、パイロット用のシートの後ろに補助シートを取り付けて、そこに教官が座った。

 ん? …ララァの乗っていたシーンだと、後ろにスペースがあったのはパイロット用のシートが動いてGを吸収するためだったと記憶している。

 邪魔にならなければいいが。

 

 出撃準備はすぐに終わり、通信機からは出撃の許可が下りた。

 いやだ、死にたくない。殺したくない。でも行かなければ俺は処分されるだろう。

 行くしか…無いのか。

 

 一度目の生は事故死、二度目の生では人殺し。

 俺は何でこの世界に生まれてきたんだ? 人殺しになるためか?

 でも、死にたくない。

 やるしかない。やってやる。死ぬくらいなら、殺してでも生きてやる!

 

「エルメス、発進します。」

 

 機体を格納庫から宇宙へ出し、ビットを呼び出す。何とか動かせる4機を機体の周りに漂わせて出撃の準備が整った。整ってしまった。

 レーダーはすでに効果が無いのでモニターに映るア・バオア・クーの影と、戦闘の光を頼りに戦場へとエルメスを進める。

 13thと19thが乗ったブラウ・ブロは有線制御式メガ粒子砲塔が武器なので、遠距離向きではない。俺を追い越してア・バオア・クーへと進んでいく。

 俺は機体を停止させて、精神を集中させる。

 

 ビットと感覚を共有させて戦場へと向わせる。

 ボール3機とジム2機がリック・ドム3機と戦闘に入っている。

 リック・ドムのジャイアント・バズはジムにかわされ、ジムのビームスプレーガンはリック・ドムの装甲を削っていく。

 弾がなくなったのかリック・ドムは前進しながらジャイアント・バズを投げ捨て、背部ラックからヒート・サーベルを取り出したが接近する前に2機が破壊され、残る1機もヒート・サーベルを持つ右腕が破壊された。

 

 その時にやっとビットの攻撃範囲に入った。

 リック・ドムの目の前にいたジムに2機のビットからビームを放つと、狙い通りにコクピットを打ち抜いた。

 リック・ドム小隊全滅と言う勝利を確信していたジムとボールが驚いているうちに、残りの機体をビットで囲み打ち抜かせる。

 

 人を殺した。吐き気がする。

 皆こんなのを耐えて戦場にいるのか?

 逃げたい。だが死にたくない。やるしかないと自分に言い聞かせる。

 

 次は?

 吐き気で集中が途切れがちになるが、意識を集中させて近くの戦場を探す。

 突然、後ろから声をかけられた。

 

「何で戦場に行かんのだ! 黙って見ている気か!」

 

 こいつ! 護衛無しで前線に出る機体じゃねえんだぞ!

 ビットに集中していると機体は殆ど動かせねえのに何を考えてやがる!

 

「ビットに集中すると機体の操作が出来ませんが、それでも良いんですか?」

 

「口答えするな! それぐらい出来るんだろう、ニュータイプなら!」

 

 クソが! 俺がやられればてめえも死ぬとわからねえのか!

 だが、やるしかない。この場で攻撃を続けて生き残っても、こいつの報告次第ではどうなるかわからない。

 エルメスを発進させてア・バオア・クーへと接近させる。

 

 近付けば近付くほど、いやな予感が全身を駆け巡る。

 この戦場にはアムロがいるはずだ。もし気配を感じたら全力で逃げないと殺される。気を付けないと。

 

 戦場に近付くとジムやボールに襲われ、艦砲射撃からも身を守らねばならない。

 ビットを使うと周囲への警戒がおろそかになるので、時々使う程度に抑えてメガ粒子砲で敵機を撃つ。

 戦場にいればいるほど、命を奪えば奪うほど敵の攻撃が見える。いや、感じる。

 殺意を感じたら機体を向け、メガ粒子砲を発射する。それだけで敵が塵になる。ただそれの繰り返し。

 

 

 今の俺は、どんな攻撃もかわせるだろう。

 もしかしたら俺は天才パイロットなのかも知れない。

 

 

 敵機を探しながら移動していると、懐かしい気配を感じた。そこではブラウ・ブロがジム数機に囲まれながらも1機1機確実に破壊していた。

 

 次の瞬間、激しい頭痛と吐き気。

 そして俺に見えたのは、2本のビームがブラウ・ブロを貫通した光景。

 

「何事だ!」

 

 一瞬何があったかわからず呆然としたが、後ろから聞こえた声で我に返りモニターを見る。爆発するブラウ・ブロが目に入り、その奥から近付いてくる白いモビルスーツ。

 

 両足を限界まで踏み込み、エルメスを全速でUターンさせて逃げようとしたが、ビームが掠めてバーニアの一つが破壊されて速度が落ちる。

 とっさにビットを動かして迎撃、いや時間稼ぎをしようとしたがビットに指令を出した瞬間ビームライフルで打ち落とされる。

 

 逃げに徹しているのに徐々に近付いてくるガンダム。

 後ろから追いついてきたガンダムからバルカンが発射され、バーニアがさらに2機破壊され速度が落ちる。

 ガンダムはエルメスの頭上に回りながらビームライフルを俺に向けた。

 

 死んだ。

 二度目の人生は、楽しいことが一つもないまま死ぬのか。

 ずっと研究所の中で育ち、処分の恐怖に怯え、友達との楽しい会話も無く、恋もせず、名も無き人殺しとして死ぬのか。

 

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない

 

「止めてくれ! 死にたくない!」

 

 そう叫びビームが放たれるのを覚悟して目を瞑った。

 

〈子供! 何で子供が! 子供が戦場に出るなーー!〉

 

 頭に声が響き目を開くと、ガンダムの足が目の前に

 

 

「んっ…ここは?」

 

 気絶していたのか?

 頭を軽く振って意識をはっきりさせてモニターで周囲を確認すると、近くには敵も味方もいない。

 今はア・バオア・クーから離れるように飛んでいる、さっきガンダムに蹴り飛ばされた衝撃でだろう。

 

 機体のチェックをするとバーニアは6機中3機が故障し、メガ粒子砲は2門中1門が故障。ビットは途中から忘れていたが1機だけ近くにある。他にも機体がゆがみ速度を上げすぎると分解するとモニターに映し出された。

 どうしたもんか? と言っても、戦闘は無理だ。

 

「損傷が激しいので、戦闘は無理です。どうしますか?」

 

「…」

 

「どうしますか?」

 

 返事が無いので振り返って見ると、補助シートが壊れ教官は後ろの壁に張り付いていた。

 さっき蹴られたからか? シートベルトを外して教官に近付いて見ると、恐怖に目を見開いたままで固まっていた。

 気絶しているのかと思い、肩を揺さぶろうとしたらぐにゃりと嫌な感触。骨が砕けている。

 

 身体を触って見ると、硬いヘルメットで守られた頭部以外の骨が砕けていた。

 …死んでる。

 

「死んでんのか? 死んでんだな! ふっ、ふはっ、はははははっ! いよっしゃあ、ざまあみやがれ!」

 

 これで自由だ! 自由、自由だってよ!

 馬鹿げた研究所から出て自由に生きることが出来る。

 元の世界では当たり前だった自由がこんなにも嬉しいことだとは。

 さてとこれからどこに行こうかな? おっとその前に、研究所の連中に見つからないように戸籍とか手に入れないとな。

 

 まずはどう…し…?

 どうしよう。どうすればいいかわからない!

 

 俺はこの世界の戸籍も金も常識も無い。

 連邦に降伏したら…モルモット? アムロは有名人だから軟禁されたけど、俺は無名だから闇から闇へ消されるかもしれない。

 ジオンへ降伏したら研究所へ戻されるかも知れない。それが最悪パターンだ。

 単独で逃げようにもア・バオア・クーは陥落するし、コロニーの場所はわからない。

 母艦の位置も、勝手に後退しないように死んだ教官しか知らない。

 

 もしかして詰んでる? どうしよう?

 ふと目を上げるとア・バオア・クーの内部から炎と煙が噴出する。

 終るのか、戦争が。

 

 

 ん? 声…か。いや、脳に響く感じ。アムロじゃない、誰だ?

 

〈大佐を助けて上げて、あなたの力で。〉

 

 突然目の前にワンピース姿の少女が現れた。原作で見た覚えがある、ララァだ!

 

〈あなたはララァ?〉

 

〈そうよ。意識を集中して。感じるでしょう? 助けを求める声が。〉

 

〈…聞こえる。これは赤ん坊?〉

 

〈そうよ、大佐もそこにいるわ。〉

 

 そう言って彼女は消えた。

 

 原作だとシャアは生き残るはずだが、助けが欲しい状況なのか? 俺がいたから何か変わったとか?

 疑問は残るが、ララァに出会ったことでシャアに助けてもらえるかもしれない。

 …余計なことを知ったからと消される可能性もあるが。

 

 そう言えば、このタイミングでシャアは何をやっていたんだろう。原作ではシャアはこの後アクシズへ向うはずだが…赤ん坊! ミネバか?

 

 赤ん坊の声が聞こえた方向に意識を集中すると、誰かが戦っている気配を感じる。強い力だ。

 気配のする方向へエルメスを進めつつ、ビットを先行させる。

 もしミネバがここにいるのなら、ここから一緒に逃げるのだろうか? 便乗して乗せてもらえればアクシズへ逃げられる。流石にアクシズに逃げ込めば追っ手も来ないだろう。

 

 気配を近くに感じると、遠くにコムサイが見えてきた。あれか?

 なんだ、違う気配! マゼラン級が狙いをつけようとしている? 間に合うか!

 

 射程範囲外から威嚇射撃をするとビットが機銃で狙われるが、当たるものじゃない。

 威嚇射撃は効果が無かったらしく、マゼラン級の先端部に搭載されている2門の主砲が光る。だが発射される寸前に、ビットのビームが主砲を打ち抜いた。

 一瞬遅れてビームサーベルの刺さったままのジムがマゼラン級の艦橋にぶつかり、マゼラン級を道連れにして爆発した。

 

 姿は見えていないが、ある一点から目が離せない。あそこに誰かいるのだろうか?

 エルメスをその一点へと進めると、赤いゲルググが黙って浮いている。おや? なぜか動く気配が無い。手招きしているのが見えたので機体を近づけると、ゲルググは手をエルメスに触れさせた。

 

『動かしているのは誰だ? …いや、話は後にするか。バーニアが故障した、あそこに見えるグワジン級まで連れて行ってくれ。』

 

「了解しました。」

 

 エルメスのツノにゲルググが掴まったのを確認して、グワジン級へと向う。

 格納庫の扉が開き、ジオン兵の誘導にしたがって格納庫へ入るとワイヤーが飛んできてエルメスを床に固定した。

 モニターで見てみると、付いてきたビットとゲルググも同じように固定されていた。

 

 やっと、戦場から離れられる。

 大きく息を吐くと、緊張の糸が切れる。もう休みたい。

 


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