機動戦士ガンダム 転生者の介入記   作:ニクスキー

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第三話 決断

「ろ! …きろ!」

 

「へっ? ここは?」

 

「おお、起きたか。すごいうなされ方だったが大丈夫か?」

 

 目が覚めたら見知らぬおっさんにびんたをされていた。

 どうしてこうなった? 。…グワジンの格納庫に固定、そこで記憶が終ってる。

 周りを見渡そうとしたら体が固定されていて首から上しか動かない。ベッドの上で太いバンドで胸と腹、ついでに膝の辺りが押さえつけられている。

 白いカーテンで仕切られているので周りの状況がわからない。かすかに聞こえる音と振動はザンジバルよりも小さいが、おそらく戦艦の中だろう。

 

 ベッドの横には茶色い髪をオールバックにした50歳くらいの男性が立っている。白衣姿なので研究所に戻されたのかと思ったらデザインが違う、医者?

 それにあの研究所にいた研究員とは目つきが違い、俺を人として見ているようだ。

 何年ぶりだろうかモルモットじゃなく人間扱いされるのは。…そう言えば、俺はこの世界でも人間だったな。

 

「ここはグワジン級アサルムの医務室、私は艦医のアンガスだ。君は?」

 

 なるほど、今はグワジンの中か。

 名前はどうするか。6thと答えれば普通じゃない名前ゆえに詳しく聞かれそうだし、このなりで日本人名もどうか。

 それよりも、今俺が頼れる唯一の人物シャアに会うべきか。ララァの名前を出せば助けてくれるかもしれない。…ララァにはシャアを助けてと言われたので立場が逆だが、今は形振り構っている時じゃない。

 

「名乗る前に、シャア・アズナブル大佐はこの艦に乗っていますか? いるのならお話したいことがあるのですが。『彼女に会った』と伝えてもらえれば助かります。」

 

「む、訳有りか? わかった、伝えよう。」

 

 そう言うと、アンガス先生はカーテンの外へと出て行って、書類をまとめるような音が聞こえてからドアの開く音が聞こえた。部屋の外に出たのだろう。

 

 そう言えば、シャアと会えたとしてもどう説明すればいいだろう?

 エルメスに乗っていたから俺がニュータイプだとは信じてくれるはずなので、ララァと会ったと言う話も受け入れてくれると思う。

 シャアは原作を見た限り、例の組織とは付き合いはないだろうから話してもいいと思う。

 フラナガン機関が人体実験をしていたことを知っているかどうかはわからないが、そういったことに嫌悪感を持つのなら調べるのに協力してくれるかも知れない。

 組織に興味を持って俺を売る可能性も有るが、ララァ効果でそれは無いと信じよう。

 

 記憶ではシャアはこれからアクシズへ行き、ハマーンとけんかして出て行き、クワトロとしてエゥーゴ結成を手伝う。

 一緒に行けばアクシズ行きだが、あそこには俺的要注意人物のグレミーがいる可能性が高い。アクシズに例の組織がいることも考えられるので行きたくない気もするが、シャアが味方になってくれれば何とかなるかもしれない。

 

 …そう言えばシャアが俺に味方する理由が無い! ララァの名前を出しただけでそこまでしてくれるかは疑問だ。

 俺には価値はあるのだろうか? 多分ニュータイプのパイロット、謎の組織の生き証人、ララァと会った。…前世の記憶以外だとこんなもんか。

 微妙だな。アニメだとニュータイプは貴重だったがどうなんだろう? 高く買い取ってくれればいいけど。場合によっては記憶を少し話すのも手かな。

 

 そんなこんな考えながら待っているとドアの開く音が聞こえた。

 

「失礼する。」

 

 アンガス先生とは違う声だな~と思ったら、サングラスで目を隠した人物が入ってきた。

 シャア! アニメで見た赤い軍服と大佐のケープ姿のシャアが目の前に立っている。額には治りかけの傷があり、少し痛々しい。

 俺がシャアをじっと見ているのと同じく、シャアも俺をじっと見ている。いや、少し違う。シャアは眉をひそめ、かすかに震えているようにも見える。

 

「どうかしましたか?」

 

「っ! いや、なんでもない。それよりもマゼラン級への砲撃に感謝する、危なくコムサイを危険にさらすところだった。」

 

「いえ、私はララァに導かれただけです。」

 

「なんだとっ! 彼女に会ったのか!」

 

 シャアは急に声を荒げ、掴みかかるように身を乗り出した。ここまで彼女のことを思っているのか?

 俺は前の人生でも本気の恋愛をした経験がないからわからないが、愛とはこういったものなのだろうか。

 

 シャアにア・バオア・クーでの出来事を話したが、俺が最初からララァの名前を知っていたのは隠して、彼女が現れたときに自然とわかったと説明した。

 話を聞いたシャアは腕を組み、おそらく目を閉じて何かを考えているようだ。少し待っていると表情がかすかに緩むのが見えた。

 

「彼女に私を助けるように言われ今ここにいるということは、私を助けてくれると受け取ってもいいのかね?」

 

「はい、そのつもりです。ただ、特殊な生い立ちですので私が助けてもらうこともあるかも知れません。」

 

「特殊な? そう言えば君はエルメスに乗っていたな。あの機体はフラナガン機関で作られた物で、私の聞いた限りでは3機作られて全て破壊されたはずだ。そのあたりも聞かせてくれるのかね?」

 

 少し長くなると前置きをし、俺は自分の過去を話した。

 途中何度か聞きなおされたりもしながら今までの生活について話し終えた。

 聞きなおされたのは、外見の似た子供たち、士官教育、モビルスーツやモビルアーマーの訓練、マインドコントロールされた子供たち、目覚めた5th、白い悪魔、そしてララァ。

 特に後半の4つについては詳細に聞かれた。

 

「フラナガン機関が私に知られないように何かを研究していると噂では聞いていたが、もしかしたらマインドコントロールによるニュータイプへの覚醒についてだったのかも知れんな。…不快だな。私達を調べたデータを使い子供たちの心を操り、挙句の果てには処分とは。…もしや、ララァはこれを私に教えるために? そう言われれば思い当たることも…」

 

 シャアは途中から自問自答へ入ってしまった。

 今の口ぶりからすると、強化人間には否定的のようだ。逆シャアではギュネイを使っていたから、どこかで切っ掛けでもあるのだろうか?

 俺としては仲間たちも見てきたし、原作で出てきた強化人間たちの末路も知っているので強化人間は作らせたくない。今のシャアなら説得できないだろうか?

 

「シャア大佐、マインドコントロールのような手段でニュータイプを作る方法は禁止できないでしょうか? もう誰も仲間たちのような目には遭って欲しくありません。」

 

「そうだな、考えておこう。それと君についてだが、これからどうするつもりだ? この艦は今サイド3へ向っている、君が望むのなら安全な隠れ家を用意させるが。」

 

 強化人間を否定してくれるのなら、アクシズへ一緒に向って組織の人間を探すのも手だな。隠れ家に行ってもそのうち捕まるかもしれない。ならば虎穴に入るのも悪くない。

 …サイド3? そう言えば今は何日だろう? 確か1月1日にはジオン公国が降伏していたと思ったが、ア・バオア・クーは12月31日。終戦後だとジオン本国のサイド3はマズイのでは?

 原作通りなら問題なくアクシズへ向うのだろうが、俺の存在で何かが変わっていたらどうなるかわからない。リスクは減らすべきだ。

 指摘すれば何で知っていると突っ込まれそうだが、ニュータイプには予知能力がある人がいるとどこかで見た記憶があるから大丈夫だろう。

 

「そう言えば今は何日ですか?」

 

「1月2日だが、どうしたのかね?」

 

「ジオン公国がすでに降伏している光景が見えた気がします。ア・バオア・クーの戦闘後に。」

 

「むっ! それが本当ならサイド3へ向うのは危険だな。居場所がばれないように通信は控えていたが、確認する必要があるな。また後で話をしよう。」

 

 シャアは急ぎ足で医務室から出て行った。

 少し間を置いてアンガス先生が入ってきて拘束を外してくれた。

 

「シャア大佐が許可を出してくれた。暫く待たせておくように言われたから、大人しくしてるようにな。」

 

「はい。」

 

 ずっと拘束されていたので、体が少し痛い。首や腕からゆっくりと動かして、調子を確かめてみるが特に問題は無い。

 …あれ、手首が軽い? 手首を見ると、あの忌々しい腕輪が無い。

 

「先生、腕輪は! 腕輪はどうしました! 爆発しませんでしたか!」

 

「あれは電気ショックを与えるだけの物だったぞ。身体検査の前にスキャンして危険物か確認済みだ。…と言うか君のような子供に、あんなものをそう言って付けていたのか!。」

 

 俺の言葉にアンガス先生は怒りをあらわにし、顔を赤くしながらこぶしを握り締めた。なんて良い人なんだ。でも、アンガス先生は身長が高く筋肉質なので正直怖い。

 腕輪を含め、俺の身に付けていた物は全て保管されているらしいので調べてもらえないだろうか? もしかしたら組織について何かわかるかもしれない。後でシャアに頼んで見よう。

 この後、艦内についてなどを聞いているとドアの開く音が聞こえた。

 

「失礼します、先生いますか? シャア大佐の指示で例の子供を艦長室へ連れて行きます。」

 

「わかった、今連れて行くから少し待ってくれ。立ち上がれるかね?」

 

 先生の手を貸りてベッドの横に立ち上がると、体が重い。さっき今日は2日と言っていたので、2日間くらい眠っていたのだろう。だるくてもしょうがない。

 

 白い病衣に靴と不思議な格好だが、医務室や居住エリア以外は無重力なのでスリッパでは脱げてしまう。

 カーテンから出ると、中尉の軍服を着た体格のいい男性が立っていた。黒い短髪と太い眉毛が特徴的だ。

 

「お前がそうか?」

 

「はい、私がその子供です。案内よろしくお願いします。」

 

 その中尉の案内で艦長室を目指す。

 グワジンは大型艦なので移動に時間がかかる。その間特に会話もないので周りを見渡していると結構な数の軍人を見かけるが、皆落ち着いている。士気が高いのか、訓練が行き届いているのかだろう。

 元々グワジン級はザビ家に近しい軍人にしか与えられない艦のはずなので、それも影響しているのかもしれない。

 

 途中で無重力エリアに入る。壁についているレバーを掴むと、レバーが動いて身体を運んでくれるので楽チンだ。

 軍艦だけに少し複雑な通路を移動して、立ち止まった中尉が操作盤に到着を告げるとドアが開いた。

 靴の底を床に押し付けるようにすると軽く床にくっつくので、注意しながら歩いて部屋に入る。

 

 そこにはシャアともう一人、濃いクリーム色の軍服を着た軍人が椅子に座っていた。

 細面で軽くパーマが当てられた紫がかった黒髪は一度見たら忘れられない。…マ・クベ? 生きていたのか!

 アムロと一騎打ちして戦死した記憶があるのだが、この世界は少し違うのか? それだと俺の記憶が当てにならないのでまずい。

 

「マ・クベ大佐、シャア大佐、例の子供をお連れしました。」

 

 中尉が敬礼をしながらそう言ったので、俺も敬礼をした。

 

「ふむ、見た目はただの子供だが…シャア、間違いないのだな?」

 

「はっ、ジオン公国の降伏を予知しました。君、他には何か見ていないか? 参考程度でもいいのだが。」

 

 マ・クベが俺を観察しながらシャアに聞くと、今度は俺にも質問が来た。

 そっちは記憶の通りなのか? もしかしたら原作でもマ・クベは生きていて、この先フェードアウトか死亡するのだろうか。

 

 とりあえず他に話すことは? 次の大きな動きはデラーズだ。デラーズ紛争中にはコロニー落しも行われ、紛争後にはコロニーに対する弾圧が強まり、ティターンズが結成される。

 死者が多すぎる。それにティターンズは強化人間を作る、これは阻止したい。

 

 デラーズの蜂起を教えれば、二人はどう動くのだろう? シャアとマ・クベが戦闘継続を望むのなら、デラーズと合流すると思う。しないのならけん制に動くのだろうか?

 …そうか、この場合はどちらでも利がある。

 合流すれば勝てるかもしれない。虐殺上等のティターンズよりも、ジオンの統治のほうがまだマシだろう。どちらかといえば腐敗して無いとも思うし。

 それに、シャアが偉くなれば俺も発言権を得られる可能性がある。

 二人がけん制に動けば、核やコロニー落しが無くなり死者が減る可能性がある。

 よし、少しぼやかして話そう。細かく予知が出来ると思われると、危険人物として消される可能性がある。この二人はそれが出来る人たちだ。

 

「スキンヘッドにヒゲの軍人が蜂起し、敗北し、弾圧が強まるのが見えた気がします。ぼんやりでしたが。」

 

「…エギーユ・デラーズ、やつならやりかねんな。」

 

「知っておられるのですか?」

 

「うむ、ギレン総帥直属の親衛隊長だ。忠誠心の塊のような軍人でギレン総帥が死亡なされた今、総帥の遺志を継ごうとするのは想像に難くない。」

 

 マ・クベは知っていたようだが、シャアは知らなかったようだ。中央に近かったか遠かったかの差だろうか。

 マ・クベは顎に手をあて考え込みはじめ、シャアはそんなマ・クベの出方を伺っているようだ。二人とも大佐だが、先任のマ・クベが偉いのだろう。

 

「シャア、この少年はどうするつもりだ? 貴様が使わないのなら私が引き取ってもいい。」

 

「いえ、私には副官がおりませんので育てようかと思っていました。」

 

「そうか。さっき聞いた話だと研究所にいたのだろう? 軍服と部屋を与えてはどうだ? なんならウラガンに艦内の案内をさせてもいい。」

 

「それは助かります。ウラガン中尉、彼には少尉の軍服を与えてくれ。それと名前はどうするか…」

 

 急にマ・クベが俺を見て話を振ってきたので驚いたが、シャアが引き取ってくれることになったようだ。マ・クベと共に行くのも少し興味があるが、利用されまくりそうなのでこれでいい。

 今の話だと俺は研究所にいたことになっているらしいが、おそらくシャアが出入りしていたのでフラナガン機関関連だと言ったのであろう。

 いきなり少尉なのは、原作でララァも少尉だったので研究所上がりは少尉なのかな?

 

 名前はなんと言うべきか? 考えついたのは6繋がりでゼクス(ドイツ語で6)。Wのゼクス・マーキスとかぶるが、俺は6thなので見逃してもらおう。違う世界だし。

 

「ゼクスと呼んでください。」

 

「わかった。それではゼクス、ウラガン中尉に艦内の案内をしてもらいたまえ。」

 

 敬礼をして部屋の外に出ると、ウラガンが先導して更衣室に向った。

 顔までは記憶にないが、ウラガンはマ・クベの副官で壷を預けられたりしていたひとだったかな。彼も生き残っていたとは思わなかった。

 あまり子供の扱いは得意ではないらしく、時々振り返りはするが話しかけてはこない。

 

 更衣室で少尉の軍服に着換えてから艦内の案内をしてもらうが、軍艦なので複雑な構造になっていて覚えるのが大変だ。

 俺が何もわからないと伝えると、トイレやシャワーの使い方や食堂の使い方などを細かく教えてくれた。

 

 食堂の使い方を習うついでに、コーヒーを用意して椅子に座り一休みすることにした。

 さっき副官とか言われたが、副官の仕事がわからないので聞いてみようかな?

 

「ウラガン中尉、副官はどのようなことをするのですか?」

 

「副官か。一口には難しいが、俺の場合はマ・クベ大佐の雑務だな。大佐は作戦や戦略の立案をし、それを俺が各所に伝える。諜報部や各所からの連絡をまとめたり、大佐に繋ぐのも担当しているな。」

 

「なるほど、多岐にわたるのですね。私の場合はシャア大佐の補佐、責任重大ですね。」

 

「まあ、そんなに難しく考えることもないだろう。暫くは怒鳴られるのも仕事の内と思い、徐々に覚えていけばいいさ。」

 

「はい。」

 

 色々教わりながら移動していると、広い格納庫に出た。

 そこには赤いゲルググを始め、ゲルググ、リックドム、ザク、ギャン、エルメスなどが並んでいて、作業員が整備作業中だ。

 …ギャン? ギャンだ! 足元から見上げると結構かっこいい。ゲルググよりもスマートで動きがよさそう。それに接近戦は男のロマンだ。

 

「これはマ・クベ大佐のギャンだ。気に入ったのか?」

 

「ええ、かっこいいですし強そうですよね。」

 

 ウラガンは微妙にげんなりした表情になった。もしかしてマ・クベに何度も言われて聞き飽きてるのか?

 次にエルメスの前に来ると、片側のメガ粒子砲付近が凹んでいて足跡がついているのが見える。よく見ると全体の形もゆがんで見えるのでかなりの衝撃だったのだろう。

 …よく生きてたな俺。

 エルメスを見上げていると、整備兵の一人が駆け寄ってきた。ジオン軍のとは違うノーマルスーツを着た10代後半の女性で、ヘルメットから少し見える髪は明るい茶色、可愛い感じの女性だ。

 

「エルメスのパイロットの方ですか?」

 

「ええ、そうです。」

 

「シャア大佐から手を触れないように言われていますので核融合炉のチェックしかしていませんが、整備や修理はどうしますか?」

 

 どうすればいいんだろう? 使う機会があるかわからない上、ビットが1機しかないから役に立たない気がする。ばらして部品取りにでも回してもらおうかな?

 …何か忘れているような? そう言えば教官ってどうなった! まだ中にいるのか? 教官を調べれば組織に繋がる何かがあるかもしれない、シャアに言ってみよう。ならまだ手をつけないでもらいたいな。

 

「シャア大佐に確認しますので、もう少し待ってください。」

 

「そうですか、わかりました。」

 

 そう言うと、彼女は軽く会釈して違う機体の整備に向った。

 

「あのノーマルスーツはジオニック社の物だな。ア・バオア・クーから逃げる時に乗り込んだのか。」

 

「この艦の乗員ではないのですか?」

 

「ああ、元からの乗員以外にも乗り込んだ者も多い。元々の乗員は350人だが今は500人くらいだと言う事だ。」

 

 流石は大型戦艦。ウラガンの話だと、その人数でも1年以上の航行が出来る物資が搭載されているらしい。

 それだけの人数が乗り込んでも統制が取れるのか気になるが、マ・クベもシャアも並以上の軍人だから何とかするのだろう。

 

 格納庫の端では30人ほどのパイロットスーツやノーマルスーツを着た集団が、2台のシミュレーターを囲んで騒いでいた。

 覗きこんでみると、外に付けられたモニターではリックドムとゲルググがジャイアント・バズとビームライフルでの打ち合いをしていた。

 リックドムのパイロットのほうが腕が良いらしく、性能差を物ともせず互角に戦っているが徐々に間合いを詰めている。ある程度距離が近くなったところでリックドムはジャイアント・バズを投げ捨てながらビームをかわしてヒートサーベルを抜いた。

 あわててゲルググもビームナギナタを抜いて刀身を形成させるが、形成し終わる前にリックドムが投げつけたヒートサーベルがゲルググのコクピットを貫いた。

 ヒートサーベルはビームサーベルと違い手を離しても刀身があるから出来る芸当だ。少し角度が悪ければ折れてしまうので、熟練のパイロットだろうか?

 

「よっしゃ! デザートいただき!」

「俺のザクのワックスがけ頼んだぞ。」

「嘘だろ! くっそートイレ掃除かよ。」

 

 どうやら賭けをしていたらしく周りから歓声と悲鳴が聞こえた。

 そんな声の中シミュレーターから降りてきたのは、観衆の前でガッツポーズを決める男性と、悔しそうな女性。二人とも20代半ばに見える。

 

「まあ、部隊長として当然の結果だよな。」

 

「ちっ!」

 

 雰囲気的にいつもこんな感じの二人なのかもしれない。

 もうちょっと見ていたかったが、ウラガンに肩を叩かれたので次へ行くことにした。

 

 最後に案内されたのは俺用の部屋だ。一応士官なので小さいながらも個室だった。

 3畳程度の室内にはベッドとチェストがあり、壁には小さなクローゼットがある。トイレやシャワーは共用なのでいたってシンプルだ。

 このままアクシズへ向うことも考えると、数ヶ月はここで暮らすことになるだろう。私物がないので殺風景なのも我慢するしかない。

 

 

 艦内を回り始めて数時間、やっと見終わり艦長室へ戻った。

 話し合っていた二人の大佐は、いつも通りのポーカーフェイスで感情が読めない。どんな話をしたのだろう?

 俺たちが敬礼をすると、マ・クベが軽く手を上げて休んで良しと合図して立ち上がった。

 

「それではシャア、ミネバ様を頼むぞ。ウラガン、私たちはコムサイでグラナダへ向う。私はゼナ様に挨拶をしてくる、貴様は準備を。」

 

「はっ!」

 

「マ・クベ大佐もお気を付けて。」

 

 そう言うとマ・クベはウラガンを連れて退室した。

 二人を敬礼して見送った後、シャアに勧められて椅子に座った。

 

「マ・クベ大佐はグラナダで資源と戦力をまとめ、私はアクシズでミネバ様を守る。今後の連邦の動き次第では蜂起もありえるが、ザビ家が万全の準備をしてもジオンは敗北したのだ。軍事以外の道を模索することになるだろう。」

 

 良かった、平和的独立を目指すことにするんだな。

 …これってシャアの父、ジオン・ズム・ダイクンが目指していた方針だ。もしかしてシャアがマ・クベを誘導したのか?

 ちらりとシャアを見ると、かすかにニヤリとしたように見える。策士?

 

「君には副官になり私の補佐をしてもらおうと思っている。暫くは私も忙しいので、艦内で自由にしていてかまわない。時間を見て色々と教えよう。」

 

「はい、ありがとうございます。っとそう言えばエルメスについてですが。」

 

 教官についての話をすると、すでに遺体は運び出しているとのことだったが、調べるように指示を出してくれるらしい。

 機体そのものは分解して、部品取りやサイコミュ装置の研究に使うことにした。サイコミュ関係で呼び出されるかもしれないらしいが、それくらいならかまわない。

 そう言えばキュベレイが出来るのはまだまだ先のはずだが、エルメスのサイコミュを持って行けば開発が早まったりしないかな?

 

「今日は疲れただろう? もう休んでかまわない。」

 

「はっ! 失礼します。」

 

 流石に色々ありすぎて疲れたので部屋に戻って休もう。

 まっすぐ部屋に向って軍服を脱いでベッドにもぐりこむ。

 

 横になって腕を見る。そこには腕が見える、腕輪の無い。

 自由、今まで渇望していた自由が手に入った。アクシズへ向う艦の中ではあるが、シャアの副官と少尉の地位、そこそこ自由に動ける立場。まさに望んでいたものを手に入れた。

 

 アクシズへ着いたらグレミー関連をはじめやることが一杯あるが、それも全て自分の意思。自分で選んだ道を自分で歩む、元の世界では当たり前だったものを手に入れるのがこんなにも難しいことだとは。

 この世界に生まれて何年かわからないが、やっと手に入れたこの自由。もう手放さない。どうやっても!

 

 そう考えた瞬間、俺が撃ったジムとボールが見えた。

 

 ギリギリでトイレに間に合い、胃の中のものを全て戻した。

 

 今朝うなされていたのはこれか!

 そうか、俺は人殺しだ。自分が生き残りたいために人を殺した。しかも途中からは生きるためにではなく自分の能力に酔っていた。

 

 目にチラつくジムやボールから悲鳴が聞こえる。

 

 俺は何をやっている! この戦争で狂った世界でなら人を殺しても許されるとでも思っていたのか?

 戦闘に出るまでの俺は人殺しも辞さずと考えていた。どうしてそう思った?

 モルモット扱いされた腹いせか! 生きるためならしょうがないと言う諦めか?

 

 …最悪の気分だ。気付かない内にこの世界の人間になっていたのか俺は? 戦争なら何をやっても良いなんてことがあるはずないのに。

 俺は平和な日本で生まれ育ち人を傷つけてはいけないと習ってきたのに、その半分の時間も生きていないこの世界に染められたのか。

 何で俺は記憶を持って生まれてきたんだ。記憶が無ければ何とも思わなかっただろうに。

 

 

 …何とも?

 何も思わなければどうなっていた? 記憶の無い俺はあの時アムロに殺され、研究所のことは誰にも知られなかっただろう。

 おそらく原作通りにグリプス戦役やネオ・ジオン抗争で大量の死者が出て、それでも世界は変わらない。

 F91やVガンダムの時代になっても戦争は終らない。

 

 俺に記憶があることに意味があるのなら、未来を知っていることに意味があるのなら、

 

 未来を変える。

 

 記憶を使って未来を変えることが俺の存在意義なのか?

 なんで俺なんだ? 元はただの一般市民だぞ! 軍人でもなければ学者でもない。政治家でもないし団体や組織のトップに立ったことも無い。

 俺には荷が重過ぎる。何で俺が、何で俺じゃなきゃいけないんだ!

 

 

 …でも今の俺には戦う力がある。それを利用できる記憶がある。

 今、全てを捨てて逃げたら一生逃げ続けることになる。

 逃げ続ける人生に意味があるのか! そんなのごめんだ。

 人を殺すのはイヤだ。だが逃げたくは無い。

 

 

 もうこの手は血に汚れてる。人殺しの手だ。

 どれだけ洗っても血は落ちない。なら、汚れても良い。

 どれだけ汚れても同じだ。

 

 俺が介入することで血に汚れる人が減るのなら血にまみれよう。

 助けられる命があるのなら助けよう。

 俺のような人生を背負わされた子供たちを助けよう。

 

 俺に出来るあらゆる手段で未来を変えてやる!


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