機動戦士ガンダム 転生者の介入記   作:ニクスキー

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 アクシズ到着まではかなり端折らせていただきます。

 2月1日 モニカの名前をカルラに変更しました。
 2月15日 マレーネの髪の色をピンクからライトブラウンに変更しました。


第四話 アクシズへ

 空腹で目が覚めた。覚悟を決めた翌日にこれは締まらない。

 時計を見ると、少し寝過ごしてしまったらしく遅い時間になってしまった。

 

 シャワーを浴びて食堂へ向うと、人が少ない割にやけに騒がしい。とりあえずトレーに食事を受け取り席に適当な席に座った。

 近くの席から聞こえる会話は、アクシズへ向うことを告げられた件だ。各部署毎に話があったようだが、そんなに問題は起きて無さそうだ。

 おそらく、ミネバ様の生存と行き先を知られないようにどこにも寄らないのだろう。軍人以外は降ろせと言い出しそうだが、そこはシャアが上手く説得するのだろう。

 

 今日のメニューはクラッカーとマーマレード、ローストビーフ数切れと暖かいスープ、野菜数品とコーヒー。俺はパイロットとしても登録してあるので大盛りだ。

 見た目は給食っぽいが、かなり美味。

 元の世界の味を思い出せなくなって何年経つだろう? 食事ってこんなに美味しかったんだな。そう言えばこの世界では一度も美味しいと思って食事をしたことがなかった。

 

「おう、坊主。俺達と同じ量ってことはパイロットか? 俺は、ってお前なんで泣いてんだよ!」

 

 肩を軽く叩かれて振り向くと、中尉の軍服を着た兵士がトレーを持ったまま驚いた顔をしていた。

 ……美味過ぎて涙を浮かべていたようだ。指で拭ってから改めて見ると、昨日シミュレーターから降りてきたパイロット。

 

「あまりに美味しかったもので。」

 

「いや、確かにグワジン級は他の艦よりも良いもん食ってるが泣くほどか?」

 

「おいマーク、子供を泣かすな。相変わらずパイロットの腕以外は最低だな。」

 

「ちょ、おま!」

 

 女性にしては低めの声が聞こえ、マークと呼ばれた兵士の後ろからトレーを持って現れたのは昨日の女性パイロット。

 改めて見ると、マークはダークブラウンの髪を無造作に伸ばしたイタリア系の彫の深い顔立ちで、190cm近い身長に均整の取れた体つき。

 後ろから来た女性はダークブラウンの髪を背中あたりまで伸ばしていて、少しきつめの目をした美人さんで、少し冷たい印象を感じさせる。身長は170cm強でスラリとしたモデル体系だ。

 どこか似た雰囲気を感じる二人だ。付き合いが長いのかもしれない。

 

 二人は軽口を叩きながらマークが俺の正面に、女性が俺の隣に座った。

 どういう状況? さっき言いかけたのは自己紹介っぽかったので、見かけないパイロットの俺と話そうとしたのだろう。

 俺としても出来るだけ多くの人と仲良くなりたいので望むところだ。シミュレーターの相手にもなってもらいたいし、その先も仲良くしていきたい。

 

「始めまして、私はゼクスと言います。シャア大佐の副官見習いとして勉強中ですので、よろしくお願いします。」

 

 俺が二人に頭を下げると、予想外の内容が混じっていたらしく驚いた表情をした。……まあ、シャアの副官って言うのは驚かれるよな。

 

「聞きたい事だらけだが、まず自己紹介だな。俺はマーク・マスカーニ、このアサルムのモビルスーツ隊隊長で中尉だ。よろしく頼む。」

 

 マークが手を差し出したので握手をする。20代半ばに見えるがこの歳で部隊長ならかなりの出世なのでは? もしかしたらエースかも知れない。

 手を離すと隣から軽く咳払いが聞こえたので身体を横に向ける。

 

「私はカルラ・マスカーニ、副隊長で中尉だ。このマークとは残念なことに双子でな、いつも苦労させられている。ゼクス、コイツの言うことは話半分に聞いてあまり関わらないことだ。」

 

「ちょっと待て! いつも苦労してんのは俺だろう? 告ってきたやつらをちぎっては投げちぎっては投げ、何人に俺が愚痴られたり八つ当たりされたと!」

 

「そうか? その点私は楽だったな。お前は告白されたことがないからな。プッ、ククク。」

 

「うっさいわい!」

 

 肩をすくめるカルラと、オーバーリアクションなマーク。二人の掛け合いに思わず吹き出してしまうと二人は表情を緩めた。

 どうやら気を使わせてしまったようだ。人前で涙を浮かべるのは利用出来る時だけにしないと。まあ、今回は二人の性格と関係が少し掴めたからよしとしよう。

 そう言えば軽口を聞くのもいつ以来だろう? 元の世界の友人らは元気でいんのかな。ユニコーン一緒に見たかったなぁ。

 

「なあゼクス、パイロットも兼任するなら腕を見せてくれよ。時間が有るならシミュレーターに付き合わないか?」

 

「はい、喜んで。艦に馴れるまでは自由に行動して良いと言われていますので、お付き合いさせていただきます。」

 

 言い出そうと思っていたことを言われたので運がいい。

 この艦で一番……はシャアだろうから、二番目くらいに強い人とどれだけ戦えるか興味がある。

 俺は研究所の仲間たちとの訓練とエルメスでの実戦しか知らないので、自分がどの程度の腕かを確かめてみたい。研究所では5thにしか負けなかったからそこそこの腕はあると思うが。

 

 

 格納庫に入り周りを見渡すと、シャア専用ゲルググ、ギャン、ゲルググ2機、リックドム2機が並んでいる。

 昨日2機有ったザクが無くなり、ギャンが残っていた。何でギャンが? マ・クベは持っていかなかったのか?

 俺がギャンを見上げていると、マークが俺の肩を掴んでシミュレーターの方へと押した。

 

「ギャンはマ・クベ大佐が置いてったぞ。何でも目立つから置いてった、って話だ。」

 

 確かにギャンを知っている人が見れば一発でマ・クベだって気付くか。

 しかし、キシリアに貰った機体を置いていくとは思わなかった。心境の変化でも有ったのかな? 後でシャアに聞いてみよう。いや、下手に聞くと何で知ってるって突っ込まれるか。

 

 

 シミュレーターで二人と対戦すると、話をしていた時の印象と逆のスタイルだった。

 マークは相手の動きから癖を読み、次の手を予想して攻撃する。詰め将棋のように相手を追い込んでくる。

 カルラは勘で攻撃をしてくるので予想しにくい。機動もランダムなので攻撃も当たりにくい。

 思い出してみると昨日見た二人の戦闘で、マークはカルラの動きを止めるように砲撃していた。あれはカルラ攻略法だったのだろう。

 試してみたら勝てたが、カルラに睨まれた。

 

 だんだん楽しくなってきて、気が付いたら昼になっていた。

 勝率はマークには2勝7敗、カルラには5勝6敗。カルラには勝ち越していたが、途中から連戦を挑まれて連敗した。

 それを見てマークが「大人げねえ。」と言って睨まれていた。

 

 シミュレーターではニュータイプ能力が効かないので、純粋なパイロットとしての能力でこの結果だ。

 艦内のパイロットではこの二人がトップらしいので、俺は今のところ2位タイ。シャアは間違いなく1位だろうから、入れれば一つ下がるだろう。

 アクシズへ着くまで訓練を重ねて1位を目指そう。今後戦場に出るならそれくらいの覚悟で訓練をしないとすぐに戦死するだろう。

 

 

 昼食も三人で席について食べることになった。

 さっきまでのシミュレーターの話をし始めると、二人に俺が異常だと突っ込まれた。

 

「お前の反応速度は異常だな!」

 

「私もそう思った。外で見ていると、相手の動きを見てから反応するまでのタイムラグがほぼ無かった。反射と言ってもいいような速度だったな。」

 

「そうですか? 自分ではよくわかりません。」

 

 考えたことはなかったがどうなのだろうか。

 子供だからか、小さいころから訓練させられていたからだろう。

 その後、シミュレーターでの戦い方の助言をもらいながら食事をした。

 

 午後はモビルスーツのパイロットたちに紹介してもらい、訓練に参加させてもらった。

 パイロットはマークたちを入れて8人。カルラ以外は男で、20歳前後と若いが実戦経験があるらしい。

 機体の数が少ないのは、故障や損壊でア・バオア・クーに戻りこの艦に乗り込んだパイロットもいるからだ。

 彼らに混じりトレーニングルームでランニングや筋トレ、格闘訓練などに汗を流す。

 自室以外は無重力の場所が多いので、トレーニングをサボると筋力が落ちてしまう。それも踏まえ、かなりハードなトレーニングを行う。

 

 約3時間休み無く身体を動かしていると流石に疲れる。数人はへたり込んでいるのでかなりハードだったのだろう。

 そこまで疲れていない俺を見てマークが呆れ顔で近付いてきた。

 

「すげえな、いつもよりも厳しくしたんだが効いてねえのか。どんな訓練をしてきたんだよ?」

 

「そんなに変わりませんよ。毎日続けていたら馴れただけです。」

 

「これを毎日は無理だろ。」

 

 マークは信じられないと言いたげな表情を見せるが、強制的にやらされていたのでしょうがない。

 今まで比べる相手が仲間たちしかいなかったので気付かなかったが、俺の身体には何かあるのか? 実は俺がいたコロニーは重力が倍だったとか。

 それか、小さいころに飲まされていた薬に何か関係があるのだろうか。

 今は情報が少ないので答えが出ない、調べてもらっている教官やエルメスから何か情報が出ればいいが。

 

 

 夜、シャアに呼び出されたので艦長室へ向った。

 シャアは手に持った書類に目を落としていたが、前に立つとその中の一枚を俺に差し出した。

 そこには教官の写真や身体的特徴、血液などのデータが載っていた。

 

「例の男だが、身体的特徴からスペースノイドであるのは間違いないが、ジオン公国の人間ではない。」

 

 シャアの説明では、グワジンには公国民の戸籍データが存在するがその中には見当たらなかったらしい。なので公国以外のコロニーか月の人間だと思われる。

 とはいえサイド3のマハルのように戸籍の無い貧困層コロニーも存在するのでなんとも言えない。

 

 エルメスの中に有ったデータについても調べられて資料に書かれていた。

 こっちにも所属に関するデータは無く、この機体が実験中の暴走で爆破されたはずの1号機であるとわかっただけだった。

 そこまでの期待はしていなかったが、何の情報も無しとは。これでアクシズに到着するまでに組織について調べられることはなくなってしまった。

 しょうがないので、今はあまり考えずにスキルアップを目指そう。

 

 エルメスは分解し、サイコミュなどの装置や素材などは研究や資材として使われることになった。

 機動、操縦データや映像も吸い上げられた。研究、解析に使う予定だったがおかしな点が発見されたらしい。

 

「このデータを見てくれ。ガンダムに蹴られた瞬間のGは普通の人間には耐えられないものだ。」

 

 資料を読むと確かに凄いことになっている。

 耐G能力は個人差があるが、人間の限界以上のGがかかっていた。気絶だけで済む問題ではなかったらしい。

 

「次はこれを。君が気絶している間に行われた検査の結果だ。」

 

 次に渡された資料はCTスキャンなどの検査結果について。俺が気絶していたときに検査をしていたらしい。

 分かりやすくまとめられた資料には俺の身体の異常さについて書かれていた。

 肉体強度が高められ、心臓の機能を補佐すると思われる器官が存在し、神経にも異常が見られる。

 デザイナーベビーの可能性が高く、精密検査が必要と書かれている。

 

 ……いや、少しは予想していたがここまでとは。

 ここまでいじられても人間と呼べるのか? いや、強化人間か。

 確かプルたちも同じような状態だったような記憶がある。身体を勝手にいじられ、刷り込みで心まで自由を奪われる運命なんて許せない。

 アクシズに到着したら最優先で探そう。発見したら関係者をみなご……いや、シャアに頼んで保護してもらおう。

 

 それにしても便利な身体だ。

 今のところ不自由は感じていないから、パイロットとして使う分には戦力になりそうだ。大量生産すれば脅威的だろう。

 いや、何でされていないんだ? プルツーがもう少し大きくなれば兵士として使えると思うのだが。

 ……デメリットが有るのか? 製造コストか? 資料には特に書かれていない。

 

「シャア大佐、デメリットや欠陥が書かれていませんが無かったのですか?」

 

「私も気になって聞いてみたが、先生はわからないと言っていた。前例の有無は不明だが、このような非人道的な行いは記録に残されていない。この先身体にどのような影響があるのかも不明、病気などへの対応も不明だそうだ。」

 

 それがわからないほどに人間離れしているのか。

 生み出すのにも育てるのにもコストや時間が必要で、かつ先も予想出来ないとなれば大量に作られないのも理解できる。

 ばれれば人道上の問題もあるだろうし。

 

 そう考えると俺たちを作ったのはやはりギレンか?

 どこかで見たグレミーがギレンの(ニュータイプの女性の遺伝子を使った人工授精での)子と言う説の信憑性が高くなった。

 なら5thがグレミーになるのか? 性格も顔立ちも違ったが、それはマインドコントロールや整形でなんとでもなる。

 5thとはアクシズで会えるのかもしれない。願わくばマインドコントロール前であることを祈る。

 

 次に渡された資料には、エルメスのデータから解析した戦果についてだった。

 ジム8機、ボール10機。

 俺が18人の人間を殺したという記録だ。昨日の夜の吐き気に襲われるが、歯を食いしばり耐える。もう迷わないと決めた以上、なんとか乗り越えなければならない。

 

「初陣後はそんなものだ。乗り越えられなければ、次は自分が死ぬぞ。」

 

「はっ、心します。」

 

 どうやら顔に出ていたらしい。

 馴れたくは無いが、何時かなんとも思わなくなるのだろうか? それも怖い。

 

 この後、前歴を聞かれたらどうするかについて話した。

 キシリア管轄のニュータイプ研究所で育てられていて、ア・バオア・クーでシャアの部下として初の実戦に出たということにした。

 フラナガン機関の名前はメジャーではないのでこれでいいだろう。エルメスの開発もフラナガン機関なので、知っている人でも違和感を感じないはずだ。

 

 アニメでは自分でニュータイプと名乗っているパイロットはいなかったと思うが、俺は公表して行こうかな?

 シャアの庇護下にいれば下手に手を出せる人間はいないだろうし、ニュータイプの名はジオン軍では腕のいいパイロットの代名詞。実力をつければ成り上がるのに利用できるだろう。

 

 

 

 

 数日後

 

 整備班から呼び出され、パイロットスーツを着て格納庫へ向った。

 格納庫の中ではエルメスの外装が外され、分解されたパーツが綺麗に並べられていた。

 近くに寄って見ると、パーツには番号が振られて写真やメモもある。機械をばらす時の基本だが、さすがプロの仕事だけあってわかりやすい。

 俺がパーツを眺めていると、ファイルを持った整備士がこちらに歩いてきた。前に話しかけてきた女性だ。

 

「ゼクス少尉、私はティナといいます。今日の実験で補佐をさせていただきますので、よろしくお願いします。」

 

 そう言うと俺をコクピットへ案内した。前に使った入り口は分解中なので、外装を外した場所から潜り込むように中に入った。

 俺を誘導するために先に潜り込んだティナの後ろから機械の間を潜り抜けていく。……どうでもいいが、女性用のノーマルスーツは身体のラインが出すぎなのでは?

 

 彼女の説明では、今は外装を主に分解中で、核融合炉やサイコミュシステムはそのままらしい。

 今日はビットを操作するとどういう原理で動くのかを調べるために、俺が呼ばれたとのこと。サイコミュシステムはあまり知られていないので、整備士たちも興味津々だそうだ。

 俺がシートに座り、彼女はシートの脇に立った。

 

「まずモニターを起動して、通信機を外部と繋いでください。」

 

 言われた通りに操作するとティナが何かをせっせとメモり始めた。まだ何もしていないのだが。聞いてみると、俺の操作を全て記録するように言われているらしい。

 エルメスはジオニック社やツィマッド社の物と操作方法が違い、誰にも動かせなかったので研究資料になると言われた。

 

「次は私の言った通りに機動させて下さい。操作系とバーニアの動きの確認をします。推進剤は抜いてあります。」

 

 右へ左へ、上へ下へとゆっくりとレバーとペダルを操作する。

 モニターで見る機体の周りでは、整備士たちが走り回り何人かが記録を取っている。何人かはティナのようにジオン軍以外のノーマルスーツなので、彼女以外にも軍人以外の人がいるようだ。

 この研究が上手く行けば、サイコミュが進歩してアクシズの技術力が上がるだろう。ついでにモビルアーマーの研究も進めばノイエジールがさらに強くなるかもしれない。

 

 ……だめじゃん。デラーズ・フリートが強くなったら不都合だらけだ! いや待てよ、シャアもマ・クベも反戦派だからデラーズ・フリートには武器は渡らないはずだ。

 でも原作では渡っていた。アクシズ内に誰か協力者がいるのか? デラーズ・フリートの協力者探しにプルシリーズ探し。到着したら大忙しだな。

 

 それから暫く操作を続けていると、昼食の時間になった。

 一人で食べるのも味気ないので、ティナを誘い着換えて食堂へ向った。

 軍服に着換えたティナは、ライトブラウンの髪をショートにしていて、幼さを残した顔立ちも合わせて子供っぽく見える。結構胸が大きいので部分的には大人だ。

 

 

「なるほど、モビルスーツ好きが高じてメカニックに。」

 

「と言っても研修中にア・バオア・クーに送られたので、お手伝いくらいしか出来ませんけどね。」

 

 ティナは少し照れながら、この艦に乗ることになった経緯を話してくれた。

 父がジオニック社に勤めていた影響でモビルスーツが好きになり、入社直後に研修も終らぬうちに前線送りになり、ア・バオア・クー内のドックでモビルスーツの整備をしていたそうだ。

 ガンダムの接近で持ち場から逃げ出すことになり、近くにあったのがこの艦だったらしい。逃げ切れたのは運が良かったのかも知れない。

 

「その時に出撃したパイロットの方が、私のために命を懸けさせて欲しいと言って出撃して……それっきり。」

 

 余計なことを聞いてしまったらしく、ティナは今にも泣きそうな表情だ。

 ガンダムの前に出てしまったのならおそらく助からなかっただろう。しかし俺のようなことも……無いか。

 

「すいません、余計なことを聞いてしまいましたね。しかし、そのパイロットは勇敢ですね。私は対面した瞬間恐怖で我を失いかけました。」

 

「そうだったんですか! よく無事でしたね。」

 

「いや見逃されました。ビットとバーニアを破壊され、最後は蹴り飛ばされました。」

 

「ええっ、本当ですか! あ、あの私これで失礼します。急いで知らせないと!」

 

 そう言い、大慌てで食事を終えて走っていった。そして躓いてトレーをぶん投げて謝っている。

 一体何が? 出来れば逃げたことは人に話さないで欲しいのだが。敵前逃亡で処罰されるかもしれないし。

 

 食事を終え再び着換えて格納庫へ入ると、大勢の整備士たちがエルメスの装甲に張り付いて何かをしていた。

 近付いて見ると、ペンチを使ったりハンマーとタガネで表面を削ったりしていた。

 ティナを発見したので聞いてみると、

 

「エルメスの外装に金属が付着しているのはわかっていたんですけど、解析に時間がかかりそうなので後回しにしていたんです。でもガンダムのものなら話は別です。すぐに解析に取り掛かり、あの装甲の強さの秘密を調べます!」

 

 彼女は興奮した様子で一気にしゃべり、再び作業に戻ってしまった。

 ……俺はどうすれば? 何人かの作業員に声をかけたが、後でと言われ相手にしてもらえなかった。

 しょうがないので格納庫から出て艦内の探索をすることにした。

 これでガンダムの装甲の解析が進むと思えば、無視されたのも気にすることではないだろう。

 そうだ気にすることじゃない。

 

 

 

 

 ア・バオア・クーを出発して約1ヶ月。

 艦内の仕事も徐々に覚え、ブリッジ内の仕事も一通り出来るようになり、機銃など武装の使い方や格納庫の操作も大体覚えた。

 最近ではシャアも手が空くようになってきたので、指揮官についても習い始めた。

 

「……なるほど、こうして話を聞くと教本とは全く違いますね。」

 

「それはそうだ。私は教本通りに作戦を実行したことなどほとんど無い。基本は覚えておくべきだが、敵もまた覚えている。裏をかくことだ。」

 

「はっ!」

 

 今日の講習を終えコーヒーを飲みながら一息ついていると、シャアが何かを思いついたように顎に手を当てた。

 

「そう言えば、ゼクスはまだミネバ様とゼナ様にお目通りしていなかったな。紹介しておくか。」

 

 これから挨拶に行く予定だったらしく、ついでに副官として紹介してくれるそうだ。

 彼女たちは居住区の一角で侍女に囲まれて暮らしていて、外に出てくることはめったに無い。

 詳しい話は殆ど聞こえてこないが、ゼナは夫ドズル・ザビの戦死後臥せっているらしい。体調が心配だが、時間が解決してくれるのを待つしかないだろう。

 

 ザビ家唯一の生き残りミネバが生まれたばかりなので、産んだ彼女の発言力は大きい。

 彼女がシャアとマ・クベの勢力下にいる以上、この二人に逆らうのはザビ家への反逆行為。ミネバがシャアと共にいることを公表すれば手っ取り早い。

 だが公表すれば連邦に捕まり処刑……とまでは行かなくとも、軟禁くらいはされるかもしれない。

 この辺は戦後交渉次第だ。詳しい内容は覚えていないが、ミネバは追われなかったと思うので、そうなれば公表できるだろう。そうなればこっちのものだ。

 

 戦艦の中にしては豪華に飾られた廊下、そして扉。この艦がザビ家とその取り巻きにしか与えられていないのは伊達じゃないようだ。

 扉の前は兵士が数人で警備していて、シャアに気付くと道を開け敬礼した。

 

「シャア・アズナブル、ご挨拶に来ました。」

 

 扉の前でシャアが名乗ると、ゆっくりも扉が開き、一人の侍女が出てきた。

 金髪をアップにした女性で、どこかで見覚えがある気がする。

 

「シャア大佐、こちらの少年は?」

 

「私の副官になったゼクス少尉だ、ゼナ様に紹介しようと思ってな。」

 

「そうでしたか。それではどうぞ。」

 

 シャアは何度も会っているからか親しげだ。

 部屋の中はロビーのようになっていて、侍女が数人で出迎えた。

 彼女たちは皆、落ち着いた色合いで露出の殆ど無いドレスに身を包んでいる。侍女服とでも言うのだろうか?

 最初に出てきた侍女の案内で奥の扉の前まで行くと、彼女だけ中に入り少し待つように言われた。おそらくシャアが来たことを伝えているのだろう。

 

 案内されて中へと入ると、落ち着いた調度品の並んだ部屋だった。

 部屋の真ん中にはテーブルがあって、その周りに椅子が4脚並び、横向きの椅子に少しやつれた女性が座っている。その女性は金髪を後ろでまとめ、ゆったりとしたドレスを身にまとっている。彼女がゼナか?

 脇にはベビーベッドがあり、赤ん坊が眠っている。この子がミネバだろう。

 一歩後ろに侍女が一人立っている。その女性は人懐っこい笑顔を見せていて、ライトブラウンの長い髪を後ろで結っている。着ている服は他の侍女よりもいい生地を使っているように見える。

 

 シャアはゼナの元に向かい、軽く頭を下げる。

 

「ご機嫌は如何でしょうかゼナ様?」

 

「あなた方のおかげで不自由無く過ごさせてもらっていますわ、シャア大佐。」

 

 ゼナは笑顔を見せるが、その笑顔は弱々しい。アクシズまで持つのだろうか? 俺の記憶にはアクシズの情報がほとんどないので当てにすることが出来ない。

 

「ゼクス、こちらへ。」

 

「はっ!」

 

 声をかけられ、シャアの隣に行き頭を下げる。

 

「ゼナ様、この者は私の副官として教育中のゼクス少尉です。私が所用で来られない時には代理を頼むこともあると思います。」

 

「ゼクスと申します。お目にかかれて光栄です。まだまだ勉強中の身ではありますが、よろしくお願いします。」

 

 急にシャアに視線を送られたので驚いたが、可もなく不可もない挨拶が出来た。

 頭を上げるとゼナは俺の顔をじっと見つめている。なにか問題でもあったのだろうか?

 

「シャア大佐、ゼクス少尉は大佐に似ていませんか?」

 

「そうでしょうか? 気が付きませんでした。」

 

 そうなのだろうか? 自分では似ているとは思わなかったが。

 

「それにしても若いですね。……マレーネ、あなたの妹と同じくらいではないですか?」

 

「はい、そう見えますね。ゼクス少尉、私はゼナ様の侍女のマレーネと言います。あなたの歳を聞いてもいいかしら?」

 

 どうしたもんか? 正直に年齢不明と答えるのも正規の軍人としてどうかと思う。

 困ったのでちらりとシャアに目配せをすると、かすかに頷いた。

 

「ゼクスは施設で育ち私が引き取ったので、年齢がはっきりとしません。今は軍に所属していますので15歳と登録していますが、それ以下かも知れません。」

 

「「まあ!」」

 

 二人は手を口に当てて驚いた。

 新しい設定に驚いたが、俺まで驚いたらおかしいので表情を変えるのは耐えた。

 しかし急に考えたにしては上手い。引き取られた後研究所にいた事にすれば、俺の経歴におかしいところがない。

 

「私の上の妹が13歳、下の妹が9歳なので近いですね。妹たちはアクシズに向っているので、着いたら仲良くしてあげてくださいね。」

 

「はっ、必ず。」

 

「ハマーンもセラーナもきっと喜ぶわ。」

 

「良かったわねマレーネ。」

 

「はい。」

 

 うん? 今なんて? ハマーンとか聞こえたような気がする。アクシズには同じ名前の人が何人かいるのかな?

 

「ゼクス少尉。マレーネ様はアクシズの責任者、マハラジャ・カーン提督の長女だ。会う機会もあるだろう。」

 

 ……へー、ハマーンって姉妹がいたんだー。

 予想外すぎて言葉が出ない。ハマーンもいるとは思っていたが、姉と知り合えるとは思っていなかった。

 運がいいのかもしれない。ハマーンはシャアとのあれこれで原作に出てくる性格になったらしいから、何とか介入して平和主義者に持っていければ! ……全然想像できないのは何故だ?

 そんなことを考えていると、ゼナが手を2度打ちさっきの侍女を呼んだ。

 

「ラミア、お茶の準備をお願い。」

 

「かしこまりました。」

 

 ラミアと呼ばれた侍女は一礼をして出て行った。名前を聞いて思い出したが、Zガンダムで出てきたミネバ御付の侍女だったような。

 ゼナに勧められ、シャアとマレーネ、ついでに俺も席に着いた。左にシャア、右がマレーネ、正面にゼナ。少し緊張する。

 会話は主にマレーネが話を振り、他3名が答え相槌を打つ流れだ。

 

「……それで二人は父のいるアクシズへ向いました。その時いつも笑顔を見せてくれていたハマーンが、ずっと俯いていたのが気になって。」

 

「そうですか、フラナガン機関に。私が博士に会いに行く前にアクシズへ向かったのですね。」

 

「シャア大佐も行った事があったのですか。ハマーンの様子がおかしかったのにお心当たりはありませんか?」

 

「いえ、残念ながら。私の知り合いは楽しんでいました。」

 

「そうですか。」

 

 ハマーンとセラーナがアクシズへ向うまでの話を聞いていると、聞いたことのある名前が出てきた。あそこにいたのか。

 シャアはキシリアに拾われてからフラナガン機関に行ったので、タイミングが合わなかったのだろう。知り合いはおそらくララァ、彼女は楽しんでいたのか? 意外だ。

 10歳くらいの少女が研究所で元気をなくすとなれば……やはりモルモット扱いだったのだろうか? 俺たちのような扱いではなかっただろうが、いいとこのお嬢ちゃんが朝から晩まで実験につき合わされたら精神的に参るだろう。

 ……これもハマーンがハマーン様に成長する一因だったりして。

 アクシズで会ったらもうハマーン様化してたりとか? まあ、それ以外のハマーンは想像できないが。

 

 気が付くとかなりの時間が経っていた。

 

「ミネバ様、ゼナ様、マレーネ様。また挨拶に来ますが、何かあればいつでも連絡してください。」

 

「ありがとうシャア大佐。ゼクス少尉もまた来て下さいね。」

 

「はっ、よろしくお願いします。」

 

 マレーネとラミアが外まで送ってくれ、マレーネは手を振りながら見送ってくれた。

 彼女はアニメで見たハマーンとは全く似てなく、場を穏やかに出来る人だ。彼女なら気落ちしたゼナを元気付けることが出来そうだ。

 廊下を歩いていると、周りに人のいないところでシャアが俺の耳に顔を近づけてきた。

 

「マレーネ様は侍女ではあるが、ドズル閣下の側室でもある。迂闊なことは言わんようにな。」

 

 シャアはそう言って平然と歩いて行った。

 嘘だろ。全然そうは見えなかった。二人とも親しげだったから、ドズルが上手くやってたのだろうか? それとも俺が気付かなかっただけで、表面だけ取り繕っていたのか?

 いや、それならシャアが部屋を分けるかするか。なら変なことを言ってひびを入れるなということだろう。

 

 

 こうして徐々に艦内の仕事を受け持つようになっていった。

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