機動戦士ガンダム 転生者の介入記   作:ニクスキー

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第七話 準備開始

 ちょうど夕食時間だったので人が多く、そんなところに子供が入ったので食堂が静かになり視線が集まった。もう慣れたことなのでパイロット用のトレーを手に取り空いている席に座った。

 

 テーブルごとにグループ分けされているらしく、いくつかのグループは俺をチラチラ見ながら頭を寄せて何かを話している。なんとなく何を話しているか予想が出来るのでなんとも思わないが、気分がいいものではない。

 一人で食事中の人がいれば話しかけようかと思ったが、見た感じいなそうだ。誰も話しかけてこないのならさっさと食べてよそに行こうかな? そう考えていると、早歩きで食堂に入ってきた少佐が俺を見て歩いてきた。

 背が高く、軍服の上からでもわかる筋肉質な身体をしていて、短い黒髪に角ばった顔、そしてデカイ鼻。一度見たら忘れられない外見をしている。30代だと思うが、年齢が読みづらい顔立ちだ。

 

「貴様がゼクス少尉か?」

 

 やはり俺が目的だったか。上官らしい態度なので席を立ち敬礼して肯定した。

 その少佐は持っていたファイルを差し出したので受け取って表紙を見ると、ゼロ・ジ・アールの説明書と書いてある。

 

「俺はマルコ・ベッキオだ。エンツォ大佐からこれを渡すように言われたが…子供にモビルアーマーの操縦なんて本当に出来るのか?」

 

 俺をじろじろ見ながらのストレートな発言に驚かされ、周りも静まり返った。俺がパイロットなのは食事を見ればわかるだろうが、モビルアーマーと言ってしまっていいのか? ゼロ・ジ・アールは特殊っぽい格納庫に置いてあったのに、みんな知っているか他にもモビルアーマーがあるかするのだろうか?

 話しぶりではマルコはエンツォの部下っぽいから、適当なことは言わないほうがよさそうだ。シャアに不信感を持たれないように、適度に仲良くしておくべきか。

 

「お任せください。ア・バオア・クーで生き残ったのは、運だけではありませんので。」

 

「ほう、それは楽しみだ。調整に入るときには格納庫の作業員に俺か大佐に伝えるように言え。休養に入るとは聞いているが、早めでもいいぞ。」

 

 マルコはガハハと笑いながら俺の肩を何度か叩き、食堂から出て行った。食事くらいはゆっくり取りたかったが、収穫もあったのでよしとするか。食事の続きを取りながらファイルを開いて見ようとすると、数人の尉官が俺の周りの席に座った。全員20代の男性だ。

 

「隣失礼するよ。俺はダニエル、俺たちはマルコ少佐の部隊のパイロットだ。よければア・バオア・クーの話を聞かせてくれないか? 俺たちは9月に地球圏を出発したから詳しく知らないんでね。」

 

 彼らの中でも年長者、と言っても20代後半のラテン系のパイロットが話しかけてきた。黒っぽい髪を無造作に伸ばし、ヒゲを軽く伸ばした喧嘩の強そうな大尉だ。表情にも声にも含むところは感じないので、純粋に知りたいだけなのだろう。

 アクシズにはどう伝わっているか聞くと、優勢だったがギレンが戦死した後の混乱で敗戦したと聞いているそうだ。どうやら連邦のモビルスーツの強さや戦い方に興味があるらしい。

 

「ジムとボールの小隊に、リック・ドムの小隊がほぼ一方的にやられていました。ジムが前衛でシールドを構えながらビームライフルを撃ち、ボールが後衛で援護射撃。ジャイアント・バズよりもビームライフルの命中率が高いようでした。」

 

 俺がそう言うと、パイロットたちの数人が顔を寄せ何かを話していた。周りの兵たちも聞き耳を立てているらしく、食堂は静まりかえっている。

 ここで俺が言いすぎると反連邦意識が強まり、言わな過ぎると連邦に勝てると思われてしまう。考えながら話さなければならない。

 

「他のパイロットの話を聞くと、ビグロなどのモビルアーマーや、ベテランパイロットの乗ったモビルスーツは有利に戦っていたそうです。ア・バオア・クーでは学徒兵が多かったと聞いていますので、それも大きかったのでしょう。」

 

「なるほど。適正がなければパイロットになれないから、ア・バオア・クーでは人数が足りなくなったのか。なら俺たちが残っていればどうだったろうな。なあ、みんな?」

 

「勝ってたさ!」

「俺もエースになってたぜ!」

「圧勝じゃね?」

「モテモテのウハウハだったさ。」

 

 ダニエルの隊だけではなく、食堂にいた兵たちの3割くらいが腕を振り上げながら立ち上がる。こんな話だけでそこまでテンションが上がるのか!

 これは不味い。こういった声の高まりが国を動かすことは良くあることだ。止めたいがどうすればいいのか? そう考えていると30代半ばの大尉が立ち上がった。

 

「騒がしいぞ! 戦争が終わり平和になったと言うのにまた戦争の話か。血の気が抑えきれないのなら残党狩りにでも志願しろ!」

 

 その大尉が大きな声でそう言うと、パイロットたちは顔を赤くし怒りをあらわにした。全員立ち上がり拳を握り締め、今にも飛び掛りそうだ……が、よく見るとダニエルは腕を組み座ったままだ。まるで状況を楽しんでいるようにも、何かを見極めているようにも見える。

 

「本気で言っているのか大尉! 同胞に銃を向けられるものか!」

 

「本気だとも! 奴らが市民や連邦軍に対しテロを行えば行うほど、コロニーへの弾圧と増税に繋がるのがわからんのか! 奴らの行為は全スペースノイドへのテロ行為と同じだ!」

 

「言わせておけば!」

 

「止めろ。」

 

 パイロットの一人が一歩踏み出した瞬間、ダニエルが軽く右手を上げながらそう言った。大きな声ではなかったが、一瞬にして食堂が静まり返った。

 さっきまでとは違い、ダニエルからは威圧感を感じる。全方位にばら撒いているのか? 戦場のそれとは違う気はするが、殺気のようにも感じる。

 ダニエルは立ち上がり、大尉の前にゆっくりと歩いて行き頭を下げた。

 

「大尉殿、私の部下が失礼しました。私の顔に免じてお許し願えませんか?」

 

「あ、ああ。そこまで言うのなら。」

 

「お前たち、行くぞ。」

 

「はっ!」

 

 大尉が許すと手を軽く前に振って、部下たちを連れて食堂から出て行った。姿が見えなくなる瞬間に一瞬だけ俺を見た気がするが、どんな意思が込められているかまでは読み取れなかった。

 ダニエルたちが出て行ってから数秒、いや数十秒経ってから食堂はにぎやかさを取り戻した。だが、さっきよりもグループごとの集まりが密集し、声が小さくなった。

 

 パイロットたちを煽ったのはダニエル、そして制止したのもそうだ。何のために? 食堂の動きを見ていたのか? 誰が急進派で誰が穏健派かを。それとも……俺か? 俺がどんな反応をするかを見ていたのか。俺はどんな表情をしていた? 気付かれていなければいいが。

 黙っていてもしょうがないので夕食の残りを食べようと思ったら、俺は拳を握り締めて汗をかいていた。おそらくダニエルの殺気を感じたからだろう。もし俺個人に向けられていたのなら……殴りかかったかもしれない。もし敵になれば手ごわそうだ。

 

 食事を終え、トレーを戻してから食堂を出た。

 まだ部屋に戻るには早いので、どこかで時間でも潰そうか。このゼロ・ジ・アールの説明書をコクピットの中で読むのも一興かもしれない。

 

 ファイルを持ち格納庫へ入ると、すでに作業が終った時間らしく薄暗い。

 道順は覚えていたので歩いていくと、改造中のリックドムの前で手すりに腰をかけた女性の姿が見えた。近付くと徐々にはっきりと見えてきたのは、特徴的な髪の色のツインテールなのでハマーンだろう。

 

「ハマーン様、どうかしましたか?」

 

「えっ、きゃっ!」

 

 俺に気が付いていなかったらしく、慌てたハマーンは手すりから身体を離してしまいゆっくりと空中に投げ出された。無重力なので壁に近付くまでの数分間は何も出来ないだろう。慌てているハマーンは、アンバックで姿勢を変えることも出来ずお尻が丸見えになっている……ピンクか。

 流石に見ているのも失礼なので、手すりを乗り越え手すりを軽く蹴る。ハマーンよりも少し速い速度で跳んだのですぐに追いついた。

 

「ハマーン様、お手を。」

 

「は、はい。」

 

 差し出された手を握り軽く身体を支えながら壁に足をつくと、ハマーンはゆっくりと俺から離れた。少し顔が赤くなっているようにも見えるが、薄暗いのでよくわからない。

 

「驚かせてしまい申し訳ありません。格納庫を見に来たらハマーン様の姿が見えたもので。」

 

「いえ、いいわ。あなたは医務室で会ったシャア大佐の副官? 確かゼクス……「少尉です。」少尉。あなたも……やっぱりニュータイプね? 会ったときにそんな気がしたの。」

 

 ハマーンは俺と目を合わせ、意識を集中するように目を細めた。ハマーンからオーラのようなものが湧き出すのが見え、俺からは僅かにだけ見える。これは力の差か?

 俺の力の弱さと、ハマーンの強さに軽くショックを受ける。フラナガン機関で何かをされた可能性もあるが、素質の差なのだろうか。

 

「そう思っていましたが……ここまで力の差があると、私がそう名乗るのは気が引けます。」

 

「そんなことはないわ、こうして人の力を感じたのは初めて。あなたもシャア大佐のように戦場に?」

 

「ええ、と言っても一度だけですが。ア・バオア・クーにエルメスで参戦しました。」

 

「エルメスで! そのデータを見せてもらうことは出来な、きゃっ!」

 

 急にテンションが上がり、俺に近付くように踏み出したハマーンは踏み込みすぎたせいで浮かびそうになった。軽く手を掴んで床に降ろすとそんな自分が少し照れくさかったのか、うつむきながら小さな声で「あ、ありがとう。」とお礼を口にした。

 医務室やさっきの姿は何か悩んでいたように見えたが、少しは元気になったようだ。エルメスに興味があるのだろうか? それかニュータイプ専用機に? 先のことを踏まえると、操縦の訓練でもしているのかもしれない。

 エルメスのデータを管理をしている整備班が休養中なので、おそらく2週間後になると言うと残念そうな表情を見せた。

 

「休養明けには見られるように頼んでおきましょうか?」

 

「いいの? ありがとう。」

 

 俺の言葉に満面の笑みを見せるハマーン。年相応の、いや少し幼くも見える無邪気な笑顔に見とれそうになるが、ふと不味いことに気が付いた。早い段階でエルメスやペズン計画の情報を持ってきていることを急進派に知られるのはよろしくない。そういった情報を新型機の開発に繋げ、アクシズの戦力増強を図るとか言い出されても面倒だ。

 

「ハマーン様、整備班の休養が明けるまでで良いので、エルメスの話は秘密にしてはいただけませんか? 彼らの休養が短縮されてしまうと怒られてしまいます。」

 

「ええ、わかったわ。でも時々話を聞かせてもらっても良いかしら? ここにはニュータイプについて話せる人があまりいないの。」

 

「喜んで。私も一応休養期間なので、何時でも声をかけてください。」

 

 変更しなければ部屋番号がそのまま内線番号なので、それを伝えた。まあ、相手が相手なので無用心とはならないだろう。。

 そう言えば、ハマーンは何でこんなところにいたのだろう? ここには改造中のリック・ドムとゼロ・ジ・アールがあるだけだ。リック・ドムの前にいたので、この機体はハマーンのものなのだろうか?

 

「私はそろそろ部屋に戻るわ。また話しましょう。」

 

 俺が疑問を口にする前に、床を蹴り通路の手すりに跳んで行った。短いスカートで跳ぶのはお勧めしないが、それを指摘するのはセクハラだと言われる危険を感じる。誰かに伝えて言ってもらうべきだろうか?

 このままここにいるのもなんなので、部屋に戻ることにした。ファイルには部屋で目を通すことにしよう。

 

 

 部屋に戻ると、電話のランプが点いている。留守電か? 聞いてみるとシャアからのメッセージで、部屋に来るようにと言う内容だった。

 なんだろう? 特にヘマはしていないはずなので、確認か今後についてだろう。俺も話したいことがいくつかあるのでちょうどいい。

 

 向かい合ってソファーに座ると、珍しくサングラスを外したシャアがリラックスしている。やはり艦長としての責任を背負っているうちは、気を張っていたのだろう。こうしてみると2週間の休養期間は必要だと感じる。

 

「先ほど提督に会ったので、君の事をフラナガン機関出身だと伝えておいた。今後は今日のように軽んじられることはないだろう。」

 

 自分の副官が軽く見られるのは、気分が悪かったのかもしれない。副官に任じた自分を軽んじられるのも同然と受け取ったのか? 提督とハインツ少佐はそこまで考えずに、ただ子供だからだと思うが。

 明日は提督に呼ばれているので、迎えに来るように言われた。俺も連れてくるように言われたそうなので、フラナガン関係の話でもあるのだろう。突っ込まれたときにはシャアがフォローしてくれるそうだ。

 シャアからの話しが終わり、今度は俺から何かないかと聞かれた。

 

 俺は食堂の一件を話し、提督には話さないように言って医務室で二人と会ったことと、格納庫でハマーンに会ったことを話した。特に彼女がニュータイプとして強い力を持っていると話したときに、興味を引かれたようだ。

 俺とハマーンの身体からオーラのようなものが見えたと伝えたときには、具体的にどうだったのかを詳しく説明させられた。やはりニュータイプを深く知りたいと思っているのだろう。

 ハマーンと会ってみるか聞いてみると、流石に上官の娘と勝手に会うのは気が引けると言い辞退した。言われてみれば確かにそうか、口説いているとか噂されれば問題になりそうだ。

 

 それと手元に戦力を残すために、ドミニカのモビルスーツは出撃準備をさせておくことを提案した。アクト・ザク、ガルバルディ、ペズン・ドワッジ。この3機はゲルググよりも性能が高いので心強い。問題はアクト・ザク以外のパイロットがいない点だ。

 急進派の息がかかっていない、それも腕のいいパイロットが都合よく見つかるものか? しかも統合整備計画以降の物なので操縦方法がそれまでと違う。タイムリミットが2週間ならすぐ訓練を始めないと間に合わないだろう。

 アクシズで腕のいいパイロットか……マシュマーやキャラ、イリアはまだ子供だから無理だろうし。他には……アポリーとロベルト! 確かアクシズでシャアと合流したとどこかで見た気がする。彼らなら腕もいいし、シャアを裏切らないはずだ。

 

「アクシズの名簿を閲覧できないでしょうか? エンツォ大佐の息のかかっていないパイロットで、シャア大佐と戦列を共にした人がいれば仲間に引き込めるのでは? それと研究所で見た人物がいないか確認したいです。」

 

「ふむ……誰がいるのかにもよるが、不可能ではないだろう。よし、明日にでも提督に頼んでみよう。」

 

 一年戦争でシャアと同じ部隊に所属し、エンツォとは組んだことのない人物を上手く探せればいいが。

 とりあえず今はこんなものだろう。明日、シャアを迎えに行く時間を聞いて退室した。

 いまの時間は夜の8時くらいなので、ドミニカへ顔を出してみるか。ストアに寄って酒とつまみを購入してドミニカへ向う。正規の軍人に成年も未成年も関係ないとはいえ、店員には怪訝そうな目で見られてしまった。

 

 ドミニカの乗員には居住区に部屋が用意されているが、次の配属先が決まるまでは残ることが出来るらしく、結構な人数が残っている。ペズンから来た技術者も残っているので、その中の主任の部屋に向った。モビルスーツの準備を頼んでおこう。

 

「おう、ゼクス少尉。い~ところにきたな~。ほれ、駆けつけ3杯!」

 

「まあまあ、ゼクス少尉はおこちゃまなので1杯で勘弁しまちょうね~。」

 

「ゼクス少尉の、ちょっといいとこ見てみたい!」

 

 そこでは何本ものボトルを空けた、技術者集団と整備士たちが出来上がっていた。

 失敗した! 酔っ払いの集団の中にシラフで飛び込むには無謀だ。逃げねば! 強化されたこの身体もリミッターの外れた酔っ払いには敵わず、足をつかまれて輪の中に引きずりこまれる。そして目の前に差し出されるコップ。

 そう言えば、最後に酒を飲んだのは何年前だったろう。久々に飲むのもいいか。

 

「そもそもなんでここで飲み会を開いているのですか? モウサには飲み屋もあると聞いていますが。」

 

「わかってない、わかってないぞ! 何ヶ月も苦楽を共にしてきたこのドミニカでお疲れさま会を開くから良いんじゃないか!」

 

「おい、さっきは「ねーちゃんのいる店には疲れを取った明日行こうぜ」って言ってただろうが!」

 

「だまらっしゃい! 明日は明日の風が吹くんじゃい!」

 

 すでに意味がわからん。酔っ払いに質問したのが間違いだった。おそらく明日聞けばこの会話も覚えていないだろう。

 明日は寝過ごすと不味いので、セーブしながら酒を飲みつつ会話を楽しむ。こうやって軍人や上下を気にせずに話しをするのはやはり楽しく、時間を忘れて大騒ぎをした。

 

 生き残った数人でダウンしてしまった人たちを各部屋のベッドに連れて行ってから、シラフのままの主任と二人きりになった。主任は俺が話をするために来たのに気が付いていたようだ。

 主任に事情を話すと、複雑な表情を見せた。

 

「連邦を倒すために開発したモビルスーツを、味方相手に使うことになるとは。使われないよりも使われたほうが技術者冥利に尽きるとも思うが……複雑だな。」

 

「私としても、使わずに済めばそれに越したことはありません。あくまで保険です。」

 

「わかった。整備士たちには休養中だから隠れて実験をしていると伝えておくよ。研究者たちは研究が出来れば文句を言わないしな。」

 

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」

 

 溜息混じりの主任だったが、いざやると決めたらいつもの調子で協力を約束してくれた。これで後はパイロットの問題だ。他にも情報収集要員も欲しいし、可能なら急進派の内部にも協力者が欲しい。

 今は情報集めを急ぐことを優先し、その後に人集めだな。

 

 途中でドミニカの自室に置きっぱなしだった荷物を持って、アクシズの自室に向かった。

 結構な量の酒を飲まされたが、足取りはしっかりしたままだ。体感的にも酔っている感じはしない。もしかしたら身体の抵抗力も強化されているのだろうか? ただ単にアルコールに強い体質なだけかもしれないが。酔えないのはそれはそれでつまらないものだが、酔って失敗するよりもマシか。

 

 

 部屋に戻りファイルに目を通すと、ゼロ・ジ・アールの操縦方法はエルメスとは共通点が殆ど無い。操縦はオートパイロットに任せ、パイロットは攻撃に専念できるように作られているようだ。

 一応マニュアルでの操縦も出来るようだが、武装が多いので忙しくて使いこなせないかもしれない。おそらく設計段階で「複雑だけどオートパイロットにすれば何とかなるんじゃね?」とか言って見直しもせずに作ったのでは?

 戦場ではほんの1秒差で死につながるので、操縦方法の複雑な機体は欠陥機体だろう。設計者が実戦経験者だとは思えないので詰め込みすぎたのか? それかシャアなら出来ると思ったのか。

 

 とりあえずマニュアルでの操作方法も載っていたので目を通して、ファイルを閉じた。

 すでに日付が変わっていたが、このまま眠るのも惜しい気がするのでシャワーを浴びて部屋を出た。夜の警備体制を確認し、昼とはどの程度違うかや人のいる場所といない場所を見ておきたい。

 通路を歩いていてもあまりすれ違うことが無い。所々にある休憩所や食堂も人影が無く、基地の中と言うよりも夜の工場のような雰囲気だ。

 

 予想よりも人の姿は少ないが、防犯用のカメラはかなりの数が設置されている。警備の詰め所で確認しているとは思うが、管理はどの派閥が行っているのだろう? 無派閥や中間派なら問題ないが、急進派の人間が監視をしているのなら危険だ。今はシャアが派閥の公表前なので特別マークをされていないだろうが、穏健派だとバレると見張られるだろう。

 

 暫く歩き回り、警備の人数や配置を覚えてから部屋に戻る。

 今から寝れば充分疲れは取れるだろう。目覚ましをセットしてベッドに入り、今後について考えているといつしか眠りに引き込まれた。


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