機動戦士ガンダム 転生者の介入記   作:ニクスキー

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 会話間の改行をなくしてみました。


第八話 情報収集と息抜き

 目覚ましの音で目を覚まし、運動をする準備をしてトレーニングルームへ。昨日はサボってしまったので、確実に時間の取れる朝に身体を動かそう。

 朝早い時間なので数人しかいない。この時間にに来るのは鍛えるのが趣味なアスリートばかりらしく、俺を気にもせずに黙々とトレーニングを続けている。俺も彼らに混ざり柔軟、ランニング、ウェイトトレーニングなどをみっちり2時間ほど続ける。まだ物足りないが、格闘訓練をする相手がいないので切り上げよう。

 

 シャワーで汗を流しゼロ・ジ・アールの説明書を読みながら、約束の時間まで部屋で待機することにした。テレビがあるのを思い出したので電源を入れると、ニュース番組が流れている。元の世界と同じような作りで、現場のレポーターと中継を繋いでスタジオで解説をしていた。

 アクシズの拡張工事の状況や資源工場の業績などを放送しているが、ミネバやゼナ、シャアが到着したことには触れられていない。おそらく休養が明けるまでは公表されないのだろう。紳士協定や暗黙の了解的な?

 このニュースを見る限り、アクシズは資源衛星化が進んでいて経済的にも好調のようだ。アクシズだけで考えれば絶好調だろうが、地球圏はどうなっているのだろう。マ・クベが上手く交渉をしているとは思うが、サイド3は連邦に弾圧されていないだろうか?

 

 シャアを迎えに行き、食堂へ移動した。

 数人の士官がシャアをチラチラ見ながら何かのタイミングを図っているのは、シャアに挨拶をするためだろうか? シャアは何の反応も見せていないので、気にしていないか予想通りだと思っているかだろう。

 提督やハインツ少佐が穏健派に伝えたのかもしれないが、シャアが穏健派なのはまだ公開しない予定なので穏健派ではないだろう。エンツォが急進派の部下にシャアを取り込むように指示したか、シャアの存在をどこかで知った無派閥の士官が探ろうとしているのかもしれない。

 

 シャアは食事を終えるとすぐに席を立ち、食堂を出ようとした。おそらく話しかけられないようにだろう。俺は同じタイミングで食べ終わるように注意していたので、すぐ後に続いて席を立つ。何人かの士官が立ち上がろうとしたがタイミングを合わせることが出来ず、椅子の上で微妙に姿勢が崩れたのが視界に入った。

 そんな食堂を出て提督の執務室に向う途中で、人気が無くなったのを見計らってシャアの隣に並び声をかけた。

 

「有名人は大変ですね。」

「言ってくれるなよ。それに、これからは君もマークされるだろうから他人事ではないぞ。」

「それは厄介ですね。何も聞いていないフリをさせてもらいます。」

 

 俺の冷やかしに軽く肩をすくめたシャアだが、声は笑っていない。副官の俺からシャアの動向を探ろうとするのが想像できるので、その対応も必要だ。とりあえずは、何も聞いていないフリをさせてもらう。俺がそうすると伝えていれば、シャアもそれを踏まえた対応をしてくれるだろう。俺は暫く派閥争いの外側にいて、情報集めに専念するつもりだ。特に急進派の。

 

 

 執務室に入って俺とシャアが並んで座り、向かいに提督が座った。

 

「シャア大佐、早速で悪いが今日から顔合わせをお願いしてもいいかね? 宣伝したわけではないが、アクシズではすでに君の名が広まっているらしくてな。君と面会したいとの声が私のところにまで来ているのだよ。」

「私はかまいませんが、提督にまでですか? 私にそこまでの影響力はないと思いますが。」

「私にまで言ってくるのは急進派の息のかかった者たちだ。赤い彗星と呼ばれた君が急進派に参加すれば、急進派の勢いは盛り返すだろう。特に先の戦争に参加した兵たちがな。」

 

 提督はシャアにそう答えながら、頭の痛い問題だと言わんばかりに軽く頭を振った。

 急進派に疑われないように各派閥の人数を調整して顔合わせが行われるらしく、提督は自分の仕事よりも面倒だとぼやいた。提督の仕事か? と思ったが、下手に他の人に任せれば誰が受け持つかで小競り合いになりかねないのだろう。

 アクシズという小惑星一つでも派閥争いが起きる。数十億の人間が住む地球圏が平和になるなんてことは夢物語なのだろうか? いや、弱気になっている場合ではない。一歩ずつでも進まなければ。

 

 次はマレーネとゼナについて。

 マレーネは来月3日に手術の予定で、手術前に面会できるのは肉親のみだそうだ。一度はお見舞いに行きたいと思っていたが、手術後に行くことにしよう。

 ゼナとミネバにも挨拶に向いたいところだが、ゼナは疲れからか体調を崩しているそうだ。長旅だったので仕方がないだろうが、このまま良くならないなんてことが無ければ良いが。原作を考えると心配になるが、回復してくれるのを祈るしかない。

 

 ここまで話してから提督は俺に顔を向けた。もしやハマーンと話をしていたのを聞いて、娘と何の話をしていたのかと追求されたりして? 一瞬そう考えたが、睨むような目つきではないので違うようだ。

 

「ゼクス少尉、シャア大佐から君の事を聞かせてもらったが、君はニュータイプらしいな? マレーネからハマーンのことを聞いていると思うが、まだ何かに悩んでいるようであまり話そうとしない。機会があれば話してみてくれないか? 私達には理解出来ないこともあるだろう。」

 

 昨日俺と話したことは知らないのだろうか? 一緒に暮らしていないか、話をしない関係なのか? まあ、提督が忙しくてそんな暇が無かっただけかもしれない。すでに会って話をしたことは伝えるか迷うが、黙っていて後で知られるのはよろしくないだろう。ないとは思うが子煩悩なら不味いことになる。

 

「提督、ハマーン様とは昨日会い、少し話をしました。私がニュータイプだと気付き、興味を持ったようです。」

「おお、そうだったのか。これからも話し相手になってくれ。」

「はい、私でよければ。」

 

 提督からの話はひとまず終わったので、シャアが名簿閲覧の許可を求めた。提督は少し考えたが、今後の動きに対応するためだと説明し許可をもらった。反応を見ると、提督は急進派が強硬手段に出る確率が低いと考えているようだ。

 確かにシャアが穏健派だと発表すれば急進派は不利だろうが、だからこそ強硬手段に出る確率が高い。もしかして提督は甘い人なのか? 政敵に甘い顔を見せるのは付け上がらせるだけだと、理解していないとは思えないのだが。

 

 

 シャアは提督と共に顔合わせに向かい、俺は資料室へ向った。カードキーを渡され、暗証番号を教わったので一人で充分だろう。

 

 専用の端末でまずは軍人の名簿の確認を始める。

 数千人の名前と写真、経歴を確認するのは時間がかかる。特にパイロットはどの戦場に出撃したのかも確認し、仲間に引き込めそうかも調べる。パイロットも100人以上登録されているので一苦労だ。

 

 知っている名前を発見! 記念すべき初の原作キャラは……ラカン・ダカラン少尉。よりによって何を考えているかわからない人か。ZZで一般人を虐殺していた記憶しかないし、途中でハマーンを裏切るしでいいとこがなかったはずだ。とりあえず保留だな。

 ダニエル・アンドルーズ大尉とモニカ・バルトロメオ大尉。モニカはエンツォのモビルスーツ部隊の隊長で、ダニエルは中隊長か。流石にこの二人は急進派だろうから、考えるまでもないな。

 アンディ中尉とリカルド中尉。写真がZに出てくるアポリーとロベルトに似ていて、名前も微妙に似てる。本人たちに見えるが……どうだろうか? 経歴を見る限りエンツォとの接点は無さそうなので、この二人はシャアに確認してもらおう。

 

 パイロット全員を確認した結果、エンツォと接点が無さそうなのが10人ほど。予想よりも少なくて驚くが、アクシズに元々いたパイロットは殆どがエンツォの部下なのでこうなるのも仕方がないだろう。何とか切り崩すことが出来ればいいが……どうだろう?

 とりあえず彼らの名簿をプリントアウトして、パイロット探しは終了だな。

 

 次は残りの軍人の確認。このデータだけでは派閥や性格はわからないが、配属先や経歴を覚えておけば使えるだろう。流石に数千人の軍人全ては覚えられないが、階級が高い人や特殊な配属先の人は覚えておきたい。

 

 原作に出ていた人も発見。

 ユーリー・ハスラー大佐。今はアクシズで製作中の新型艦の開発に携わっている。デラーズ紛争では戦闘に参加していなかったので、もしかしたら穏健派かもしれない。

 ゴットン・ゴー伍長。この人物も懐かしい。苦労人のイメージもあるが、卑怯な手も使っていたような気がする。派閥が予想できないので今は関わらなくてもいいだろう。

 

 エンツォと一緒に来たり、近くに配属されている軍人は……マルコ少佐とダリオ少佐が直属の艦長で、MS隊の隊長がモニカ大尉。こいつらが急進派の中枢だろう。上手く近付いて情報を引き出せれば話が早いが、そう上手くは行かないだろう。

 例の戦犯たちも登録されている。配属先が軍部の戦略室や参謀などのエンツォの直属なので、彼らを捕らえようとするとエンツォがしゃしゃり出てくるだろう。彼らかエンツォを軍部から切り離さねば逮捕は難しそうだ。

 軍人の中にZZ勢はゴットンしかいなかった。ZZ勢は年齢的に学生の可能性があるので民間にいるのだろうか?

 

 昼食を販売機で買ったハンバーガーで手早く済ませて再び端末に向う。今度は軍属と一般人の名簿を呼び出して見る。アクシズの人口は数万人なので、名前と職業と写真を確認するだけでも徹夜も覚悟しなければならないだろう。

 

 マシュマーとキャラ発見。二人とも両親がアクシズで軍に所属しているので、一緒にアクシズに来たようだ。イリアは見つからないので、まだ来ていないのだろう。将来有望なので早めにスカウトしたいが、二人とも学生なのでまだ早い。一応住所と連絡先をメモしておくか。グレミーとプルたちの名前もない。トト家の名前が見えないのでまだ来ていないようだ。

 俺が育てられた研究所の人間は見当たらなかった。ここに来ていると予想していたのだが外れたようだ。ならどこに……もしかして連邦か? 連邦は育成に時間のかかるデザイナーベビーには興味を示さないイメージがあるがどうだろう。いや、考えすぎか。判断材料が少ないので考えても答えは出ないだろう。

 

 他に知っている名前は見当たらなかったが、気になる人物を発見した。名前はマガニーで苗字は登録されてなく、職業はアクシズニュータイプ研究所所長。怪しい。所属しているのは……20人程度なのでプリントアウトしておくか。

 マガニーを含め数人はフラナガン機関に所属していたらしいが、大半が学者や医者からスカウトされたようだ。一人一人眼を通すと気になる女性がいた。スミレ・ホンゴウ、16歳? やけに若い研究者がいるが何者なんだ。学生だったがスカウトされて研究所に入ったと載っているが、特殊な研究をしているのだろうか。

 

 ここの資料では研究内容などがわからないが、この研究所は軍部が運営しているので下手に調べられない。その割に所属している研究者は軍属ではないのは何故だろう? 訳有りか、それとも何か理由があるのかはわからないが、調べてみる必要があるだろう。問題はアクシズの軍施設の奥に研究所があるので俺のパスで入れるかどうかと、俺がここを調べていると軍部にバレることだ。俺がニュータイプだと知らせると連れて行かれるかもしれないが、何をされるかわからないので最後の手段にしよう。

 

 こうやって調べると、軍事や兵器開発部などの大半が軍部に握られている。おそらく戦中から戦後にかけての軍部の拡大に、提督のチェックが追いつかなかったのだろう。せめて開発部と研究所が提督の管轄なら、すぐに出来ることややりたいことがあるが、今更言ってもしょうがないか。

 全員の名簿を確認し終わり時間を見ると、思ったよりも早い時間なのに気が付いた。夕食には遅い時間になっていたが、食後では遅くなりすぎてしまうので、シャアの部屋に電話をして資料を渡しに行こう。幸いシャアは部屋に戻っていたのですぐに向った。

 徹夜も覚悟していたのだが、これも強化の効果か? 今はこれが当たり前になっているので元の自分との比較は出来ないが、どこまで改造されているのかを一度調べるべきか。自分の能力の把握は重要だろう。

 

 

 パイロットの候補を纏めたファイルを手渡すと、シャアはゆっくりと目を通した。途中何度か何かを思い出すような表情をして、ファイルから二枚の紙を抜いた。渡された書類を見ると、アンディ中尉とリカルド中尉だ。

 

「この二人は私の指揮下に入ったことがある。腕も確かなので、私から言っておこう。そう言えば例の研究所の者は見つかったのか?」

 

 やはりZに出てきた二人っぽいな。あの二人なら安心してガルバルディとペズン・ドワッジを任せられるだろう。

 研究所の人間は見つからなかったが、アクシズニュータイプ研究所と言う謎の研究所があることを伝えてプリントアウトした資料を手渡した。シャアは全てに目を通すと、少し考えてから顔を上げた。

 

「この中には私が会ったことのある者はいないようだ。フラナガン機関は研究員の出入りが少なくないと聞いているので、私が行く前に出て行った者たちだろう。」

 

 ここにいる研究者たちがどんな研究をしていたのか知りたかったが、会ったことがないのなら聞けないか。やはり、タイミングを見て潜入するしか無さそうだ。そう言えば俺はシャアに連れられてフラナガン機関にいた設定なので、シャアと同時期に所属していたら面倒だったので好都合とも言えるか。

 シャアは明日も面会の予定が入っているので、俺は自由に行動していいと言われた。時間のあるうちに、モウサを見に行くことにするかな? 町並みや様子を調べておくのもいいだろう。

 

 モウサに行くことを告げ、他に確認することがないか考えて見た。他に? 何か聞き忘れていることは……そう言えば、計画のベストパターンの急進派を地球圏に追い出したパターンでは、急進派のメンバーがどうなるかを聞いていなかった。首になるのだろうか?

 

「ああ、そう言えば話していなかったな。急進派は左遷させられる。兵の指揮権を奪われ、監視の目が届くところにな。穏健派は中央に近い部署や栄転が約束されているので、それが中間派説得の口説き文句でもある。本国では軍人が不足しているらしく、使える軍人が欲しいそうだ。」

 

 シャアはかすかに悪い笑みを浮かべながらそう説明してくれた。なんて平和的かつ大人的解決! 急進派がおかしな動きをせずにこうなってくれれば、アクシズも本国も平和になってくれるだろう。このベストパターンに持っていけるように、情報収集を頑張ることにしよう。

 話が終ったので、また明日顔を出すと言い、退室した。手に書類を持ったままなので一度部屋に置いてから食堂へ向うことにしよう。

 

 部屋に入ると電話ランプが点灯している。受話器を手に取りボタンを押すと、何日かぶりの声が聞こえてきた。

 

「……あ、あのっ! 私、ティナです。主任に番号を教えてもらって、ご迷惑だったでしょうか? ホントは主任から確認してもらって聞けばよかったんでしょうけど、なかなか繋がらなくて……あっ、そうじゃな。」

「ごめんなさい、時間がなくなってしまって。あっ、また時間が! 私、明日から時間が空いているので、時間があるときにでも誘ってください。失礼します!」

 

 話している途中で留守電の時間切れとは……相変わらずだなティナは。確認すると受信は30分くらい前なので、今なら電話しても問題ないだろう。明日のモウサ行きは誰かと会う予定もないので誘ってみるか? 町の様子を見るのに女性目線での意見も必要だろうし、可愛い女の子と町を歩くのも時にはいいだろう。

 ティナが自分の電話番号を言い忘れていたので、ドミニカへ一度繋ぎ長官に聞いてから彼女の部屋に電話をかけた。なかなか電話に出ず、留守番電話になるかと思った時に受話器を取る音が聞こえた。

 

「はっ、はい。ティナ・レモンドです。」

「こんばんわ、ゼクスです。今いいですか?」

「えっ! あ、はいっ! いえ、ちょっと待ってください。きゃっ、シャツは……」

 

 受話器をどこかに置いて、パタパタとスリッパで歩き回るような音が聞こえる。シャツ? もしかして、シャワーにでも入っていたのだろうか? それなら悪いことをしてしまった。風を引かないように、早めに話を終えるようにしよう。

 再び足音がして、受話器を手に取った音が聞こえた。

 

「お待たせしました、もう大丈夫です。なんでしょうか?」

「明日、モウサの見学に向う予定なのですが、もし空いていれば一緒に行きませんか?」

「はい、喜んで!」

 

 待ち合わせの場所と時間を伝えて電話を切る。そう言えば高官用の電話回線は映像も見られると聞いたので、この電話もそうならティナの姿が見れたかもしれない。残念だがそれならそもそも電話に出ないか。

 明日の準備をしようかと思ったら、服が軍服しかないので必要ない。ヒゲも生えてきていないので、気をつけるのは寝癖くらいかな。そう考えながら鏡を覗き込んでいると、腹が大きな音を立ててなった。そう言えば夕食がまだだったので、食堂へ行き夕食にしよう。

 

 夕食中は色々な派閥の佐官が何人か話しかけてきて、数人は直接シャアの動向を訪ねてきた。予定通り自分は何も聞いていないと言うと、興味をなくしたようにそそくさと離れていく。

 分かりやすい反応に笑いを我慢しつつ、愛想笑いで対応するのはなかなか面倒だ。俺が派閥争いに関係していないことを広めてくれるのを期待するしかないが、暫くこれが続くと考えると億劫になる。慣れるしかないだろうな。

 

 

 

 朝のトレーニングを終えて朝食を取り、身だしなみを整えて待ち合わせ場所に向った。少し早めだったがティナはすでに待っていて、俺に気が付いたのか手を振って合図をしてくれた。回りに人がいるので少し恥ずかしい。

 ティナも買い物に行く時間がなかったのか、緑色の作業服を腕まくりして着ている。俺は軍服なので、はたから見ると仕事中にしか見えないだろう。まずは洋服店に向かい着換えを買うのがよさそうだ。

 挨拶を交わして早速モウサへ向おうと歩き出すと、ティナは不思議そうな表情を見せた。

 

「あの、他の人は待たなくて良いんですか?」

 

 うん? もしかして何人かで行くと思っていたのか? そう言えば二人だとは言わなかったか。

 

「ええ、二人ですので。とりあえず洋服店を探して着換えましょうか? ずっと軍服や作業服のままでは息抜きも出来ません。」

「ふ、二人ですか! それって、まさか! あ、待ってください。」

 

 顔を赤くして一瞬立ち止まったティナだが、俺がそのまま歩き出したので慌てて付いてきた。そういえば、女性を誘って二人で買い物ならデートか? 何で思いつかなかったのだろう。長い監視生活で枯れたのか俺? 違うと思いたいが。

 

 アクシズの重力ブロックから一度無重力ブロックに入り、モウサへと繋がるトンネルをゴンドラのようなもので移動する。モウサの出入り口にはターミナルが有り、バスの発着場やレンタカーなどもすぐ目の前だ。

 見て回るのならレンタカーだが、俺はエレカが運転できない。ティナはどうだろう?

 

「サイド3では学校で全員習うので私も運転出来ます。こう見えても運転は得意なんですよ!」

 

 ティナは腰に手を当て、大きな胸を張りながら笑顔でそう言った。特に免許などはなく、学校で運転を習うと各自のカードに登録されてレンタル出来るそうだ。試しに駐車場のレンタカーに近付いて、脇にあるパーキングメーターのような物に自分のカードを差込んでみた。文字盤に受付完了の文字が出て、すんなりレンタルすることが出来た。そうだろうとは思ったが、軍人なら当たり前なのだろう。

 確認のためにカードを差込んでしまったが、エレカはどうしよう? 時間でレンタル料金が取られてしまうので、ついでなんでティナに運転を習うか。

 

「ティナさん、私に運転を教えてはいただけませんか? 実は運転を習う機会がなかった物で。」

「いいですよ、お姉さんに任せなさい!」

 

 ティナは再び胸を張り、軽く胸を叩きながら威張るように言ってエレカに乗り込んだ。俺は助手席に乗り込み、ティナの解説を受けつつマーケットに向った。アクシズに着いた時に渡された資料の地図を持って来たので、それを見ながらナビをする。

 マーケットはターミナルから近く、すぐに到着。まだ建設中の店も多くて開いている店は多くはないが、あまり気取っていない若者向けの洋服店を見つけてエレカを駐車した。

 

 この世界での相場がわからないのでティナに聞くと、少し高いがサイド3からの輸送費を考えると相場くらいだそうだ。高級店などはわからないが、若者向けの店っぽいので高くは出来ないのかもしれない。

 お互いに試着しては見てもらい、数着の服をかごに入れてから店員に確認を取り、二人とも購入した服に着換えてから店を後にした。

 俺は紺のロングTシャツの上に白のTシャツ、ジーンズにスニーカー。ティナは、水色のTシャツに青いパーカー、白いハーフパンツにスニーカー姿だ。元々年齢よりも若く見えるティナだが、作業服から着換えたら高校生くらいにしか見えない。なんだかデートをしている気分になってきて、仕事を忘れてしまいそうだ。

 

 荷物をエレカに置き、近くにあるほかの店にも入ってみたり、オープンカフェでコーヒーとケーキ楽しんだりした。

 町を歩く人たちも小奇麗な格好で、顔も笑顔の人が多い。一年間の戦争で失われた資源を地球圏に送り出すアクシズの好景気が、市民にまで恩恵を与えているのだろう。この好景気は中継しているサイド3にも及んでいるはずなので、ジオン共和国は戦争を起こす前よりも景気が良くなっているのでは? 手は打っているだろうが、これが連邦との火種にならなければ良いが。

 

「どうしました、ゼクス少尉? 何か見えますか?」

 

 二人で歩きながらも、思わず頭が仕事用になってしまった。そぶりを見せずに考える技術を身につけないと、今後ミスをしてしまいそうだ。今回は誤魔化すか。

 

「すみません、気になったことがあって。今は軍服ではないので、少尉はつけなくていいです。敬語も必要ありませんよ。」

 

「へ? そ、そう言われても……いきなりは。でも……じゃあゼクス君……とか?」

 

 一年近く少尉と呼んでいたので緊張したのか、顔を赤くして徐々に小声になりながら君付けで俺を呼んだ。年下とは言え、男を呼び捨てで呼ぶのは抵抗があるのかもしれない。

 目に付いた店を回ってから洒落たイタリアンの店で昼食を取り、エレカで町外れに向った。

 モウサの内部はコロニーのように外壁を一周することが出来るので、地図には何も書いていない地域を通ってターミナルに出るはずだ。今日はターミナルから町に出たが、反対側には居住地があるのでドライブがてら見学をさせてもらおう。

 

 途中でエレカの運転を教えてもらった。昔試乗車で乗った電気自動車と同じような感じだが、色々な安全装置がついているので機能をカットしなければ事故はまず起きないだろう。標識も複雑な物はなく、交通ルールも面倒な物は無いのですぐに覚えられそうだ。コロニーはどこも共通らしいが、地球がどうかはティナも知らないらしい。ガソリン車が残っていたりはするのだろうか?

 

 町を抜けると、壁が見える辺りまで地面や床が丸見えになっている。町では空を映していた天井も、金属がむき出しの場所があって余計に殺風景に見える。徐々に開発されるのだろうが、この風景を見続けるのは精神衛生上良くないと思う。

 ゆっくりと走っていると、通行止めの看板が目に入った。工事中でも無さそうだがなんだろう? 地図には何も書いていない。ティナを見ると不思議そうな顔をしているので、彼女にもわからないようだ。

 考えられるのは……高級住宅地か? そう言えば、ゼナたちの屋敷がモウサのどこにあるのかを聞いてないのでありえる。隠しカメラで見られているかもしれないので、あんまりウロウロしないで引き返すべきだろう。

 

「ティナさん、引き返しましょう。工事中だったりすると危ないかもしれません。」

「はい、そうで……そうだね。もしかするとターミナルにお知らせかなにか有ったのかもね。」

「そうかもしれませんね。まあ、ドライブをしたと思いましょう。」

 

 エレカをUターンさせて来た道を引き返し始めると、町の方から走ってきた黒塗りの大型セダンとすれ違った。いかにも高級車っぽいのでお偉方が乗っていたのだろうか? 提督が乗っていたのかもしれない。

 町を抜けてターミナルを突っ切り、そこから居住地まで足を伸ばした。新築と思われるマンションやアパートが何棟も並び、町と同じように明るい表情をした人々の姿が見える。流石に話しかけてアクシズでの暮らしはどうかと聞くのは抵抗があるが、様子を見る限りは問題無さそうだ。

 

「綺麗な町並みだね。こうして見ていると、ここにずっと暮らすのもよさそう。父と母も呼ぼうかな?」

「それはいいかも知れませんね。今はどちらに?」

「引っ越していなければ、故郷の11バンチに。でも……父は整備士としてソロモンに行ったので……。」

 

 そう言ってティナは悲しそうな表情を浮かべた。家族のことを話題にするのは避けていたが、つい聞いてしまった。父親がソロモンに行ったのは知らなかったが、無事だったのだろうか? アクシズに到着した後に、本国へ名簿が送られているはずなので連絡があるだろう。

 こんな時、下手に慰めの言葉を言うのはあまり良くないだろう。タイミング良くアイスクリームの屋台を見つけたので、エレカを止めて買いティナに手渡した。女性には甘い物、というのが数少ない恋愛経験で得た知恵だ。

 うっすらと涙を浮かべていたティナだが、食べ始めると徐々に表情が明るくなってきた。俺も自分の分を買って食べて見たがこれは思ったより美味く、俺も表情が緩む。おそらく牛乳ではなくそれっぽい物が材料なのだろうが、美味いので気にすることはないか。

 

 

 夕食を共にしてからアクシズへと戻る。二人分の荷物を持ち、女性用の居住地の入り口までティナを送ることにした。私服で軍の施設の中を歩くことになるが、工場区画では民間人も働いているので、軍人以外立ち入り禁止の区画以外では問題はない。

 とは言え、男女が一緒に歩いていると目に付くのは当たり前で、すれ違う人たちにジロジロ見られるのは居心地が悪い。知り合いに見られると冷やかされそうだが、運良く誰にも見付からずに到着した。

 女性用の居住地は住民の許可を得ないと男性は入れないので、荷物はここで渡そうか? 俺がそう言おうと思ったら、ティナが先に口を開いた。

 

「こんなに楽しかったのは何年ぶりだったかな? 今日は誘ってくれてありがとう。また誘ってね。」

 

 ティナは俺から荷物を受け取り、手を振りながら居住区へ入って行った。彼女が角で曲がって見えなくなるまで手を振り、部屋に戻る道を歩き出す。一度部屋に戻り、着換えてからシャアへ報告に行くことにしよう。

 

 

 シャアへ町の様子を報告すると、納得したように頷くのが見えた。

 

「提督にアクシズの市民は現状で満足していると言われていたが、どうやらそのようだな。民意を得られないのでは、クーデターを成功させるのは難しいだろう。それを理解できる急進派の者は説得も可能だろうな。」

 

 シャアは顎に手を当て、俺に聞かせると言うよりは考えを纏めるようにつぶやいた。軽く息を吐いてから、明日の予定を話し出す。

 昼は自由でいいが、夜は提督主催の年越しパーティーがあるので一緒に出席するように言われた。スーツを買ってこなかったので冷や汗をかいたが、軍服でいいと言われたので一安心した。特に準備する物などもないので、時間にだけ気をつければいい。

 それ以外は自由でいいと言われたので、ゼロ・ジ・アールの調整作業に向うことにした。回りはエンツォ派の人間ばかりの可能性があるので気が抜けないが、久々のモビルアーマーなので楽しみでもある。

 急に動こうとしても勘ぐられてしまうので、まずは場の雰囲気を掴むところからかな。


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