授業が終わり、帰り支度をしてると高城が話しかけてきた。
「一之瀬さん、この後お暇ですか?」
「悪い。この後、乙坂たちの引っ越しの手伝いに行く予定なんだ」
「それは奇遇ですね。私たちも引越しの手伝いに行くんで」
いつの間にか、俺の背後に居た友利が俺の襟を掴む。
「と言う訳で、全員で行くっすよ」
「別に逃げないから、襟を離せ」
三人で、マンションへと向かい乙坂たちがこれから住む部屋へと向かう。
友利は、何食わぬ顔で扉を開けようとする。
「待て、友利。断りもなしに入るな」
「別にいいっしょ」
「ダメだ」
そう言い、インターホンを押す。
「どちらさまでしょうかぁ?」
この声は歩未ちゃんか。
「こんにちは。一之瀬だけど、手伝いに来たよ」
そう言うと、扉の向こう側からドタドタを走ってくる音が聞こえ、扉が勢いよく空いた。
「響お兄ちゃん!」
歩未ちゃんが勢いよく飛び出し、そして、俺の腹部目掛けて頭突きを繰り出した。
「ぐふっ!」
鳩尾にいい一撃を貰い、口から何かが出そうになるが、それを我慢し、受け止める。
「昨日ぶりだね。でも、頭突きは危ないから今度からは止めて」
「わかりましたのですぅ」
「よし、良い子だ」
そう言って、頭を撫でると昨日みたいに目を細めて喜ぶ。
「どうやら、乙坂さんの妹さんと、仲良くなってみたいですね」
「ああ、昨日乙坂の家に行った時にな」
歩未ちゃんの頭を撫でながら、答えると友利が携帯を取り出し、何処かに電話駆け出した。
「すみません、警察ですか?目の前に、ロリコン犯罪者が居るんですが」
「ちょっと待て!」
「響お兄ちゃん、ロリコンって何かのコンテスト?」
「歩未ちゃんは知らなくていいからね!」
「すみません、ロリコンじゃなくてペドフェリアでした」
「友利さぁぁぁぁぁぁぁん!!」
必死に友利に言い訳をし、事情を説明すると、「わかりました」っと言って、舌打ちをし、女の子がしてはいけない顔をして、不機嫌となった。
俺が何をした?
高城はと言うと「女心が分からに人ですね」っと言ってたが、意味が分からん。
「一之瀬………と、お前たちも来たのかよ」
「二人だけじゃ大変でしょ?お手伝いに来ました」
「自己紹介がまだでしたね、私は高城。彼女は友利さんです」
「一之瀬はともかく、お前たち二人は余計なお世話だ」
「響には随分優しいっすね。ホモですか?」
「違う!(………言われてみれば、どうして僕は一之瀬に対してここまで友好的なんだ?)」
「人手は多い方がいいだろ。さっさと引っ越しを終わらせようぜ」
「では、手分けして始めましょう」
「はい」
高城が上着を脱ぎ、放り投げるといつの間にか割烹着に着替えており、俺と乙坂は思わず驚いた。
引っ越しは順調に終わりに向かい、途中、友利が能力で歩未ちゃんを驚かせたり、乙坂の叔父さんからのお祝いの品が金さんラーメンだったり、歩未ちゃんが必要以上にスキンシップしてきたり、そのたびに、友利が携帯で警察に連絡しようとしたり、舌打ちしたり、不機嫌になったり、してはいけない顔をしたりと色々あった。
本当に色々あったが、とにかく終わった。
「では、我々はこれで失礼します」
高城が上着片手に、割烹着姿で言う。
着替えろよ。
「帰っちゃうの?晩御飯作るから、食べて行ってほしいのですぅ」
「五人分の食器が無い」
「といことらしいので」
歩未ちゃんは目に見えて落ち込んでる。
そんな歩未ちゃんの頭に手を置き、友利は優しい表情と瞳で話掛ける。
「大丈夫。また会えますから」
「……うん!」
友利の言葉に歩未ちゃんは笑顔になり、俺達を元気に見送ってくれた。
「意外だったな」
「何がですか?」
「歩未ちゃんが絡むと不機嫌だったから、てっきり年下は嫌いなんだと思ったが、そうじゃなかったんだな」
そう言うと、友利は無言になり、そして止まる。
そして、勢いよく振り返ると、俺の足の甲を踵で踏んづけた。
「あがっ!?」
「一回馬に蹴られて死んで来い、ガチで」
足を押さえて蹲る俺に冷たく吐き捨て、友利は去って行った。
「お、俺が何をしたって言うんだ…………」
「やれやれ、見ていて飽きないお二人です」
高城の言葉を聞き、俺は足の痛みに涙を流した。