Charlotte~君の為に……~   作:ほにゃー

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信頼できる人

「では、行きましょう」

 

翌日、午前の授業が終わると友利が俺達に近づいてそう言った。

 

「高城は行かないのか?」

 

「遠慮しておきます。三人に行って来て下さい」

 

高城を除く俺達三人は、電車を使い、友利の兄が居る場所へと向かった。

 

「お昼はまだですよね」

 

駅に着くなり、友利が聞いて来る。

 

「ああ」

 

「そのまま来たからな」

 

「なら、駅弁買いましょう」

 

そう言って友利は売店で駅弁を購入し、それを電車の中で食べていた。

 

いや、電車ってこれ普通の電車の中なんだが。

 

しかも、紐を引っ張って温めるタイプの弁当をこんな場所で食べるなよ。

 

他の乗客に迷惑だろ。

 

そう思いながら、横に座る友利を見る。

 

友利はそんなことも気にせず、もくもく弁当を食べている。

 

「あれ?それ食べないんですか?」

 

乙坂が買って手を付けてないサンドイッチにまで手を出すか。

 

乙坂が電車を降りてから食べるように説得し、友利は乙坂のサンドイッチをバス停でバスを待っている時に食べていた。

 

どんだけ食えばいいんだよ。

 

さっき、俺の買ったおにぎりも食ってたよな。

 

そう思ってるうちにバスが到着し、乗り込んでから数分後に、友利がお兄さんの事を離し始めた。

 

「兄が特殊能力者になったのは、私が受験で国立の附属中に合格した時の事です。うちは母子家庭でしたので、国立を受けたのも家計の為でした。兄はバンドやっていて、レコード会社と契約する寸前でした。ですが、兄はレコード会社と契約できず、私も進学が出来ませんでした」

 

俺と乙坂は同時に息を飲んだ。

 

「私と兄が寮がある学校から入学の誘いが来たんです。母は、そっちの方を私たちに勧めてきたんです。兄は、猛反対してました。ですが、母が土下座をしてまで行ってくれと言ったんです。初めてでした、母が土下座をする姿なんて」

 

俺達は何も言わずにただ友利の話を聞いていた。

 

「そこは見かけは学校で、友達もすぐにできました。ですが、毎日学校が終われば健康診断みたいなものを受けさせられ、兄とは同じ学校なのに会えない。兄を探そうとすると、決まって友達がそれを止めようとした。兄はその間ずっと、科学者たちの実験体にされてました。兄の能力は空気を自由に振動させる能力。その能力でギターの音を様々な音色に変えていたことから、科学者に発見された。その能力を解析すれば、通信をジャミングできるし、電波ジャックも可能と科学者は考えた。兄と会えたのは約一年後。兄は………もうかつての兄ではなかった。私を妹と認識することさえできなかった。友達と思ってた人達も、用意された仮初の友達。私が放課後毎日検査を受けていたのは兄妹だと、能力を発現する可能性が高いから。もう誰も信じないと心に決め、その施設から兄と一緒に逃げ出しました」

 

「……その後、どうしたんだ?」

 

「唯一信頼できる人と出会い、助けられました」

 

「その人は「あ、次降ります」

 

信頼できる人が誰なのかを聞けず、俺達は次のバス停で降りた。

 

そこは、病院だった。

 

長い階段を上り、病院へ着くと、友利は面会の手続きをし、俺達をお兄さんのいる病室へと案内した。

 

そして、友利が扉を開けた瞬間、俺と乙坂はその光景に思わず目を見開き、固まった。

 

友利のお兄さんは発狂し、羽毛布団を引き裂いて中身を部屋中にばら撒いていた。

 

「こ、これは………」

 

「また鎮静剤が切れてる」

 

友利は分かり切ったような様子で、ナースコールをし、近くの椅子に座った。

 

「………友利、お前のお兄さんは一体何をしてるんだ?」

 

恐る恐る友利に尋ねると、友利はいつものように答えた。

 

「作曲です。兄はこれで、ギターを弾いてるつもりなんです。唸って聞こえるのは主旋律。メロディーなんです」

 

そうしてる間、看護師さんが慌ててやって来て鎮静剤を打った。

 

その様子を見て友利は

 

「あ~あ………また布団がダメになった」

 

小さく、そして、悲しそうにそう呟いた。

 

鎮静剤を打たれ、友利のお兄さんは落ち着き出し、そして、暴れるのを止めた。

 

だが、その様子はまるで魂がなく、ただの抜け殻のような感じだった。

 

「外に行きませんか?今の時間、ちょうど絶景ですよ」

 

お兄さんを車いすに乗せ、外に出て、友利の案内で移動する。

 

着いた場所の絶景に俺と乙坂は思わず息を飲んだ。

 

「凄いっしょ?」

 

「……凄い」

 

「……ああ、絶景だな」

 

夕日に照らされ海面が美しく輝いていた。

 

ありきたりな表現だが、その表現が最もしっくりくるぐらいに絶景だった。

 

「こんな特別な環境……一体どうやって?」

 

「唯一信頼できる人のお陰です。一番美しい景色の病院に無償で入れてくれました」

 

「そこまでしてくれる人がいるのか……」

 

「………はぁ……やっぱり興味を示さないか」

 

「でも、もしかしたらもうすぐ特効薬ができるかも」

 

「こんな患者を救う研究なんて、どこもしてませんよ。科学者にとって、私たちは乾電池と同じ。能力が使えなくなったら別の能力者で実験する。元能力者を助けるメリットはない。………………私たちも明日はどうなってるかは分かりません」

 

「怖いことを「乙坂」

 

俺は乙坂の肩を掴み、首を横に振る。

 

俺が何を言いたいのかを察し、黙り込んだ。

 

「…………すまない」

 

「………そろそろ帰りましょう」

 

帰りのバスの中。

 

俺たちの間に、言葉は無かった。

 

心なしか、行きの時よりの俺達の距離は開いていた。

 

「…………大変だったんだな」

 

「同情っすか?止めて下さいよ、カンニング魔のくせに」

 

乙坂らしくもない発言に、俺は少し驚きつつも何も言わず外を見続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自室へと帰り、簡単な夕飯を食べた後、俺はベランダから星空を眺めた。

 

友利があの時言った布団がダメになったって言葉。

 

口では、ああは言っても、きっとお兄さんが回復することを信じてるんだろうな。

 

「…………今の俺がアイツにしてやれることってなんだろうな」

 

そう呟き、俺は空を眺める。

 

綺麗だな…………

 

そう思った時、俺は部屋を出て屋上へと上がった。

 

指先の感覚を強化し、屋上へと繋がる扉の鍵を開ける。

 

屋上へと出ると、夜風が顔を撫でる。

 

見ると、屋上には先客が居た。

 

そして、その先客は俺の知ってる奴だった。

 

「友利、何してるんだ?」

 

「その言葉そっくりそのままお返しします。貴方こそ、ここで何を?」

 

「星空が綺麗だったから、屋上から観ようと思っただけだ」

 

「私も似たようなもんです」

 

会話がそこで途切れ、二人で黙ったまま星空を見上げる。

 

「………少しだけ、期待していたんです」

 

「え?」

 

「………兄が、昔みたいに笑うのを。毎回、兄の面会に行くたびに、もしかしたら症状が良くなっているかもと。僅かながら期待している自分が居るんです」

 

やっぱり、友利はお兄さんの事を諦めきれていないんだ。

 

「馬鹿みたいですよね」

 

「………泣けとまでは言わねぇよ」

 

そう言って、俺は友利の頭に手を置く。

 

「お前は強い奴だからな。人前で泣くなんてことはしないだろうがよ、辛けりゃ言葉にしてもいいんだぜ。言葉を聞いて受け止めてやるぐらいなら、俺でもできるからよ」

 

柄にもないことを言って少々恥ずかしくなり、頭を掻きながら誤魔化す。

 

すると、友利が正面から抱き付いて来た。

 

「お、おい!?」

 

「すみません………少し、こうさせてください」

 

声が僅かに震えているのが分かり、俺は黙って抱き付かれたままでいた。

 

暫くすると、友利は顔を僅かに赤くして離れた。

 

「ありがとうございます……少し落ち着けました」

 

「そうかい。そりゃ、良かったな」

 

行き成り大胆な行動に驚きしたが、友利の為になったなら良かった。

 

「帰りましょう。もう遅いですし」

 

「ああ、そうだな」

 

屋上の扉を閉め、友利と降りる。

 

「なぁ」

 

「はい?」

 

「これからも、頑張って行こうぜ、奈緒(・・)

 

俺が下の名前で呼ぶと奈緒は一瞬驚いた表情をするが、すぐ笑顔になった。

 

「………当たり前ですよ」

 

その笑顔を見て、俺は思った。

 

今はまだ、こいつの役には立てないかもしれないが、いつか絶対に役に立てる存在になる。

 

少なくとも、奈緒が言ってた唯一信頼できる人ぐらいにはな。

 




これで友利は完全に落ちたと思います。

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