食料の調達が終わり、俺達はタクシーを使って例の山へときた。
「私と黒羽さんで食糧を運ぶので、男子はテントとバーベキューコンロを運んでください」
「え!?テントってことは、泊まり!?」
「能力者が出るまで張り続けるって言ってただろ。その時点で、泊まりになるってことぐらい考えろ」
乙坂にそう言いつつ、俺はテントの入った袋を持ち上げる。
「あの~、着替えとか無いんですけど~」
「別に着替えなくても死にはしませんから」
確かにそうだが、女としてそれはどうなんだ?
終わってないか?
「さぁ、行きましょう」
山道を歩き続け、オカルト誌にあった場所と同じ場所に着いた。
雑誌の写真を比較した限り、ここで間違いないだろ。
「暗くなる前にテント張るか」
袋からテントを取り出し、適当な場所で張る。
「あ、そこ危ないですよ」
適当な場所を探しつつ、テントを広げてると奈緒がそう言って来た。
次の瞬間、乙坂が急に、しゃがみこんだ。
「乙坂、どうした?」
「ふ、古井戸があった………」
なるほど古井戸に落ちたのか。
「奈緒、お前知ってたなら事前に言っておけよ」
「いや、落ちたら落ちたで面白いと思いまして」
「命に係わる冗談は止めてくれ………もっと向うの方で張るぞ」
「了解です」
「穴は責任持って私が塞いでおきますのでご安心を」
どうやって塞ぐ気だ?
正直不安しかない。
奈緒の事は信じているが、こう言うことに関しては不安しかない。
テントを張り終え、夕食の準備をする。
炭に美沙が発火の能力で火を付け、準備は終了。
「便利だなー」
「ライター代わりに使いやがって、なんてセンスの無さだ!」
そう言う美沙をスルーし、奈緒はトウモロコシを焼き始める。
焼けたトウモロコシに醤油を掛けると勢いよく煙が昇った。
「目立ち過ぎだろ」
乙坂の言う通りだが、奈緒はああ見えて計算高い人間だ。
無策に、目立つ真似はしないだろう。
「焼きトウモロコシさいこー!まぁまぁ、皆さんもどうぞー」
奈緒が焼きトウモロコシを頬張りながら言う。
「チッ!ここは譲るか…………あれ?」
美沙が柚咲に体を返すと、高城が素早く柚咲に焼きトウモロコシを差し出す。
「どうぞ!焼きトウモロコシです!」
「わぁ~!ありがとうございます!わぁ~これおいしぃ~!」
「でしょでしょ~!!焼きトウモロコシなら任せてくださいよー!あとはー肉肉ぅ~!」
「野菜も食えよ」
奈緒が肉を焼いて行く中、乙坂は買って来た野菜を焼いて行く。
「スペアリブ、うんまっ!」
「ウィンナーのパキっと噛んだ時のジューシー感!!」
肉のうまさに、奈緒と高城が歓声を上げる。
「肉だけじゃなく、野菜もはさんで食べろ~」
乙坂は人参を焼きながらぼやく。
その様子を見ながら俺は獅子唐を齧る。
「ほわ!このお肉おいしい~!」
「タレもいいっしょ!」
「結局野菜食ってんの僕と一之瀬だけじゃないか」
肉だけしか食べてないってどんだけ偏食家なんだ………
そう思った時、柚咲の口元にタレが付いてるのに気付いた。
「柚咲、口にタレが付いてるぞ」
「ふぇ?本当ですか?」
そう言って、たれを拭おうとするが見当違いの所を拭っていた。
「ここだ、ここ」
そう言い、口元のタレ指で取る。
ティッシュは……………無いから舐めるか。
「ふぁ!?」
「なああああ!!」
指に付いたタレを舐めると、柚咲と高城が声を上げた。
「どうした?」
「一之瀬、お前がしたことを考えて見ろ」
えっと、柚咲の口元に付いたタレを指で拭いて、それを舐めた。
そこで、俺は自分がした行いの重大さに付いた。
多分、拭いたときに柚咲の唇に指が僅かに触れたと思う。
いや、触れただろう。
で、俺はその指を舐めた。
言い換えれば、柚咲と間接キスしたことになる。
「あ、柚咲、悪い!全く気付かなかった!」
「い、いえ!全然平気ですよ!」
そう言うが、柚咲は顔を真っ赤にしていた。
「ゆさりんと……間接キス………許すまじ………」
高城は壊れてしまい、持っていた割り箸で地面を何度も突き刺す。
「ふんっ!」
奈緒は俺の足の甲を踏み、更に脛を蹴り飛ばしてきた。
「イッテェェェェェェェ!!?」
俺は脛と足の甲を押さえ蹲る。
「な、何するんだよ!?」
「貴方のデリカシーの無さにイラッと来ました」
確かにデリカシーが無かったとは思うが、だからてこれはあんまりだ!
そして、乙坂はというと
「騒がしい奴等だ」
そう呟き、獅子唐を齧っていた。
夜になり、全員が思い思いの方法で過ごしていた。
俺はというと、皆から少し離れた所に居た。
「………綺麗な星空だな」
そう呟き、俺はデジカメを夜景モードにし、星空を撮る。
いい一枚だ。
「一之瀬、何してるんだ?」
「乙坂こそ、ここに何の用だ?」
「いや、さっきまで友利と話しててその帰りにお前を見かけたからちょっとな」
「そうか。俺は星空撮ってたんだよ、綺麗だったからな」
「星空を?」
乙坂はそう言い、上を見上げる。
「……確かに綺麗だな」
そう呟き、乙坂はずっと星空を見ていた。
俺も乙坂と同じように星空を眺め続けた。
「なぁ、一之瀬は夢とかあるか?」
「急にどうした?」
「いや、さっき友利と話してて、アイツ、いつかZHIENDのPVを撮るのが夢だって言ってたから。お前もあるのかなって」
「そうだな…………夢か」
夢と言う言葉を聞いて、少し考える。
「強いて言うならコイツだな」
そう言って、俺はデジカメを見せるように言う。
「デジカメ?」
「話せば長いんだが、簡単に言うとこのデジカメは俺の恩師がくれた物なんだ。そして、その人が俺に行ったんだよ。いつかこのカメラで撮った俺が辿った人生を見せてくれって。だから、いつか見せるんだよ。俺の
「………そうか」
「ああ、だから、お前の写真も撮らせてもらうぞ」
「へ?」
そう言って、俺はマヌケ面してる乙坂の顔を撮る。
「あ!?お前何撮ってるんだよ!」
「素晴らしいマヌケ面ありがとう!」
「その写真消しやがれ!」
暫くの間、俺と乙坂の騒がしい声がその辺りに響き、そして、奈緒に「うるさい」って言葉と共に拳をもらった。
就寝時間になると、奈緒は二手に分かれて監視をすると言った。
最初に俺達男子が四時間寝て女子と交代する。
テントに入り込み、寝る準備をしようとすると、乙坂が音楽プレイヤーを取り出した。
その音楽プレイヤーに俺は見覚えがあった。
「乙坂、それ奈緒のじゃないか?」
「ああ。なんかくれた」
へぇ~、音楽プレイヤーごとやるなんて豪快だな。
そう思い、俺は目を閉じた。
意外にも睡魔はその直後にすぐ来た。
そして、またあの女性の夢を見た。
目が覚めたら丁度四時間経った後だったので、俺は乙坂と高城の二人を起こし、奈緒たちと交代した。
またあの人の夢か。
泣きじゃくる俺を優しく抱きしめ優しい言葉を掛けてくれる女性。
とても暖かい夢だったな……………