Charlotte~君の為に……~   作:ほにゃー

24 / 51
スカイハイ斎藤

「うおっ!ニジマス!ニジマス釣れた!」

 

「くそっ!それよりデカイの釣ってやる!マスだ!マス来い!」

 

「私も負けません!」

 

何というか、皆はしゃいでるな~。

 

そう思いながら、俺は釣り針に新しい餌を付け、川に放る。

 

張り込み二日目。

 

今日は食材調達と言うことで近くの川まで行き魚を釣ってる。

 

魚を釣るのはいいんだが、さっきから背後で俺達を見ている奴が気になるな。

 

奈緒が何も言わないし、俺も無視するか。

 

「お!俺も釣れた」

 

釣れた魚は内臓を取り除いて、塩を振って焼く。

 

「ニジマス美味いなー!」

 

「ゆさりんさん!これ、いい感じに焼けました!」

 

「ゆさりんじゃねえよ!」

 

「うわぁあ!?」

 

「でも、柚咲に譲るか…………あれ?」

 

美沙から柚咲に変わり、そこに高城が焼き魚を差し出す。

 

「これ、私が食べてもいいんですか?」

 

「はい!」

 

「ありがとうございますぅ!」

 

何というか、これ張り込みって言うかただのキャンプだよな。

 

そう思いながら、俺も焼き魚に齧り付く。

 

うん、うまい。

 

「あの~、今日もお泊りですか?」

 

「はい。何か問題でも?」

 

「お風呂に入りたいな~っと思いまして」

 

「大丈夫です。用意してあります」

 

そう言い、奈緒は柚咲を連れて何処かに行く。

 

数分経つと奈緒だけが戻ってきた。

 

「風呂が用意してあるのか?」

 

「女性専用です。男子は川で体を洗ってください」

 

この時期、夜中に川で水浴びはキツイと思うぞ。

 

まぁ、女性が入った後のお湯に入るのもアレだし仕方がないか。

 

「うわあああああああ!!!ゆさりんの入った後のお湯に入れないなんて~!!」

 

「引くな!!」

 

それは流石に引くし、キモイ。

 

夜になり、俺達男子三人は川で水浴びをしていた。

 

水を浴びていると乙坂が高城の方を見ながら一言言った。

 

「お前………着痩せするんだな」

 

乙坂の言う通り、高城の服の下はかなり筋肉が付いていて、かなり強そうに見えた。

 

「私の能力上、体を鍛えるしかなかったのです。いくら防具を着ていても、やはり怪我をしない肉体改造が必要でしたので」

 

高城の言い分には納得だ。

 

俺も不良狩りをしていたころは、能力で力を強化出来ても、それを使いこなす技術が必要だったからな。

 

「能力を使いこなすために、そんなことまで」

 

「はい。でも他人ごとではないかもしれませんよ」

 

「あなたももしかしたらこの先自分でも予想できないような試練が待っているかもしれない…という意味です」

 

「はっ、他人に五秒しか乗り移れない能力で何が出来るってんだ」

 

「それはあなたが…」

 

そこで高城は言葉を噤み、黙る。

 

「なんだよ?」

 

「………いえ、それだけ甘いマスクを持ってるなら、女性関係で苦労しそうですねっと思ったのですが、言うのが癪になっただけです」

 

「全くだ。この能力のおかげで才色兼備な女性振られたばっかりだ」

 

「賢明です。恋や愛だとかはこの能力を失って自由になってから築くべきです」

 

「具体的には何歳になったら消えるんだ?」

 

「高校を卒業する頃には消えているでしょう」

 

「あと二年か…長いな」

 

「はい……我々には長い時間です。………にしても冷たすぎ」

 

高城がくしゃみを一つするのを聞きながら、俺は思った。

 

二年間。

 

その二年が経つまでに俺達は生きているのか?

 

学園は能力者を守っていてくれるが、それも完璧じゃないはずだ。

 

もし、研究者たちが強硬手段、例えば武力を使って学園を襲ったり、学外で生徒を連れ去ったりするかもしれない。

 

とくに俺達生徒会は、能力者の確保の為、学外で能力を使用することもある。

 

一番危険なのは俺達、星ノ海学園の生徒会なのかもしれない。

 

入浴及び水浴びが終わると、昨日と同様に交代制で睡眠をとることになった。

 

「明日は月曜だぞ。そのまま登校するのか?」

 

「だから言ってるっしょ。現れるまで張り続けるって」

 

「それじゃあ、まるで住み着いてるみたいじゃないか?」

 

「それが狙いなんっすよ。それに、授業を休んだことで私たちの内申に影響はありません」

 

「もしそうだとしても、家に帰りたい。妹がいるんだ」

 

「そんなこと分かってますよ」

 

「だったら一旦帰らしてくれ、すぐ戻るから」

 

「ダメです。それを許可したら、他の皆もそれをしてしまいます。それに、大丈夫だと思いますよ。明日には決着が着くと思いますんで」

 

そのことの意味が分からないまま、俺達はテントに入り交代の時間まで眠ることにした。

 

翌朝の朝飯は焼きトウモロコシだった。

 

朝から焼きトウモロコシって、そんだけ奈緒の奴焼きトウモロコシ好きなんだよ。

 

「あのー」

 

誰かから呼びかけられ声がした方を向くと、上を走る山道にバンダナを巻いた男が居た。

 

「貴方たちはここで何をしているんでしょう?」

 

まさか、本当に現れるとはな。

 

いや、まだコイツが能力者である確証はない。

 

ここは慎重に行かないと。

 

「いやー、今家出中なんですよ皆。理由は様々ですが意気投合しましてー。はっはっは!」

 

相変わらず棒読みな言い訳だ。

 

「ずっとここに居続ける…と、いうことでいいでしょうか?」

 

「はい。ここだとばれませんからー!」

 

「でも僕にばれてしまいましたね。親御さんも心配しているでしょう」

 

男は携帯を取り出し、警察へ連絡しようとする。

 

「警察を呼んだら貴方も捕まりますよ」

 

「なっ!どうして!?」

 

「ここ、私有地っすから」

 

「「「「ええ!?」」」」

 

私有地であったことに俺達は驚きを隠せず声を上げる。

 

「それと、これは貴方ですよね」

 

そう言い、奈緒がこの前のオカルト誌の写真を男に見せる。

 

「なんですかそれは?」

 

「貴方が飛ぶための練習しているスクープ写真です」

 

「飛ぶって」

 

「ここは都内で近いしあなたにとって好都合な山だった。けど私たちが居ついて一向に帰る気配がない。だから焦れたあなたはこうして姿を現した。私たちを追い払ってまた空を飛ぶ練習をするために。そうですよね?」

 

「飛べるわけないし、頭おかしいだろ。警察を呼んでおく」

 

「ならどうしてこんな山に来たんだ?」

 

俺は男にそう呼びかける。

 

「栗を拾いに来たんだ」

 

「今の時期、栗は無いぞ」

 

てか、まだ七月に入る前だぞ。

 

普通に考えて栗が落ちてる訳がない。

 

もっとマシな嘘を考えろよ。

 

「それに、すでにこの時間にあなたがいた証拠これで撮っちゃったんですけど~」

 

奈緒があざとく言う。

 

それに男はイラつき、俺達の方へ向かってくる。

 

「厄介なことを!よこせ、消す!」

 

男は飛び降り、地面に降り立つ。

 

しかし、地面には降り立てず、そのまま地面の中へと落ちた。

 

確かあの辺は、古井戸があったはず。

 

「しゃ!」

 

「まさか古井戸を落とし穴に!?」

 

驚愕してると、古井戸から男が勢いよく飛び上がり、俺達の前へと降り立つ。

 

その様子を奈緒はしっかりとビデオカメラで撮っていた。

 

「そりゃ底知れぬ穴に落ちたら能力使って飛びますよね~。ま、クッション用に枯草入れといたんですけど、お陰で凄いスクープ映像が撮れました」

 

「私たちにも教えていないトラップがあったとは………悪魔の様な人だ」

 

高城の言う通りだが、お陰でこの男が能力者である証拠は撮れた。

 

後は脅して能力の使用を止めさせれば

 

「そいつをよこせ!」

 

すると、男は奈緒の手からビデオカメラを奪おうと奈緒に襲い掛かる。

 

奈緒は取られまいと必死に抵抗する。

 

「乙坂!早く乗り移れ!」

 

「その間に瞬間移動で倒します!」

 

「でも、あれ痛いんだが………」

 

乙坂が躊躇っていると男は奈緒の手からビデオカメラを奪い取っていた。

 

「貰った!」

 

ビデオカメラを手に男は空高く飛び上がった。

 

空中浮遊って言うか、跳躍の方がいいんじゃないか?

 

「くそっ!やるしかないのか!」

 

乙坂がそう言うと、乙坂の体から力が抜け地面に倒れる。

 

まさか乗り移ったのか?

 

まてよ、それってつまり…………

 

空を見上げると再起ほどの男が落下していた。

 

やっぱ落ちてやがる!

 

奈緒が走り出し、落下地点へと急ぐ。

 

だが、向うの方が早く落ちる。

 

間に合わない!

 

「止まれ――――――――!!」

 

男(乙坂)がそう叫んだ。

 

すると、急に落下がするのが止まり、そして、木と同じ位の高さから落下した。

 

「はっ!」

 

そこで乙坂が目を覚ます。

 

「無謀な賭けに出ましたね」

 

「こんなことなら、さっさと乗り移ってればよかった」

 

まさか、能力者に乗り移るとその能力者の能力が使えるとは驚きだ。

 

全員で男が落ちた場所へと行くと、男は地面に仰向けの体制で倒れていた。

 

「なんなんだ……何が起きたんだ一体………」

 

どうやら無事みたいだ。

 

「打撲か骨折か。まぁ、結果オーライです。ビデオカメラも無事ですし、よかったですね」

 

「お前……何者なんだよ………」

 

「俺達もアンタと同じ特殊能力を持ってる奴だ。だが、この能力は思春期の病の様なもの。いずれは消えて無くなる」

 

「でも能力を知られたら科学者たちのモルモットになります。それは嫌ですよね?」

 

「くっ…」

 

男は視線を逸らす。

 

「では飛んでいるときに能力が消えたらどうします?転落死しますよ?命まで懸けてやることですか?」

 

そう言っても男は何も言わず俺達から目を逸らす。

 

「美沙さん、お願いします」

 

そう言うと美沙が一歩前に出て手の平から炎を出す。

 

「そうか…僕にだけ与えられた能力だと思っていた。ほかにもいたのか…」

 

男は体をゆっくりと起こし、空を仰ぎ見る。

 

「…いつかは空を自由に飛べるようになって、スカイハイ斉藤の名で、ハリウッドスターになろうと夢見ていたのに」

 

スカイハイ斎藤ってダサいな。

 

「その気持ちもわかりますが、あなた自身のためにその能力は今後使わないでください」

 

「…分かった」

 

男もとい斎藤は悲しそうにそう言った。

 

だが、これにて一件落着か。

 

「無事終わりましたね」

 

「長かったな~」

 

「ああ。本当に長い一日だったよ」

 

本当にな。

 

心の中でそう呟き、俺は空を仰いだ。

 

本当に長かったな………………

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。