「…………ここは?」
意識が戻った時、俺の目の前に移ってたのは白い天井だった。
顔を横に動かすと、看護師が居た。
俺が起きてることに気付くと、慌てて何処かに行き、そして、医者を連れてきた。
「一之瀬さん!気分はどうですか?」
気分?
悪くはないが、体中が痛い。
どうしてこんなにも体が痛いんだ?
「俺は………どうして……ここに?」
「覚えてないんですか。貴方は、星ノ海学園中等部での崩落事故に巻き込まれたんです」
そうだ………確か、崩壊した瓦礫の校舎に向かった乙坂を連れだそうとして…………
そこまで考えた瞬間、俺はベッドから上半身を慌てて起こす。
その瞬間、強烈な痛みが体を襲う。
その痛みに耐えれず、体を抱えるようにして呻く。
「無茶しないで下さい!命に別条は無いとは言え、大怪我だったんですから」
「はぁ……はぁ……はぁ……乙坂は?乙坂は無事ですか?歩未ちゃんは?」
苦しそうに息をしながら尋ねる。
「乙坂さんの方は貴方が庇ったお陰で軽傷ですみました。ですが、妹さんの方は……………」
医者の表情が全てを語っていた。
歩未ちゃんは助からなかったんだ。
「…………そうですか」
その後、俺は暫くの間、検査の為に一週間ほど入院することになった。
乙坂は大丈夫だろうか?
たった一人の家族を失ったんだ。
家族を失う悲しみは良く分かる。
それから三日後、高城と柚咲の二人が見舞いに来た。
「二人とも久しぶりだな」
「ええ。一之瀬さんがご無事で何よりでした」
「早く良くなって学校に来てくださいね」
「ああ。…………なぁ、乙坂はあれからどうしてる?」
非常に聞きにくいことだが、気になったので聞いた。
「それが………妹さんの葬式の日以降一度も部屋から出てきていないんです」
「そうか……………アイツの気持も分からなくもない」
「私もお姉ちゃんが亡くなった時は、暫く塞ぎ込んじゃったので乙坂さんの気持ちは分かります」
此処にいる全員、乙坂には立ち直ってもらいたいと思ってる。
だが、今の乙坂には何を言っても無駄だ。
アイツ自身が立ち直ろうとしないと意味がない。
結局、どうする事も出来ないのか…………
「そう言えば、奈緒は?」
「友利さんですか?彼女は能力者関係で用事があるから暫く学校を休んでますが、態々休学届を出して休んでるんです」
「………そうか」
それだけ会話すると二人は帰って行った。
二人が帰った後、俺は携帯を手に携帯使用可のラウンジへ向かう。
掛ける相手は奈緒だ。
数コールすると、奈緒が電話口に出る。
『はい。友利です』
「奈緒、俺だ。乙坂なんだが、今近くに居るのか?」
『よく分かりましたね。今、彼の近くに居ます』
やっぱりか。
いくらなんでもこのタイミングで能力者を保護しに行くとは考えにくい。
それに、生徒会活動なら授業をさぼっても内申に影響は出ないのにも関わらず、休学届を出し、さらに、奈緒は歩未ちゃんの事で責任感を感じてる。
だから、乙坂の近くにいると思ったが正解だったか。
『……………今から言う所に来て貰えますか?』
「え?」
『私の勘ですが、彼を救えるのは貴方だけだと思います』
「………分かった。救えるかは分からないが、行く」
『ありがとうございます』
俺は病室に戻ると点滴の針を引っこ抜き、高城達が持ってきてくれた制服に着替え、病室を後にした。
電車に乗り数十分後、ある駅に着いた。
「お待ちしてました」
駅では奈緒が出迎えてくれた。
「乙坂は?」
「こちらです」
そう言って案内されたのは、ゲーセンだった。
「ゲーセン?」
「彼はここ最近、毎日ネットカフェで寝起きし、食事はピザとみたらし団子のみ。ここのゲーセンのシューティングゲームで遊ぶのが日課になってます」
「食事がピザとみたらし団子だけって、そんなの体に良くないだろ
「ええ。それでサラダを差し入れたんですが、手つかずです。おそらく、…………今の彼に何を言っても無駄です。暫くは見守るべきです」
「ああ、賛成だ」
頷きながら、俺は狂ったような笑みを浮かべてゲームを楽しむ乙坂を見続けた。
このままだと、アイツは壊れちまう。