翌朝、乙坂の学園復帰の日、俺は乙坂家の前で乙坂が来るのを待っていた。
ドアを開け出てきた乙坂の顔にはシップやガーゼが貼ってある。
それは俺も同じだった。
「よぉ」
「ああ」
それっきり互いに無言になり、互いの顔を見つめる。
「ぷっ……!」
「くっ……!」
「はははははははははっ!!」
「はははははははははっ!!」
そして、同時に笑い出した。
「乙坂、お前の顔ヒデェーな!」
「一之瀬こそ、ヒデェー顔だぞ!」
笑い合いながら俺と乙坂は学校へと向かった。
「あ、乙坂さん!お帰りなさってはわわわわわ!!?どうしたんですか?その顔って響さんも怪我してますぅ!!!?」
登校した俺達の顔を見て柚咲が驚き慌てる。
高城の顔を見ると、分かってますよと言いたげな目をしていた。
俺と乙坂は顔を見合わせて同時に言い訳をする。
「「野球勝負で喧嘩になった」」
「野球で喧嘩ですか!?」
柚咲ってもしかしてツッコミの才能でもあるのか?
「お帰りなさいませ」
そんな中、高城は乙坂にそう声を掛けた。
「ああ、長い間迷惑を掛けた…なっ!?」
乙坂の声が急に変になり周りを見てみると、クラスの男子共が乙坂を妬むような目で見ていた。
柚咲の奴に心配されて羨ましいのかよ。
アイドルってスゲェー。
「謝られることじゃないですよ」
「そうですよ。これで、生徒会皆が揃いましたね!」
俺達生徒会メンバーがこうしてるのにも関わらず、奈緒は一人席でビデオカメラを弄ってた。
「では、復帰のお祝いに乙坂さんにはこのおまじない!」
「まさか!」
柚咲のおまじない発言に高城だけでなく、男子たちが立ち上がる。
「だぁいじょうぶ!結果は忘れはだぁいじょうぶのおまじない!」
「出た―――――!!記念すべきゆさりんのおまじないシリーズ!ナンバ―――――――1!大丈夫のおまじない!」
高城は何処から出したのか分からないハッピを着て怪しげな踊りを踊る。
そして、高城だけでなく他の男子もハッピを着て一糸乱れぬ踊りを踊る。
「ムブ朝初登場の日に思い付きで占いコーナーを丸潰しにしたいわくつきのおまじない!」
それダメじゃね?
「引くな!」
高城の話を聞いていた奈緒が叫ぶ。
「あ、ゆさりんおはよー!」
やって来たクラスメイトの女子が柚咲に挨拶をする。
「ニューシングルの発熱デイズ、予約したよ!」
「俺も俺も!」
「僕も!」
ゆさりんコールからクラスは一気にハロハロの新曲での話で盛り上がった。
「私も無論、予約済みです」
高城は眼鏡を輝かせ、予約の券を九枚出す
そんな高城に男子が歓声を上げる
予約しすぎだろ。
そんな中、乙坂は笑顔でいた。
「どうした?」
「いや、相変わらず騒がしいなって思ってさ。」
「………ああ、そうだな。うざいぐらいにな」
「有り難いよ。これまでの通りの日常が送れそうでさ」
まだ乙坂の表情には気ごちなさと暗さがあるが、歩未ちゃんを亡くした時と比べれば遥かにいい表情をしている。
いい傾向だと思う。
「実はなんとここに!」
柚咲が教卓の前に立ち、クラスの皆に見えるように何かを掲げる。
「チャチャーン!ニューシングル発熱デイズの初回特典のPVが!」
『見たぁあああああああい!!』
「引くな!」
叫ぶ全員に奈緒が叫んだ。
昼休みになり、高城が早速席を立つ。
「では、先に学食に行ってます」
俺達の返事を聞かずに高城は能力を使い学食へと向かった。
「………またか」
「行こうぜ」
学食に行くといつぞやの光景がそこにはあった。
牛タンカレーが三つと、血まみれの高城。
「お待ちしていました。どうぞ」
そんな高城に乙坂は笑っていた。
「これはお前なりの復帰祝いか?」
「そんなつもりはありません。私も久々に、このメニューが食べたかっただけです」
こいつなりに気を遣ってるんだろう。
本当に良い奴だよ。
「またこいつが食えるなんて嬉しいよ」
そう言い乙坂が席に着き、カレーを食べる。
「やっぱ美味いな!」
「はい。何度食べても飽きることはありません!」
すると行き成り奈緒からの呼び出しが来た。
「呼び出しだ」
「来るのか」
「おそらく」
三人で頷き合い、カレーを一気に食べる。
そして、食べて直ぐにも関わらず、俺達は生徒会室まで全力疾走する。
着く頃には、脇腹が居たくなり、吐きそうな気分になった。
「おっせーな!お前ら何座だ?」
「いつも急すぎるんだよ!…うぷ」
吐くならトイレ行けよ。
「では、全員揃いましたし、黒羽さんのPVでも観ましょうか」
「は?」
「お恥ずかしい限りですぅ!」
まさかと思うが、このために全員呼んだのか?
「や…………やったあああああああ!!」
高城が回転しながら拳を突き上げて叫ぶ。
〇コ〇コ動画なら昇竜拳とかのコメントが付きそうだ。
「誰よりも早く見れるなんてぇええ!!!!!うおおおおおおおおお!!!!!」
生徒会室での高城の騒ぎっぷりに俺達は呆れ顔になる。
「とまぁ、一人熱狂的なファンがいるので酷い出来でも大丈夫っすよ」
荒い息を上げる高城を無視し、奈緒がテレビを起動し、PVを流す。
そのPVを見た時の俺の感想はというと、かっこいいの一言だった。
高城はと言うと、興奮しテレビ画面に頬ずりし始めた。
もちろん、奈緒が蹴り飛ばした。
そして、PVが終わった。
「ご清聴ありがとうございますぅ」
だが、PVが終わったにも関わらず、誰一人として何も言わなかった。
「……おい、何か感想言ってやれよ」
乙坂がそう言うが、高城はと言うとあまりの感動に意識が別次元へと逝っていた。
「ダメだなこりゃ」
高城の顔の前で手を振ってみるが、反応がなかった。
「いいじゃないですか」
意外にも先に感想を言ったのは奈緒だった
「友利さんに褒められるなんてゆさりん うれしい~!」
「あ、今自分のことをゆさりんと言ったので減点」
「「えぇえ~!!!!」」
復活した高城が柚咲と一緒に声を上げる。
「友利さんの中では今何点ぐらいになってるんでしょうか…」
「歌が10点、曲が20点、衣装が20点、編集が30点、本人の痛々しさで -51点」
「え、えーと」
「ということは…」
「29点だな」
「テストなら赤点で補習だな」
「PVだけで採点のやり直しをお願いしますぅ」
奈緒にしがみつき、柚咲がお願いする。
「なら、80点」
わぁああ!と高城と黒羽はハイタッチをする。
「良かったですねー!」
「ゆさりん嬉しい~!」
「19点まで下がりました~」
「「えぇえええ!!!」」
「まぁまぁ」
声を上げる二人を宥め、俺は感想を言う。
「PVのみなら80点だし、そう悪い評価でもないだろ。それに、俺は良かったと思うぞ」
「本当ですか!?」
「ああ、かっこよかったし、普段の柚咲と違ってよかった。普段が可愛いならこの柚咲はかっこよくて美しいだな」
「そ………そうですか…………」
そう言うと柚咲は顔を赤くして俯いてしまった。
どうしたんだ?
「マイナス30点にまで下がりました」
「ええええええええ!?」
一体何が起きてそこまで下がるんだ!?
「なぁ、高城。あれどう思う?」
「質の悪い病気でしょう」
あの二人も何を言ってるんだ?
「ま、私はファンでもないですし、商売としては100点かと」
「へえーお前にしては意外だな」
「とりあえず!もう一回PVが見たいです!!」
「え~次が最後だぞ~」
柚咲の点数が急激に下がったことは一時忘れ、俺達はもう一度PVを観た。