「うおおおおおおおおおわ!!?」
左隣りの席に居る有宇が行き成り絶叫を上げた。
「わあああああああ!!」
それに驚き、有宇の左隣に居る有宇の妹、歩未ちゃんも声を上げる。
「有宇お兄ちゃん、一体どうしたのでしょうか?」
「すまん。ZHIENDの新曲があまりに衝撃的過ぎて」
「だからって大声を上げるな。びっくりするだろ」
「悪い、響。でも、やっぱりZHIENDは凄い。ずっと忘れられないような曲だ」
有宇は嬉しそうに目を細めて言う。
本当にZHIEND好きだな、コイツ。
俺はポストロックなんぞ良くわからん。
「お前の方は?」
「いつも通り、ロック聞いてたよ。歩未ちゃんは?」
「ハロハロは安定のハロハロでござったぁ!」
嬉しそうに拳を突き上げて歩未ちゃんは喜ぶ。
その時、アナウンスが聞こえた。
『Dブロックの夕食の時間です。繰り返します。Dブロックの―――』
「おお!お腹ぺこぺこなのですぅ!」
歩未ちゃんは席を降り、駆け足で食堂へと向かう。
俺もヘッドフォンを定位置に戻し、有宇と共に食堂へと向かう。
その時、俺の背後でクラシックを聞いてる年老いた研究者に目が止まった。
この人何時もいるよな。
それにこの人、他の研究者とは何かが違うんだよな。
「響、行くぞ」
「あ、ああ」
有宇に言われて歩き出そうとうすると、その研究者が声を掛けた。
「クラシックはいい。澱みがまるでない。数式の様にな」
ヘッドフォンを外し、科学者は俺と有宇を見て、食堂へ向かう歩未ちゃんを見つめる。
「あの
「ええ」
「俺は違います。まぁ、妹の様な子ですが」
「そうか…………可哀想に」
この人………やっぱり他の研究者とは違う。
他の研究者は俺達をモルモットの様に見つめるが、この人は俺達を人として見ている。
だから、こんな悲しそうな表情をするんだ。
「なんで貴方はここにいるんですか?」
有宇が質問すると、研究者はすぐに答えてくれた。
「常に突飛、もしくは研究者にとって困る仮説は嘲笑される。君たちは天動説を知っているか?」
「地球が宇宙の中心とかって言う説ですよね」
「うむ。今からにして見れば、突飛な考えじゃが、当時はそれが普通だった。だが違った。最初に異論を唱えた者がどうなったか分かるか?」
「異端扱いされたぐらいしか」
「そう。異端視され、追いやられ、何もできなくなった。私の様にな」
そう言い、研究者は再びクラシックを聞き始めた。
俺達はその言葉に疑問を持ちながらも食堂に移動する。
待っていた歩未ちゃんと合流し、列へと並ぶ。
今日のメニューはカレーか。
「やったぁ!今日のご飯はカレーなのですぅ!」
「また能力促進の化学物質が入ってて、薬の様な味がするんだろうな」
「ま、食えるだけ有り難いと思おうぜ」
「それでも、カレーには人を幸せにする美味しさが詰まってると思うあゆなのですぅ!」
「本当に歩未ちゃんは面白い考えをするな」
そう言い俺は歩未ちゃんの頭を撫でる。
「えへへ♪………隼お兄ちゃんと由美お姉ちゃんもいたらいいのにね。五人での食事」
「兄さんと由美さんの能力はあまりにも吐出し過ぎてる。それは無理だ」
「あ、そっか。なんの能力だっけ?」
「時空移動、タイムリープ。それと、時空間制御能力だ」
「おお!それは凄過ぎるので「歩未ちゃん静かに!」
咄嗟に俺は歩未ちゃんの口を覆い黙らせる。
「その凄過ぎる能力で二人は閉じ込められてるんだぞ!」
有宇がきつくそう言うと歩未ちゃんは悲しそうな顔をする。
「そっか………二人とも可哀想」
「だから、この話題はもうするな」
カレーを受け取り、席に付いて食べ始める。
姉さんの能力。
時空間制御能力は非常に凄い。
隼翼さんの力、時空移動は文字通り時空を移動できる。
姉さんもそれはできる。
だが、凄いのはそれだけじゃない。
姉さんは時空移動だけでなく空間転移、時間停止、時間の流れを制御までできる。
そして、俺の能力。
俺の能力はまだ発現していないが、ここの施設では兄弟が能力者の場合、その兄弟も連れて収監される。
だが、正確には俺の能力はまだ発現されてないと科学者たちに思われてる。
俺の能力がもしバレたら姉さんや隼翼さん程じゃないにしろ拘束される可能性がある。
だが、それもいずれはバレる。
その前に手を打たないと。
そう考えてると、背後に一人の男性が座る。
茶髪の長髪でイケメンの男。
熊耳だ。
「久しぶり。そのまま前を向いてろ」
「熊耳、何があったのか?」
「テレパシー能力者を見付けた」
「本当か?」
「ああ。しかも送受信可能だ」
「凄いな。だが、捕えられてるんだろ」
「ああ。だが、考えがある。まず、右後ろのリーゼントの男に乗り移れ。俺が連れてきた粉砕の能力者だ。威力は弱いがな」
有宇は能力を使い、リーゼントに乗り移る。
「次はテレパシー能力者の場所だ」
そう言って、熊耳は見えないように有宇に紙の切れ端を渡す。
「タイミングには気を付けろ。お前達は俺達の唯一の希望だ。失敗すればお前たちも処分され、俺達も後を追うことになる」
「ああ、分かってる」
「任せてくれ」
その後、カレーを食べ終わると熊耳は銃を持って警備員に連れてかれた。
「おい」
帰る途中、一人の警備員が有宇に銃を突きつける。
「貴様、何か受け取らなかったか?」
「……………何も」
「お前は?」
今度は俺の方に聞いて来る。
「別に」
「………そうか」
そう言い、警備員は熊耳を連れて食堂を後にする。
「あの方は、どうしてあゆ達とは扱いが違うのでしょうか?」
「兄さんや由美さん程じゃないが、それなりに凄い能力を持っているからだ」
夕食後は能力の検査を受け、後は就寝するだけだ。
これで、姉さんと隼翼さんを助ける準備は整った。
後は、タイミングだ。
『本日のプログラムは以上です。呼び出しを受けた被験者以外は、速やかに自室へ戻って下さい』
「じゃあ、戻るか」
「そうだな。もう眠たいぜ」
「おお!そう言えばあゆが呼ばれていたのでした!」
その言葉に俺の眠気は一気に吹っ飛んだ。
「そんな大事なことどうして!」
有宇が話そうとした瞬間、警備員が俺達の前に現れる。
「来るんだ」
歩未ちゃんを銃で促し、連れて行こうとする。
「待て!おかしいだろ!能力を持ってない妹が呼び出しをくらうなんて」
有宇が追いかけようとした瞬間、背後から別の警備員がスタンガンで有宇を気絶させる。
「有宇!お前、何しやがっ!」
そして、俺もスタンガンで気絶しその場に倒れた。
俺が目が覚めたのは地震の様な揺れと警告を知らせるアラームとアナウンスだった。
『Dブロックを閉鎖します。次の指示があるまでその場で待機してください』
「一体何が起きたんだ!」
扉を開けようとするが反応は無い。
「くそっ!」
体当たりも試みるが、開く気配はない。
「嫌な予感がする…………」
時間が経つに連れ、警告のアラームとアナウンスは止まり、静かになる。
すると、さっきまで開かなかった扉が急に開いた。
不思議に思い、外に出ると娯楽室で出会った研究者が怪我を負ってそこに居た。
「貴方は!それにその怪我!」
「説明は後だ。今はもう一人の彼を」
そう言い、隣の部屋の有宇の扉のロックを解除した。
「有宇!無事か!」
「響!それに、アンタ!」
「時間が無い。すぐに説明する。妹さんの能力が無理矢理引き出されたのだ。能力は崩壊。Dブロックが閉鎖されたのは、その能力により崩壊したためだ」
「歩未は!?」
「無事だ。だが、その能力が危険過ぎるため、拘束状態になっておる」
「拘束って、姉さんや隼翼さんみたいに?」
「いや……解剖された後、処分されることに」
解剖と処分と言う言葉に有宇は立ちすくみ、絶望の表情になる。
「立ちすくんでる場合か!お前達の持つ真の能力があれば助け出せるだろ!」
「「え?」」
「“略奪”と“直感”と言う最強の力を!」
「何故それを?」
「急げ!時間が無いぞ!」
確かにこの人の言う通りだ。
急がないと!
「有宇、行くぞ!」
「ああ!」
俺と有宇は走り出し、Cブロックへと向かう。
Cブロックへと繋がる扉は、有宇がリーゼントから奪った粉砕の能力で中の機械を破壊し開ける。
「有宇、テレパシー能力者の居場所は?」
「こっちだ!」
心を読み取られないように心を無心にし、部屋へと近づく。
「ここか!」
『誰だ?』
頭の中に声が!?
これがテレパシーか!
「顔さえ見えれば!」
有宇は下の隙間から部屋の中を除き、能力を奪う。
「響、受け取ってくれ!」
俺は有宇の手を握る。
俺の能力“直感”は、全ての物の仕組みや構造などを振れただけで理解する事が出来る能力で、その副産物として、触れた能力者の能力を理解しコピーすることができる。
ただし、この能力は能力者の体に二秒以上触れてないといけない
二秒以上触れてないと、その能力を感じ取れずコピーできないからだ。
そして、有宇みたいに能力を複数所持してる能力者はその能力者が使用してる能力をコピーできる。
「よし『有宇、聞こえるか?』」
『ああ、聞こえる!急ごう』
テレパシー能力が無事にコピーできたことを感じ取り、俺と有宇は走り出す。
Bブロックを通り抜け、Aブロックへと入る。
ここに姉さんと隼翼さんが…………
Aブロックに居る能力者の声が頭の中に聞こえる。
その中で、俺は姉さんの声を見付けた。
方向も分かる!
『姉さん!俺の声が聞こえるか?響だ!』
『響!?テレパシーの能力をコピーしたのね!』
『時間が無いから説明するよ!歩未ちゃんの能力が暴走して、歩未ちゃんが解剖の後処分される!』
『歩未ちゃんが!?くそ、研究者どもめ!こんな拘束さえなければ、すぐにでも能力で過去に飛べるのに…………』
『今から助けに行く!だから、能力で隼翼さんと過去に行って未来を変えてくれ!』
もう少しで、姉さんが隔離されてる部屋に着けると言うときに、急にアラーム音が響いた。
「なんだ!?」
すると、通路一体にガスが噴出される。
くそ、こんな時に!?
そう思ってると壁から手が生え、人が現れる。
それは七野さんだった。
「七野さん!」
「くそっ!お前みたいなシスコンの為に……時間が無い!俺の透過能力を持ってけ!」
「で、でも!」
「早く!時間が無いって言っただろ!」
「すみません!」
俺は七野さんに触れ、透過能力をコピーし、その直後有宇が能力を奪った。
「いたぞ!」
背後にガスマスクを付けた警備員が現れ、銃を向ける。
「早く!こっちだ!」
七野さんに押される形で俺と有宇は壁を通り抜ける。
その直後、壁の向こう側で銃声が響く。
「七野さん………」
「くっ……すまんない!兄さんたちが世界を変えてくれるから!」
「有宇!俺はこっちだ!隼翼さんを必ず助けてくれ!」
「ああ!響も由美さんを助けろよ!」
二手に分かれ、俺達はそれぞれの相手を助けに行く。
だが、壁を一枚通り抜けるととてつもない疲労感が俺を襲った。
くっ………これが七野さんの能力を使う上でのデメリットか…………
だが、こんなことで立ち止まってる時間は無い!
壁を更に一枚、二枚、三枚と通り抜け、五枚目の壁を通り抜ける。
そして、そこには姉さんが居た。
鎖や猿轡などありとあらゆる拘束具で拘束されていた。
俺は最後の力を振り絞り、近くの機械のボタンを押す。
すると、拘束具は音を立てて外れ、姉さんを解放した。
姉さんは自由になった両手で猿轡を取る。
「ごめんね、響」
「俺は大丈夫………姉さん。後は頼んだよ」
「ええ、任せて」
部屋の外には警備員が集まり、扉を開け始める。
「未来のために」
扉が開かれ、暗い部屋が明るくなる。
「いえ、私たちの為に」
そして、とうとう扉が完全に開かれる。
「未来を変える!」
姉さんは手を口に持っていき、親指を勢いよく噛んだ。
頑張って…………姉さん、隼翼さん。
「処分!」
警備員の声が聞こえ、銃声が聞こえた。
そこで、俺の意識は消えた。