「はい。おしまーい」
「以上で私と隼翼のタイムリープ話でした」
「タイムリープを繰り返して、今の教育機関を作り上げたなんて………すごい」
奈緒の言う通りだ。
凄過ぎて話に着いていけなかったかもしれん……………
「奈緒ちゃんのお兄さんは間に合わなかったけど。ごめんね」
「いえ、今順調に回復してるんで大丈夫っすよ」
「…記憶を消されていたのか………」
「ああ」
「視力を失ったりや体の機能が低下していくのに………」
「試してみたけどやっぱり飛べなかった……」
隼翼さんは悔しそうに片目を押さえ言う。
「姉さんは今、何処まで体が弱ってるんだ?」
俺は気になっていたことを姉さんに聞く。
「まず両脚は完全に動かせないわ。それと左腕も簡単な動作はできるけど、難しいのは無理。聴力も低下して、少し声や音が聞こえづらい。後は、免疫力の低下かしらね。これでも、元は健康優良児なのよ」
そう言って笑う姉さんは何処か辛そうだった。
「でも、まだやり残したことがあるんだ」
「………歩未を助けること」
「そうだ」
「でも、どうやって………」
「お前の能力”略奪”で俺と由美の能力を奪ってだ。能力者の能力を奪い取る。それがお前の能力なんだよ」
「…確か夢でもそんなこと…」
「私と高城は知ってましたよ」
「「はぁ!?」」
「最初から貴方の能力は彼が見抜いていました」
奈緒が熊耳の方を見て言う。
確かにそうだな。
「だが、奈緒。俺は知らなかったぞ」
「生徒会に入って日が浅い貴方に余計なことを教えるべきではないと思って黙ってました」
そう言い、奈緒は乙坂を見つめる。
「調査の結果、貴方は自分の能力を乗り移る物だと勘違いしていましたが、正しくは能力を略奪する手段が乗り移ることだったんです。その証拠に、今まで乗り移った能力者は能力を失ってます」
「なら、毎回大がかりなことしなくても、僕が乗り移れば済んだじゃないか!」
「それだと意味がないんだ。能力を使う危険性を理解させる必要があるからだろ」
奈緒は頷き、更に言葉を続ける。
「それに、能力を奪い続けるとあなた自身どんな恐ろしい存在となるか」
「ある意味、ここまで気づかれなかったのが幸いだな」
「さっすが、二人とも!分かってるぅ~!」
「じゃあ………」
乙坂は自分の手を見つめ、手のひらを前にかざす。
すると奈緒の背後に合った本が動き、乙坂の顔に当たった。
念動力だ。
「俺の能力自体は失われていないはずだ。それと由美の能力を奪ってお前が過去に飛び歩未を救うんだ。いいか?」
「隼翼さん。どうして姉さんの能力まで必要なんですか?」
考えてみればタイムリープするだけなら姉さんの能力まではいらないはずだ。
「由美の能力は時空間制御。文字通り時空間を制御できるんだ」
「私と隼翼は、確実に同じ時間軸に飛ぶ必要があった。だから、私は自分の能力で時間軸を固定して、隼翼とタイムリープしてたの」
だから、姉さんの能力も必要なのか…………
「飛ぶ先は歩未が能力を発症する日だ。その日に飛び崩壊という危険な能力を歩未から奪い去ってくれ。そのあと何も知らないでいる俺にこれまでの経緯を説明してくれればいい。分かったか?」
「…………分かった」
そして、乙坂は隼翼さんからタイムリープ能力を奪った。
「さぁ、次は由美の能力を「待って下さい」
乙坂が姉さんの能力を奪おうとする所で俺は声を出した。
「時空間制御能力は、俺の能力でコピーします。できるよね、姉さん」
「え、ええ………響の能力“直感”は全ての物の仕組みや構造などを振れただけで理解する事が出来る能力で、その副産物として能力を理解することでコピーできるわ」
「待ってくれ一之瀬。これは僕がやらないといけないことだ。お前まで巻き込むわけには」
「あの日、歩未ちゃんを救えなくて後悔したのはお前だけじゃない。俺も後悔してるんだ。それに、お前一人にそんな重荷は背負わせたくない。俺にも、背負わせてくれ」
「……………そうだな。お前にとって、歩未は妹みたいな者だもんな」
「ああ」
「まったく、響は昔から頑固なんだから」
姉さんが車いすを動かし、近づいて来る。
「ほら、持っていきなさい。いいわよね、隼翼?」
「………やれやれ、響君は変わらないな」
「姉さん、隼翼さん………ありがとう」
そう言い、俺は姉さんを抱きしめた。
「ふふっ………流石は私の弟ね。………………有宇君と、二人で頑張ってきなさい」
「ああ」
「有宇君、響をお願い」
「はい」
乙坂も頷き、俺達は並ぶ。
奈緒の方を見ると、奈緒は笑顔で俺を見てくれた。
その笑顔だけで、安心できる。
ありがとな、奈緒。
「行くぞ!響!」
「必ず助けるぞ!有宇!」
「「いっけぇええええええええ!!!!!!!!!」」
姉さんと隼翼さんの言葉と共に、俺たちは能力を発動し、過去へと戻った。
歩未ちゃんが能力を発症する日に。