徐々に意識が戻り僕は目を開けた。
知らない天井が見える。
どうして僕はここで寝ているんだ?
そうだ……確か、響達を助けに行ってその時目を切られて…………
…………思い出した!
目を切られて奴等を倒そうと念動力を使っていたら、あの少女に肩を刺されて崩壊の能力を…………!
その時の事が鮮明に蘇り、それと同時にあの時の恐怖も蘇った。
「うあぁあああああああああああ!!!!!!」
崩壊の能力が発動し、この部屋一帯を崩壊させようとする。
「フン!」
左腕に痛みを感じ、何かが入ってくる感覚が伝わって来た。
すると徐々に、興奮が収まり落ち着いて来た。
「……痛い」
「そりゃ、手術してまだ四日だからな」
僕の呟きに七野さんが左腕に刺さった注射器を抜きながら言う。
「四日?」
「そうだ」
「どうして動けない?」
「知るかよ。医者に聞いてくれ」
七野さんはパイプ椅子に座りスマホを操作する。
暫くすると、目時さんに前泊さん、そして兄さんが病室にやって来た。
「有宇!目が覚めたのか!……よかった」
「……兄さん」
「よかった!作戦通り、崩壊は防げたのね」
「こんなのは作戦とは言わない。ただの処置だ」
「って、あなた処置って打った後何もしてないじゃない!」
「医者じゃないし」
目時さんは七野さんに怒りながら僕の腕の手当てをする。
「何が起きた…なんで僕はこんなことに……!三人は!三人は無事なのか!?」
「………熊耳は重傷だったが今は大丈夫だ。奈緒ちゃんも怪我の方は酷くない。二人ともこの病院に入院してる」
その言葉に違和感を感じた。
どうして響の名前が無い?
響は無事なのか?
「………兄さん、響は………響はどうなったの?」
その質問に兄さんは表情を暗くした。
「響君は………二人を庇って…………死んだ」
「…………え?」
響が………死んだ?
「……な、なんだよそれ?笑えない冗談は止めてくれよ。嘘なんでしょ?ねぇ、兄さん!」
「…………本当だ」
「………そんな」
「お前が自分の能力で自らを庇ってる間にな!」
「いつまで拗ねてんの!大体、この子の能力に賭けようっていったのはアンタでしょ!」
前泊さんと七野さんの声は聞こえていたが、内容までは耳に入ってこなかった。
ただ呆然と響の死を認識し、そして否定するの繰り返しをしていた。
「連中はタイムリープ能力は必要ないと判断して、崩壊の能力も人質を使えば無理矢理抑え込めれると思ったみたいだ。互いの誤算がこの事態を起こしたんだ」
「………僕の所為で……響が………」
「あまり自分を責めるな」
「……………ねぇ、これからもこんなことが続くの?」
「今回の首謀者たちは前泊の力で記憶を消した。だが、恐らく今後もお前の能力を狙ってくる連中はいるだろう」
そうか…………続くのか…………
そう考えていると時間らしく兄さんたちは病室を出て行こうとした。
「あ、待って。まだ聞きたいことがある」
皆が振り返り僕を見る。
「その………由美さんは……どうしてる?」
「おい!こいつ一発殴らせろ!」
僕に殴りかかろうとした七野さんを前泊さんが抑える。
「………響君は、由美にとってたった一人の血の繋がった家族だったんだ。今はそっとしておいてやってくれ」
翌日、体を固体され満足に動けない僕は首だけを動かし外を眺めていた。
すると、扉がノックされた。
「はいどうぞ」
「はいなのですー」
入ってきたのは歩未だった。
「えぇ!?有宇お兄ちゃん大丈夫なのでしょうかー!?」
僕の怪我を見て慌てながら歩未が近寄ってくる。
「歩未か。久しぶりだな。動かなければ大丈夫だ」
「でも右目はもう見えないって…」
「死んでもおかしくないような大事故だったらしい。生きてるだけでも、ありがたく思わなくちゃな。それに、リハビリもすれば前の様に動ける」
「だったらいいのですが…」
そう言い、歩未はパイプイスに座る。
「施設での生活はどうだ?」
「みんな優しくしてくれるので大丈夫なのですー!…でも、由美お姉ちゃんはなんだかとっても元気がなくて心配なのですぅ…それに、響お兄ちゃんは遠い所に留学しちゃったのでとても寂しいのです」
歩未には響の死は伝えてないのか。
それもそうか。
もし死んだなんて伝えたら、歩未がどれだけ悲しむか…………
僕は一度目の前で歩未を失った。
だから、今の由美さんの気持はなんとなく理解は出来る。
翌日になると体の拘束は外れある程度は動けるようになった。
今日も外を眺めていた。
そうしてると今日も扉がノックされた。
「どうぞ」
「ご無沙汰しております」
「高城。確かにすごく久しぶりな気がするな」
「思った以上に痛々しいお姿!」
「ああ。なんてザマだ」
「そんな乙坂さんに、こんな差し入れを持ってきました!」
高城はウインクをし、僕の目の前に何かを置く
「…なんだよこれ?」
「保温機能付き弁当箱です!さて、中身は!」
高城は手慣れた手つきで置かれた弁当箱を二つ同時に開ける。
そこから漏れる匂いに僕は思わず体が反応した。
「この匂い………!」
「そう!!我々の思い出!牛タンカレーです!」
「………こんなところで再開できるとはな」
「食べさせて差し上げます!」
高城はスプーンを取り出し言う。
「………いや、折角だけど今は食べる気分にはなれないんだ」
「いけませんよ。しっかり食べて元気を付けないと治る物治りません」
そう言い、スプーンにご飯とカレー、牛タンを乗せ、僕の口元まで持ってくる。
「はい、どうぞ」
食欲は無いのに、この匂いを嗅いだら猛烈に腹の虫が騒ぎ出した。
結局、僕はそれに抗えず高城が差し出すカレーを頬張った。
「…………うまい。学園生活を思い出すよ」
「そう!まさに我々の青春の味です!まだまだたっぷりあるので!飽きるまでどうぞ!」
そう言うと、高城は次から次へとカレーを僕の口元へ運び、食べさせた。
カレーを食べ終えると高城は弁当箱を洗う。
その後姿を見つめ、僕は思い切って響の事を聞いた。
「なぁ、高城。響の事だが…………」
そう切り出すと、弁当箱を洗う手を止め、僕を見ずに答えた。
「………ええ、聞きました。友利さんと協力者を庇って亡くなったと」
「………すまない。響が死んだのは僕の所為だ。僕が崩壊の能力を発動させてしまって、その所為で響が……………」
「謝ることではありません。誰も予想できなかった事態です。貴方の所為ではない。きっと、一之瀬さんもそう思ってます」
「………そうかな?」
「はい。いつまでも自分の所為だと引き摺ってると一之瀬さんに怒られますよ。あの人は、立ち止まることより、前に進む事を望む人ですから」
そう言って高城は眼鏡を外す。
「失礼。目にゴミが入ってしまったようです」
そう言い、水で顔を何度も洗っていた。
水の音に混じり、嗚咽が聞こえたが僕はそれを聞かなかったことにした。
「では、帰ります。お大事に」
「ああ」
「早く良くなって友利さんと生徒会に戻ってきてください。ゆさりんと二人の生徒会も、素晴らしいんですが、やはり寂しいものなので」
最後にそう言った高城の表情はとても寂しそうにしていた。