Charlotte~君の為に……~   作:ほにゃー

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決意

黒羽が見舞いに来て数日、僕はリハビリを始めた。

 

片目が見えないせいで距離感が掴めないため、歩きづらい。

 

これは、慣れるまでに時間が掛かりそうだな。

 

リハビリを終えた後、僕は友利の病室の前に来た。

 

ノックをしようと腕を上げるが、上げた腕を下ろした。

 

会って………何を言えばいいんだ?

 

僕は、どんな顔をして会えばいいんだ?

 

そう考え、僕は友利の病室の前を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そこそこ最後の晩餐!略してそこ晩ー!!』

 

「こんなレギュラー番組を持っていたのか」

 

次の日の昼頃、テレビを付けると、黒羽がテレビに出ていた。

 

 

 

『本日はなんと!ゆさりんこと私のそこ晩を紹介しまーす!』

 

紹介されたのは、黒羽と書かれた看板が出てる店だった。

 

「まさか仕事として両親に会いに行くとは」

 

両親に久々に会ったからか、黒羽は両親に抱きついた。

 

店内はすごく雰囲気が良い。

 

『こちらが手打ちそばに山菜の天ぷら定食でーす!』

 

さっそくそばを食べる黒羽。

 

『おいしぃー!次はよもぎの天ぷらを頂きます!…これも おいしい~!』

 

その語彙の少なさで、よく食レポ番組のMCに抜擢されたな…

 

黒羽と黒羽をこの番組のMCに選んだ人に呆れていると、急に黒羽の声のトーンが変わった

 

『でもぶっちゃけ普通の味。平凡すぎてコンビニでも食えるレベル』

 

「美砂!?一体何を………?」

 

『でも両親の愛…その隠し味で絶品な料理になってる………だから、こんなにも美味しい………』

 

美砂の目から零れる涙。

 

『ごちそう…さまでした…っ!』

 

その姿を見て、黒羽の両親は生前の美砂の面影を思い出したのか、母親は涙を流した。

 

『ごめんなさい………なんか美砂の事を思い出してしまって…………』

 

『ああ……アイツは口も素行も悪かったけど………根は優しい良い子だった……』

 

父親も母親の肩を抱き、悲しそうにそして、何処か懐かしむように言う。

 

「…………いい親孝行になったな」

 

 

 

 

 

 

 

次の日、外を眺めてるとまた扉がノックされた。

 

今度は誰だ?

 

「はい?」

 

「おはよーございますなのですぅ!」

 

来たのは歩未だった。

 

「歩未、おはよう」

 

「有宇お兄ちゃん、お誕生日おめでとうなのですぅ!」

 

そう言って、歩未は僕の前に弁当箱を突き出す。

 

「誕生日?」

 

「本日は有宇お兄ちゃんの16歳のお誕生日なのですぅ!」

 

そう言えばそうだったな。

 

最近色々あり過ぎて忘れてた。

 

「と言う訳で久々に腕を振るったのですぅ!」

 

嬉しそうに弁当箱の蓋を開けると、そこにはオムライスがあった。

 

歩未のオムライス…………懐かしい………

 

「あのー、食べてくれるでしょうか?」

 

「あ、ああ!もちろん!」

 

「ではお口を開けてくだされー!」

 

「いや!自分で食べるよ!」

 

「リハビリ中の人には無理させられません!はい!あーん!」

 

「…あーん」

 

口を開け、オムライスを一口入れてもらう。

 

あれ?美味い。

 

いつも通り甘いのに、とても美味い。

 

これが美沙の言ってた隠し味なのかな……………

 

「どうでしょうか?」

 

「うん!美味い!」

 

「おぉー!それは良かったのですー!」

 

その後も歩未に食べさせてもらい、俺はオムライスを完食した。

 

その後、歩未は施設に帰り、僕はリハビリを始めた。

 

最近やっと松葉づえ無しで歩けるようになった。

 

片目だけで距離感もなんとか掴めるようにもだ。

 

「有宇」

 

声を呼ばれ前を見ると、底には兄さんと目時さんがいた。

 

「兄さん、それに目時さんも」

 

「大分頑張ってるようだな」

 

「回復おめでとう」

 

「まだ完全じゃないけどね」

 

「……有宇」

 

すると兄さんが神妙な面持ちになる。

 

「頼みたいことがあるんだ」

 

そう言って、僕が案内されたのは屋上だった。

 

そこには、由美さんが車いすに座ったまま、ずっと空を眺めてた。

 

僕は由美さんに近づき、話掛けた。

 

「由美さん」

 

「………あ、有宇君。もう大丈夫なの?」

 

由美さんが僕の方を振り向いて笑う。

 

だが、心の底からの笑顔じゃない。

 

それもそうか。

 

響を……たった一人の家族を失ったんだ。

 

あの時の僕と同じだ。

 

「ずっとここにいるって聞いて……大丈夫ですか?」

 

「……大丈夫よ。ここでは警察沙汰にはならないから」

 

「そうじゃなくて、僕が言いたいのは」

 

そこで僕は言葉を止めた。

 

由美さんの肩が震えていた。

 

「……ごめん、有宇君。一人にして。風が強くなったら部屋には戻る。だから…………お願い」

 

結局何も言えず、僕は屋上を去った。

 

「有宇でもダメだったか」

 

「今の由美さんには誰が何を言っても聞いてくれないよ」

 

屋上の扉の近くで待っていた兄さんにそう言う。

 

「ねぇ、兄さん。これからどうなるの?」

 

「………海外ではテロ集団が一斉蜂起し始めてる。日本も時期に巻き込まれるだろう」

 

兄さんはそれ以上何も語らず、由美さんの所へと向かった。

 

僕はその背中を見送り、病室へと帰った。

 

「お久っす」

 

一瞬、思考が止まった。

 

何故なら、僕の病室に友利が居るからだ。

 

「……友利!?」

 

「なんでそんなに驚いてるんですか」

 

「いや…唐突だったから」

 

「私はひと足先に退院できたのであなたと話をしようかと。お兄さんから何か聞きましたか?」

 

椅子に座り直し、僕の方を向く。

 

僕は気まずさから友利に背中を向けたままベッドに座る

 

「すぐ日本も海外のテロ活動に巻き込まれるって」

 

「…そうですか」

 

「僕の能力を狙って、また襲われるかもしれない。もう誰も失ったり不幸にしたくない。僕の力でなんとかできるならしたいけど方法が分からない」

 

手で顔を覆い、項垂れる。

 

「………一つだけなら方法はあります」

 

その言葉に僕は友利の方を振り向く。

 

「方法があるのか?教えてくれ!」

 

ベッドに乗り友利に詰め寄る。

 

「お兄さんの研究所では次の彗星が来たときに能力者が生まれないためのワクチンを完成させているんですよね。なら、貴方の能力で今いる世界中の能力者の能力とこれから発症する能力者の能力を奪うんです」

 

「え?」

 

「もちろんリスクもあります。何千何万という能力を得た場合、貴方に何が起きるか………全人類を滅ぼしかねない化け物にもなりえます。それでも尚、正気を保っていられるか………………ぶっちゃけ力技です。でも、これは貴方にしかできない。これが私が考えられる方法です」

 

そ、そんな方法、普通に考えたら無理だ。

 

だが、それしか考えられないのも事実だ。

 

「実は、この話をするつもりはなかったんです。でも貴方は歩未ちゃんを救うために未来から帰って来たり私や熊耳さん、響を助けに来てくれた。ただのカンニング魔だと思っていましたが今のあなたなら信じられます」

 

「えらい評価が変わったな」

 

「まあ私の策にしては、無謀が過ぎました。忘れてください。それでは今日はこれで失礼します」

 

そう言って友利は病室を出て行こうとする。

 

そして、僕は友利を呼び止めた。

 

「待ってくれ、友利」

 

友利は立ち止まり僕の方を振り返る。

 

「やるよ」

 

「いやいや、無謀過ぎっしょ」

 

「いや、やるよ。僕はお前に恩がある。そのお前がそれしか方法が無いって言うならそうする」

 

「動機が薄いっすね」

 

「でも、またあんなことが起きるかもしれない。今度は僕がお前を救いたい。だから…」

 

「なして?」

 

「僕が響の親友で、家族だからだ」

 

「は?」

 

僕の理由に友利が一言、そう言った。

 

「響が言ってた。自分は友利に救われた。だから、お前の為にこの力を使うって。響を死なせた僕が出来る唯一の償い。それが、響の代わりにお前を救うことだ」

 

「…………響は響です。貴方とは違います。それに、響が死んだのは事故です。貴方が気に病む事ではありません」

 

「ああ、分かってる。これは僕のエゴだ。僕がやりたいからやる。それだけだ」

 

「本当にどうなるかも分からないんですよ!」

 

友利が持っていたお菓子の箱を床にたたきつけ怒鳴る。

 

「奪った能力が暴走して、周りを破壊し尽すかもしれない。それならまだしも、奪った能力であなた自身が死んでしまうかもしれない。それでもいいんですか?」

 

「僕は死なない」

 

そう言うと、友利は驚いた顔をする。

 

「前にも言ったが、僕は前の世界で歩未を失い、自暴自棄になっていた。揚句、薬に手を出して自分で自分の体を壊そうとした。そんな時、それを助けてくれたのはお前と響だった。お前達に救われた命だ。だから、僕はこの命を無駄にしない。そして、死なない。全ての能力者の能力を奪って、必ず、戻ってくる」

 

友利は暫く黙ると、再び顔を上げて、僕の方を見る。

 

「絶対に帰ってくる。それが条件ですよ」

 

「ああ」

 

「もう誰かを失ったり誰かが不幸になるのが嫌なのは貴方だけじゃないですから。お忘れなく」

 

「忘れないよ」

 

「では、約束です」

 

そう言って、友利は僕に小指を向ける。

 

その意図が理解出来、僕の小指を友利の小指に絡める。

 

「嘘ついたら指詰めろ。指切った」

 

「はは……詰められるのは敵わないし、絶対に守らなきゃな」

 

「はい。では、まず私から」

 

友利は両手を広げる。

「え?」

 

「片っ端から能力を奪い去るんでしょ」

 

「そうか…これから僕がやろうとしてるのは、そういうことなんだな」

 

「はい」

 

「…すまない」

 

「謝る必要なんてありません。これで真っ当な人間に戻れるので」

 

僕は決意を決め、能力を友利に使った。

 

五秒後、能力が終わり、僕は友利の能力を奪った。

 

友利は二、三度と自分の体を見て、笑った。

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜になり、僕はもう一度由美さんの所を訪れた。

 

「由美さん、僕が全世界の能力者の能力を奪い助けてみせます」

 

「…無理よ、やめなさい」

 

「僕は響の命を無駄にしたくないんです」

 

「そんなのは私だって一緒よ!」

 

由美さんは涙を流し怒鳴った。

 

「私は、響を………私の唯一の家族を守りたい!その気持ちだけでずっとこの道を歩んできた!それなのに!それなのに……………!」

 

由美さんは拳を握り、自分の膝を叩く。

 

「だからです。だから、僕は行くんです。もうこれ以上誰かを失いたくない。これ以上大切な人を不幸にしたくない。それは、由美さんも同じはずです」

 

その言葉を聞いて、由美さんは顔を見上げる。

 

「すでに友利の能力を奪いました。僕は引き返しません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕の病室に兄さん、目時さん、前泊さん、七野さん、そして由美さんが集まった。

 

そして、僕は友利の提案を話、自分の決意を語った。

 

「思い切った作戦だな」

 

「でも、どうやって能力者を?」

 

「能力者の組織のリーダーの近くには熊耳と似た能力者がいるはずだ。そいつから能力を奪うんだ」

 

「有宇くん、海外へ飛びなさい。日本は私たちに任せて。こちらも能力者を束ねる大組織。能力が消えるまで抑え込むわ」

 

立ち直った由美さんを見て、兄さんたちは笑顔を浮かべた。

 

「それぐらいできないとあの子に顔向けできないもの」

 

「有宇、今お前は16歳だから、時間はあまりない。能力を失う前に頼む。資金の事は心配しなくていい。こちらに任せてくれ」

 

「ああ」

 

そして翌日、僕は病院を退院した。

 

家に戻って荷造りしたら、すぐにでも海外に飛ぼう。

 

「乙坂さん」

 

すると高城と黒羽が僕の前に現れた。

 

黒羽の方はどうやら美砂の方らしい。

 

「お前達、どうして?」

 

「友利さんから話を聞いたんですよ」

 

「あたしらの能力も奪っていきな。少しでも力になれるかもしれねえ」

 

「つまり…もうお前とは…」

 

「まあそういうこった。ここらがセンスのいい引き際だぜ」

 

「…………分かった。三人の能力を貰う」

 

二人に乗り移って、三人の力を貰う。

 

これで、瞬間移動と発火、口寄せまでも奪ったか。

 

「ほえ?えーっと…何があったんでしたっけ?」

 

「柚咲さん。実は、お姉さんから手紙を預かっています」

 

「え?」

 

高城はその手紙を黒羽に渡す。

 

黒羽はそれを読み上げた。

 

『柚咲へ。最高に楽しかった。生徒会のあいつらとつるんでるのが楽しかった。

 

でもただ一つ辛かったのは柚咲、お前とずっと一緒に居たのに、ずっとすれ違いだったことだ。

 

最高に愛してる。

 

では死人は死人らしく、ここらでおさらばだ。

 

美砂より』

 

黒羽は涙ぐみながら手紙を読み上げた。

 

「姉はいつも…皆さんと一緒にいたんですね…」

 

「ああ。僕たちも楽しかったよ」

 

「ですね」

 

「なら……良かった…」

 

高城がふっと笑って俺の方を見る。

 

「絶対に戻ってきてくださいね。なんてったって私たちは同じ病を持ち苦しみながらも共に高校生活を過ごした友達なのですから!」

 

「だな!」

 

「はい!」

 

俺達三人は拳をぶつけ合い、そして笑った。

 

そして、拳をぶつけた直後、僕は急激に意識を失った。

 

「乙坂さん?」

 

「どうしたんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ、久しぶりだな、高城、柚咲」

 


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