マンションを降り、空港へ向かおうとすると、有宇の目の前にある人が現れた。
「熊耳さん!」
そう、熊耳さんだ。
「よぉ、乙坂有宇」
「もう大丈夫なんですか?」
「まぁな…………隼翼と由美から事情は聞いた。本気なんだな?」
「………ああ。もう後には引かない。本気だ」
「………なら、持って行くことをお勧めする能力者がいる」
「何?」
「俺がつい最近見つけた能力者だ。能力は………霊の視認と対話」
その能力に有宇が片目を見開く。
「今のお前には必要なんじゃないか?」
「ああ、ありがとう!熊耳さん!」
有宇は能力者の場所を聞き、すぐにそこへ向かった。
向かった場所には一人の男が蹲る様に座っていた。
「怖い……怖い……なんでこんなものが見えるんだよ………」
どうやら、霊が見えることに恐怖を感じているみたいだ。
「今その能力から解放してやるよ」
そう言い、有宇は能力を奪った。
有宇は恐る恐る辺りを見渡す。
そして、俺の方を向き、固まった。
「ひ、響……」
『よぉ、有宇』
試しに手を振ってみると、有宇は涙ぐみ笑った。
『俺も一緒だ。不安になることはないぞ。一緒に、頑張ろう』
「ああ!」
そして、空港に向かうと、隼翼さんと姉さんが居た。
「見送りは俺達だけでさせてもらう。有宇、お前に任せて置きながらこんなことを言うのはおかしいかもしれんが言わせてくれ。無茶だけはするなよ」
「ああ、分かってるよ。兄さん」
「有宇君、体に気を付けて。それと、海外でのテロに巻き込まれる可能性もある。命が危ないと判断したらすぐに逃げるのよ」
「はい」
そこで、有宇が俺に目くばせをする。
俺は納得し、有宇の体に乗り移る。
「姉さん、隼翼さん。お久しぶりです」
「……まさか、響君なのかい?」
「はい。口寄せの能力で、今有宇の体を借りてます」
そう言い、俺は姉さんを見る。
「姉さん」
「……響」
「………………行ってきます」
「………ええ。いってらっしゃい」
たった一言。
それだけ言い、俺は体を有宇に返した。
「もう話は終わったの?」
「ええ。ありがとうね、有宇君。形はどうあれ、もう一度響と話せてよかったわ」
「いえ、俺は別に大したことは…………」
「これ、持っていてもらえるかしら」
そう言って姉さんは、有宇に俺のデジカメを差し出した。
「お守りよ。形見のつもりで持ってたけど、有宇君が持っていて頂戴」
「………分かりました。必ず、返しに行きますね」
有宇はデジカメを受け取り、鞄にしまう。
「ほら、もうすぐ飛行機の時間よ!乗り遅れたら大変なんだから!」
「は、はい!じゃあ、行ってきます。兄さん、歩未の事任せたよ!」
最後にそう言い、有宇はゲードへと向かう。
「由美、良かったのか?」
「何が?」
「もう一度会えたんだ。もう少し話していても良かったんじゃ…………」
「いいえ、大丈夫よ。もう十分に話せたわ。…………あの子が何を思って、何を伝えたかったのか」
「流石は、姉だな」
「…………帰りましょ。これからは大忙しよ」
「ああ」