梨咲櫛竒の人外暗殺 作:ファン(天井)
「起立!」
号令と共に俺達はエアガンを構える。
掌に乗せたM9の形を見ると、どうにもアレを思い出してしまう。
ーーー血の匂いがする。
「気をつけ!」
カチカチと、各々がトリガーに指をのせる。
しかし、俺だけは、くるくると回していた。
ーーー濃厚な、新鮮な、真新しい死臭。
「れーーーー
い、と言う前に、皆が一斉に引き金を引いた。
視界すらもあの時に包まれていく。
ーーーむせかえりそうなほどの土と木と、家族の死臭。
ーーーああ、その時俺は息を吹き返したんだ。
ーーーまだガキだった俺を守るように倒れた兄貴の上半身によって。
安全とは言えないが、少しだけ飛ぶ弾のすくない俺の目の前で先生は止まる。
「梨咲君。」
「はい。」
「残念ですねぇ。今日も命中弾ゼロです。」
人を食ったような笑みを浮かべながら先生が言う。
我ら、三年E組の朝は、この様にして始まりのベルをならすのだった。
事の始まりは数日前の、三年生としての学校生活が始まった直後の事だった。
このタコ先(あの駄菓子とまぎらわしい為あまり呼ばない)を連れて 、防衛省の人がやって来た。
曰く、このタコが月を三日月にした超生物らしい。
曰く、来年三月に地球もブッ壊すらしい。
曰く、その為討伐成功者には、成功報酬の百億円が、日本政府から支払われるらしい。
そして、何故俺達がそれに参加しているのかと言うとだ。
何の真似かは分からないが、このクラスの担任ならやっても良いよ、とタコが政府に申し出たために、このクラスは全員強制参加する羽目になった、と言う有り様だ。
その前に一つ、政府に物申したい事がある。
貴様らは成功させたいのか?それとも失敗させたいのか?と言うことだ。
と言うか、考えても見ろ!中途半端にも程があるだろう!
普通の一般人が殺しを行えるはずがない。
それは俺の持論だ。と同時に世界中の誰しもが考えるだろう事だ。
日本の中学生に、喋る生物(人間)殺せるぜ、等と言われて信じる奴が居るだろうか。つまりそういうことだ。
更に言えば、目標の達成率は当然の様に、親密であればある程下がるだろう。
情には人は弱いのだ。
ここまでボロックソに言っていれば分かるだろう。
俺はあまり乗り気ではない。
「おい渚、暗殺の計画を進めようぜ。」
そうこう考えている内に、昼休みになっていた。
今話しかけられているのは潮田渚。ひょろっとしていて女っぽいが、俺の友達だ。
話しかけている方が、このクラスの中でもそこそこの不良三人組だ。名は忘れた。
えー、と。成る程な・・・
「えーナギちゃん先約ってこの三人?」
「う、うん。そうなんだ。だから今日はちょっと待って欲しいんだけど・・・」
俺の見た感じでは、明らかに後が怖いから無理に付き合ってる感じだが・・・
ま、コイツなら大丈夫だろ。
「あはは~。おkおk。おれ待ってるぜー。飯食う時間に気を付けろよー。」
「うん、ありがとう。」
そう言って渚は去っていった。
「ね、渚大丈夫かな?」
そんな感じで話しかけてきたこのウ=スい(72がとは言わない)子は、茅野さんだ。
「少なくとも唐突に殴りかかってくるアンタと居るよかましかと。」
「アンタが唐突に他人のコンプレックスを口に出したのが悪いんですがそれは。」
「まさかのインガオホーにオレ=サンはしめやかに爆発四散」
「アイエエエ!ニンジャナンデ!」
まさかのノリの良さである。
「冗談はほどほどにしておいて、だ。大丈夫だろ。アイツは流され易い所を除けば、社会に出てもやっていける程度には相手に話を合わせて、極力損害を出さない様なことが出来る奴だ。」
「・・・へ、へぇ。かなり好きなんだね。渚のこt」
「まさに詐欺=ジツ!」
「ナンデ!」
「唐突なニンスレに惹かれて」
「「アイエエエ!タコ!タコナンデ!」」
つーか次の時間の支度をしろと。
「いえ、少し梨咲くんに聞きたいことがありましてね。マッハで寄り道して戻って来ました。」
これ、お土産です。といって渡された物は、俺の誕生石であるトルマリンのネックレスとトルマリンのモース硬度を答えよと言う課題の紙。そして、領収書のコピーとこの通貨が使われている国を答えよと言う課題の紙パート2。
どういう事なの。
「つーかわざわざユーロ使っている所悪いんですが、これテキトーにそこらのSAで売ってるやつっスね。」
値段的に。
「ガハッ!」
多少失礼だと思うが、取り敢えず看破する。だって露骨に書いてあるし。
後書いてある名前は烏丸惟巨。
タカる気満々の割には名前を間違えると言う致命的なミスしてる。とりあえず今度会ったら渡しとこう。
「で、なんスか?カワイイ(自称)ボクに何の質問です?今は初めて貢がれたんで何でも答えますよ。」
割りと上機嫌だったりする。コラそこ、写真とらない。金をとるぞ。
「ヌルフフフ。では、放課後に残って下さい。そこでゆっくり話をしたいですね。」
・・・
「助けて茅野!触手教師に変で体な調教される!」ガタガタッ!
「されてれば?」
「生徒にはそんな事しませんよ!」
さりげなく問題発言二連発。茅野俺のこと嫌いでしょ。ってか、は とはつまり・・・それ以上いけない。
「小さな男の娘に触手・・・。ヨダレズビッ!」
「鼻から流れるこの熱いソウル!これこそ愛だッ!」
それ以上いけないッツッテンダロコラァ!スッゾオラァ!
「ごめん、ちょっと遅くなっ・・・なにこれどういう状態!?」
実際カオスめいていた。
Φ<standing by・・・
五時間目の授業は国語。触手を入れた短歌を一首とのこと。
東風吹かば 触手切り裂く かまいたち
渦巻くここは マッポーめいてる
アレ?これ良くね?と賛同を求め周りを見渡すと、イケメン=ジツを披露する宝塚めいたメグメグ=サンがにっこり一言。「ふざけてないで真面目に書こうか。」ハイ。
ネタがなくなった俺を放ってナギちゃんが先に席を立つ。
おまっ速っ!まさか君も茅野の質問をガン無視したのか?
お前ぜかましだったのかよぉ!と掴み掛かろうか悩んで居るその時、whiteなpaperとそれにhideさせた対先生knifeを見て考えを変える。
殺る気か・・・!と思ったときだけクラスが一つに纏まった気がした。
そして俺もミスに備えて静かにXガンの模型を持ち上げたその時に、渚がタコ先に接触した。
そして、
そして俺は動けなかった。
彼に見とれていたのだ。キレイな殺気の形に。
初心者なのに、只其処だけに向かうアイスピックのような、凄まじい殺気。
次の瞬間、俺はきっと息を止めていた。
ふわり。彼は抱きついたのだ。まるで愛するものへと行う抱擁のような親愛と、チリチリと肌を刺すかの様な殺気を持って。
殺気に敏感な俺だから理解できた、この芸術に、俺は確かに心を捕まれていた。
ドカン。そんな重音と共に、ナギちゃん達の姿が見えずらくなった。
「え?」
誰か、近くの人ががぼそりと口から漏らした言葉が、俺の心をビクつかせる。
小さな、範囲の、ばくはつ。
消えた様にしか見えない下半身。
あんな程度の爆弾とも言えない様な音で、人体が損傷するはずがない。分かってる。これは幻覚だ。なのに体が震えてしまう。こんなんじゃ人は死なない。そんな風にまくし立てる彼らの姿も正しく見えない。あの時に重なってどうにも落ち着かない。
ああ、ボクのセイだ。失意にまみれる。ボクが止めなかったから、兄さん達は、ナギちゃんは、死んでしまったんだ 。意味のない後悔。意味のない状態。意味のない身体。
揺れていく視界。真っ 暗に、な って、いく 。
あ。
ああ。
そうだよな。
死んだ。
主人公:梨咲櫛竒
由来:梨咲→なし+さき→無し=0+崎→零崎
櫛竒→元はオリキャラの零崎克識から一文字抜いた、いわゆる非零崎名。
容姿:可愛いと誰からも言われる、いわゆる男の娘。それ以外はご自由にお考えください。
トラウマ:小規模な爆発→兄たちの死因となった例の張り手を思い出させる。
他に何かあるようだが、未だ片鱗すら残さず。
にしてもハイテンポ過ぎぃ!
次回、待て、暫く。