私のご主人様   作:天神神楽

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とりあえず、「恋とは~」はこれでおしまいです。


Q.恋とは甘いものかしら?
A.カカオ99%位には甘いかと。


恋とは甘いものかしら? その四

「それでは杏奈様、こちらへ」

私についていてくれたお姉さんに案内された先は、パーティー会場の壇上であった。さりげなく会場を見渡すと、舞姫様と業平様、そして深螺さんが固まっていた。

すると、王季様のご挨拶が始まる。

「さて、お集まりの皆様。本日は忙しい中ワシの我が儘に付き合ってくれたことを感謝する」

我が儘? はて、どういうことだろうか。

「早速ではあるが、この場を以て御披露目したいことがある。数ヶ月後に開かれる《燕水會》。そこで披露される舞だが、東日本からはこの吉祥杏奈を代表とすることとした」

ざわっ、としたが、一番驚いているのは私だろう。

《燕水會》とは、日本中の名家が一堂に会する催しである。

そして、その会では東日本から一人、西日本から一人が選ばれ、舞を奉納するのが通例となっている。

《燕舞》として重要無形民俗文化財にも登録されている、由緒のある場なのだ。

「杏奈ももう16。それに、吉祥の者が舞うのも久しい。凰家も快く承諾してくれた。杏奈、突然で悪いが、一言頼む」

そう言われ、マイクを渡される。何を話せと。

むむむ……。

「改めてとなるお方も多いとは思いますが、自己紹介をさせていただきます。私は凰家の従者であります、吉祥杏奈と申します。従者の身でありながら、見に余る大役を仰せつかりましたが、私を推して下さりました王季様、それを応援して下さる奥様や舞姫様、そして今日ここにいらっしゃる皆々様への感謝を込め、この栄誉を謹んでお請けしたいと思っております」

いきなりで困惑しているが、舞を嗜む身としては、舞の担い手に選ばれたことはとても嬉しい。

「杏奈よ。もう一つ、ワシからのお願いを聞いてはくれぬか?」

「勿論です。何なりと」

私がそう言うと、王季様は満足げに頷かれた。

「では、ひとつ舞を披露してはくれぬか?」

思い返せば、このように大勢の前で舞を披露するのは何時振りだろうか。少し緊張するが、それもまた心地よい。

「是非、舞わせていただきたく思います」

「うむ。深螺、後はお前に任せる。皆もそれまで暫しご歓談を」

王季様の挨拶が終わると、会場はざわめきを取り戻す。そんな中、私は再び深螺さんに別室に連れていかれた。そこには雅楽隊が待機していた。

「こちらの皆様が実際に《燕水會》で演奏して下さる方々です」

「よろしく、吉祥杏奈さん。吉祥の方の舞の演奏を出来ることを光栄に思います」

「私こそ、見に余る光栄です。今日も、となりますね。よろしくお願いいたします」

お互いに頭を下げてから、この場での演目についての相談である。

「さて、今日は突然だから、あまり難しいのは避けようか。何かリクエストはあるかい?」

「そうですね……でしたら、お願いしたいのですが……」

せっかくの晴れ舞台なのだから、あの曲で舞を披露したい。その曲目を告げると、演奏の皆さんは快く受けてくれた。

数回練習をして会場に戻ると、そこには小さな舞台が拵えられていた。

深螺さんが舞台の脇に立つと会場が静かになる。

今日、ここで私が舞う演目は《舞姫》。舞姫様のお名前の由来となった、凰家に伝わる、私にとってとてもとても大切な舞である。

ご主人様に、愛を込めて踊りましょう。

私が、私となれたことへの感謝を伝える為に。

私が、舞姫様が大好きだということを伝える為に。

 

Another side 舞姫

 

――あぁ。

これを見て、どうして涙を抑えることが出来ようか。

これほどまでに美しく、儚く、神々しい……いや、言葉で表すことなんて私には出来ない。

杏奈の舞から伝わってくるのは《愛》そのもの。私の為に、私だけの為に、杏奈は《舞姫》を踊ってくれている。

《舞姫》の舞の真骨頂は、大切な誰かに自分の愛を伝えること。今、杏奈がしてくれていることだ。

初代吉祥が、私達凰に示してくれた愛と献身は、この舞に込められている。

千年にも重なる彼らの愛を、杏奈は私一人の為だけに注いでくれているのだ。

何度でも言いたい。

こんなにも嬉しいのに、どうして涙を抑えることが出来ようか。

他の方々も、杏奈の舞に息をするのも惜しみながら見惚れている。

――ダメ。

この舞は私だけに向けられたものなのに。

私のメイドさんは、何ていけずなのかしら。

私を愛してくれるのならば、二人っきりで魅せてほしかった。

なんて、嫉妬もしてしまう。

だけど、この至福の時は刹那に感じるほどすぐに終わってしまう。

音楽が終わり、舞い終えた杏奈が礼をすると、会場は万感の大歓声に包まれる。

「いやはや……杏奈ちゃんの愛は素晴らしい。それを向けてもらえる舞姫さんが羨ましいよ」

見れば業平さんも少し瞳を潤ませていた。

「ふふふ、ダメですよ。杏奈の愛は、私の特権なのですから」

涙を拭いそういうと、業平さんは困ったように頬を掻いていた。

「舞姫さんと一緒になるには、杏奈ちゃんが一番の壁になりそうだ」

業平さんも冗談で言っているのだろう。だけど、言われてみればそうかもしれない。

「ふふ、今の私は杏奈の愛にメロメロです。私をメロメロにしたいのなら、杏奈以上の愛を見せて下さいね、私の婚約者様?」

業平さんのおでこをつんと叩く。

業平さんは素敵な男性だけど、杏奈の愛は別枠。

だって、もし、杏奈が男性だったなら、私は杏奈と駆け落ちでもしてしまいそうなのだから。

だから、婚約者様? もっと私をメロメロにしてくださいね?

 

Another side out




舞姫は杏奈にヤられました。
因みに、舞姫は業平のことを嫌ってはいないですし、婚約者として好ましく思っています。
ただ、杏奈が高すぎる壁なだけで。

Q.杏奈にもし婚約者が出来たら?
A.殺されるかと。

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