私のご主人様   作:天神神楽

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しかし、感想を見ると、なんというか趣味のあれなおバカが多いですね。
でも、そんな方々が大好きです。


メイドさんの一日 その二

午後の授業も終わり放課後。待ちに待ったデートの時間です。

舞姫様にその旨を伝えると、楽しんできてと言ってくれた。

「それでは行きましょうか」

お二人と一緒に街へ向かう。ソフィアさんのリクエストで、歩いていくことになったのである。この辺りは安全なので問題はない。例え何かあっても、お守りするつもりだが。

「杏奈様と一緒にお出掛けするのは、随分久しぶりですわ」

「私は初めてです」

そういえばそうだった。最近はお休みの日も舞姫様や藤姫様と過ごしていたので、ソフィアさんとお出掛けするのも久しぶりだ。柊さんとは学園でお話はしているが、こうして一緒にどこかに行くのは初めてである。

「なら、精一杯エスコートさせてもらいますね」

こうなれば、最大限のエスコートをしなければ。

「ふふふ、楽しみですわね」

「杏奈さんのお作りになったお菓子も大好きですけど、その杏奈さんオススメのお店というもとても気になります」

そう言ってもらえると少し照れる。とはいえ、確かに柊さんの言う通り、下手なお店に行くくらいなら、吉祥家に招待して、神楽さんのおやつをお裾分けしてもらった方がいい。

だけど、今日行くお店は神楽さんレベルの物を出してくれるお店なのだ。

学園から歩いて十五分ほど。そのお店は通りの奥にある。

「素敵なお店ですわね」

「それに、コーヒーのいい香りがします」

「ここはケーキは勿論、コーヒーも絶品ですから」

ドアを開けるとカランカランとベルがなる。実は私はこの音が好きである。ちょっと余分に鳴らしてみる。

「こらこら、毎度同じことをしないの」

怒られちった。

「って、今日はお友達と一緒なのね。さ、二人も入って」

喫茶店《藤娘》の店長、藤浪紫(ふじなみゆかり)さん。とても優しいお母さんのような女性である。

「はい、メニュー。そちらのお二人ははじめまして、ね。私は藤浪紫です。杏奈ちゃんと仲良くしてくれてありがとう」

本当にお母さんみたいである。

ともあれ私はコーヒーとアップルパイを頼む。

「杏奈様のオススメはなんですか?」

「全部、と言いたいところですが、今の時期ですとイチゴやさくらんぼのタルトがオススメです」

「でしたら私はイチゴのタルトとコーヒーをいただきます」

「それでしたら私はさくらんぼの方を。柊様も一緒に食べましょうか」

「はい。少しずつの食べ比べですね」

こういう所は、日本有数のお嬢様と言えども普通の女の子と変わらない。

「はい、かしこまりました。すぐに持ってくるわね」

その言葉の通り、紫さんは直ぐにケーキとコーヒーを持ってきてくれた。

では、いただきます。…………はふぅ。

「ふふふ、この時ばかりは小さな頃から変わらないわね」

むぅ、恥ずかしい。

「紫さんのアップルパイが美味しいのがいけないのです」

なので、私のせいではない。

と。

「? お二人ともどうしたのですか?」

何故かソフィアさんと柊さんがクスクスと笑っていた。

「だって、杏奈さんったら、お昼のソフィアさんと同じことをおっしゃっているんですもの」

「そうですわ。これではお昼に笑われた甲斐があるというものです」

むぅぅ。

「そんな顔しないの。それに、杏奈ちゃんがいつも喜んでくれるの、凄く嬉しいのよ?」

むぅ、そう言われては何も言えない。

「杏奈様は、よくこのお店にいらっしゃるのですか?」

「えぇ。お休みの時は舞姫様方とよく来てくれるわ。それに小さい頃は毎日のように厨房に来てくれたの。アップルパイが無かったときは、しょんぼりするものだから、何か簡単なお菓子を作ったものよ」

小さい頃の話はNGです……。いや、だって、紫さんの作るお菓子は美味しいのだもの。

「杏奈様の小さい頃……」

「あら? 藤浪さんは杏奈さんや舞姫様と昔からのお知り合いなのですか?」

「あら、杏奈ちゃんに聞いてなかったのね。私は前の凰家の料理長だったの。神楽、今の料理長に任せて、昔からの夢だった喫茶店をしているの」

お二人ともへぇと頷いていたが、ソフィアさんが突然、ん、と首を傾げる。

「杏奈様、間違いなら失礼なことですけれども、確か神楽様は飛鳥様と同じくらいの年齢でしたよね?」

「はい。凰家七不思議の一つです」

そういえば、ソフィアさんは神楽さんとも面識がある。

「でしたら、その……神楽様の御師匠様であるとしたら、紫様はお若すぎるというか……」

………………。あぁ、私は慣れているので特に気にならなかったが、確かに紫さんの見た目は二十代半ば(決して後半ではない)程だ。

「あらあら。そんなことを言われてはおばさん、照れてしまうわ」

「紫さんは奥様や神楽さんよりの歳上ですよ?」

私の言葉にお二人がピシリと固まる。

「確か、昨年喜寿を迎えましたよね」

「えぇ。お嬢様方に盛大に御祝いしていただきました」

つまりは今七十八歳である。大叔母様の頃から厨房を預かっていた、私達の大先輩なのだ。

「……なんというか、凰家は時の流れの速さが違うのでしょうか」

「ははは……」

お二人とも、乾いた笑みを浮かべていたが、紫さんの一言で一変する。

「そうだ、二人とも杏奈ちゃんの小さい頃の話に興味あるかしら?」

「「勿論です」」

ちょっとびびった。

というか、聞き捨てなりません。

抗議しようとしたら、紫さんに額を優しくつつかれる。

その次の瞬間、体がピクリとも動かなくなった。もうやだ、凰家メイド部隊の元筆頭。

「それじゃあ、まずは杏奈ちゃんが最後にお漏らししちゃったときのことを……」

「「……(ごくり)」」

そらあかんですわ。

その後、硬直を解かれたときには、私の過去の殆どは白日の元に晒されたのであった。

ぐすん。

 

お店を出て、お二人に慰められつつお送りして、私もお屋敷に帰宅する。

「ただいま帰りました」

屋敷の皆さんに挨拶をして自室に戻る。随分長く話していたのに加えて、お二人を家までお送りしたので、少し遅くなってしまった。

「……確か、今の時間ならお風呂が空いていますか」

朝はひんやりとしていたが、昼間は暖かかったので、少し汗もかいている。お風呂の準備をしていざ部屋を出ようとすると、小さなノックの音がした。この気配は……。

「今開けます、藤姫様」

扉を開けると、藤姫様。

「お帰りなさい、杏奈さん!」

元気よく抱きついてきて下さったので、私も優しく抱きしめる。えへへとはにかみがちのお顔はとても愛らしい。藤姫様といると、知らず知らずの内に頬が緩んでしまう。

「はい、ただいま帰りました。帰りが遅くなってしまい、すみませんでした」

「そんなことありません。杏奈さんはもっとクラスの方々とお遊びになった方がいいです!」

奥様から聞いたのだろうか。昨夜、お休みを伝えてきた奥様と同じことを言われてしまった。

「勿論それも楽しいですが、舞姫様や藤姫様と一緒に過ごす時間もまたかけがえのないものなのです。ですから、もっと一緒にいさせて下さい」

これは紛れもない私の本心。舞姫様へのご恩や奥様方への感謝の念も確かにあるが、凰の皆様と一緒にいる時間が、今の私にとって一番幸せな時間なのだ。

「うぅぅ……そう言われては嬉しくなってしまいます」

「私もですよ、藤姫様」

「~~~っ、もうっ、杏奈さんはズルいです!」

そう言ってプイっと、顔を背けてしまった。そんな藤姫様も愛らしいが、そのままにはしておけません。

「藤姫様、お風呂には入ってしまいましたか?」

「いいえ、まだですけど……」

「それでしたら、一緒に入りましょう。今日の放課後のことをどなたかに話したかったのですが、お付き合いしていただけますか?」

私がそう尋ねると、先ほどまでの膨れはどこへやら。

「はい、是非!」

そう答えてくださった藤姫様の笑顔は、最高に魅力的な笑顔であった。

 




メイドさんの一日はこれで終わりです。
次話は、別視点。

因みに、喫茶店に入るときのシーンですが、杏奈は無表情でカランカランしています。

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