本当にありがとうございます。
感想もたくさん書いていただき、感謝です。
その感想で一番多いのが、「安心して読める」という意見でしたが、安心出来ないのとはいったい……。
ともあれ、杏奈がどのように見られているのか、2話目です。
放課後になり、部室に行こうとすると、杏奈が教室に来た。
「杏奈? どうしたの?」
今日の放課後は、杏奈はお休みのはずだ。帰りも堤さんが来てくれることになっているはずである。
「いえ、今日は部活と聞いていましたので、差し入れをお持ちしました」
杏奈の手には手頃な大きさの箱があった。
「差し入れ? 何かしら」
「昨夜、神楽さんと一緒に作ったものです。ご覧になりますか?」
「いえ、部員の皆と一緒に見るわ。ありがとう、杏奈」
今ここで見るのもいいけれど、多くの娘たちと一緒に見るのもまた一興だろう。
「では、私はこれで、」
「そんな固いこと言うなんて水臭いじゃないか」
頭を下げようとした杏奈を後ろから抱き締めたのは華琳。まぁ、私からは丸見えだったし、杏奈も気配で気付いていたらしく、全く驚いていなかった。
「華琳様?」
「せっかく杏奈ちゃんの休暇なのだろう? なら私とデートでもどうかな? きっと満足してくれると思うよ」
相変わらずのキザな物言いだが、それが嫌みにならないのが華琳の良いところなのだろう。《王子様》と《騎士様》とのツーショットに、クラスの女子達が目を輝かせていた。
しかし、杏奈は申し訳なさそうに眉を下げていた。
「その、お誘いはとても嬉しいのですが、今日は先約がありまして……」
「なん、だって……」
まさか断られると思っていなかった華琳は(これまたわざとらしく)膝をついた。
杏奈は心配そうにオロオロしていたが、私はとりあえず話を聞くことにする。
「それで、どなたとお出掛けするのかしら?」
「あ、はい。同じクラスのソフィアさんと柊さんと一緒に《藤娘》に行くんです」
ソフィアさんは杏奈の一番の親友の娘だ。以前何度か招待したことがある。柊さんといえば面識はないが、件のお姫様抱っこ事件のお姫様役の娘だったはずだ。杏奈もとても楽しそうに話していたし、最近よく話をするとも聞いていた。
ともあれ、暇さえあればすぐに私達の面倒を見ようとする杏奈が、こうしてお友だちとお出掛けするというのは喜ばしいことだ。
「そう。では楽しんでいらっしゃい。あと、紫さんにもよろしく伝えておいてね」
「はい。では、舞姫様、華琳様。これで失礼いたします」
改めて頭を下げると、いつもより少し早足で教室を出ていった。
そんな微笑ましい姿を見送ると、まだ膝をついている華琳に、一言。
「フラれたわね」
「ぐぅっ! その一言はどんな刃よりも鋭いよ……」
「ふふふ、これに懲りたら杏奈にちょっかいを出すのをやめなさいな。というか、多分杏奈は気付いてないわよ」
あれは素である。それもまた魅力なのだが、華琳にとっては天敵だろう。
「だろうねぇ。でも、そんな杏奈ちゃんが愛を囁いてくれるのを想像したら、もう……」
立ち上がったと思ったらクネクネし出した華琳。もう放っておきましょう。
何処かへ旅立っている華琳をおいて部室に向かう。今日は来月のお披露目に向けての練習である。本番も近いので、細かい所を確認しなければならない。
お昼とは違い、先輩達もいらっしゃる。全員で八人と少ないが、その分濃い活動ができる。
時間通りに集合すると、練習が始まる。教えるのは私と部長の御門輝夜様である。
一通り練習をしていくと、休憩となる。その間、輝夜様に私の舞を見ていただく。代々の舞の家系の御門家。高校生ながらも名取でいらっしゃる輝夜様から教えていただくことは非常に多い。
自分では気が付かなかった点を教えていただき、私も指導へと戻る。
今日の練習は確認と修正を中心に行ったため、早めに終了した。そして、恒例となっているお茶会である。杏奈もこのお茶会のことを知っているので、私がお茶菓子の当番になるときは張り切ってお菓子を作っている。
「今日は舞姫さんがお菓子を持ってきてくれたのですね。ふふふ、杏奈さんのお茶菓子はとても美味しいので、楽しみにしていたのです」
抹茶、とはいかないため、煎茶を淹れて下さった輝夜様。本来ならば下級生の私達の役目なのだが、お茶を淹れることだけはなかなか譲って下さらない。名前の通り、輝夜姫のような高貴な方だが、そのように見えて意外とお茶目な方なのだ。
「杏奈もとても張り切っておりました。そう言えば、杏奈も直接ご奉仕したいと言ってましたね」
杏奈は輝夜様のようなお方のお世話をすることが好きなのである。まさしく根っからのメイドだ。
それを聞いた輝夜様は、まぁ、と手を頬に当てた。
「そんなことを言って頂けるだなんて、照れてしまいますね。でも、今日はこのお菓子を楽しみましょう」
輝夜様もそうだが、部員の皆が今か今かと杏奈の和菓子を心待にしていた。
私も内心ワクワクしつつ蓋を開けると、そこには二種類の和菓子。
一つは四月の終わりにピッタリな《柳絮》。そしてもう一つは、紅と白の《未開紅》。《未開紅》の方は少し季節が過ぎてしまっているが、これは輝夜様の大好物なのだ。その輝夜様は、目をキラキラと輝かせていた。
「まぁ、杏奈さんったら、私が好きなお菓子をご存知だったのですね。ふふふ、嬉しいサプライズです」
「どれも可愛らしいです。それに甘いいい香り」
百合さんもうっとりとしていたし、他の方々も同じである。
一年生の娘に、一つずつ取り分けてもらう。始めに口にするのは輝夜様。輝夜様はその味に幸せそうなお顔になった。
なるほど、杏奈が張り切るのも少し分かるような気がした。こんなにも嬉しそうな表情を浮かべて下さるのなら、全力で頑張ってしまう。
「あら? 舞姫さん、どうかいたしましたか?」
ふと見つめていたことに気が付かれてしまった。
「ふふ、少し杏奈の気持ちが分かったような気がしまして」
「まぁ、のろけるだなんて、本当に羨ましいですね」
そんなことを言ったら、皆さんにクスクスと笑われてしまった。
何か、変なことを言ったかしら?
部室の掃除も終わり、学園を出る。そこで待っていてくれた堤さんと車に向かう。
「そう言えば、杏奈はお友達と遊びに行ったみたいですね」
車が発進すると、ふと堤さんが話しかけてきた。
「えぇ。お友達と紫さんの所に行ってくるみたい。楽しんでくれればいいけど」
「あれでいて杏奈も人とお話するのが好きですし、楽しんでくると思いますよ」
「それもそうね」
ああ見えて、杏奈は人付き合いは良い。お昼や放課後は私といることが多いが、休み時間や実習のときにはクラスメイトの方とお話している。
家に着く頃には薄暗くなっていたため、少し早めのお風呂に入ることにした。
ゆっくりしてお風呂からあがると、向こうから藤姫と手を繋ぎながらこちらに歩いてくる浮気者さんの姿が。
やっぱり、私のメイドさんは罪作りな女性だ。
私はそんな大好きのメイドに何をしてもらおうか考えながら、彼女の元に向かった。
感想の返信にも書きましたが、杏奈は男役のようなタイプではありません。
書いたかどうか分かりませんが、杏奈はスタイル抜群で、とても女性らしい女の子です。
杏奈→肩凝りが小さな悩み。とてもびじん。
華琳→宝塚風。杏奈に対しては全戦全敗。
華琳は、今回の話にもあるように、デートに誘ってお茶などしているため、憧れの《王子様》。
杏奈は、学園の華である舞姫に忠誠を誓いながらも、周囲に気を遣い、色々面倒を見てくる、憧れの《騎士様》。
みたいな感じ