私のご主人様   作:天神神楽

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完璧な蛇足です。


その頃、教室では 蛇足。

この日、昼休みの教室の男子は皆真剣な表情をしている。

歴戦の兵士の如く目標に狙いを定め、決して負けられない戦いがそこにあった。

「あぁ、春の香りとはこのようなものを言うのでしょうね」

「こんなに上品な物は初めてです」

「はしたないかもしれませんが、いくらでも食べられてしまいそうですわ」

女子たちは既に幸せの中にいる。俺達男子にもその恩恵はあれど、それは限られた権利。

すなわち、選ばれし九人《Absolute nine》にならなければならないのだ。

その為の決闘が、今、始まる。

「そんじゃあ、いくぞーっ!! さーいしょーはグー! じゃーんけーん」

「「「ほいっ!!」」」

……俺は、無惨にも散った。

 

一年一組には、《凰の騎士様》と呼ばれる女子生徒がいる。

吉祥杏奈さん。二年生の凰舞姫先輩の従者、いや、メイドであり、男よりも男らしいと、学園中の女子生徒のハートを射止めている人である。

男らしいといっても、見た目は凄く綺麗だ。背は普通だし胸も大きく、女性らしい。

しかし、仕草や立ち振舞いが物凄く男らしいのだ。そこには粗野な様子はなく、女子達の言うように物語の中の騎士のような礼儀正しさを持つ。

つまりは、俺たち男子は絶対に敵わない相手である。

吉祥さんが男子に厳しいということではない。寧ろすごく優しい。あくまでもレディファーストだが、男子にも気を遣ってくれるのだ。

だからこそ敵わない。

この学園で女子と付き合うのに、一番の障害となるのは、家柄でもはなく、吉祥さん並みに《男前》になることである。

……どんなハードモードですか。

俺だって陸上部に所属し、一年生ながらも大会に出場することになった。決して努力をしていないわけではない。

だけど、吉祥さんを越えるのは無理ッス。

というか、俺が大会出場するとコーチに言われた次の日に、御祝いとしてクッキーを貰った。男子女子共に羨ましそうな視線や死線を送られたが、俺は優越感を覚えた。

こんなにも完璧な吉祥さんであるが、彼女自身が誰か男性と付き合っているという話は一切ない。噂すらもない。

入学したばかりの時こそ少し騒がれたが、一週間ほどですぐに収まっていた。何故かって?

校内で告白しようとすると、女子に阻まれ。

校外で告白しようとすると、メイドに阻まれる。

そんなわけで、吉祥さんは男子が絶対に敵わない相手となったのである。

戦いに敗れた俺は、購買のパン(激ウマ)を食べつつ、携帯の写真を見ながら心を慰める。

「お、木下、何見て……裏切り者!」

今日の勝者山中が天麩羅を食べながら携帯を覗き込んできた。その瞬間叫びだし、即座に囲まれる。

「貴様、この写真はどこで盗撮したのだ!」

この写真、吉祥さんのメイド服(ヴィクトリアンメイドver)のことか? ふっ、盗撮などしたら殺される。つまりは。

「ふっ……吉祥さんから直接いただいたものだよ(ドヤァ)」

そう。この写真は吉祥さんから直接貰ったものだ。以前部活中に少し怪我をしたときに保健室にいったら吉祥さんがいて、治療をしてもらったのだ。その時、メイド服姿がどのようなものか聞いたら、この写真をくれた。

その夜、俺はいくつもバックアップをとり、厳重に保管した。もちろん、拡散なんてしていない。そんなことをしては、吉祥さんからの信頼を裏切ってしまうからだ。

その時、男子の人垣の奥から恐ろしいオーラが見えた。そのオーラに、人垣に道が出来る。

その奥には、女子。皆、目が怖い。

あぁ……短いが、いい人生だった。

 




※注
ここに登場する人物は、大手企業のご子息御令嬢です。

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