私のご主人様   作:天神神楽

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となりました。ありがとうございます。




小さな小さなお嬢様 その一

今日は土曜日。学校はお休みだが、私はメイド。お休みではありません。

しかし、今日は舞姫様とご一緒ではない。舞姫様はお屋敷にいらっしゃる。

では、私はどこにいるのかというと、水無瀬家にいる。水無瀬家とは、明治期より凰家と交流のあるお家だ。

で、どうして私がそこにいるのかというと。

「杏奈さん?」

今日は藤姫様にお供しているからである。水無瀬家の一人娘である水無瀬楓お嬢様は、藤姫様の一番の大親友なのだ。楓お嬢様は小柄な藤姫様よりも更に小さな、お人形のような方である。

「すみません、楓お嬢様の愛らしさに見惚れてしまいました」

「あぅ……」

少しわざとらしかっただろうか。しかし、うつ向く楓お嬢様も殊更愛らしい。

そんなことをしていたからか、藤姫様が膨れてしまった。全く、このお二人は、愛らしい。

「では早速お菓子を作りましょうか」

今日の予定は水無瀬の御当主様、つまり楓お嬢様のお父様の誕生日ケーキを作りに来たのだ。

楓お嬢様がケーキを作りたいと藤姫様にご相談し、私が教えることになったのである。

御当主様のお名前は橙也(とうや)様なので、みかんのケーキだ。籠いっぱいのみかんを見ると、楓お嬢様が愛されているのがよく分かる。

「では最初はみかんを剥きましょう。これはみんなでやりましょう」

「はいです!」

「んっ!」

どうやら二人ともやる気満々だ。とはいってもみかんの皮を剥くのは簡単である。私は一つ房を取ると、楓お嬢様の口元に持っていく。

「はい、あーんです」

「へぅぅ……あーん……」

ぱくり。

「ふふふ、美味しいですか?」

「うん……」

「あー、ズルいです!」

「では、一つだけですよ?」

「はいっ、あーん。……ふふふっ」

藤姫様にも食べてもらうと、ニコニコと頬に手を当てた。すると、お二人が私に向けてみかんを差し出してきてくれた。

「杏奈さんも……」

「あーん、ですっ」

「はい、いただきますね」

ぱくり、ぱくり。ん、いつもよりも五倍増しで美味しいです。

「味見ばかりでは怒られてしまいますね。ではタルト生地を作りましょうか」

これからが本番だ。藤姫様は奥様と一緒によくお菓子を作っているので慣れた手付きだが、楓お嬢様はまだまだ危なっかしい手付きだ。

なので、私は楓お嬢様の後ろに回り、手を取る。

「もう少しゆっくり動かしましょう。こういう風に……」

「ん。んしょ、んしょ……。こう?」

「はい。それで大丈夫です。お上手ですよ」

「杏奈さんのお陰です……」

所々私がフォローしつつ、楓お嬢様は一生懸命にケーキを作っていく。

そして遂にタルト生地と中に入れるカスタードクリームも完成し、あとはオーブンで焼き上がるのを待つばかりとなった。

「し、失礼いたします。お茶をお持ちしました」

ピッタリなタイミングで入って来たのは、楓お嬢様の専属メイドである冷泉彩音さん。楓お嬢様達と同い年のメイドさんだ。私がお茶をいれようとしたのだが、あまり仕事を奪うのもよくないのでお願いしたのである。

「ありがと、彩音」

「ありがとうございます」

「……とても良い香りです。たくさん練習したのですね」

彩音さんにだけ聞こえるように小さな声で言うと、パッと私の方に振り向く。それにウインクで答えると彩音さんは嬉しそうにはにかみつつ、お嬢様方にお茶とお菓子を配った。

正式な場ならばすぐに下がるが、今回は私的な場である。彩音さんも席に座り、少し遅めのティータイムとなる。

「そう言えば藤姫様から聞きましたが、楓お嬢様。先日の絵画コンクールで金賞を取られたのですよね。おめでとうございます」

楓お嬢様は絵がとてもお上手だ。学生コンクールだけでなく、数々の絵画コンクールで入選している。

「それは、杏奈さんがモデルをしてくれたお陰です」

そう。今回は私の仕事姿が絵の題材であった。少し恥ずかしいが、こうして認められると誇らしくもある。

「それでしたら、慣れないことをした甲斐がありました。彩音から聞きましたが、新しい絵を描いているのですか?」

「うん。今度はウサギの絵を描いてます」

「楓お嬢様の動物画はとても可愛らしいですから、とても楽しみですね」

「ん、頑張る」

むんと手を握る楓お嬢様。こんなに可愛らしい方だが、絵に関しては紛れもなく本物だ。とても素晴らしい絵を描いて下さるだろう。そのためにも彩音にも頑張ってもらわなければ。

と、そこて大切なことを思い出す。

「そうでした。彩音、今日の料理の魚料理についてなのですが」

「は、はい。料理長もOKしてくれました。ただ予め味を確認したいとのことなので、このまま厨房で待っていて欲しいと言っていました」

「ありがとうございます」

「杏奈さん? 何のお話ですか?」

彩音と話していると藤姫様と楓お嬢様が首を傾げていた。そう言えば、お二人にはお伝えしていなかった。これはいけない。

「実は、今日のコースの一品を担当させていただけないか相談していたのです。ですので、これから美夜様に味を確かめていただくのですよ」

中々水無瀬家の料理長の美夜様とのご都合が合わず、当日まで流れ込んでしまった。ともあれ、一番大切な材料は持参したので準備は万端である。

「わぁ、素敵です!」

「私達も、見てもいい?」

「それも素敵ですが、お二人にはお食事のときまで楽しみにしていていただきたいのです。ちょっとしたサプライズです」

せっかくの特別な席だ。主役の楓お嬢様は勿論、藤姫様にも存分に楽しんで頂きたい。

「むー、分かりました。楽しみにしてますね」

「楽しみです……」

はい。必ず喜んで頂けるよう、最高の料理をお作りいたします。




楓は某へぅな相国がモデルです。
ロリコンではないつもりでしたが、年下組を書くときが一番筆が進む不思議。
ちなみに前回ちらりと書きましたが、凰家のメイド服は長袖・ロングスカート・プリムカチューシャなメイド服です。異論があるかたは語り合いましょう。これは和解ができる話題だと思うので。
私の理想のメイドは
《水月》の琴乃宮雪さんと、《まぶらほ》のリーラ・シャルンホルストです。
杏奈のモデルは二人ではありませんが、多分、彼女たちに似た登場人物が出てきます。

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