硬い物体の角や石に銃弾をぶつけて射線を変化させる技術だ。
射線計算が非常に難しく、習得は困難な技術。しかし、一度習得してしまえば相手の意表をついた場所から射撃が可能となる。
カズマは、命懸けの戦場でソレを身につけた。
たった一度の跳弾をヒントに、死にたくないから覚えた。
「まったく、見ていて呆れる」
半透明の児童らに角度調整できる場所を教えてもらい、其処へ弾丸を撃ちこんだ。
それは賭け、魔力で構成されたソーコムの弾丸が実弾と同じ性質を持っているか知る由がなかったから。
元自衛隊員の久坂は銃を撃つ訓練を積む事はあっても“撃たれる”経験は積んでいない。
「ひっ!!」
陣地に侵入した獲物を殺してやろう、自信に満ちた殺人者の姿はない。
空気の漏れるような音、パスン!と押さえられた銃声が聞こえるたびに、久坂は頭を抱
えようとしても、穿たれた腕の痛みで思うように動かない。
そこには報道された残虐非道の姿は存在しない、短い悲鳴を上げている惨めな男だけ。
「まぁ、殺しはしない。先に逝け」
「もっ、戻って来い!!キャスターッ!!!!」
カズマが向けた銃口の先で久坂の手に残る令呪が赤く発光し、残っていた令呪が一つ消失する。
久坂とカズマが接触しようとしていた時、メフィストが陣地を引く起点に異変を感じた
その瞬間。
ジャンヌはカズマに言われた通りに4-2と書かれた札の下がる教室の扉を破った。
バキィ!と鍵の掛った引き戸を二枚まとめて外したのだ。
「ごめんなさい・・・・・あった!凄いな、カズマの言う通りだ」
一人謝りつつ、自身のマスターである青年の台詞を思い出す。
4-2に異変があるとさ。俺は注意をひくよ、ジャンヌは“陣”を壊してくれ。
紫の光を放つ魔法陣に、フラッグロッドをつきたてて亀裂を入れる。
すると校舎全体を包み込んでいた違和感は消えた。
「中々やるじゃないですかぁ!」
「本当に来ました・・・・私の知る
今度は壁から出てくるわけでもなく、普通に扉を潜るメフィスト。
ジャンヌが疑っていたのはカズマの作戦だった。
敵方のマスターが一人、サーヴァントとマスターの前に姿を晒せば待っているのは死だ。
歪んだ召喚で、今の戦いが聖杯戦争のソレといえるのかは定かでない。が、カズマにとっては危険な行為に変わりはない。
普通はサーヴァントが気を引き、マスターが裏工作する。
そう思っていたが、自分のマスターはとことん前に出る現場主義のようだ。
「今度こそぉ刻んで上げますよぉ!お嬢さぁん!!」
「先程は不覚を取りました。ですが、もう遅れは取りません!」
まさに一触即発、ジャンヌがフラッグロッドを構え、メフィストはその手に持った断ち切りバサミを開く。
メフィストが地を蹴った。
刹那、赤い光にメフィストは包まれてジャンヌの前から姿を消した。
「まさか!?」
思い当たる事は、令呪によって無理やり連れ戻された事。
ジャンヌが中庭に面している窓へ駆け寄ると廊下の窓を破ってカズマが飛び出してくる。
アクション映画さながらの身のこなしをするカズマを追随するのはメフィスト。
「このままでは!」
僅かに時間を遡る。
カズマが引き金に指をかけ、久坂が叫んでから数秒。
その叫び声は発狂と言っても過言ではない、死に直面して追い詰められた奴の叫びだ。
発砲までの僅か数秒で事態は覆された。
「っ!?」
突然、現れた凶刃を身を反らして避ける。
刃の直撃さえ避ければ、どうとでもなると踏んだのだ。が、ソレは悪手。
キャスターとは言え、メフィストは前線向きのスペックを保有している。
そのトラックが突っ込んでくるような突進力、直撃を避けたところで掠りでもすれば弾き飛ばされてしまう。
咄嗟に頭を庇い、廊下に手を突き出す。ブレーキ、なんて掛るはずもない。
弾かれ、わずかに軌道が上方へ持ち上げられる。
「グゥッ!」
ガラスを破り、地面にこすり付けられて僅かに苦悶の声を漏らす。
「無様ですネェ、マァスタァー!」
次の砲弾が飛来する。
(動け・・・・)
コンクリート製の校舎に叩きつけられ、朦朧とする意識の中で満足に動かない自身の身体へ命令を出す。
ミサイルと見間違うキャスターの鋏の先端が放たれた。
あの光景を見た。
硝煙と煙、悲鳴が充満する
誰もが等しく死に、誰が放つ弾丸の前に、その命を散らしていく。
そこに民間人も
等しく死が用意されている。
土煙の中に手招きする者が見えた・・・・・・。
「まだ、死ねるかぁっ!!」
ソーコムを盾に、断ち切りバサミを受け止めた。
ボコッ!とカズマを中心にコンクリートの壁面は凹み、クレーターを作る。
「無駄ムダァ!」
メフィストが笑う。
その手にした鋏が、ソーコムごとカズマの首を撥ねんと迫る中で“旗が降って来た”。
「ッ!?」
「大丈夫ですか!?」
降り立ったジャンヌは、迷う事無く項垂れ、座り込むカズマを気遣う。
「大丈夫・・・・ちぃっと走馬灯を見ただけだ」
「冗談を言うくらいの余裕はあるのですね?」
「ま、そこらの奴よりは頑丈だと自負しているよ。」
それでもジャンヌから見れば重傷である。
普通なら窓を破り、壁に叩きつけられた時点で気を失っても可笑しくはない。
「待っていてください。直ぐに終わらせてきますから」
ジャンヌの口調は穏やかなものだ。が、纏う雰囲気は決して穏やかなものではない。
「・・・・確かにお互いにマスターが戦うことはぁ出来そうにないですしぃ、ここらできめましょうかぁ!?」
「さぁ、覚悟なさい!」
ジャンヌが地を蹴った。同時に、メフィストも地を蹴って間合いをゼロにする。
互いの獲物がぶつかり合う。
目まぐるしく動くジャンヌとメフィスト。
互いの場所を入れ替え、
端にフラッグロッドに蹴りを入れて、水平にフラッグロッドをすると手にとって追撃するジャンヌ。
対するメフィストは、最初こそ勢いがあったが今では劣勢を強いられている。
「ブォォ!?」
フラッグロッドはその性質上、断ち切る事はできない。
ジャンヌは棍棒として扱い、思いっきり突き出した。
先端の金属は尖っているからランスのような使い方もできる。が、その鋭い突きを肩に受けて転がるメフィスト。
遠くからサイレンが聞こえた。
陣地の消滅は、戦闘音を付近の住宅に知らせることになったのだろう。
「チィッ!時間切れですねぇ」
呟いて、傷を庇いながら飛びのいたメフィストは、久坂を回収して闇夜に消えていく。
「カズマ!」
気配が完全に消失した事を確認したジャンヌは、何とか立ち上がろうとするカズマに駆け寄って肩を貸す。
「仲が良いな、成る程。大した戦力だ」
中庭に、歩いてくる人影はそう言った。
「貴方は!?」
「そう身構えるな、押し付けたのは私だからな。後始末くらいしてやるさ」
荒谷草子が其処に居た。
「・・・・感謝します。」
ソレだけを言い残し、ジャンヌは気絶しているカズマを抱えて跳んだ。
「やれやれ、派手にやったもんだ」
荒谷草子は魔法陣を描きながらそう言った。
地面に枝で描いたような、粗雑なもの。
「アイツ《カズマ》らの痕跡は消しておいてやら無いとな。」
粗雑な魔法陣に光がともる。
三重の円、その円と円の間にはには梵字がそれぞれ描かれている。
草子が駆使する魔術は荒谷宗蓮の駆使する魔術と同じ宗派である。
存在したものを無かった事にする、と言うのは大掛かりな決壊が必要だが、今回はキャスターの残した欠陥品を再利用する事で素早い発動を可能にした。
「それにしても久坂か、面倒な奴がマスターになったもんだ。あいつ一人じゃ荷が重いかもな」
痕跡抹消の魔術を発動させ、草子も帰路に着く。
「こうなったら、もう一組にも頼むとするか。知り合いだと助かるんだけど」
もう一組、カズマとジャンヌ以外にも契約を果たして普通に暮らすマスターとサーヴァントがいる。
草子が開いたガラゲーに、その写真データはあった。
純白の騎士王と肩位までのセミロングヘアーの少女の写真が。
さて、皆様。
お疲れ様です。
サーヴァントの育成大変ですよね?っと思いつつある私。
そんな内に騎士王とジャンヌがやってきました。
そして、思った。
育成費がない!!