カズマは今、右手が使えない。
骨折したように三角巾で吊るしており、ギブスでガチガッチに固められている。
ロマニ曰く「これなら無茶できないだろう?」とのことだ。
脇を歩くハイカラな和装の少女、真名を沖田総司。
あの新撰組で一番隊の隊長を張った人物が少女だったという事には驚いたが、召喚された当初、カズマにはリアクションを取る程余力は無かった。
「いやぁ、マスターって近藤さん以上に頑丈なんですね。体が頑丈なのは羨ましい限りです」
「確かにカズマは頑丈ですがソレを良いことに無茶も絶えません。桜セイバーさんもカズマが無茶したら止めてください」
ジャンヌが言う。
帰路に着くだけで辺りの視線が気にあるのは慣れたとは言いがたいがジャンヌだけなら慣れていた。
「所で、マスター。周りから見られている気がするんですが・・・・」
「自覚あるならその手に持ったたい焼きをどうにかしてくださいマジで。」
甘い物が大好きと言う何とも少女らしい一面を全開にしている桜セイバーは、茶屋で購入したたい焼きを既に十個は平らげている。
しかもだ、ストック二十はあるビニール袋から取り出しては今も頭からかぶりとたい焼きに食らいつく。
見ているこっちが胸焼けしそうな光景だが、カズマは右手のギブスに視線を落とす。
(マガジンだけじゃ礼装としては機能不全・・・・仮に右手が無事でも魔術師に相談しないとな)
ソーコムは傍から見ればモデルガンだ。が、礼装と組み合わせてカズマは実銃と大差ない性能に引き上げていた。
それが壊れた。
警察の事情聴取も「元クラスメートの部屋で談笑中に事件に巻き込まれました。趣味がサバゲーなモンで常に携帯してたんですわ」と言うデタラメを吐いてきた。
嘘だろと追求されるだろうと思っていたが何故か警察は鵜呑みにし、開放されたという訳だ。
「てか、近藤って人はそんなに頑丈だったの?」
「はい、十人の浪士を一人で相手にするなんて無茶して帰って来たのはあの人だけで
す。幾ら刀傷を受けても翌日にはへらへらしてこふっ!」
「ってどしたの!?」
「大丈夫ですか!?桜セイバーさん!」
まともに桜セイバーの吐血にリアクションで来たのはこの時が初である。
桜セイバー加入後は比較的平和に時間が過ぎて、あの戦いから二ヶ月が立つ。
夏真っ盛り、熱さもピークを迎える八月に入っても平和だ。
ま、カズマと居候の少女達の間で行き違いからラッキースケベなイベントはある物のその度にカズマはジャンヌから容赦ない目潰しを受けている。
うん、本当に容赦ない一撃だ。マジで眼球が潰れるぞ、何時か。
「よ、元気そうだな。傭兵」
「魔術師、何時の間に上がりこんだ?」
そんな日中四十度を越えたある日の事、行き成り上がりこんでは寛いでいる草子にツッコムカズマは、草子に二つほど貸しがあるので過剰につっ込めない。
一つ、戦闘した場所からカズマとジャンヌの行動痕跡を消した。
二つ、武器の提供。
なので、非価格的柔らかに指摘している。と言うか当然の質問である。
「さっきだ。キミが腹を押さえて悶絶していた時だよ、大方察しは着くが彼女のつっ込みは些か過剰かな?」
「「ごほん!」」
若干頬を赤く染めているジャンヌと桜セイバーは技とらしく咳払いをした。
「あ~、その話題は触れないでくれ。で、今回はなんのようだ?」
開放された右手をぶらぶらと振りつつ、尋ねると徐に一本のナイフを投げて寄越す草子。
「コレを届けに着たのさ。キャスター討伐の報酬だ」
「ナイフを抜き身で投げるな!危ねぇ!」
そのナイフの柄を掴んでカズマは抗議した。が、それは対して意味を成さなかった。
草子の言うナイフ、その刀身を見てカズマは直ぐにソレが何なのかを理解した。
「
「いや、いずれ連絡があると思うが選抜のすんだマスター候補達が実戦になれるための訓練があるんだ。大掛かりな催しでね、レフからキミが敵役者を演じると聞いている。だから非殺の装備を提供しようという訳さ」
「それは
頬をひくつかせて乾いた笑いを漏らし始めたカズマに変わり、ジャンヌが尋ねる。
その光景に桜セイバーはあたふたとカズマを心配しているがジャンヌは慣れたものである。
「いや。言ったろう?そのナイフはキャスター討伐の報酬さ。マスターまで鎮圧できなかった分減点はさせてもらったが依頼をこなして言ってくれれば、次はキミが銃を特注して構わない。」
「つまり、マスターが依頼を受ければ上等な刃を提供してくれると?」
食いついたのは桜セイバーである。
「そうだ。ま、当分はナイフ一本になるが・・・・君に回す依頼はナイフでも片付く簡単なものにしよう」
「いや、俺は請けると言ってないぞ!」
「大丈夫です!この沖田さんがいれば・・・・あっ」
「普通に真名暴露してますね・・・・」
桜セイバーこと沖田のうっかりで真名が割れたのは良い、ジャンヌのツッコミも何処となく呆れが混ざっている。
「そう言う事なら遠慮なく頼むとしよう、今日はそれだけだ。邪魔したな」
「いや!俺の話を聞け魔術師ぃぃ!!」
「それにしても金平糖とお団子、ケーキにシュークリーム!甘味の魅惑には敵いませんね!」
「うん、そだね・・・」
気分転換にと桜セイバーこと沖田がカズマを散歩に連れ出し、行き着いたのは結局喫茶店兼ケーキショップである。
本来なら他店の商品は持ち込み禁止なのだが、お団子と金平糖はお茶受け用と買い込み、今は洋菓子に舌鼓する沖田。
その量たるやテーブル一杯にホールケーキが載っているのだ。
カズマはブラックコーヒーを飲みつつ、見てるだけで胸焼けしような・・・・手遅れ。既に胸焼けしていた。
「マスターもこの際依頼受けちゃえば良いんです。そんなナイフじゃ護身用にもなりません。」
「いや、なるから。スタンガン内蔵ナイフなんて物騒極まりない物は持ってるだけで。」
正直言おう、沖田は何故か自分が居れば大丈夫と断言している。
ちらっと依頼リスト(ご丁寧にカズマのスマフォに転送されてきた)を覗いてみたら魔力の淀み解消と言うものが大半を占めていた。
その場所が何処も有名な場所であり、最も身近な場所で言えば某廃墟である。
「沖田は怖いのとか平気なの?」
そう、最も重要な部分である。
ジャンヌは駄目なのでこういったものを避けて受けるとなるとかなり限られる。が、ジャンヌも引き下がらないだろうから戦力としてはあまり当てに出来ない。
「はい、それなりと」
「ん~あんまり気乗りしないけど確かに銃くらいは欲しいところだな。霊装だけじゃ役立たずだし・・・・沖田、帰ったら録画しているアレを見ておいて。」
実に気乗りしないが、送られてきた依頼は少ない。
稼ぎが無いわけにも行かない、それが全うな仕事の金で無いとしても。
「沖田、頼りにしてるぞ」
「はいっ!」
そして、会計もそれなりの値段となっていた。
「あ、カズマ。おかえりなさい。ってどうしたんですか?その荷物」
帰ればジャンヌが開口一番にそう言った。
「ケーキだよ、沖田が店で食べ切れなかった分とジャンヌの分。あ~、想定外の出費
だ」
ボヤキながらカズマは冷蔵庫にケーキをしまっていく。
「え?気分転換の散歩って言ってませんでしたっけ」
「いや、そのつもりだったんだけどね?沖田は意外とやり手だわ。なし崩し的に喫茶でこの様だし。あ、明日から忙しくなるぞ。」
ジャンヌが居間に戻ると沖田がお茶を飲んで寛いでいた。
カズマの言う「忙しくる」は、想定外の出費で生活が圧迫されるのは勿論、貯金講座に眠る魔術教会の賄賂(カズマが嵌められたと豪語していた金)に手を付けたくないからだろう。
「沖田さん、意外とずるいんですね。」
「そうでもないですよぉ?今回は見逃してください。ジャンヌさんがと思わなかったので」
ジャンヌが何でずるいなんて言ったのだろう?と思ってキョトンとすると沖田は見透かしたような表情で出会ってからと変わらない、飄々した口調でそう言った。