その日、如月は異様な倦怠感に包まれながら覚醒した。
身体から力が抜けるような、それでいて…何か大事なものがなくなった様な。
そして…ベッドをふと覗き込む。
ああ!?という小さく短い悲鳴を如月はあげ、そして布団を何かも隠すように被り、ぶるぶると震えて泣き出してしまった。
しかし、登校時間というものは平等にやって来る。
寮のルームメイトであり、姉である睦月が心配そうに朝から様子がおかしい如月の様子を見ていたが…
しかし、空元気を隠す様に、大丈夫だから…と、一言告げて、一緒に登校するのだった。
そして、それから如月の様子は…明らかにおかしかった。
如月ちゃん、ちょっと教科書でわからない事があるから…と、電が聞けば普段は答えてくれるのに、自分で考えなさぁいとダッシュで逃げ出したり。
明らかに重そうなプリントの山を運んでいた如月を見かねて、時雨と舞風が手伝おうとするが、必要以上に真っ赤な顔で拒絶したり。
何気なくヴェールヌイが声をかけただけで、何か悪いことをした後のごとく如月がビクッとしたり。
まるで、何か隠し事をしているような状態である。
時雨がたまらず呟いた、アイツ何してるんだよ、と。
電や舞風や睦月は…答えがわからず、頭を抱えたが、睦月がふと思い出したような表情をした。
そして、そういえばと睦月が前置きをして今朝の挙動不審な行動を語り出した。
如月は寝起きで何かあって、ベッドや自分の姿を見て…それからいきなり様子がおかしくなったのだ、と。
「…あ、なるほど、確かに知識の無い如月は…」
「ショックかもですねー…あれは私も怖かったかも…」
事態を察した時雨と舞風は顔を見合わせて苦笑する。
知識が足りず意味がわからない電とシスコンの癖に察しが微妙に悪い睦月は首を捻るが、時雨はフフ…と軽く笑ってから言った。
…僕に任せてくれよ、と。
それから、その日の放課後。
如月は、それはそれは色々真っ青な表情でふらふらしていた。
そして、如月は内心こんな感じの事を思っていた。
(私が全部悪いのに…みんなにも心配させてぇ…でも、なんか調子が出ないしぃ…でも、知られたら…電には、絶対…)
そう、あの朝の事件が起きてからというもの、如月は苦しんでいた。
如月は身体がだるくて仕方ない、だが、それ以上に『恥ずかしい』。
特に…友人の電には絶対に知られたくない、心配かけさせるだろうし、それ以上に胸が苦しくなる。
だが病気かも知れない、誰に相談しようか…でも言えない…
そんな事を考えていたのだが、そんな如月の前に、いきなり忍者のように天井から時雨が降ってくる。
口をあわあわさせて、時雨何してるの!?と絶叫するが、時雨は構わず…そして、笑って言う。
…如月、おめでとう、と。
「…おめでとう?私、あの…」
如月は目を点にして時雨を見るが、時雨はけらけら笑うばかりだ。
そんな時雨を見て如月らむっとしたが、時雨は無視して話を始めた。
「あー、もしかして、如月は朝起きたら股の所やベッドが血まみれとかそんな感じだったかい?」
え?と如月は顔を青くする。
まさに、その通りだったからだ。
何で知ってるの!?と如月は時雨を問い詰めるが、時雨は笑って返した。
…それ、女の子なら誰しも経験有るから、と。
そして、こう時雨は続けた。
「…花の雄しべと雌しべは学校で習ったよね、それは人間だってそうなのさ…女の子だから僕たちは『雌しべ』…有り体に言えば赤ちゃんを作る側だね、そういう女の子が女の子から大人の女へと成長して赤ちゃんを作れるよってサインが来た、それだけの話なんだよ」
…そう、察しのいい人は冒頭でわかったことだろうが、如月は初潮が来たのだ。
が、この作品の如月は…まあ、恋愛的な面では脳内お花畑過ぎて、そういう生理的な知識もなかった。
しかし、身体の成長は本人の知識から関係なく訪れる訳である。
そしてパニックになってしまい、他人を遠ざけてしまったのだった。
しかし、病気かも知れないがなんだか相談すら出来なくて、オロオロしていた、そんな感じだったと言う。
…変な病気とかおもらしとかじゃなかったのねぇ、と如月は放心しながらその場にへたり込んでしまった。
「…まあ、如月のふらつきは毎月の事になるだろうし、如月みたいなヤツはこれから一定数絶対出るだろうから、先生にも相談する必要ある案件だなコレ」
「毎月ぃ!?そんな…」
「…女の子はね、大体成長しきると定期的にそうなるよ、わからない事が他にあれば聞いて欲しいな」
それこそ、真面目に知識が無い…と言うより、教科書の知識ではなく自分の身体の知識として理解してなかった如月に、時雨は少しずつ、優しくレクチャーしていく。
そんなおり、如月は一つ質問した。
…確か、赤ちゃんがどうのって言ってたっけ?と。
「…うんそうだね、僕たちそれが来た女の子は赤ちゃんを作る事が出来るよ」
「じゃあ…あの、あのねぇ…時雨にだけ教えるわぁ…あのね…」
電の赤ちゃんって出来るっけ、と。
時雨は、もう凄い勢いでひっくり返るが…とうの如月の表情は真剣だった。
そして、時雨の目を真っ直ぐ見据えている。
時雨は、はぁ…とため息一つ付くと、如月に一つ質問した。
…君は、電の事が好きなのかい?と。
如月はそれはそれは顔を真っ赤にするが…しかし、意を決したように言うのであった。
「…ずっと、ずーっと、負けないように電の背中を追いかけて、電とは違う道も見つけていって…そして、今は一緒に並べるように追いつけてぇ…私は、きっとずっと電が心の中に居るのぉ、今までも、これからも…そう、そうね…気持ちを整理したら見えてきた…私…」
電の事、大好き。
屈託無く、そういって如月は笑っていた。
時雨は納得し、そしてこう返した。
…赤ちゃんは…今の科学では電とは出来ないけど、もしかしたらそのうち出来るようになるかも知れない、そんな気持ちを持ち続けるなら、君は君自身の事を大事にしろよ、と。
「…わ、わかったわぁ、とりあえずちゅーは大人なってからぁ…」
「ちゅーはあんまり関係ないけどね!?いや…まあ関係あるか、うん…」
なお、時雨はトンチンカンな如月の回答に頭を抱えたとか抱えなかった、とか。
ちなみに、ベッドを覗き見した睦月がようやく事情を把握してその日の晩は睦月がやたら積極的に赤飯を如月に薦めてうざかったとか、うざくなかったとか。
そして、それから一週間程経った、ある日の朝…
電は登校するなり、開口一番こう言ったのだった。
「た、大変なのです!!電が何か変な血尿でベッドをめちゃくちゃにしちゃったのです!」
「朝一番で叫ぶな電ぁ!!」
クラス中の知識がある艦娘が凍り付き時雨が思わずキレる中、如月がどや顔で電に時雨経由の生理の知識について教え出す。
その如月の表情はと言えば、数日前には全く同じ悩みで苦しんでいた少女とは思えないぐらい、どこか嬉しそうな顔をしていた、とか。
…リンガの連中ってこんなんばっかりか、と時雨は呆れた。
艦娘はこうして、娘から女性へと、少しずつ成長していく。
これも『艦娘学校』の本懐では、あったのだ…