いならぐれオーバードライブ!   作:たんぺい

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第十二話:燃える月下の狂犬なのです!

夕立と言う艦娘は、それは『狂犬』と言う二文字がふさわしい戦いぶりを見せた、駆逐艦であった。

一度戦闘のスイッチが入れば、全てを滅ぼす為にその牙を向く。

通った後には深海棲艦の亡骸と己のものも混じった血しか遺らない…

彼女の戦場の姿を知るものは、『月下の狂犬』とまで言う二つ名を付けるほど、彼女に対し…数多の艦娘は畏怖していたと言う。

 

が、戦が終わり、しばらく経ち。

彼女が牙を向く相手が居なくなったと言う事から、彼女の人生は一変した。

 

 

そう、この人…前作の木曽とタイプが同じだった。

 

スイッチが入れば文字通りの化け物じみた戦闘力と闘志を見せるが、スイッチが抜けたらヘタレなお人好しと言う感じのどこにでも居そうな普通の人でしかない。

しかも、普段は明るく振る舞って居るが、案外ものすごい他人に気を使うタイプなのである。

人は嫌いではないタイプであり…それを苦にはしないが、余計な心労を貯めるタイプであった。

 

そして、人生誰かにラブを貫くより、のんびり友達皆とライクで通したい勢でもあった。

そのため…

 

 

「時津風をそろそろ離したまえ…!」

「キャラ変わってるっぽい、ヴェールヌイ…そんな目で睨まないで欲しいっぽい…」

 

ヴェールヌイとの間柄で、非常に困っていたのだ。

 

 

「…で、おーばーどらい部に相談に来ました、と言う話なのですか」

「そう、あんたの姉貴何とかしたいっぽい…」

 

そんな夕立は、電達3人に相談を持ちかけた。

 

夕立本人はヴェールヌイとは普通に仲良くしたいのだ。

そして、時津風とも仲良くしたい…二人の邪魔は、別にしたい訳じゃ無い。

なんか懐いてる時津風を夕立が拒絶したら一瞬で済む話かも知れないが、それは嫌だった。

 

だって、平和になって初めてできた友達を失うのは、絶対嫌だから。 

 

 

「友達…居なかったのですか?夕立ちゃん普通に優しいし良い人なのに…」

「ぶっちゃけ…海での戦いぶりを怖がられちゃって、昔の私を知る人は逃げちゃうっぽい…だからぼっち生活が長くて、他人の付き合い方がわかりにくいっぽい…」

 

…何だか、扶桑さんと木曾さんの駄目な所足して混ぜたみたいねぇ、と如月が横から口を出す。

僕らは友達だし僕は同じ白露型の姉妹だから、と意気消沈する夕立を時雨は慰めつつ、それを尻目に電はこう返した。

 

「あの…お姉ちゃんには後で言っとくは言っとくのですが…とりあえず、私に相談するのは間違いかもなのです」

 

電はそう言うと、視線を座席の後ろに向ける。

そこには…にゃしい、にゃしいぃぃ、と唸る睦月が居た。

 

…電ごめんなさいっぽい、となんとも言えない味わい深い表情で夕立はつぶやいた。

 

 

さてさて、それから。

 

電と如月と時雨の3人は放課後の体育館裏にヴェールヌイを呼び出して、彼女にも話を聞く事にした。

そして、電は開口一番言う、夕立が困ってるからその態度を自重するのです、と。

ヴェールヌイはその言葉を聞き…その表情に静かな怒りを浮かべながら、電に言った。

…私たちの何が解るんだ、と。

 

「夕立ちゃんは…その、むしろ貴女達の事は応援しているわぁ…そんな事言わないでぇ」

 

見かねて如月が口を挟みにいくが、ヴェールヌイは意に介さない。

そして、ヴェールヌイは一言つぶやいた。

…キミとうちの妹と、キスの一つでもした事もない癖に偉そうに言うな、と。

 

如月はそう来ると思わず目を白黒させるが…更に目を白黒させる、それどころか目の前を真っ白にさせる事が如月の身に起きた。

 

 

電が、いきなり如月の頬にキスをしたのだ。

 

如月がいきなりの事に顔を上気させ白眼を向き、時雨とヴェールヌイまでもが驚く中で、電はにべもなく言った。

…電は如月ちゃんに何でもできるし、何でもあげられるのです…お姉ちゃんこそ偉そうに言うな、と。

 

時雨は、ヴェールヌイの負けだね、と軽口を叩き…当のヴェールヌイは如月にペコペコと謝りつつ、無理やりそう言う事したらダメだと電の頭を一発しばいた後、ゆっくりと口を開いた。

…電にとっての如月が、私にとっての時津風なんだ…だから、誰にも横から土足で来て欲しくない、と。

 

 

あ、と言う表情に電はなり…しかし、それでもヴェールヌイを真っ直ぐ見据えて電は吐いた。

…お姉ちゃんは、最低なのです、と。

 

 

「最低だと…電、妹だからってお前…」

「最低って言わないならなんなのですか、時津風ちゃんにも夕立ちゃんにも失礼な事この上ない話なのです…結局、それは全部お姉ちゃんの都合であって、とうの2人には関係無いのですよ…別に、仮に時津風ちゃんが夕立ちゃんに取られたとしても、それは成り行きの結果でしか無いのです…なのに『取られたら嫌だ、取られたくない』ってイラつくのってみっともない以外のなんなのです!」

 

 

ヴェールヌイは電の物言いにぶちきれて絶句し…時雨は、電ってこんな事言うタイプだったっけ、と涙目でオロオロしていた。

如月は、キレた電は木曾さんや赤城さん相手でもバッサリ言うわよぉ、とだけ言って後は無言を貫く。

 

そして、拳をわなわなさせつつもヴェールヌイは深呼吸を一つして電に聞く。

…そっくりそのまま返すよ、如月を、例えば睦月に横から奪われたらどうする気?と。

しかし、電は笑って返すばかりだった、その時は仕方ないのです、と。

 

 

「仕方ない…お前、それは…」

「だから、その時は電の魅力が足りなかっただけなのです!もっと魅力的になって振り向かせるだけなのです!もともと時津風ちゃんは時津風ちゃん自身のもので、如月ちゃんは如月ちゃん自身のもの、私たちの所有物じゃないのです…だから、それを人として愛せる、それだけなのです」

 

 

如月はあらあらと笑い、時雨は、風の妖精白露型はクサいセリフを聞くと死んでしまう~とふざけるが…

ヴェールヌイは、電の言葉を聞き、ガクンとひざを突き俯いた。

 

そして、一言だけ言った。

…妹って、こんな強かったんだな、と。

 

電は…別に私が強いんじゃなくて、出会った皆が素敵すぎて嫌うって選択肢を選びたくないだけなのです、とだけヴェールヌイに伝えると、如月と時雨に向けて言った。

…撤収なのです!と。

 

 

「て、撤収?電、一体何の…」

 

ヴェールヌイは慌てるが、3人はケラケラ笑いながらこう答えたのだった。

 

「とりあえず、私はペンダント選んでくれた『恩人』の1人にまで嫉妬しちゃう嫉妬深いお姉ちゃんに一言だけ言いたかっただけなのです」

「…正直、犬も食わないって話だったしねぇ」

「つまり、後は僕らの仕事じゃないって話さ、ほれ」

 

電と如月が呆れたような口調で言い、時雨が物陰を指差した。

そこには…時津風と夕立が立っていた。

 

ヴェールヌイが面白いぐらいあわあわする中、2人は話を始めた。

 

 

「響…さっきからいろいろ話聞いてたけど、電の言うとおり最低だぞ~」

「盗聴するみたいな事して…ごめんなさいっぽい…その、電に『ヴェールヌイの本音が聞ける』って聞かされて良くわかんないままスタンバってて…」

 

時津風に呆れられヴェールヌイはショックを受け、更に夕立の泣きそうな声に、ヴェールヌイが静かに電へと怒りを向けるが…夕立はそれを遮った。

そして…夕立はこう言った。

 

 

「皆をあんまり怒らないであげて欲しいっぽい、そりゃ電のやり方は酷いけど…」

 

そう言って、夕立は電のフォローに入るが…ふと、思い返すように夕立は小首を傾げる。

 

「…元を正したら夕立が時津風関連で半端にヴェールヌイにヘタレな態度を取るからいけないっぽい…思い出したら、私ヴェールヌイに何にも悪い事してないのに私が時津風とヴェールヌイ…てか学校の皆に遠慮してたのがそもそもおかしかったっぽい!」

 

あ、あれ…と一同が夕立にどん引きするなかで、夕立から何だか怪しいオーラが身体から立ち込める。

 

 

「そもそも、電の言うとおり…解り合うのに、友達になるのにぶつからなきゃ駄目なら私の方法でぶつかってやるだけっぽい!そうよ!私には戦いしか能が無いんだから、だったら殴り合うだけっぽい!ねぇ、ヴェールヌイ…プールって年中開いてるわよね、素敵なパーティィぃしましょぉぉぉ!!」

 

…と言う感じで、ものすごい怒りのオーラをヴェールヌイに向ける。

当のヴェールヌイは、殺意の塊と化した夕立にどん引いて泣き出しかけていた。

 

「ひっ…ごめ、ごめんなさい夕立!落ち着いて!とりあえず落ち着いてぇぇ!!」

「…私の初めての友達に、『ペット』って言う奴に手加減できないっぽい!おら、演習だ着いてこいっぽい!!」

「た、助け…本当ごめんなさい!死ぬ、死ぬから!!助けてぇぇぇぇ!!」

 

そして、思い出したらあんまり悪いことしてないのにヴェールヌイに理不尽に嫌われてる事と、ついでに友人のペット扱いにキレた夕立が件の少女を片手で引きずりながらプールへと無理やり曳航していく。

 

「犬扱いは合意の上のただのプレイだよ~!!」

「時津風ちゃん、フォローする所多分間違ってるのですぅ!アレヤバい、お姉ちゃん死ぬ…流石にあれはアカンってレベルじゃないのです!!」

 

そして、『月下の狂犬』時代の夕立を止めに、全員が奔走する事になったと言う。

 

 

それから…

 

「…どうして、こうなったっぽい…」

 

夕立は机に突っ伏して、ガクンと頭を抱えた。

 

あの後、みんな止めに行き…夕立と全員が相討ちと言う形で幕を引いた。

そして、その始末は学校内で広まり、反省文やら何やらと言うオチで決着が付いたのだが…そこからがひどかったのだ。

…駆逐艦最強の時雨とヴェールヌイごと5人沈めたと言う事や、夕立本人はあんまり気に入ってはいないが妙に中二病臭い二つ名が、夕立のその後を決定したと言っていいだろう。

 

 

クラス中どころか学校内中で『月下の狂犬様ー!』と言う黄色い悲鳴が何故か夕立の周りに飛び交い。

謎の果たし状らしき手紙が、何故か中等部の連中からもちらほら舞い込み。

果ては話に尾鰭羽鰭が付きまくり、1人でダイソン5人沈めた覇王とまで噂されはじめた。

 

おかげで伝説の不良扱いされてしまい…友達が沢山欲しいハズの夕立なのに、ますますそれから遠ざかっていく…

しかも、関心のヴェールヌイとの関係はと言うと…

 

 

「夕立…私は、目が覚めたよ…」

「目が…何、何なのっぽい?」

「縛り付けるだけが愛じゃない!そう妹に言われて知った…そして、愛の形が人それぞれって事もだ!キミは、キミのハラショーな愛の形は…生命の極限まで追い込むのが愛の形なのだろう!!」

「いや…あれは、理不尽な嫌われ方にぶちきれただけっぽい…ってかヴェールヌイの目怖いっぽい…!?」

 

…夕立が何だか怪しい方向に振り切れだしたヴェールヌイにヒキだすが、ヴェールヌイは構わず自分の艤装を展開しながら、話を続けた。

 

「さあ…心行くまで、ぶつかり合おうじゃないかぁ!夕立ぃぃぃぃ!」

「ちょ、ま、こっち来ないでぇぇぇぇ!?」

 

何だか、時津風との諍いと言うかわだかまりは完全になくなったが…それはそれとして、夕立の身の危険が付きまとうと言う酷い事になった、とか。

…尚、毎度限界まで追い込まれてはぶちきれた夕立と、何度も何度も雌雄を決し合ったと言う。

 

…これはこれでさっぱりした、ライバルと言う関係なのかも知れなかった。

 

 

「何でそうなったし…まあ、落ち着いたら、怪我した馬鹿ども手当てしてから3人で仲直りのお菓子でも食べようか」

 

時津風は、アホのルームメイトとその被害者にヤムチャ視点的な意味でついて行けないと言う目をしながら、ポツリと言ったとか。

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