「…やだ、髪が傷んじゃう…」
その、セーラー服の少女は髪をかきあげ、友軍の戦果を確認する。
そして…ほっと、一息つき安心したその瞬間…彼女はいきなり、敵艦載機の最期の一撃に巻き込まれる。
更に…大きな爆発に巻き込まれ…
浮力もなくなり…髪飾りだけを残し…自分を忘れないでとだけ願い、海の底に墜ち…
そして、彼女は何かの光に巻き込まれた…
「にゃしぃ…」
睦月は、電と如月が仲良く喧嘩する様を見ながらふてくされていた。
確かにこの2人が仲良くなるのは解る。
足りないものを補い合った性格、同郷の泊地の同僚。
仲良くならない方が、おかしな話なのだ。
とは言っても…姉として、如月が仲良くなり過ぎてる姿を見るのは、それはそれとして嫌だ。
「電ばっかりじゃなくて、たまには私に構って欲しいのだぞ…」
そんな事を、小さな声で呟く。
そして…睦月は何気なしに考えていた。
…如月ちゃんがもう1人増えたらなあ、と。
その、瞬間だった。
ドンッ!!というモノが落ちるような轟音と共に…何か、中庭から悲鳴が後から聞こえる。
何事かと、クラスメートの大半が窓の外を覗く。
その先には…血まみれで死にかけた、ピンク髪の少女が居た。
クラス中から、絶叫が響き…如月は、クラス内で目を丸くするばかりだった。
…そして、その翌日。
「ん…ぐぅ……あぁ……」
こんな間抜けな伸びをしながら、その『少女』は目を覚ます。
ありったけの高速修復材をかけられ…点滴やら薬品やらで失った血を補い…
応急修理要員の『妖精さん』すら総動員し…
そうして漸く、『少女』は死の淵から生還した。
そこには、良かったにゃしぃ!!と号泣しながら『少女』に抱き付く睦月。
頭をポリポリかきながら安堵する時雨、放心する電…そして…
「気持ち悪い光景だけどぉ…おはよう、『私』」
「って、えっ…な、何で『私』が…!?」
…死にかけた方と見舞いに来た方、如月が2人、居た。
「『艦娘学校』…何それ……ってか、終戦って!本当にどうなってるの!?」
その死にかけた方の『如月』に、とりあえず現状を確認させる。
…が、こちらの現状と何一つ話が噛み合わない。
そちらの『如月』にとっては、まだ「戦時中」と言う事らしかった。
戦いの最中に、大怪我して…そして『沈んだ』、そう言った話だったと言う。
そして、時雨はポツリともらした…あの噂って本当だったのか、と。
「あの噂…何なのです?」
「ふむ、先ずはこの世界の『建造』について、今一度確認し直そうか」
そう言って、時雨は話を始める。
基本的に資材を特殊な錬成方法で組み上げた存在が『艦娘』である。
そして、その艦娘は同名の艦を同じ世界で…少なくとも同じ鎮守府では『建造』する事はできない。
パラドックスを防ぐためか知らないが…『轟沈』または艤装と艦の記憶リンクを完全に切る『解体』を行わない同名の艦娘は、2人以上存在できない。
「…さてここでクエスチョン!建造組のウチの如月は、果たして『何人目の私』かな?」
などと言っておーばーどらい部の方の如月を震え上がらせ、時雨は電にこっぴどくしばかれるが。
それはともかく、例外に近い存在がある、と時雨は付け加える。
ごくまれに、建造とは関係無いルートで漂流してくる、『漂流者』の艦娘が現れたりすると言う。
「僕らの友人にも居るよね、そっちのルートで来たのが1人」
「あ、時津風ちゃんなのです!!」
そう、時津風がそうだった。
…普通は記憶はなくなってるし、そもそも『漂流者』が来るのは海上らしいけどね、と時雨は付け加えながら話を続ける。
とにかく、そういった『建造』を介さないエトランゼ。
その艦娘達は…本当にどこから現れたのかが解らない。
深海棲艦のなれの果て、妖精さんのイタズラ…と言う噂の中で、もっとも有力な噂が1つある。
…解体、もしくは轟沈した、別世界の艦娘がこちらに流れ着いた姿ではないか、と。
恐らくは、本来は彼女…もう1人の方の『如月』もそうで、本当は海上に『堕ちる』はずだったのだろう
だが、この世界では終戦してしまい、『鎮守府』にあたる施設がここしかない。
その為、陸地に落ちる、などというイレギュラー中のイレギュラーでやって来たのだろう、と。
「…それが、私…」
死にかけた方の如月は、放心したように呟く。
そして…えぐえぐと、泣き出してしまった。
「…じゃあ、誰も、私がいた鎮守府でも私の来た世界でも『私』を覚えてないのね…」
そんな事を言いながら。
そりゃあ辛いよな、と一同は暗い顔をする。
誰だって、自分の知らない異世界に飛ばされたら、不安で仕方ないだろう。
しかもそっちの如月は『死んで』いる…元の世界へは、どうやっても帰れないかも知れない。
もう1人の、アホの方の如月「誰がアホの方よぉ!」…もとい、こちらの如月を含む、全てのメンバーも難しい顔をする中で、睦月は1つ聞いた。
…そっちの話を聞かせて欲しいのだぞ、と。
いきなり何だよ?と、全員が振り向く中で、睦月は笑いながら続ける。
「こっちの話ばかりで、そっちの如月ちゃんの事の話聞いてないから…それを聞きたいのだぞ!そうすれば…少なくとも、「こっち」のみんなはそっちの如月ちゃん…ううん、そっちのみんなの事だって覚えられるし…そうしたら、少しはそっちの如月ちゃんの事の悲しさも薄れるかも知れないにゃし!」
そんな言葉をかけられて…もう1人の方の如月は更に涙を流す。
…やっぱり、ここの睦月ちゃんも、『お姉ちゃん』だったんだ、と。
そんな涙は、悲しさ以外の何かの、涙だった。
「…ふーん、ただの病んだシスコンじゃないのか、アイツ」
「しばくぞ時雨ぇ!イイハナシダナーで終わらせろにゃしぃ!!」
そんな睦月の姿を見て時雨のふいに漏らした感想に、睦月がぶちきれるが。
それはそれとして、そっちの如月は一瞬ノリについて行けず絶句するが…少しずつ、自分の事を話し出した。
…姉の睦月の事、睦月の親友の夕立と吹雪の事、厳しいが優しい足柄の事、何だか見てておかしかった利根や筑摩の事、かっこいいようで間抜けな赤城とクールな加賀の事…
尽きない彼女の話に全員が興味津々という態度で話を聞く。
そして…最後に、私の事をみんな覚えてるのかしら…と、そっちの如月は言った。
その場に居た全員は笑って返す、こんな良い子誰も忘れないよ!と。
そんな言葉を聞き…そっちの如月は睦月に感極まりぎゅっと抱き付く。
一方の睦月はと言ったら…
「…これはこれで良いにゃしぃ!!」
感無量のようだった。
そんな睦月を見て、『私』だったら何でも良いのかこの馬鹿!と、こっちの如月はグーで睦月をぶん殴り、全員に慌てて止められたとか止められなかった、とか。